本編前に死ぬ4人家族の長男として転生した件について 作:バトクロス
この作品は物語の視点人物としての主人公はレインですが、物語のエンジンとしての主人公としての役割は一部ケイセレンにも担って貰う予定です。
私の名前はケイセレン・リディスブライト。リディスブライト家の長女。幼少期、私は所謂物静かな令嬢として教育されていた。内層貴族よりは厳しく戦闘訓練を受けさせる予定では有ったものの、あくまで一般的な外層貴族の令嬢以上の事は求められて居なかった。
マナーを覚え、詩を詠い、教養を育む。そんな教育だった。
幼い頃から近隣の公爵であるテレシス・ヴァルクロス閣下にはよくお世話になった。彼には二人の子供が居て、姉のシディアスは優しげな少女だった。弟のラスティは活発そうな少年だった。
『仲良くしてやってくれ。』
朧気な過去の記憶だが、確かに公爵閣下から直接そう言われた様な気がする……
そうして、人と触れ合い、漠然とこの世界の理を薄らと理解し始めた頃、全てが変わった。
あの日、裏山で稽古をしていると、突如として近くで爆発が起きた。
咄嗟に私を庇ったバージル先生は傷を負い、意識を失った。
再び爆発音がした後視界外から
真っ黒な翼が6枚程生え、無数の手が体から伸び、指先は鋭い刃物の様。そして襤褸切れの様なものを纏っう体がこちらを向き……
何故か
全力で林を駆け抜け、視界の良い所に躍り出ると……待っていたのは地獄絵図だった。地面を含めて全て変色し、おぞましい音をあげながら次々と融解している。その中心には黒い墨汁の様な渦を巻く水たまりが在った。それを私が認識した瞬間、
それは急速に形を作り始めた。体が硬直する中人型になったそれは目が無いのにも関わらず、確かに、私の方を向き、ニヤリと嗤った。
「魔人!……でもなんで?結界は壊れていない!」
硬直が溶け、衝撃を受けながらも先生を担ぎ全速力で逃走を謀るが……目の前に再び汚染精霊が現れた。前方には汚染精霊、後方には魔人。八方ふさがりの状態で私は凍り付いた。
(私……死ぬ!?……汚染精霊から殺意を感じない?)
疑問に思うなか、後ろから獰猛な殺意を感じ、汚染精霊から視線を外して振り向く……虚空からあの墨汁の様なものが濁流となって押し寄せていた。その濁流に触れたものは変色し、腐敗し、溶けた。
「なっ!『魔導の力よ、集まり壁となれ』!」咄嗟に結界を張って耐え凌ぐなか、
胸を見ると……
ゆっくりと後ろを向くと汚染精霊がその鋭い指を自分に突き刺していた。(あぁ、殺意が無いからと言って目を逸らすべきではなかったのですか)そう思いながら制御が乱れた結界が濁流に突破されるのを見た。
次の瞬間、汚染精霊が体を刺したまま私を抱きかかえ、空に飛び立った。私が担いでいた先生を振り落としながら。咄嗟に手を伸ばすもその手は空を切り、先生は濁流の中に消え去った。
動揺が抜けずに抱きかかえられたままになっていると
(その体を寄越せ、そうすれば彼奴に勝てる。私は生き残れる。適性は最高に近い、きっと勝てる。私は死ぬわけにはいかない!だからその体を寄越せ!)
先生が死んだ直後に身勝手な事を言われ、恐怖を上回る怒りによって、頭の中が真っ赤に染まった。
(だまれ!おまえの様な存在に体をくれてやる位ならほこり高く死んでやる!)
(お前、状況が分かってないのか?このままだと死ぬぞ!)
(死ぬと言っているんだよこの分からず屋!おせん精霊には分からないだろうがな、人間は命より重要なものが在るんですよ!そもそもを倒したらその後どうするつもりだ。)
(勿論自由気ままに全てを倒しながら生きていく。私は自由が欲しい!)
脳内で言い合いをしていると爆発音が鳴り、下を向くと地面から猛烈な勢いで魔人が飛び上がっていた。
「見つかった!」歯噛みをしながら自分は精霊に向き直り、こう言った。
「私の許可なく人や物を傷つけない、かってに精霊や人間に戦わない、私に害を与えない。……そして私のちからになる。だいしょうは普通の契約とおなじである程度の定期的な魔力の補給。それとすこしだけ貴方の願いを叶える努力をする。また追加するかもしれないけど、これを呑める?」
舌っ足らずで言葉不足の私の発言をそれでも精霊は聞き。一瞬黙り、こう言った。
(お前が死ぬとき私はその体を貰い受ける。)
「その契約を守り続けられるのなら……分かった。名前は?」
(リジン。)
こうして契約は結ばれた。
『腐敗の魔人』はその日苛立っていた。数年前、別の場所の結界を破壊して、極上の餌場に訪れその地に住まう人間を鏖殺したものの、遠くからやって来た化け物達によって殺されかけ、体の一部を囮にして何とか生き残った後、そこら辺の下等生物を食らって生き残ること数年。漸く全盛期の半分程度の強さを取り戻し、久しぶりに上質な
だがいずれ追いつき勝つ事は確実だと考えていた。あの
驚異的な速度で迫る魔人に対し、(融合させて貰うぞ。)と言いながらリジンが勝手に体に入ってきた。背中がむず痒いと思ったら鋭く痛みが走り、思わず背中を見ると羽が生えていた。
「何これ!?」莫大な魔力とリジンの情報の奔流によって頭がクラクラするが数瞬後にはクリアになった。
(知らないのか……いやお前の様な幼子が知るわけが無いな。これは
「魔素よ、体内を還流し、変質し、我が身を強化せよ。さっきから煩い!」
『身体強化』を発動しながらそんなことを言っていると、『
下を見ると無数の液体の弾丸が放たれていた。
「回避なんて出来ない!『魔導の力よ、集まり壁となれ』」咄嗟に結界を張ると(バカが!)と声が聞こえ直後体の支配権を奪われ、無理やり回避を選択させられた。
「何をす……」すぐさま体の支配権を奪い返し、文句を言おうとするも、先程結界を張っていた場所を爆発的な閃光が走り去り
先程の閃光の欠片が降り注ぎ、咄嗟に無詠唱で『防壁』を張る。光はあっさりと『防壁』に弾かれた。
(結合はほぼ全ての物質、或いは魔法を引き寄せ、結合させることができる。もっともあの様な使い方では結合したものは爆発してしまうが、威力は大幅に軽減できる。)
リジンは得意気に自分の魔法を説明する。
(彼奴の攻撃は貴様は知らないだろう?回避か防御かの判断は私がする。だから体の支配権を一部渡せ、お前は攻撃の方法を考えろ。)
そう言ってリジンは斬撃波を放つ。確かに斬撃波は魔人に直撃し両断したが
(自分の『切断』は相性が悪い『結合』もイマイチどう使えば良いか分からん。攻撃はお前に任せる。)
先程とは違い、やや不満げにそう言ってリジンは自分の体を操り始めた。
上空では魔人も私達もお互い思うように動けず数度の小競り合いの後、殆ど同時に地上に降りた。着地した場所は先程魔人と遭遇した腐敗した森の広場だった。
融合した私達は単純な基礎スペックだけでは無い新たな強みを手に入れていた。
それは圧倒的な手段の多さだ。現に先程までの単体だと防ぎきれない攻撃に対処し続ける事が出来ている。
極太の閃光は『結合』によって逸らし、液体の弾丸は回避し、上空からの腐敗の雨は(結界を張れ)「『魔導の力よ、集まり壁となれ』」結界によって防ぐ。
融合によって大幅にスペックが向上した私の体はリジンの判断の正確さによって、全ての攻撃に完璧に対処できるようになっていた。
リジンの『結合』で逸らしきれない数で有りながら『結界』で防御すれば視界が閉ざされ敵の予備動作が見え無くなる液体弾、『結界』を粉砕する出力を持ちながら追尾性能によって『回避』を許さない閃光、液体弾と同じく『結合』で逸らしきれない数で有りながら広範囲の攻撃で有るため『回避』が出来ない腐敗の雨。
しかし同時にこちらの決め手も欠けていた。
「焔よ、敵の躰を穿ち、灰燼とせよ」双対の火炎弾が魔人に迫り、その内片方が衝突し爆炎が立ち上るものの目立った損傷は見られない。「やはりまだ中級魔法までしか習っていないから焼き尽くせない!」(落ち着け!とにかく回避をしろ。)
液体の体を持つ都合上火炎が有効だと考え『炎双弾』を初めとした炎の系統の魔法を放ち続けているが一向に消耗する気配が無い。一度体を焼いてもすぐさま再生されてしまう。
魔人は既にこちらの攻撃が致命傷に繫がることは無いと気が付いており、防御や回避よりも攻撃を重視し始めており、より苛烈にこちらを責め立てている。
幾ら膨大な魔力が有ったとしても、このままではいずれ敗北すると私達は理解せざる終えなかった。
一撃の火力が必要だった。
(結合!)何度目かの迫り来る大閃光をリジンが魔力球の方向に逸らす。追尾機能さえも上書きするその能力を横目で見ているとふとある策を思いついた。
「リジン!あの結合はできてからずっと引き寄せ続けますか?それとも好きなタイミングで引き寄せられますか?」
(何方も可能だが?)
確認が取れリジンに作戦を伝える。
(……悪くないそれで行こう。)
作戦を共有し、反撃の準備を始める。
(回避のタイミングで魔法を使え!)
「永久に輝く焔よ、近づく闇を打ち払え」
相手の液体弾丸の発射に合わせてカウンターとして設置型中級魔法『炎封魔』をばら撒く。一発一発の火力は高いものの複数に散け追尾しない都合上、相手への妨害が主な役割となる魔法。
明らかに脅威にならない魔法を連続で発動する私達を見て、魔人が怪訝な顔をしたのがわかった。
(結合!)同時に大閃光に合わせ、魔力球を
そのまま追いかけっこをする事数分。
(結界を張れ!)「『魔導の力よ、集まり壁となれ』」腐敗の雨に対して結界を張った直後私達は
直ぐさま魔人も上空に向かって飛び、私達を追いかける。
そうして
(
魔人は敵の攻撃が有効打にならないことを理解し、悠々と彼等を追い詰めていた筈だった。
そして隠れる場所が無い上空に逃げたとき笑みを浮かべながら追いかけた。それが罠だと気が付いたのは、莫大な焔の弾幕が自分に向かっていると気が付いた時だった。魔人の顔を紅き炎の輝きが染めた。
結合を利用した時間差で発動した魔法の同時攻撃。それが足りない瞬発火力を補う最後の切り札だった。
先程ばら撒いた火球が猛烈な勢いで集まる。魔人が回避しようとするも
爆炎に続く爆炎が視界を覆い尽くし、余りの眩しさに目を瞑り……再び目を開いたとき、そこにはもう何も無かった。融合が解除される。
「私達の勝ち……………」
喜ぶ気力も無く。リジンに抱きかかえられたまま、意識を失った。
まて、落ち着け!怪しいものではない。彼女の父親だ。だからその爪をおろせ!あぁ、すまない!すまないケイセレン!自分が仕事で領地の村に行っていたせいで!リリウムはバージルが死んでいた場合、万が一此処に来たときに他の全員を護るため家を離れられなかった。内層貴族の愚か者め、何が討伐完了しただ!バッチリ生き残って居たじゃないか!杜撰な仕事をしやがって!汚染精霊よ、後で詳しい話は彼女を通して聞かせて貰う。だが……彼女の助けになってくれたことを感謝する。
目が覚めると父の顔が見えた。父は仕事の最中に爆炎が見え、最速で向かったらしい。そして倒れ伏す私と契約した汚染精霊を発見したらしい。
父は何も言わず、ただ私を抱き締めた。その熱と鼓動を感じて、漸く生きて帰ってこられた。そう思っていると頬に何かが流れる感触がした。
数日後父は親しい人間に使いを出し、同時に屋敷の使用人に全てを打ち明けた。
「ハッキリ言って我々は厄介事を背負い込んだ。それでも仕え続けるものは残れ。そうでないものは去れ、言ってはならない秘密を守り抜けるなら別の働き口も紹介する。」
そう言って使用人に選択させた。
結果として大部分がこの屋敷を去った。
人が少なくなった屋敷の中である日父が私の手を取って中庭に連れてきた。
「バージルは死んだ……だが、お前の中には基礎的な学びは残っているはずだ。」そう言って父はいきなり魔法を私に撃ってきた。咄嗟に避け、父を見上げると……その瞳には冷たい炎が宿っていた。
「ケイセレン、お前はもうただの伯爵令嬢では……護られるだけの存在では無い。将来その身に背負ったものごと世界を突き進む必要が有る。その様な宿命を背負った。故に……」
お前を戦士として、一人の外層貴族の勇士として育てる。安心しろ、奴がいる限りそう簡単には死なない。
その日から私はただの少女ケイセレンから、ケイセレン・リディスブライトとして歩み始めた。
この先彼女は時間の許す限り、リジンが居ればギリギリ大事が起きないレベルの地獄に永遠と叩き込まれます。レインの夢(原作知識)が無くてもケイセレンの成長の鈍化に伴い何方にせよヴァルクロス公爵に魔宮を使わせて欲しいと頼み込んで居ます。
リジン……見た目はメルゴーの乳母。良くも悪くも自由と生存が第一目標だが、極めて適性の高い相棒が見つかり内心テンション上がって居た。後日厳密な契約が施されて自由が減ったことをとても嘆いていた。契約時約40LV。
結合……切断と対になる『然創特殊魔法』。基本的には魔力球に物を引きつけるだけだが本質はそこでは無い。切断と違い今も尚研究が進んでいない。
ケイセレン……もともと戦闘において天性の才能を持っていたため、そこまで鍛錬をしていなくてもそこそこ強かった。融合前はLV10、融合後はLV40。実は融合時の強さは素体に変数をかけるため、有る一定以上の強さが無ければ精霊単体よりも弱くなる。
バージル……ケイセレンに最低限の護身を教えた教師。何気にこの作品初の死者。
腐敗の魔人……LV45。全盛期は67程度。液体生命体(スライム)の様な特徴を持ち、通常の打撃や斬撃が聞きにくく、腐敗を司る『然創特殊魔法』は強力である。が、正直中位精霊と契約している貴族なら倒すのは可能。だが、炎で完全に燃やし尽くさなければ死なないこともある。内層貴族の討伐隊は死亡確認を怠り、後に被害を拡大させた。