本編前に死ぬ4人家族の長男として転生した件について 作:バトクロス
試練の魔宮。原作では経験値稼ぎとして周回する事になるランダム生成ダンジョン。自分の適性レベルの敵が次々と出て来ては戦闘し、最後に待ち受けるボスを倒せばクリアとなる。
そんなダンジョンの入り口に一家揃って並んでいた。
何故そんな事になっているかを説明するには姉にボコボコにされた日の6日後に遡る。
「ヴァルクロス公爵から返信が来た。条件付きで魔宮を使っても良いそうだ。」
「それは嬉しい知らせですね。」
その日家族揃っての夕食を終えると父はそう言った。「お父様、何があったのですか?」
「ケイセレンから話を聞いてな、そう言う事ならばレインだけで無く家族全員が鍛えるべきだろう。」
寝耳に水だったので質問したが、父の返答に俺は無言になった。どうせ信じないと思っていたが、よくよく考えればこの世界はファンタジーだ。過去に予言者とかが居てもおかしくはない。
「で、夢のことを隠して彼に相談した訳だ。」
「ヴァルクロス公爵家の現当主、テレシスは私の兄で、ウォルターの友人なのよ。」
おいおい原作キャラとバチバチに関係性有るのかよ。原作では娘さんはルート次第でヒロインだし、息子さんは最終的に敵対するライバルだし、確か最終盤で当主は最強クラスの敵になるんだよなぁ。それにしても使わせる条件ってなんだ?
「条件が気になっている様だな。」
「えっ、は、はい。」父は勘が鋭い。あっさりと心情を読み取られ慌てるなか父が笑いながら答えた。
「単純な事だ。ご子息がレインと同い年でな。小さい頃有ったとはいえ、お前も多分忘れているだろう。彼と仲良くしてやってくれとの事だ。後単純に甥っ子姪っ子に久しぶりに会いたかったのも有るらしい。」
これも訓練だと言われ、馬車に乗らず『身体強化』をかけた後走ってヴァルクロス公爵領の魔宮に向かった。因みに俺は全力で走っていたが、他は全員ランニング程度の速度調整をしていたらしい。普通にへこむ。因みに今回は普段の訓練とは違い、バトルクロスを着ている。原作でも有った軽くて優秀な防護装備だ。
「お久しぶりです。テレシス・ヴァルクロス公爵閣下。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。」
「お久しぶりです。お兄様。」
「久しいな、ウォルター・リディスブライト伯爵。唐突に手紙が来て驚いたものだ。リリウムも元気そうだな。」
そんなこんなで到着した魔宮の入り口には父と同年代の男性が立っていた。父と母が挨拶をしているところを見るに彼がテレシス・ヴァルクロス公爵なのだろう。原作よりもかなり若く見える。
そしてその隣には二人の子供が居る。恐らく少女の方がシディアス・ヴァルクロス公爵令嬢で、少年の方がラスティ・ヴァルクロス準男爵だろう。もっともラスティほまだ爵位を持っていないだろうが。やはり原作キャラは美形だな。願わくば二人とも仲良くしたいが。
「ケイセレン、レイン挨拶しろ。」どうやら父は挨拶が終わったらしい。
「お久しぶりです。ヴァルクロス公爵閣下。シディアスとラスティもお久しぶり。彼はレイン。私の弟です。」
「初めまして。」この世界で初めての同世代との会合にガチガチに緊張しながら挨拶した。
「お久しぶりですケイセレンお姉様。こんにちはレイン、私はシディアスよ。」シディアスはやはり穏やかで優しい人物な様だ。問題はラスティの方だ。
「お久しぶりですケイセレン姉さん。会いたかったです。」姉に顔を赤くしていると思えば「……ラスティだ。」自分に対して露骨に不機嫌な表情を向ける。
「ごめんなさいね、ラスティは自分だけ覚えているのが不愉快だったの。」
「違うし!」理由が分からず困惑していたが、どうやら俺が彼の事を忘れていた事が不快だったらしい。
「それでケイセレン、レイン、ラスティ、シディアスでパーティーを組んで一応万一に備えてリリウムをつける。それで良いな?」「ああ、それで頼む。この魔宮は全員の力量の平均値程度の敵が出て来るからな。」
どうやら既に攻略の手筋はついているようだ。
「二人ともよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
「足は引っ張るなよ。」
前途多難だ……
「さて堅苦しいのは無しにしよう。」
「……どうしたテレシス。」
子供達が迷宮の中に消えるのを確認して友が何時もの口調に戻る。
「何故君がここに来た。君は敢えて
やはり彼は聞きたかった様だ。昔からそうだった。真っ直ぐで歯に衣着せない言葉遣いは貴族らしく無かった。視線を外し、迷宮を見ながら答える。
「……レインが予知夢らしき物を見たようだ。我々が恐らく魔人によって全滅する夢を。」
「……ただの夢ではないのか?」
「分からない。あくまで保険だがな。準備はしておくべきだ。」
訝しげに問うてくる友にあくまで保険だと前置きしつ説明を続ける。それに……たまには会いたいしな。
彼の方に向き直ると何故かニヤニヤしていた。
「笑うところ有ったか?」むっとすると彼は咳払いして口を開いた。「最後の内心口に出てるよ。」
は?
魔物、魔人の祖先と呼ばれる存在。姿形は様々であり、戦闘能力も種族や個体差が大きいものの、知性がなく、人類と精霊に敵対的であることは共通だ。早い話RPGの雑魚モンスターだ。そして試練の魔宮では汚染された微精霊と魔物が大量に湧く。本編では触れられなかったが、魔宮は魔人が作成した侵略用の兵器だったと言う説がプレイヤーの間では一般的だった。そんな魔宮に俺達は今居る。
「魔素よ、体内を還流し、変質し、我が身を強化せよ!」
「焔よ、敵の躰を穿ち、灰燼とせよ!」俺が『身体強化』をかけて前衛として剣を振るいラスティが後方から『炎双弾』を放つ。剣に顎を切り飛ばされた浮遊型の汚染微精霊が魔素に還るのと同時に一対の炎弾が直撃した『ボーンソルジャー』が灰になった。現在魔宮に入って三時間経っている。
基本的に今回は俺とラスティの経験値を稼ぐために魔宮に来ている。一応姉とシディアスも戦闘には参加しているが、あくまでサポートをメインで行っている。何が言いたいか。
「……辛い」「……当たり前だろ」自分達二人は既に疲労困憊だった。試練の魔宮のシステム的に単体の強さはともかく母や姉の影響で、明らかに自分達だけでは倒しきれない敵が出て来る為常に限界を超えさせられている。
「一度打ち止めの様ですね。」シディアスが安全を確認し、やっと弛緩した空気が流れ始めた。
「それにしても流石ですねラスティさん。訓練を始めたのは1年前だと聞いていましたが……」彼は想像以上に強かった。単純な力量は自分の方が上だろうが、彼の機転の良さ、魔力保有量、攻撃の破壊力は既に自分よりも上だ。だから素直に褒めたのだが……
「ラスティで良い。」「は?」なんか不機嫌にそう言われた。
「自分より強い奴に謙られるのは嫌いだ。とりあえず爵位を貰うか強さが逆転してからそう呼べ。」
「……分かりましたよ。」気難しいが、良くも悪くも芯が通った性格のようだ。「だが昔会ったことを忘れていた事は許さんぞ。」余計な一言だろそれ。
「ラスティ、素直に受け取ったら良いのに。」シディアスから窘められてそっぽを向く辺り、まだまだ原作よりも可愛げが有るな。原作だと途中から感情が表情に出なくなり、最終決戦でそれまでの全てを暴露して襲いかかって来るからなぁ。幾らか表情に出たりした方が圧倒的に良い。
「なにニヤニヤしている!」
「いや、何でも無い。」おっと顔に出ていたか。
それから更に数時間。試練の魔宮地下一階。その最奥に有るボス部屋の前に自分達は居た。「貴方達の実力だと恐らく下級汚染精霊、もしくは危険等級c位の敵が出て来ると思われます。」今は戦闘前に打ち合わせを行っている。
「レインとケイセレンは前衛として敵を抑えて、ラスティとシディアスは後衛から援護して。」最悪私が一撃で消し飛ばすから安心して動きなさい。そう付け加えて母はボス部屋を塞ぐ壁を消し飛ばした。
「魔素よ、体内を還流し、変質し、我が身を強化せよ。」全員が『身体強化』を発動し部屋の中に向かう。
母に続いて砂だらけの部屋に入ると中には
「いや、
「サンドワームか……事前の作戦を放棄。それぞれ回避に集中し襲いかかって来た所を他が狙い撃て!」再び砂に潜るサンドワームを前に母の指示が飛ぶ。
ボス戦が始まった。
「私の方に来ています!」姉の言葉通り、直ぐさま躰を丸呑みにしようと頭が飛び出す。姉が回避するなか、頭部に対して魔法を放とうするが
「間に合わないか……」「『』火力が足りない!」自分の中級魔法はそもそも発動が間に合わず、ラスティの初級魔法は表面を軽く焼いただけで終わった。
「次は二人の方に向かっている!」今度は自分達を丸呑みにしてこようとしてきたサンドワームの頭部を躱しつつ、カウンターの要領でまだ見えている胴体に攻撃をしようとする。
「
受け身をとって前を向くと先程までいた場所が尻尾に叩き潰されていた。
「助かりましたお母様。」
「頭が隠れたからと油断はしないでください!」咄嗟に間に入った母に感謝し、母に忠告を受けながら戦闘に復帰した。
サンドワームの攻撃は非常にシンプルなもので、体当たりと丸呑みだ。だが『身体強化』を発動していてもある程度のダメージを受ける。特に丸呑みは元々の身体強度の都合上恐らくラスティと俺は即死するだろう。更に砂の中から飛び出してくる都合上回避も難しい。
なら
「炎陣破空!」砂に拳を叩き込んだシディアスがそのまま中級魔法『火流激』を短縮詠唱で発動する。本来永続的に炎を出す筈の『火流激』の炎がひたすら砂の中に吸い込まれ消えていく。
「何を……いやそうか!『』」意図を察知した俺達は
数秒後予想通り急上昇する砂の温度に耐えられずサンドワームが悶えながら飛び出した。のたうちまわるサンドワームに向けて俺の『炎雷砲』とラスティの『炎双弾』が発射された。
下級魔法をあっさりと耐えた頑丈な皮膚も二方向からの中級魔法の直撃には耐えられず表皮を貫通された魔法に内臓を焼き尽くされサンドワームは爆死した。
その後ボス部屋に表れた転送門をくぐり試練の魔宮を脱出した。
設定補完
炎双弾……中級魔法。一対の炎上する弾丸を放つ。二体を狙ったり一体を連続攻撃出来たりする。原作では貴重な序盤で入手出来る中級魔法であるため重宝される。
火流激……中級魔法。炎を垂れ流す攻撃。火炎放射。原作では中盤で入手可能で有り、範囲攻撃のため雑魚処理に使われる。勿論原作では地面を燃やすためには使われない。
試練の魔宮……常に姿形が変わり続けるローグライク要素を取り入れたコンテンツ。キャラクターレベルの平均値の敵が基本的に出て来る。なお契約精霊を召喚している場合適性レベルを誤認され、それに適応したレベル差が有るモンスターが出て来る。ただし抜け道として、ボス部屋に入った場合、中のモンスターは変更されないためボスが確定した直後に契約精霊を召喚すれば瞬殺可能。
危険等級……魔物の強さや特異性を表したもの。ざっくり言うと強さの指標。s,a,b,c,dとランクが有る。原作でいうとsが終盤の強敵や、中盤の山場のボスでLV80以上。aが中盤の強敵や、終盤の強モブでLV70相当。bが終盤のモブでLV50相当。cが中盤のモブでLV30相当。dが序盤のモブでLV10相当。
ボーンソルジャー……LV10相当。アンデッド族の雑魚。
サンドワーム……LV35。強さ自体はLV25相当だが、面倒な魔物。LVが足りていない場合、直撃したら大ダメージの攻撃を回避しながらカウンターを入れ続けなければならないが、今回は炎流激の想定外の使い方であっさりと倒せた。原作でも特定の攻撃をするとスタンする。実際あの行動まではろくにダメージを与えられていなかった。
ラスティ・ヴァルクロス……現在LV15。ヴァルクロス公爵家の嫡男。傲慢だが芯が通っており、身分で差別することは無い。原作では序盤は平民の主人公と仲の良いライバルだったものの、主人公がハト派に付いてからは関係性は疎遠に。中盤の小競り合い以降姿を消し、終盤になり心情を爆発させながら戦いになる。ヒロインとしてシディアスを選んだときの台詞は名演。最終決戦時LV70相当。契約精霊を召喚した第二形態では推定LV100。
シディアス・ヴァルクロス……現在LV20。ヴァルクロス公爵家の令嬢。原作ではヒロインの一人であり、お淑やかで王道のお嬢様。『炎魔の精霊』と契約する。なおルート次第ではヴァルクロス公爵に従い主人公と敵対する。その際はLV70、契約精霊を召喚するとLV100とステータス配分は違うもののラスティと同程度の強さになる。