時空管理局へようこそ(満面の笑み)   作:紅乃 晴@小説アカ

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管理局の大規模演習企画(2)

 

 

「とにかく、爆発しないところからやるぞ!!」

 

建設管理課課長の、その非常に的確ながら不安しかない号令とともに、旧工場地帯の整備プロジェクトが始まった。

 

まず優先されたのは、安全確保と人員の確保である。建設管理課のベテラン技師たちは、すぐさま懇意にしている資材メーカー、撤去業者、地質調査会社、果ては爆発物処理の専門家に至るまで、顔と技術で信頼してきたコネの総動員を開始。

 

「お忙しいところすみません、ええ、例の場所です。ええ、あの黒塗りゾーンの……はい……いや、逃げないで、お願いだから」

 

「地下?地下の調査?ははは、ウチの若いのが行きますんで。あ、もちろん保険つけます保険。うん、生命保険の方」

 

半ば泣きつきながらも、なんとかプロジェクト初動の布陣が整った。

 

 

 

 

まず行われたのは、地下の実態調査。

 

地上の瓦礫やジャングル化したエリアは後回しにして、もっとも爆発の危険が高いとされる工場地下トンネル群の調査が優先された。

 

ヘルメットと保護スーツに身を包んだ調査チームが突入。帰還してきたリーダーは、顔こそ冷静だったが、目が笑っていなかった。

 

「ある程度の区画は、まだ使用可能です。構造も安定していますし、空気も換気さえすれば何とかなります。ただし……」

 

モニターに映されたのは、地下深くに広がる薬品貯蔵庫の跡地。

 

内部の写真は錆びたドラム缶、溶けかけたコンテナ、壁面にこびりついた何かの沈着痕、そしてなぜか常温なのに蒸気を発している金属塊が映っていた。

 

「このエリアは……正直、やばいです」

 

「やっぱやばいのか!!」

 

即座にチョークポイントとして封鎖。廃液処理と封鎖作業に専門業者が投入されることとなった。

 

一方、地上は地上で地獄のような瓦礫撤去とツタとの格闘が始まっていた。

 

「ブルドーザー入れてー! あっ、それツタじゃなくて配管ー!止めて止めて止めて!」

 

「ツタが伸びすぎて建物に根を張ってる!?何だこれ、植物というよりモンスターか!?」

 

「誰だ、ここに使えそうなパーツってタグ付けたの!?ここは撤去用!使えそうなのは再利用班に回すからあっちだ!!」

 

本部から見学に来た広報企画部の若手が、ガスマスクとヘルメットを装備しながら小声でつぶやいた。

 

「これ、ほんとにエースたちの演習場になるのかな……」

 

その隣で、建設管理課のチーフがにやりと笑う。

 

「なるさ。どんな無茶でも、俺たち工程整備部はどうにかして形にするのが仕事だからな」

 

そうして、プロジェクトの第1フェーズ。

 

まず安全な場所を洗い出し、死なない範囲で整備できる場所から進めるが、文字通り命懸けで進められていくのであった。

 

 

 

 

さて第2フェーズに向け、現場で植物と鉄屑と格闘中のメンバーとは別に、残された建設管理課の面々は、広報企画部との会議に臨んでいた。

 

会場は工程整備部の大部屋会議室。

 

壁一面のホワイトボード、床にはうっかり誰かが設置したままの三次元模型、そして何より目を引くのは、現場から逐次送られてくる「今まさに進行中の惨状」を映し出すスライドショーである。

 

「まず、ご覧ください。これが現地です」

 

映し出されたのは、錆びた鉄骨の山、崩れかけた煙突、ツタに飲み込まれた倉庫、そして地下薬品庫の出口から立ちのぼる謎の蒸気。

 

……どう見ても演習場ではなく、人類が滅んだ終末後の世界である。

 

「……えっと……これを、演習場にする……んですよね?」

 

広報企画部の新人が震える声で訊ねると、課長が腕を組んで無言でうなずいた。

 

「そうだ。更地にしてな」

 

「ぜ、全部ですか?」

 

「いや、全部更地にしたら予算が吹き飛ぶ。下手すると来季の予算もそこを尽きる」

 

重々しい現実である。

 

今回のプロジェクトは「演習場整備」「広報イベント」「映像配信設備の構築」がセットで、しかも次元世界への管理局アピールいう大義名分まで乗っている。

 

つまるところ、予算の天井が決まってる上に見せ場は死守しなければならないという地獄の条件付きだ。

 

沈黙する会議室に、課長がふたたび口を開いた。

 

「そこで、我々が用意した案がある。名付けて『初回破壊型リノベーション方式』だ」

 

資料にざわめく空気。なんだか嫌な予感がする。

 

そんな不安を抱える広報企画部主任をよそに、課長が次のスライドを表示する。そこにはボロボロの工場地帯の上に追加された、仮想演習ステージの数々。

 

崩れた骨組みは自然の遮蔽物に、老朽倉庫は狙撃用の高所ポイントに、さらにはツタを活かした迷路エリアなど、もはや解体ではなく活用を前提とした狂気の提案がズラリ。

 

そして次のスライドで、ついに決定的な一言が放たれる。

 

「高町なのはが撃てば、だいたい更地になるんですよ」

 

ベテラン設計士が、朗々とした口調で言い放った。

 

「えっ……そ、それ前提なんですか!?」

 

「いえほぼ確実な未来予測です。過去の演習データをご覧ください」

 

次に映されたグラフであり、過去5年の演習場使用後レポート。

 

「演習後の施設健全率」……軒並み15%未満という驚異的数字が並んでいる。

 

「というか、このグラフおかしくない? どう見ても戦災跡マップじゃん」

 

「それは違うな」

 

課長が真顔で応じる。

 

「戦災予定地マップだ」

 

どちらにしても酷いことには変わりない。

 

「……あの、まさかなのはさんって、建設管理課内でブルドーザー扱いされてます?」

 

「まさか、そんな失礼な。局地制圧型高精度砲撃兵器という、れっきとした敬称だ」

 

「より失礼じゃないですかそれ!!」

 

だが、広報企画部の主任はそのとき、すでに何かを悟っていた。

 

「……なるほど。更地になる未来を逆手に取るということですね」

 

「その通り。だったら最初から、演習で破壊される絵が映えるよう設計すればいい。老朽構造物は計画的崩落構造物に、薬品倉庫はちょっと危ない設定の施設に。壊してもらうこと前提で作る。これなら予算も抑えられるし、広報的にはドラマティックだ」

 

「しかも映像に残る。高町なのはの一撃、ここに落つとか、すっごいサムネ映えしそう」

 

「被害が残る瓦礫は展示用として、保存しておくのもアリかもしれませんね」

 

「……エース・オブ・エースが放った爆心地ゾーンとか?」

 

「ありだな。撃たれる前提の記念モニュメントって、世界初じゃないか?」

 

気づけば、会議室の空気が変わっていた。

 

崩壊を恐れていたはずの広報企画部が、破壊のインパクトを利用しようと動き出していた。

 

 

 

 

こうして、旧工場地帯を演習場にする方針は決まった。

 

(1)旧工場地帯を産業跡地型演習場してリノベーション

 

(2)砲撃による構造物破壊を前提とし、演出・映像化に活用

 

(3)演習後、残存状況を見てフェーズ2(都市型・山岳型など)に改修

 

(4)破壊跡は遺産として保存・展示。記念撮影用にも活用可能

 

それは、更地になる未来を最大の武器に変えるという、工程整備部ならではの設計思想だった。

 

つまり、壊されることこそが設計の成功。

 

誰もが一度は思った。

 

(……これ、もう演習っていうかなのはさんの砲撃に頼った破壊イベントでは?)

 

だが、誰も口には出さなかった。

 

 

 

 

演習予定日を目前に控え、現場は修羅場と化していた。

 

植物を刈るどころか、森と化していた倉庫区画の開拓。

 

老朽施設の一部補強。

 

蒸気を吐き出す地下貯蔵庫には、特殊環境装備で挑む薬液班が朝から潜っては夜に這い上がる毎日。

 

──そして何よりも時間がない。

 

「そっちの鉄骨はまだそのままー!あっちの壁から解体だ!その鉄骨抜くとジェンガみたいに倒壊するからな!」

 

「こっちの薬品庫、温度が上がると蒸気の色が変わるって報告きましたー!!」

 

「どんな薬液が入ってんの!?とにかく焦らず確実に廃液処理するように伝えてあげて!!」

 

まるで戦場。いや、始まる前からすでに解体処理班の演習みたいなものだった。

 

そして、その中でもごく一部のメンバーは、別の作業に取りかかっていた。

 

「よし、空戦機動による空戦魔導師たちの軌道予測、だいたい取れたな」

 

「じゃあ、こことここに迎撃ユニット、標高差を利用して配置すれば隙を生じぬ二段構えで誤魔化せる。レーダードームは偽装塗装済みです」

 

秘密裏に進めていたのは──対空迎撃システム(仮)の試験運用である。

 

名目はあくまで「自動防災装置」。

 

だがその実態は、目標を補足し、自動で擬似迎撃行動をとる最新鋭の防御機能を持つ、対高出力魔力砲撃用バリア投射装置──ほぼ実戦兵器であった。

 

「いやぁ、これがあれば少しはなのはさんの砲撃に耐えられるかもな」

 

「耐えたとしても周囲がえらいことになる様に思うんだけど!?」

 

「……でも上からの技術検証予算、残ってたし、今期中に使い切らないともったいないじゃん」

 

「あとから、そんなの許可した覚えはない!って言われるぞ、絶対」

 

「大丈夫大丈夫、上には仮設構造物の耐圧テスト用オプションって報告してあるから!」

 

「建設管理課って、ほんとに仮設って言葉、都合よく使うよな……」

 

 

 

 

そして怒涛の準備を終えた演習当日。

 

演習に入るために移動してきた高町なのはは、特設会場に向かう通路で建設管理課の面々とすれ違った。

 

普段ならば「壊さないで!」「できれば手加減で!」「お願いだからあの壁だけは残して!!」と、悲鳴混じりの訴えが飛んでくるはずなのに……。

 

今日は様子が違った。

 

「なのはさん!!」

 

「どうか今日は、それはもう全力で、全開でお願いします!!!」

 

……言葉に一切の曇りがない。瞳が、まるで朝焼けのように眩しい。

 

「え? え、あの……セーブしなくていいんですか?」

 

「いいんです!!」

 

「むしろ、撃たないと予算が無駄になります!!」

 

「演出も仕掛けも用意してありますんで!!お願いします!!」

 

「お願いします!!!!!」

 

あまりに真剣な眼差しに、なのはは戸惑いつつも微笑んだ。

 

「う、うん……じゃあ、今日は全力全開で、いくね?」

 

「「「はい!!!!!お願いします!!!!」」」

 

何かおかしい気もしたけど。でも、言われた通りにするのが一番。そう納得してなのはは演習場へと向かう。

 

旧工場跡地に鳴り響く警報。

 

各部隊が空中展開し、模擬戦が始まる。

 

誘導魔法による空戦、局地戦。迎撃用の仮設障害物が動き出し、構造物を縫うように飛び交う。

 

そして……最終フェーズ。

 

なのはの魔力が収束しはじめた瞬間、他次元世界の隊長たちが同時に通信に声を上げた。

 

「え、ちょっ……あの魔力収束、何!?」

 

「……これ、演習用じゃない火力では?」

 

「実践級の演出って聞いたけど、まさかこれが……!」

 

魔力蒐集も万全。スターライトブレイカー、フルチャージ。

 

「──いきます!スターライトォォ、ブレイカァァァアァーー!!!」

 

放たれた砲撃は、空を裂き、光の柱とともに工場区画中央を跡形もなく吹き飛ばす。

 

土煙、爆風、震動。そして──歓声が響き渡った。

 

 

 

 

その時、広報企画部と建設管理課は、確信を持って勝利の時を迎えていた。

 

中継、記録班が詰めていた仮設のモニタリングステーションに、地響きと共に土煙が吹き込む。

 

「……今の、入ってる!?録れてる!?あの角度、押さえてたよね!?」

 

「ばっちりです!!三方向マルチカメラ、ドローン中継も成功してます!!」

 

「スターライトブレイカーの瞬間、煙突が光のリングを描いて砕ける……まさに奇跡のカットインです!!」

 

「おおおおお……やった……!やったあああああ!!!」

 

「これ、映像広報史に残るやつじゃないですか!?管理局プロモPVの冒頭確定でしょこれ!!?」

 

「使えるどころか、映像部門賞、今年は我々がもらったあああああ!!」

 

広報企画部、歓喜の絶叫と同時に後方でガッツポーズ連打。肩を抱き合って涙ぐむ者すらいる。

 

その一方で、建設管理課はもう一つの勝利に沸いていた。

 

「よし!!よぉおおおし!!いっけえええええええ!!!!」

 

「命中ぅぅぅ!!目標に命中確認!!直撃です!!中央科学プラントおよび地下薬品倉庫、完全消失ッ!!!」

 

「煙突爆砕、圧壊解析データ取れたぞ!完璧に軌道シミュレーション通り!!」

 

「空撮班!最高の角度だったぞ!あれもう年賀状にするわ!!」

 

そして、少しの静寂を挟んで

 

「万歳っ!!!」

「「「万歳っ!!!万歳っ!!!」」」

 

まさかの三唱フルセット。

 

だが、それで終わらないのが工程整備部という部署である。ズバァン!!という音と共に、天井から紙吹雪が降り注ぐ。誰が仕込んだのか、巨大なくす玉が割れ、垂れ幕がスルスルと降りてくる。

 

その文字は──

 

『祝☆破壊型リノベーション成功!』

 

呆然とする部隊関係者たち。他次元世界から来た隊長たちは口をぽかんと開けていて、同席していた教導部隊の隊長もすごい顔で見ていた。

 

だが、建設管理課は真顔で本気だった。

 

「想定通り、見事な破壊……完璧な施工シミュレーションでしたな」

 

「……はい、破壊から逆算した構造計画、大成功です」

 

「あとはこのまま展示用ゾーンと後期都市型演習エリアへの再整備フェーズに……っと、さぁて忙しくなるぞ!」

 

そしてまたひとつ、工程整備部の伝説に祝砲のようなページが刻まれたのだった。

 

 

 

 

その後。

 

帰還したなのはは、控え室のソファに腰を下ろし、汗を拭いながらふと呟いた。

 

「……なんか、すごく褒められたんだけど。本当に、あんなに壊してよかったのかな……?」

 

隣のフェイトは、静かに報告書に目を通し、目元をわずかに緩める。

 

「……建設管理課の報告書。今回の施設破壊率、計画通りって」

 

「……けいかく……どおり……?」

 

「うん。想定以上の仕上がりでした。今後もご協力よろしくお願いしますって書いてあるよ」

 

「えぇぇ……」

 

その時──部屋のドアがノックされた。

 

「高町一等空尉!建設管理課の者です!」

 

「えっ、えっ、はい!?」

 

「今回の演習、大変すばらしい破壊をありがとうございます! もしよろしければ、次回の爆心地候補をご相談させていただきたく!」

 

「爆心地って言った!?ねぇ今、爆心地って言ったよね!?」

 

フェイトが書類を閉じ、ぽつりと一言。

 

「……あの人たち、壊すのが前提というか、壊れないと仕事が始まらないんだよ」

 

「それ、建設って言うの……!?」

 

 

 

──狂気は計画的に。

 

工程整備部、本日も通常運転。

 

未来は壊してからつくるのが彼らのポリシーである。

 

 

次に見たいもの

  • 法務部の活躍
  • 交換部の活躍
  • 広報企画部の活躍
  • 新しい部門の話
  • 各部門の主任は同期なので飲み会とか
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