広報企画部。
慢性的な人材不足という呪いに長年苦しめられている時空管理局。
そんな組織の中で、まるで“打ち出の小槌”のような役目を期待されている……が、実際にはその小槌も年季が入りすぎてギシギシいっている、そんな部署が広報企画部である。
世知辛い限りだが、次元世界を管理する組織も人手不足だ。
近年、産業、商業、農業、物流、挙げ句の果てにはエンタメ業界まで、あらゆる分野で優秀な人材の争奪戦が繰り広げられている。
そこに加えて管理局には「魔法資質」という、一般人にはまず縁のない超ハードルが立ちはだかる。
就職希望者にとっては、ただでさえ難関の“優秀さ”という壁の奥に、「え? 魔法使えるの前提ですか?」という現実が待っている。
しかも魔法が使えたら民間で引く手あまた。わざわざ激務の管理局を選ぶ酔狂な若者は、もはやレアモンスター級だ。
そんな人材難の中で、時空管理局は今日も地道に新しい仲間を探している。
しかし、求人は変わった。
昔のようにポスターを貼っておけば応募が殺到する時代は過ぎ去った。
ネット広告?誰も見やしない。
SNS?バズったのは局員が気まぐれで撮影した猫の動画だった。
「やり甲斐」「使命感」を前面に押し出してみたが、「やり甲斐搾取」という逆風にあえなく撃沈。
若者の心は、そんな甘言ではもう動かない。
かといって、“時空を超えるロマン”を推してみても、「で、年収いくらですか?」の一言で面接で用意された応接室には沈黙が訪れる。
とはいえ管理局は、民間企業のように利益第一の組織ではない。
次元世界の安定、異世界との友好関係、時空の歪みの是正――と、やってることはすごいが、財布はすぐ軽くなる。理念で飯が食えるなら、世界はもっと平和だっただろう。
「腹が減っては戦はできぬ」――その真理をかみしめながら、管理局は民間企業とも連携を図り、資金や物資、時には技術までもかき集めている。
中には「局の理念に共感して…!」という奇特なスポンサーもいるにはいる。ありがたい限りだが、だいたいそういう企業は経理が超絶シビアだったりする。現実は現実なのだ。
そんな中、広報企画部はただの“広報”ではいられない。
ときには映像を作り、時にはイベントを仕掛け、時には萌えキャラすら召喚しかねない勢いで、あの手この手で人材を惹きつけようとしている。
もはや手段は問わない。
プライドはあるが、予算はない。
それでも誰かが言った。
「広報は、最後の希望である」と。
そう、広報企画部は今日も戦っている。少しでも未来の仲間に「面白そうかも」と思わせるために。いや、本当に面白いのかは、入ってからのお楽しみである。
たぶん、おそらく。
しかし人手不足は待ってくれない。
誰か教えてくれ。
優秀で、魔法が使えて、時空を超える危険な任務にも文句を言わず、使命感があって、できれば人当たりも良くて、できればブラック耐性もある――そんな人材。
どこにいるのか我々が聞きたい。
現代の若者は情報のプロである。
薄っぺらいキャッチコピーや、キラキラしたPVなど、見抜くのは一瞬。
下手をすると「また大げさな理想掲げてる系ね」とスルーされる。
じゃあ実情をそのまま出せばいいかというと、「休み少なそう」「危なそう」「で、福利厚生は?」と瞬殺される。
募集要項を詰める企画部のミーティングは毎回戦争だ。
「じゃあ、今度は異世界の星見祭に出展しましょう!」
「予算は?」
「ありません!」
「じゃあ誰が現地に行くの?」
「もちろん広報です」
「準備スタッフ全員がブチギレる未来が見えるんだがそれは」
この部署でさらに苦しいのは、成果が見えにくいことだ。
どれだけ凝った動画を作っても、何千人に届いても、応募がゼロだった日には「結局無駄だったんじゃ?」と上層部から後ろ指を刺され、予算が減らされる。
どれだけSNSでバズっても、「局の宣伝でバズったところで予算が増えるわけじゃないよね?」という冷めた目が突き刺さる。
成果は数値で評価されるが、信頼と好感度は定性的。そのギャップに胃が痛くなる。
それでも、広報企画部の誰もがやめない理由がある。
とある新人が、応募フォームの自由記述欄にこう書いていた。
「昔、管理局のPR動画を見て、いつかここで働いてみたいと思ってました。やっと応募できる年齢になりました!」
その一言で、編集担当が涙ぐみ、脚本担当がうなだれていた頭を上げた。
「……報われること、あるんだな」
広報企画部は、いつも目立たず、でも確実に種を蒔いている。届かないことも多い。勘違いされることもある。報われない日も山ほどある。
けれど、誰かの「きっかけ」になれたなら――それは、間違いなく意味のある仕事だ。
今日も、誰かが企画書を抱えながら、深夜の会議室で言う。
「この広報イベントで、マジで応募100人目指そうぜ。あとついでに予算、もうちょっとくれ」
人材不足という終わりなき戦場。
彼らの武器は高度なAIが搭載されたデバイスや、煌びやかなバリアジャケットでもなく、キーボードとアイデアと、ギリギリの予算である。
魔法?そんなもの会議資料の作成には何の役にも立たない。広報企画部のスタッフたちは今日も戦っている。
誰かにこの組織を「選んでもらう」ために。
さて、そんな企画部内には、様々なタイプのスタッフがいる。
主任はいつも無表情で淡々と仕事をこなすが、実は局の理念オタク。
睡眠時間を削ってまで理念紹介冊子の原稿を修正し、「ここ、文末に読点を打つと誠実さが滲みます」と真顔で言う。
趣味は深夜の広報動画チェック。
ひとりで感動してひとりで泣いてる。
おもしれー上司と新人からは思われがち。
SNSで広報を担当する新人は、日々テンション高めの投稿をして「なんか管理局、意外とフレンドリーじゃない?」という印象を与えるのが得意。
けれど最近、管理局の部門紹介動画が5000再生止まりで伸び悩み、代わりにチームメンバーのお弁当の写真が1万いいねされたことで、休憩室で静かに落ち込んでいた。そこを主任に励まされてさらに号泣した。
「広報? 他の仕事に比べたら楽じゃん」というノリで異動してきた局員は、文章は硬すぎて、企画書が作戦命令文のようになるのが玉にキズ。
ただし、局外の企業との交渉ごとでは無類の強さを見せ、「この条件で支援を引き出したのは奇跡」と評される外交交渉マシーンとなっている。
そんな個性豊かな局員たちが日夜人員を確保するために奮闘しているのだ。
さて、じゃあ広報企画部でやってる人員募集でやってきた人はどんな面接を受けているのか、気になるのではなかろうか?
とある面接の様子を紹介するとしよう。
会議室の空気は常に張り詰めている。
広報部が設営したブースには、ささやかな飾り付けと、自作の募集パンフレット。それを読んだ応募者の一人がぽつりとつぶやいた。
「なんか……他の案内より、あったかいですね」
その一言で、徹夜で募集パンフレットを書いた新人が涙ぐむ。主任は微笑むでもなく頷き、面接表にしっかりと丸印をつけた。
「では、まず質問に入ります。あなたは様々な世界に立ち向かう覚悟は、本物ですか?」
突然の直球質問に動揺する応募者。
それも想定内。
だが、その答えの中に、彼らは光を探している。現場で迷いながらも踏み出せる人間を――その先に、誰かを守れる人間を。
そして、面接が終わり、会議室にひとり戻ってくる新人が言う。
「……今回の人、すごく真っ直ぐでピュアした。絶対、受かってほしいです」
主任は、静かにコーヒーをすすって答える。
「なら、受かるように、広報がやれることを全部やるんだよ」
広報企画部に、派手な魔法はない。ドラマチックな戦闘もない。けれど、誰かの第一歩の、その少し先を照らす仕事がある。
今日も彼らは、自分たちのポスターが誰かの心に引っかかることを祈りながら、終電ギリギリのデザイン修正に取り掛かる。
「ここ、フォント大きくしすぎたかな」
「でも主任、そうするとキャッチコピーが泣いてます」
「……じゃあ泣かせてやるか、志望者をな」
そう、広報企画部は今日も働いている。――誰かが、ここを“選んでくれる”その日まで。
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