広報企画部が次に仕掛けたのは、管理局現場職員への密着型インタビュー動画企画だった。
テーマはズバリ――“最前線で働くカッコよさとやりがい”。
撮影スケジュールは問題なく確保できたうえ、出演者は管理局内でも“英雄”の異名をとる外縁部調査隊の精鋭たち。次元世界の先端をゆく彼らは、未知の世界を切り開く開拓者であり、その勇敢な姿はまさにヒーロー像そのもの。
「これだ……!」
「志願者、殺到間違いなし!」
「PR動画として完璧すぎる……ッ!」
深夜テンションの企画部メンバーは、まるで勝利を確信した将軍のような顔で準備を進めていた。
だが、そこに至るまでは紆余曲折があった。
「まずは王道で行こうよ、教導隊! 高町教導官を押さえられれば間違いないって!」
若手スタッフが勢いよく手を挙げる。
「教導隊……ね。高町なのはの“教えることの尊さ”って方向性はいいけど、あそこ、撮影許可が厳しいんだよ。生徒の顔も出せないし」
「ならハラオウン執務官だ。あの人のインタビューは鉄板だろ。優しくて美人で強いの三拍子、女性層にも刺さるぞ」
「でもそれ、どっちかっていうと恋愛バラエティ寄りじゃない?」
「悪いかよ! 視聴率取れれば勝ちだろ!」
「だったらこっちはどうだ。犯罪捜査最前線!犯罪者の摘発に密着とか!リアルでスリリングでしょ。市民の安全守ってますって感じで!」
「それ、場合によっては放送事故になるやつだよ!? 下手したら犯人の顔モザイクじゃ済まないって!」
「むしろそれがリアルってやつじゃない?」
「やめろ、企画がデスゲーム化してる……!」
そんな激論が交わされるなか、一人のスタッフが静かに提案する。
「……あの、外縁部調査隊ってのはどうですか」
「……あそこ、まだ未発見世界の探索がメインだろ? 画的には地味じゃない?」
「いや、逆です。異世界を切り拓く開拓者ですよ?カメラを向ければ自然と最前線のカッコよさが撮れるはずです。何より、彼らの仕事って、管理局の根幹じゃないですか」
その言葉に、一瞬だけ沈黙が落ちる。
「……いいなそれ」
「開拓者ってワード、強い」
「“ロマン”ってやつだな。これはウケる」
「じゃ、決まりで!」
こうして、取材先は外縁部調査隊に正式決定された。テーマはもちろん――“最前線で働くカッコよさとやりがい”。
「現場のリアルをそのまま伝えよう。誇りと使命感がきっと伝わる!」
誰もがそう信じていた。
――運命の撮影当日までは。
▼
「では撮影、スタートします! 皆さん、笑顔でお願いします!」
明るい掛け声とともに、カメラが回り始めた。
……しかし、映ったのは誰一人笑っていない外縁部調査隊の面々だった。
目は虚ろ。頬はこけ、目の下には深い隈。光を失った瞳がレンズを見据えるその姿は、どこか人間離れしてさえいた。
彼らは仕事帰りの顔ではなかった。
戦地からの帰還者の顔だった。
企画部の誰かが、カメラの外で小声でつぶやく。
「……え、ちょっと待って、これカッコいいっていうより戦場のドキュメンタリー番組では……?」
そして、インタビューが始まる。
以下、外縁調査隊メンバーのコメント(抜粋)
「未発見世界の初回降下、地表に立った瞬間……なんか重力おかしいな、と思って。設置した機材が……バキバキって、音もなく折れました。あれ、金属ですよ」
「調査は年単位ですね。1クールのつもりが気づいたら2年経ってたとか普通にあります。ジャンプ航路が“時間圧縮域”に接触してたらしくて、戻ってきたら妹が結婚してました」
「補給? しませんね。自給自足です。農業スペースあるんで。サラダ菜と合成肉で半年生きてました。もう舌の味覚、だいぶ退化しました」
「地面が肉のようで……踏んだ瞬間、ズボッと……膝まで吸われて。あ、これ帰れないやつって覚悟しました。笑」
「食虫植物がね、音を立てるんですけど……“女の人の声”で笑うんですよ。“あはぁ♡”って。……あれ聞きながら寝るの、だいぶメンタル削れます」
「現地民とのファーストコンタクト? うん、まず頭突きされました。で、殴り合って友情が成立。最終的に火で炙られて“仲間”認定されました」
その場にいた企画部の面々は、全員が真顔でうなずいていた。
しかし、心の中はだいたいこんな感じだった。
(え、なにこれヤバい……)
(でも……ちょっと面白い……いや、めちゃくちゃ面白い……!)
(いやでもこれ、命懸けだよ!?)
(これ、いい感じに編集したら志願者増えるんじゃない!?)
(……うん、増える“かも”……)
不穏な興奮と、常識の終焉が交錯する編集会議が始まっていた。
一方、語っている当人たちは、時折遠くを見つめながら、静かに語る。
「……これ、笑っていい話でしたっけ?」
「ううん、PTSDの人がする語りと同じテンションだった」
「ていうか、ほら、手が震えてる……震えてるって!」
カメラモニターに映る彼らの姿は、全員が何かを終えた目をしていた。あらゆる修羅場を越え、命を賭け、時には死よりもヤバい何かを味わってきた――そんな表情。
「……これ、ほんとに使えるのか……?」
「編集次第……いや、でもこのまま流したら、企画部ごと飛ぶかも……」
「ていうかうちの部署、ブラック認定される未来が見えるんですけど……」
崩れ落ちる理想と、押し寄せる現実。
これは“やりがい”の映像ではなかった。
これは、“生存報告”だった。
▼
インタビュー動画は、最低限の編集だけが施された状態で、ついに公開された。
というのも、編集スタッフが途中で手を止めて呟いたのだ。
「これ……下手にいじったら、逆に嘘になる気がする」
あまりにもリアルで、あまりにも壮絶だった。
その本物の迫力を損なわないよう、BGMも演出も最低限に抑えられた。
完成した動画は、管理局公式チャンネルと訓練学校内ポータルで一斉に公開。
その反響は――想像を超えていた。
▼コメント欄(抜粋)
「これ、PRじゃなくて生還報告じゃん」
「この人たちに休暇と温泉を……お願いだから」
「すごい。尊敬する。でも絶対行きたくない」
「これ見て志願するやつ、もう勇者だろ」
「次元航行ってファンタジーじゃなかったの!?」
「命賭けすぎてて笑えないけど笑っちゃう」
「食虫植物の嬌声ってなんだよ怖すぎ」
「現地民との友情、頭突きと火炙りとか…草生える」
「これ、間違いなく企画部がブラック企業認定されるやつ」
「闇が深すぎて光が見えない」
「こんなに面白いのに応募がゼロなんだよなぁ」
「最後のやつ絶対泣いてたよね…がんばれ外縁部調査隊!」
「次はみんなのお弁当事情でほっこりできると信じてる」
動画公開からわずか数時間で、再生数は異例の伸びを見せた。
特に若年層や新人研修生の間では「怖いもの見たさ」のバズが爆発し、SNSでは“#外縁部の現実”がトレンド入り。コメント欄も大盛況だった。
だが、肝心の志願者は一向に増えず、むしろ激減していた。
そんな動画を見た新人職員のひとりが、思わず呟いた。
「……外縁部調査隊だけは、絶対に行きたくない……」
彼女が長年憧れていた“最前線の英雄たち”の姿は、あまりにも過酷で残酷だった。
次元世界の果てで繰り広げられる想像を絶する戦いと日常が、彼女の心を重く押し潰した。ショックは大きく、数日間寝込む羽目に。広報企画部のメンバーは気まずく顔を見合わせながらも、「…まあ、そりゃあそうなるよね」と苦笑い。
「再生数は…伸びてる!爆伸びだ!」
「いや待て! 志願者は!? 志願者はどこだ!!?」
「……実は、訓練校の志願フォームが一時閉鎖されました」
「なにぃ!? どうしてだ!!?」
「問い合わせが殺到してまして。『装備に耐久性はありますか?』『死体は回収されますか?』『殉職時の保険費用はちゃんと支給されますか?』とか……」
「あああああ!!!」
狙っていた「やりがい」と「かっこよさ」は伝わった。
しかし、それは同時に「この部署には命の保証がない」という、あまりにも残酷な現実も露呈したのだった。
数日後、広報企画部に管理局上層部から通達が届く。
「次回の広報企画は、より“安心・安全”な部署を紹介せよ」
「命の危機なし、やりがいとキャリアプラン強調を前提とすること」
添えられていたのは、どこか涙ぐましい一文。
『現場のリアルすぎる話は素人には刺激が強すぎる。もう少しソフトに』
企画部のメンバーは上層部の気持ちを理解しつつ、誰かがぽつり呟いた。
「……やっぱ、“本物”は強すぎたんだな……」
動画のコメント欄には新たなタグが追記された。
#これが現場だ
#命を削るロマン
#でも俺は行かない
公開された“最前線”インタビュー動画は伝説となり、再生数は右肩上がり。海外次元からも字幕付きで拡散され、切り抜き動画や考察も溢れた。
「ドキュメンタリーの域を超えている」
「異世界ブラック職場紹介動画」
しかし、志願者数は増えるどころか減り続けていた。とある説明会は質問の嵐。講師は疲弊し、担当者はメンタルを削られる。
だが再生数は伸び続けていた。“伝わること”と“伝えていいこと”は違った。そんな折、上層部からまた新たな通達が下りる。
「感動系もいいが、もっと柔らかい日常系で頼む」
震える手で企画部が練り上げた次回企画案はこうだった。
『魔導師たちのお弁当事情』
命は賭けない、たぶん。
これから、この動画がどんな方向にバズるのか。
神ならぬ広報企画部にも、まだ予想がつかない──。
次に見たいもの
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法務部の活躍
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交換部の活躍
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広報企画部の活躍
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新しい部門の話
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各部門の主任は同期なので飲み会とか