時空管理局では、年に数回、各次元世界の支部持ち回りでイベントが開催されている。
その内容は多岐に渡り、次元航行艦隊の展示、空戦魔導師によるデモ飛行、魔導技術の最新トレンド紹介、民間向けの文化交流に職業体験――まさに次元の縁日である。
一見すれば平和的な広報イベント。
だがその実態は、慢性的な人手不足にあえぐ時空管理局が、「誰か入ってくれ頼むから!」という悲鳴をおしゃれに包んで届けるPR戦争である。
企画を担当する広報企画部にとって、これは命がけの舞台。
ありとあらゆる手を尽くし、人材確保のためのPRポイントをひねり出す。
新卒を騙し――いや、夢を売り、現場を飾り、魔導演出に全力投球。
そんな中でも、最大の試練は三年に一度やってくる。
第一管理世界・ミッドチルダの首都クラナガンで行われる大規模イベント。
それは時空管理局における、最大にして最凶の広報作戦と呼ばれていた。
動員規模:災害級
予算:天井知らず(ただし途中で底を尽きる)
精神的ダメージ:測定不能(※測定器が壊れる)
何しろ会場となるクラナガンは、地上本部のお膝元。全世界規模の中継が行われ、SNSではイベント前からハッシュタグが乱舞。各ランドマークには警備隊は待機し、魔力ネットワークは臨戦態勢。もうこの都市、戦場として完成している。
一度火がつけば、光と音と魔力の奔流が数日間にわたり都市を呑み込む。
屋台から戦艦まで飛び交い、空には魔導師、地には司会とマスコット――まさに次元の狂宴。
それでも、企画は動く。
止まらない。誰にも止められない。
やがてスタッフの間では、このイベントはこう呼ばれるようになった。
「夢と魔力と、ちょっとだけの人間味でできたイベント」
これはその裏側の話。
書類の海に溺れ、魔導デバイスの故障音に耳を焼かれ、会議室には「なんで!?」「誰がOK出したの!?」「そもそも誰がやるって言った!?」のシャウトがこだまし、倒れるスタッフ、走り回る新人、そして――
ある日、運命の一言が投下される。
「せっかくだし、高町なのは教導官にスターライトブレイカー撃ってもらおうよ」
その瞬間、全体の運命が変わる。
数万人規模の命運が、軽いノリの一言で、スターライトごと吹っ飛ぶのである。
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「ポスター、初版は既に印刷済み。二版も校了。三版は特別仕様で、タイトル「光と破壊の祝祭」になってました」
「祝祭っていうか主砲じゃろがい!魔砲で!ブレイカーで!!スターライトじゃろがい!!」
誰かが資料で顔を覆い、誰かがスケジュール表を食べ、誰かが「もう寝ていい?」と呟いた。
だが、イベントは止まらない。
本番までもう時間がない。
しかも、今回は最悪の条件が揃っていた。
「……なあ主任」
「なに」
「なんでよりによって、クラナガン開催なんですか?今年はヴァイゼンじゃありませんでした? あそこ、まだ壊滅しても致命傷にならない都市じゃないですか……?」
沈黙。空気が凍る。
あまりな言い方に注意の一つでもしたくはなったが、残念ながら事実かつ正論なので反論できない。
主任は目を伏せ、静かに呟く。
「上からの指示だ。今年は管理局創立の節目年。だから“本局の顔であるクラナガンで盛大に”って……」
「それ、処刑じゃないですか」
「そうね。事実上、ね」
全員が口々に文句を言い始める。もう誰も遠慮してない。目の前に迫るのはイベントじゃない。死である。しかもタップダンスしながら近づいてくるタイプのやつ。
「前回の来場者、何人でしたっけ……」
「現地だけで100万人超。中継含めると……試算不能」
「なのに人員、増えてません!!」
「解せぬ!!!」
「俺たちはぁ!準備、してきたよ!我々なりに。素材も、台本も、演出も、タイムテーブルも!!半年も前から……っ!!」
「ですよね。今回は……奇跡的に、完璧だった。直前までは」
「そう、直前までは!!!」
主任が机を叩いた瞬間、書類がまた雪崩れた。
「……そこに現れたんだよ、“あいつら”が」
「運営委員会……ッ!!」
「毎回毎回、なんで“直前”になってから全演出に文句つけてくる!?」
「“もっとインパクトを”だそうです。“今年はリフレクションかつデトネーションで”とも」
「言葉の意味が全然わからない!!!」
「もう噂が広がり、SNSではもうタグが「#高町さんのスターライトブレイカー2025」がトレンド1位です」
「あぁあぁああ!!もうやだああああ!!」
誰かが社内端末を放り投げ、誰かが泣きながら非常口の前で寝転び、誰かが「終わったら絶対異動届出す」とメモを残した。
そして、新たに届く通知。
【運営委員会より】
・魔砲演出、光量が足りないので倍にしてください
・フェイト・T・ハラオウン執務官による真・ソニックフォーム演目を追加
・なのはさんには「最後に全部撃ち抜いて」とお伝えください
※観客の安全は各自で努力
「“各自で努力”って何!?!?!?!?!?!?!?!?」
「それ、つまり“うちは責任取りません”って意味ですね」
「うちが責任取るってことじゃないかよ、はっはっはっ。ボケがよっ!!!」
絶望が満ちた会議室。イベントの最前線で塹壕戦をしている広報企画部に退路なんてものはない。死ぬまで進めとしか書かれてない命令書を手にした全身あるのみ。
止まらない。誰にも、止められない。
時空管理局広報企画部は、夢と魔力と、ちょっとだけの勇気で、明日も死地へ赴く。
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「すみません本当にすみません!でもどうか演目の順番、あと五分だけ後ろにずらしてください!! お願いです、燃えます!!物理的に!!」
「広報企画部!?またか!?うちはもう無理だって言っただろ!?タイムスケジュールの神は怒ってるぞ!!」
「神ごと倒します!!こちらは高町教導官の主砲を所持してます!!戦争がしたいのかああああ!!!」
各所に土下座と威嚇を交えつつ調整し、スタッフは奔走していた。
ステージ班、照明班、空間設計班、警備隊、搬入業者、通信局、全局共通ネットワーク課、果ては市役所の騒音規制係まで。
ひたすら頭を下げ、時には認証つきの「お願いだから!」文書を手渡しながら、戦争のような準備期間を生き延びていた。
「あと、“昼の演目に合わせてクラナガンの天気を晴れに固定”って……」
「我々に気象の神は味方してない!!」
広報企画部、阿鼻叫喚。
全局ネット会議で散らばる各チームの責任者たちは、もはや画面越しに気力を失っていた。
照明班はスポットライトで自分を照らしながら沈黙、警備班は書類で自作の棺桶を作り始め、演出班の誰かは通信中に麦茶でキーボードを水没させた。
その中でも、唯一、理性を保っていたのが主任だった。
「……よし、聞けクソども」
「語尾がいきなり暴力的になってる!?」
「もうやるしかねえ。中止?ない。延期?ない。現場爆発?だいたい想定済み。我々が死ぬ前に、客を笑わせろ。全力で。全力の全開で!!」
「うおおおおお!!(咽び泣くスタッフ一同)」
「だが、言っとくぞ!!これが終わったら!!絶対に2か月休む!!あとあの実行委員会のクソ眼鏡、クビにしてから辞める!!」
「わかります主任!!私もあいつの顔面にスケジュール表貼ってやりたいです!!」
「俺なんか実行委員会のせいで3日寝てないんですよ!!」
「寝てないのにそれだけ喋れるのすごくない!?なんで!?魔力で脳回してる!?」
会議は踊る。死のダンスを。
紛糾どころじゃねーぞ、これ。全員、すでに精神的に泡を吹いている。
だが、最大の地雷は――まだ残っていた。
フェイト・T・ハラオウン執務官に、“追加演目”を“直接伝える”という、もはや兵器級のメンタルダメージ確定任務。
ジャンケンで死闘を繰り広げつつも敗北した広報企画部の若手スタッフは、渋々ながらも地獄の門を叩いた。
ドアを開ける。そこに座っていたのは、金の髪に黒の制服、美貌と威圧感の塊――フェイト・T・ハラオウン。
「あの執務官。お忙しいところ申し訳ありません、本日は、ええと、あの……真ソニックフォームでの追加演目について、ご相談を……」
「…………」
……無言。
一切の言葉が返ってこない。
目が合ってる。だがその瞳は何も映していない。
怖い。美人が静かにキレてるときの圧がやばい。
これは「うっかり間違えて踏んだら大爆発する地雷」ではなく、既に点火済みの爆弾の前でタップダンスしてる状態。
スタッフ?瀕死です。
「えーとですね、演出案では、できれば中央塔を爆速で縦断していただきまして、その流れでザンバーをこう……ばさーっと……で、演出班が現在、スケジュールをどうにかするために時空を歪ませている最中でして……」
「…………」
この顔は……知ってる。完全に“ぶっ飛ばす前の確認フェイズ”だ。どこに埋めるかを考えている表情だ。たぶん今、私の生死よりも演目の時間割を気にしてる。
フェイトは書類から視線を上げず、そっとスケジュール表をめくった。そして、静かに、眉間を指で押さえた。
「……誰の案?」
「実行委員会の奴らです!!私たちもまっっったく関与しておらず、今まさにチーム内で葬式を開いております!!むしろ我々が一番の犠牲者で!!」
「ふぅ……」
フェイトが、ひとつ深く息を吐いた。
静寂。
そして――
「わかった。やるよ」
「マジで!?!?」
「で、なのはは?」
「えー、スターライトブレイカーの演目はですね、現在、沖合に作った特設演習場で、なるべく観客が鼓膜を失わない程度を目安に調整中です!!」
「……観客が?」
「はい!死なない程度にギリギリまで寄せます!たぶん、鼓膜ぐらいで済むならお得ではと!」
「それはもう戦争では?」
「えーと、えーと、あとですね、最後に全部撃ち抜いてくださいって要望がありまして」
「……うん。それは、たぶんなのは、喜ぶと思う。いや、全力で」
「やっぱりぃいいい!!ああああああああ!!!!」
若手スタッフ。白目で崩れ落ちる。
その後、彼女が同僚から励ましで言われた言葉メモ:
・「よく生きて帰ってきたな」
・「あの爆風圏に突っ込んで無事とか運命変わった?」
・「あの時点で心停止しなかったお前、もう広報部の柱名乗っていいぞ」
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イベントまで残り一週間を切ったあたり。広報企画部の仮設詰所にて主任が会議テーブルを叩いた。書類がまた雪崩れる。
「実行委員会、本気で頭おかしいぞあいつら……! さっきまた追加注文きたからな!!」
「今度は何ですか!?」
「最終演目は空中で若手魔導師たちの変身バンクを連続演出で、だそうだ!! ワンカットで!とも!!」
「なんでアニメ演出みたいなことを現実に持ち込むんですか!!?」
「しかも天候演出も併用でって、できるかボケぇえ!!誰が太陽と雲の機嫌とるんだよ!!!」
主任の怒声により、ついに書類棚が崩落し、誰かが下敷きになった。
「よし、これは天の警告。中止しよう。今ならまだ軽症だ」
「無理だ、もう高町教導官、もうノリノリでブレイカー調整に入ってる。フェイトさんもフライトテスト始めた」
「マスコットが喜びすぎて、すでに空中で手を振ってる!!帰れない!!あぁ誰も止められない!!」
そして、ついに――夜が明け、ステージに光が灯る。
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照明が魔力を帯び、司会者がマイクを握り、警備隊の通信が全チャンネルで活性化する。
SNSでは「#次元の狂宴」がトレンド入りし、観客たちが続々とゲートを通過していく。
「…………ま、間に合った」
誰かが呟く。
「……終わってから言え。始まっただけだ」
主任が、頭にバンテージを巻いたまま、書類の山を背に立ち上がる。
「夢と魔力と、ちょっとだけの人間味でできたイベント――始まったぞ。地獄の本番だ」
──止まらない。誰にも、止められない。
次元最大の広報作戦が、ついに幕を上げる。
次に見たいもの
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法務部の活躍
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交換部の活躍
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広報企画部の活躍
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新しい部門の話
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各部門の主任は同期なので飲み会とか