時空管理局へようこそ(満面の笑み)   作:紅乃 晴@小説アカ

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管理局 工程整備部の一幕

 

 

工程整備部

 

時空管理局内において、数少ない「エンジニア集団」として知られる異色の部署。

 

それが工程整備部である。

 

正式な業務は、次元航行船の定期メンテナンスおよび修理、施設の保守整備、そして演習場の修繕など多岐にわたる。

 

だがその実態は、一言で言えば“技術の亡者たちが跳梁跋扈するカオスの巣窟”であった。

 

元々は、外注していた船体メンテナンスの内製化を目指し、外部顧問の協力のもとに設立された真面目な部門。

 

技術の蓄積と教育制度を整備し、小型から中型の艦艇を製造するティラー・インダストリー社や、L級次元航行艦を製造しているハイテック・シップヤード社との技術連携までも成功させたその歩みは、至極まっとうなものだった。

 

ある年、部長が「改造も自分たちでできた方がいいよね」と口にするまでは。

 

当時の部長は、柔和な笑みと菓子パンが似合う、温厚なおじさんだった。

 

しかし、はじめて次元航行船の内部構造に触れ、独自改造の味を覚えてからというもの、その目は日に日に光を増し、ついには「既存仕様?ノーマル?そんなものは出発点にすぎない」と公言するようになった。マッドの爆誕である。

 

副部長が「部長、冷却系統の過負荷が危険です」と警告すれば、「限界を知るには、まず限界を超えてみないとね?」と悪びれもせず答えた。副部長曰く、すごく純粋でキラキラした目でそう言っていて、もうダメだと腹を括ったらしい。

 

ブレーキが壊れた部長は、次第に“改造の魔王”として知られるようになり、副部長が唯一のブレーキ装置として、日々ブレーカーを落としたり、部長のPCを物理的に閉じたりするという苦労を強いられる羽目になった。

 

さらに輪をかけたのが、当初管理局の司法取引で雇用された“元犯罪者”のメカニックたちである。

 

違法改造やブラックマーケットで名を馳せていた技術屋たちは、最初こそ反発もあったものの、気づけば工程整備部の雰囲気に溶け込み……いや、元からそこにいたかのように順応していった。

 

「ルール内でやるのも……意外と楽しいな」

「合法な改造、奥が深ぇ……!」

 

などと言いながら、全員が工房の片隅で溶接音と共に日夜「法的ぎりぎり」の試作艦の開発に没頭するようになり、今や彼らの何人かは「次元世界トップクラスの技術者」として名を連ねるまでになっている。

 

時には、技術開発本部が「デバイス改造で負けていられない」と暴走し、合同で行った実験が次元震の一歩手前まで行ったこともある。だが、当の工程整備部は飄々として言うのだ。

 

「ちゃんとログ取ってたからセーフ」

「破損は最小限。次はもっとうまくやる」

 

そしてある日、演習場で破壊された模擬建造物を建設している光景を見た、整備課の課長が呟く。

 

「あれ、ウチでどうにかできないかなぁ……」

 

この一言が、建設管理課の創設を招いた。

 

次元建築にまで手を伸ばした工程整備部は、ついに“何でも屋”としての道を完成させたのだった。

 

今では、部長の「推進器の最大出力をあと30%引き上げようか」「多次元対応素材?実験的なのあるよ!」という一言が日常茶飯事の中、最も被害を受けているのは監査部の面々である。

 

「……本当に、これが“整備”の範疇ですって?」

 

工程整備部の監査を担当する主任は、演習施設の現場資料を読みながら額を押さえた。

 

机に並ぶのは、魔力波形の記録と図面、そして”壊れた後に改良された”経路案。

 

再建前と再建後の演習施設の構造図は、まるで別物だった。

 

魔導師の動線予測に応じて稼働する壁面、対空兵装を搭載したビルの屋上、挙句の果てには魔導トラップを内蔵した床下構造。

 

「これは戦術拠点の設計思想じゃないかしら……」

 

紙をめくるたび、常識から外れた魔改造が飛び出す。しかも、いずれも「教導官の訓練内容に適応するため」という名目のもと、見事なロジックで正当化されている。

 

──この部門は、本気で“教導官と戦える模擬オブジェクト”を作っている。

 

「どうして誰も止めないの……いや、止めた結果がこれか……」

 

思わず天を仰ぐ主任の背後では、改修責任者が誇らしげに言う。

 

「ご安心ください。前回吹き飛んだ壁面、今回は対魔導装甲で三重構造にしてあります!」

 

「あと、屋上兵装は自動迎撃機能付きです!反応速度はエース級です!」

 

「高町教導官があそこまで全力で撃ってくださるなら、こちらも全力で受け止めねば失礼ですから!」

 

……その一言一言が、監査部主任の心を削っていく。

 

「受け止めるのは建設されたオブジェクトです……!」

 

頭を抱える。その肩を、補佐官がぽんと叩いた。

 

「主任、最初は皆そうなります。でも大丈夫です。半年もすれば……慣れます」

 

「慣れたくない!!」

 

そんな彼女の叫びは、マッド共には届かず、彼方に、虚しく吸い込まれていった。

 

 

しかし、皮肉なことに彼らの手がけた艦船や施設は高い評価を受けているのも事実だった。

 

危険と隣り合わせながらも、誰よりも熱意と技術に溢れた者たちであることは間違いない。

 

こうして今日も、工程整備部は規格外の技術愛を燃料に、次元世界の限界を押し広げ続けている。副部長の悲鳴と共に──。

 

 

 

 

「工程整備!……またお前らか!!」

 

怒号が飛ぶのは、演習終了直後の管制室。

 

パイロットからも艦艇整備部からも、ありとあらゆる方面からクレームが殺到していた。

 

「今回のテスト航行、出力を50%にした段階で高機動型の小型艇のトップスピードを優に超えたぞ!?パイロットがビビってそれ以上踏めなかったけど、試算したらログにも航跡が映ってないんだぞ!」

 

「姿勢制御装置にどんな設定を入れた!?足回りは標準品なんだぞ!?おかげで車輪が逆に折れたって整備班が泣いてたよ!」

 

「つーかさあ!あの機体、誰が操縦できんだよ!!」

 

だが、その中心にいる工程整備部のエンジニアたちは、どこ吹く風である。

 

「まだまだ足りんッ!」

 

叫んだのは、改造魔王と化したチーフリーダーだった。

 

白衣を翻し、図面を握る拳を振り上げるその姿は、もはや科学者というより英雄譚の反逆者である。

 

「いいか!かの有名な銀河のスクラップ船は、ケッセル・ランを12パーセクで駆け抜けた!あれは宇宙最速の……伝説だ!我々は、それを越えねばならん──次元最速を名乗るためにはなッ!!」

 

「無茶言うなよ!?」

 

「そもそもあれ、コースの抜け道を通っただけって説も──」

 

「関係ない!重要なのは“ロマン”だッ!」

 

「「「整備のこと考えろォ!!!」」」

 

艦艇を整備する部隊の全員が絶叫する。

 

「なんだこれ!ネジは全部特殊素材で出来ててまっったく緩まないし!走行材がパズルみたいになってるし!全解体しなきゃ点検できないし!なんでエンジンをメンテするのにオーバーホール並みの苦労が掛かる!?」

 

「安心しろ、次の型では整備員が自身の肉体を分解して突入する設計を考えている」

 

「さらっと整備員に「人間やめろ」って言ってんじゃねーぞコルァ?」

 

泣きながら訴える整備隊に、チーフは笑って答えた。

 

「最速とは制御不能と紙一重なのだ。最速のスクラップこそ、我らが目指す究極形だ!」

 

「スクラップはスクラップだって言ってんだろ!!」

 

怒号と悲鳴、丁寧かつ狂った内容が書かれている整備手順書の山、そして燃え盛る情熱と、どんな素材で作られてるかもわからんネジが飛び交うなか──それでも工程整備部のマッドどもは、決して止まらない。

 

見てわかるように工程整備部が手がける艦艇は、もはや「ただの船」とは呼べない。

 

管理局のパイロットはいう。

 

工程整備部が組み上げたエンジンは常軌を逸している。そしてその機体は「自らの意志を持って飛び、まるで狂おしく、身をよじるように飛ぶ」という。

 

彼らが組み上げた改造艦艇──通称「ハイエンドモデル」は、その機動において既存の理論を一切無視することで知られている。

 

常識的な航跡など存在しない。

 

既存機では空中分解待ったなしな機動にと耐えられるボディ、それに追従できるチューンエンジン。パイロットは皆言う。「あれら艦艇の動きではない、あれはもはや生き物だ」と評されるのも無理はない。

 

元違法メカニックの一人はこう豪語する。

 

「物理法則は敵じゃねぇ、交渉相手だ。限界?なら仕様を拡張すりゃいいだけさ」

 

本来、艦体のねじれ、膨大なパワーを受け流すボディ、寿命を削るそれは長期運用する艦艇を目指すならば設計ミスの証。

 

だが彼らはわざとボディを“しならせ”、振動を利用して姿勢制御を補助させるという選択をとった。

 

まさに理解する前に正気が逃げ出すような技術である。乗り込んだテストパイロットは、次のように語る。

 

「スロットルを上げるたびに体が震える。搭乗中に自分の五感が信用できなくなる。上が下で、前が後ろになって、気づいたら目的地に着いてるの。けど、無事かは毎回五分五分」

 

しかし皮肉なことに、その狂気の飛行こそが最大の強みでもある。

 

工程整備部が魔改造した艦艇の受け入れ先は、外縁部調査隊が多い。外縁部調査隊などの過酷な任務では、その“狂気の即応性”が驚異的な成果を出していた。

 

たとえば、大気が固形化している世界では、常識的な艦艇が動けなくなる中、ハイエンドモデルは何事もなく突き進み、「何をしたのかわからないけど突破した」という記録だけを残して帰還する。

 

しかしながら当然、整備性は最悪。

 

工程整備部はきちんとマニュアルを作っているのだが、内容はジグソーパズルのそれであり、ハイエンドモデルの点検が入ると誰がそれをやるか?ではなく、空いてるスタッフ全員が難解なメンテナンスを請け負うことになるのだ。

 

だが、工程整備部のマッドチューナーたちは言う。

 

「なぁに、壊れたらまた造ればいいんだよ。“次”はもっといいものができるさ」

 

彼らの目には、常識の枠で測る“安定”や“安全”は、すでに不要な制限でしかない。

 

そうして今日も、ハイエンドモデルは時空を裂くように飛び、まるで苦悶する怪物のように空を捩る。爆音と歪みを引き連れながら──それでも確かに、目的地へとたどり着く。

 

たとえそれが、設計者たち自身すら「なぜ飛んでるのか説明できない」機体であっても。

 

 

 

 

建設管理課。

 

それは、工程整備部の一部門として誕生しながらも、いまや独立した“次元建築の前線基地”として確固たる地位を築いた技術集団である。

 

当初は演習場や庁舎といった「静的な建造物の維持管理」を主務としていた。だが、彼らはすぐに現実を知ることになる。

 

──施設は、壊れるのだ。

 

教導官による魔導士訓練、とりわけエース・オブ・エース、高町なのはによる指導演習は、その熱意のあまり演習場そのものを度々“全壊”させた。

 

結界ごと吹き飛ぶ壁、地形が変わる床面、耐熱限界を突破する空調ユニット。

修繕した先からまた崩れ、改善した先からまた貫かれるという無限ループ。

 

だが、技術者たちは嘆かなかった。

 

「教導官が全力で教えてくれるからこそ、若い魔導士は本物になる」

 

「現場で生き残るには、演習で限界を超えなきゃいけない」

 

「ならば、その訓練に耐えられる施設を作るのが、俺たちの仕事だろう」

 

これは単なる再建ではない。

 

現場に出る者を守るための防壁を築く行為であり、訓練施設という枠を超えた過酷な現場シミュレーターだった。

 

設計図には、過去の崩壊ログと魔力波形が細密に組み込まれ、使用された結界強度や熱拡散係数まで逐一反映されていく。

 

繰り返される破壊と再設計は、戦う建築の進化の道標となった。

 

スクラップアンドビルドは苦痛ではない。

 

むしろ、それがあったからこそ、建設管理課の技術は異常な速度で洗練されていったのだ。

 

「壊れるたび、より強く、より賢く。次は同じ壊れ方をさせない。その繰り返しが俺たちの誇りです」

 

スタッフたちは、崩れた演習場の残骸を前に誇らしげに笑う。

 

そして、その果てに、彼らの名は次元世界中に刻まれていく。

 

課を引退したスタッフの中には、のちに高耐久マンションや多次元対応型の耐震建築の第一人者として名を馳せる者も少なくない。

 

壊れ続ける施設で鍛えられた彼らの知識と技術は、民間建築においても比類なき価値を発揮した。

 

こうした施設強化の方針を本格化させる中で、建設管理課は各次元世界の建築大学を巡り、才能ある学生を片っ端からヘッドハンティングするようになった。

 

彼らには、最初からこう告げられる。

 

「好きに設計していい、好きに学べ。だが、壊れたら容赦なく次だ」

 

理論は通用する。しかし、それが実践に耐えうるかは別問題。若き建築士たちは、自信に満ちたアイデアをぶつけ、施設の中にその夢を形作る。だが、それらはしばしば教導官の一撃で消し飛び、地形ごと吹き飛ばされるのだった。

 

それでも、彼らは折れなかった。

 

いや、正確には誇りをへし折られながら、より強く、よりタフに成長していった。

 

そうして育てられた若手たちは、やがて施設そのものが自ら壊れることを前提に設計し、スクラップアンドビルドの中に技術と精神の芯を培い、立派なマッドへと純粋培養されていく。

 

彼らは言う。

 

「この破壊は失敗じゃない。データだ。次の設計がほんとうの完成形になる、その過程にすぎない」

 

これは施設の再建ではない。

 

それは未来の魔導士たちを守るための、技術者の魂の訓練でもあるのだ。

 

教導官や訓練生たちの全力、それを受け止める施設、そして現場に出る魔導士たちの未来。

 

そのすべてを繋ぐ、縁の下の狂気と誇りが、今日もまた新たな礎を築いていく。

 

そして、そんなマッドたちが関わる再設計された最新の演習場。

 

その中心には、建設管理課の新たな成果……ビル屋上に配された対空兵装ユニット、そして建物の側面にまで埋め込まれた魔力反応センサー付き迎撃装置が、まるで誇らしげに鎮座していた。

 

施設のチェックに訪れた教導官である高町なのはは、案内するスタッフの説明を聞きながら、曖昧な笑顔を浮かべる。

 

「えーっと……これは、対空兵装……?」

 

「はいっ!教導官の訓練は空中戦が多いので、迎撃シミュレーション用に最新式の多段階対応兵装を配置しました!反応速度0.02秒、対魔導ビーム偏向機能付きで、相手が複数でも自動追尾可能です!」

 

「……ほんとにこれ……訓練用、なんですよね?」

 

「もちろんですとも!本物の弾頭は一切積んでませんから安心です!ただし実験中は一度、相手の結界を貫通しちゃいまして……ふふ、装甲材質を変えたら何とかなりました!」

 

言葉に詰まりつつ、なのはは周囲を見渡した。

 

演習場と呼ぶにはあまりに武装が充実しすぎている。

 

屋上に砲台、建物の隙間からは発射ギミック付きのバインドトラップらしきものまで覗いていた。

 

「……これ、本当に訓練用なのかな……?」

 

なのはが困惑していると、遅れて到着した鉄槌の騎士ヴィータがタイミングよく登場する。

 

「おいお前ら、また余計なモンつけやがったなッッ!!」

 

鋼の怒声と共に、グラーフアイゼンを掲げながら施設に突撃。慌てて駆け寄る建設スタッフたちは涙目になりながら叫んだ。

 

「ま、待ってくださいヴィータ教導官!今回はちゃんと実験しました!自動起動制御もつけましたし、前回みたいに全砲門が味方を誤射するようなことは……ッ!」

 

「いいから外せぇ!!魔導士の訓練場に、なんで本物の迎撃陣地がいるんだよッ!!」

 

かくして、スタッフたちは泣きながら砲塔の撤去に取りかかる。

 

だが、どこか満足そうな顔も見えた。

 

撤去された機構はまた新しい部品となり、次の演習施設に姿を変えるのだ。

 

スクラップアンドビルド。

 

そのサイクルが、建設管理課の技術成長にさらに拍車をかけていく。

 

「でも……次は、もっとこう、ステルス機能とか入れてみたいんですよねぇ……」

 

撤去作業の合間にスタッフがつぶやいたその声に、なのはとヴィータは静かに、そして本気で頭を抱えるのだった。

 

 

 

次に見たいもの

  • 法務部の活躍
  • 交換部の活躍
  • 広報企画部の活躍
  • 新しい部門の話
  • 各部門の主任は同期なので飲み会とか
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