魔王城ダンジョン部エロトラップダンジョン課   作:カヲリユーキ

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本編です。といっても登場人物の顔合わせだけですが。
長く書くのが如何せん苦手なものでして……こうしてちまちま進めていけたらいいなとは思ってます。

スペルに既視感あるとか思っても言わないでください。
これ書いてる時に友人が画面共有でf○te/SNやり始めたんで少し引っ張られたかもしれません。


履歴書には書きづらい職場

 この世界には『ダンジョン』が点在している。

その殆どは膨大な量のマナが集中した土地の事を呼び、かつては戦争の際に塹壕や前線基地として使用されることもあった。

ダンジョンは主に洞窟や廃城など、閉鎖的で長い年月の経った場所が多く、マナより産まれる魔獣たちの住み家ともなるため忌避されていた時期もあった。

しかしその中には高純度なマナの結晶が形成されていることが多く、結晶を持ち帰るべくダンジョンに歩みを進める人々が現れた。彼らはいつしか『冒険者』と呼ばれるようになったが……その辺りについては割愛する。

 

「本当に何なんですかこんなバカバカしい名前……もう少し胸を張って言えるような部署に就きたかった……」

 

かつていたという『始まりの人』の住処、それを魔人戦争の間に改築し、城として生まれ変わらせた場所は魔王城と呼ばれている。魔王城は一際大きなダンジョンであり、魔族の団結の象徴として、誇りとして魔人戦争における魔族側の本拠地とされていたとか。

今はしっかり整備が進み、写真で見るような薄暗くおどろおどろしい姿から立派な建物にリフォームされている。

 

「と言っても、他の何処でもないここにスカウトされたのはキミじゃないか。しかもあの魔王サマから直々に」

 

魔人戦争の終戦の果てに平和は訪れた。

......訪れた結果、色々なものが変わった。

ダンジョンはすっかり整備され、今はただのアミューズメント施設になった。

冒険者たちは変貌したダンジョンに呼応するように形を変え、各々新たな道を見つけていった。

そして魔王城は……公務員がやたらと広い敷地を駆け巡る役所となっていた。

 

「魔王って、もう肩書だけのただの偉い人じゃないですか......」

 

「肩書だけでも偉い人には変わらないだろ?ほら、君のデスクはあっち」

 

そう言われて指差されたデスクの上にはネームプレートといくつかのファイル。あと『スカウト受けてくれてありがとう! by魔王』というメッセージカードが添えられた袋が置いてある。もう逃げられないことを覚り、私は大人しく席についた。

 魔王城では珍しいらしいヒト族。子供に見えると言われることが多いがちゃんと成人はしている。尤も、背丈は12歳の頃から変わってないが。

名前はクム。『魔王城ダンジョン部エロトラップダンジョン課』とかいう、この世の終わりのような名前のもとで働く事となった、1人の人間である。

 

 

 

 

「さて、改めて自己紹介でもしようか。私はコーク、響蝙蝠(エコーバット)の魔族。ここで働いて四年目くらいの若手だけど、仕事は出来るほうだから安心して」

 

「えっと、クムって言います。ヒト族でハウロシア国立魔法学校の卒業生です。先月卒業式の試演終わりにスカウトされました。スカウトから二か月ぐらい経ちますが正直まだ夢なんじゃないかって混乱してます」

 

 私とコーク先輩は向かい合い、改めてお互いのことを話す。

コーク先輩は膝丈まで伸びた赤茶色の髪をゆらりとなびかせ、私をじっと見つめてきた。所謂王子様系な、カワイイよりカッコいいの似合う美人。そんな人が切れ長で琥珀色の目を見開き、瞳にうっすらと私が映るほどに近づいてきたものだから、流石に後退りしてしまう。

 

「……」

 

「……あのー、私何かしました? 流石に無言で見られると少し怖いというか……」

 

「いや? いい目をしてるなーって思って。ここに来る人って大体が最初から目が死んでたり濁ってたりするから」

 

「……ここ本当に安全な所ですか?」

 

「はっはっは。余計なことしなければ安全だよ」

 

 無意識に怪訝そうな顔にでもなっいていたのだろうか、問いかけた私のことをコーク先輩は一笑し、話を続けた。

 

「さて、一日目だから仕事してもらうとかは無しとして……魔王城に何があるとかは知ってる? てかそもそもウチが何するか分かる?」

 

「城の設備は分かりませんが仕事内容なら少しだけ。といってもスカウトの時に貰った案内パンフレットみたいなの読んだ程度だから詳しいことはあんまりって感じです……そもそも城の受付で出待ちしてここまで拉致したのは先輩でしょう」

 

「それについてはごめん。しかし……うん、パンフレットだけじゃ詳しいこと分からないだろうし一旦魔王城の中でも回ろうか。その間に業務について話すとするよ」

 

 そう言ってコーク先輩は指で魔法陣を描き、拡大して地面に設置した。

これは……口ぶりからして《フロアジャンプ》の陣だろうか。魔王城内部の移動とは言え、一瞬で用意できるとは驚いた。しかも杖無し。魔王城勤務は伊達じゃないということか。

 

「あ、でも仕事の話は現場見て覚えても良いかも……外にしとくか。王都あたりのならこの時間空いてるだろうし」

 

「へ?」

 

「確かここいじって……準備できた。ついてきて」

 

「……うっそでしょあんた……」

 

「……キミ、素は結構口悪いね?」

 

 スカウトやら引っ越しやらいろいろあったが、ここ最近で一番驚いたのは今に違いない。

 そもそも普通、魔法は魔法陣にマナを流すことで発動する。そして肝心の魔法陣は杖などの媒介を用いて描くか、先に用意したものを使うかだ。それも、ただ描くのではなく体に流れる生体マナを使うか、マナを帯びた物質で描くか……なんにせよマナがスムーズに流れるよう工夫する必要がある。魔法を学ぶとなれば学校にせよ私塾にせよ、マナというインクを杖などのペンに流して描くイメージと教えられるのはよくある話だ。

 基本的にマナは体に毒である。純粋なマナは勿論、微弱な生体マナでもそれは変わらない。だから直接体外に流しだすリスクを抑えるため杖などの媒介を用いて描くのだが……今、コーク先輩は目の前で何気なく指で魔法陣を描いた。しかも完成した後に陣を弄るオマケまでつけて。

 「空間と空間を繋げる」タイプ。大体は〈転移系〉と呼称されるものだが、その転移系魔法は総じて難易度が高い。場所と場所をリアルタイムで繋げる時点で相当の難易度になるし、一から描くとなると消費マナも馬鹿にならない。ましてや完成後に繋げる場所を変えるとなると描き直すこととなる。描き直しは描く魔法陣に必要なマナの倍近くのマナを使う必要がある。転移系ともなれば……あまり想像したくないことになる。

 

「先輩、突然で申し訳ないのですが自信を喪失したので退職してもよろしいでしょうか?」

 

「会って数十分の相手にそんなこと言える度胸があるなら十二分にやっていけるさ。あと……酷な事言うけど、ここ慢性的な人員不足だから。諦めて受け入れるのをおすすめするよ」

 

「うへぇ……」

 

 いくら魔族という種がマナの毒素に耐性があるとはいえ、コーク先輩は常人なら自殺に等しいことをさも当然のようにしていた。魔法使いとしてのコーク先輩がどれほど高い位置に座しているのか……考えるだけで眩暈がしそうになっている。少なくとも、私が在籍していた時期の学校で同じ芸当が出来るのは教師陣だけ。それもほんの一握りのトップ層しかできないだろう。先輩は勤続四年目とか言っていた。そんなレベルの人があとどれほどいるのだろうか……勤務一日目、さっそく辞めたくなってきた。その願いさえ片手間に潰されたのだからどうしようもない。

 

「準備できた? そろそろ飛ぶから掴まって欲しいけど」

 

「ア、ハイ。ダイジョウブデス。ヨロシクオネガイシマス」

 

「……まあ、その、出来るだけは色々フォローするから」

 

 よっぽど憐れに見えたのか。慰めのような言葉を貰ってから先輩の手を握った。

すらりとした指にスベスベした肌。握っているこちらが緊張してくるような美しい手。天は二物を与えずなんて言葉を何処かで聞いた覚えがあるが、この人は天からどれだけ贈り物をされているのだろうか。今のところ誉め言葉しか出てこないイケメンレディー……いや、流石に初手拉致はアウトか。

 

「じゃあ飛ぶけど……折角だし見栄え良く行こう」

 

 声高に言う先輩の横顔は面白い悪戯を思いついた子供のようだった。全く、何をしても絵になるものだ。これだから美人は……なんて言葉が頭をよぎる。

 

「【set】」

 

マナで刻まれた魔法陣の中央に赤い光が奔る。マナが陣に流れ始めた証、これが無くては魔法陣は動かない。

 

「【teleport】」

 

封を切ったように光が広がり、満ちる。

陣を描くだけではない。言葉……スペルを詠むことまで含めて初めて、陣が陣として意味を持つ。

 

「【connect to 『Haurosia』】」

 

……まあ、実際のところは理解とイメージが出来ていればスペルを紡ぐ必要はない。スペルは魔法陣の起動を補助する役割であり、イメージが出来ているなら無言でも魔法は使える。なんなら別に魔法陣が無くとも魔法は使える。今でも上位陣の魔法使いは予備動作なしに魔法を使うし、そもそもマダム・マナ達が作り出すまでは魔法陣もスペルも無かったらしい。

それでも使う理由がある。

出力が安定するし、最大効率で魔法が使える。そして何より……完璧な魔法陣に光が流れ、全身に熱が迸り、最大限性能が引き出された奇跡を自らの手で起こす。これが綺麗に決まった時が、気持ちいい。それが理由で長々とした詠唱を省略しない魔法使いがいるほどである。

尤も、私もその口だ。

 

「……【jump】!!」

 

赤い光が輝きを増し、私たちを包み込む。ふわりと持ち上げられるような独特の感覚を感じ始めたら転移開始のサイン。

初日からとんでもないものを目にしたものだ。一日目でこれなら……一か月もすればこれまでの常識とか粉々になっているだろうだなんて暢気なことを頭にしながら、私は浮遊感に体を預けた。

 

 

 

 

 

 

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