魔王城ダンジョン部エロトラップダンジョン課   作:カヲリユーキ

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二話目です。
牛歩な投稿スパンなのは気にしない気にしない。

当たり前のように使ってる作品内用語ありますけど用語集とか別個で置いといたほうがいいんですかね?教えてエロい人


名前だけは知ってた場所

浮遊感が収まり、目を開く。

辺りは豊かな緑色が広がり、少し冷たい風が吹いている。うっすらと見える見張り塔でここがどこかを理解した。ここはハウロシア王国のはずれ、ミスト平原の南辺り。学校にいた頃はここに来て散々魔法の実習をしていたからよく覚えている。

たしか実践魔術基礎だっただろうか。教師がこの付近にダンジョンがあると言っていたことを覚えているから、多分そこに行くんだろう。

正直、今はそれどころじゃないのだが。

 

「クムちゃん? クームーちゃーん! 意識あるー?」

 

「んぅ……すみません、少し待って貰えますか……」

 

「ああ良かった、意識はあるね。まー……転移酔いは仕方ないよ」

 

はいこれ、と渡された水で、これまた渡された酔い止めと思わしきカプセルを飲み込んだ。

 転移系の難点として「転移酔い」が起きることが良く上げられる。これは転移系の特性である「物質をマナにして100%変化なく質量を移動させる」ことが影響しており、一度人体を分解して再構成する関係上、滅茶苦茶な感覚に襲われる。言うなれば体を容器に閉じ込められて、その容器ごと渦潮の中に投げ込まれる……とでもいえば良いだろうか。兎に角、全方位にぐわんぐわんと揺らされるわけだからとても酔うのだ。

これは出入口の距離が離れれば離れるほど強く感じるようになる。魔王城からハウロシアまでは広大なイズマの森を横断する必要があるため、負荷も相当なものなのだ。

 

「先輩……よくそんなピンピンしてますね……」

 

「そりゃあ響蝙蝠(エコーバット)の魔族だからね。きりもみ回転しながら空を飛んだ直後に大盛りステーキ食べれる程度には酔いには強いよ」

 

「へー……やったんですね。きりもみ回転からの大盛りステーキ」

 

「あの頃はやんちゃしてたから……あと何回もやってるから慣れたのもある。キミも回数重ねたら結構改善されるかもよ?」

 

「……」

 

まず常人はそうポンポンと自主的に転移系使わないんですよ……と口にする気力すら、今の私には残ってなかった。

 

 

 

 

 

 

「……よし、回復しました。いつでもいけます」

 

「うん、じゃあ行こうか。といっても見学しながら説明するくらいだし、肩肘張らず気楽にね」

 

 けらけらと笑うコーク先輩の後ろにつき、ダンジョンの入り口に向かう。

 

「この辺は学生が魔法の実践でよく使うらしいから見慣れた場所なんじゃない?」

 

「そうですね。在籍中はしょっちゅうここに来て魔法陣描いて……数か月前だけど懐かしく思います」

 

……毎日のように見ていた場所でも、一度離れて戻ってくると新鮮に感じてなんとなく居心地が悪く感じる。なんとなく異物感というか、もう居場所はないと暗に言われているような感じがしてしまうから。環境の変化にナイーブになっているだけかもしれないが、さっさとここを抜けてしまいたい。

 

「……早くいきましょう、先輩」

 

「いいよ。じゃあ、ちょっと駆け足でいこうか」

 

どうにも歪に感じる雰囲気から抜け出したくて、足早にダンジョンへ向かった。

 

 

 

 

「あ、伝え忘れてたんだけどさ」

 

気の抜けた声でコーク先輩が呟いた。

 

「さっきの転移陣の出口、ダンジョンに行く人にむけて設置した固定のやつ使ったんだよね」

 

「……ああ。道理で描き替えが出来たんですね。てっきり使い魔で出口設置したとかあちこちに陣描いてるとか思ってましたよ」

 

「はっはっは、いくら私でもそんな無計画にホイホイ設置しないよ」

 

 そういうことなら途中で描き替えられたことに納得がいく。転移系はその難易度の高さもさながら、予め出口を設定しておかないといけないのも難点だったりする。

私が驚いたのはあっという間に出口を描き替えたことも含んでいる。先輩固有の芸当かと思ったが、ネタが分かれば誰でも再現できるタイプの方法だったようだ……難易度は据え置きだし、固定とはいえ魔法陣の出口を覚えているかつ咄嗟に描き替えた先輩のヤバさは依然として変わらないが。

 

「それは置いといて……あの陣、通った時にさっさとダンジョンに行くようほんのり思考誘導される仕組みになっててさ。分からないよう細工してるから多分影響受けてるだろうなって思って」

 

「私のノスタルジーを返せ……っ!」

 

 哀愁の思いは悲しくなるほどあっさりと消えていった。

 

 

 

 

「はい到着。ここがこの辺で一番大きなダンジョンこと『イド』だよ」

 

「おー……思ったよりこじんまりとしてるんですね」

 

 歩くこと数十分ほどだろうか。ついたダンジョンは洞穴の入り口のような場所だった。

入り口は苔むしていて、辺りの植物と一体化している。入口自体は人二人が並んで通れるほどでそれなりの大きさだが、どうにも奥行きが掴めない。ひっそりと中を照らすランタンがなければ小さな穴と見間違えてしまいそうだ。

 

「あれ、初めて見る? ハウロシア学院なら初等部の校外学習で来るもんだと思ってた。定番だし」

 

「ああ、実は学院には高等部から入ったんですよ。それまでは街にあった薬屋さんで手伝いしながら基礎を教えてもらってました……薬屋さんの先生、基礎と言いながら高等部でやる内容教えてたので高等部の間は居眠りしてばっかりでしたけど」

 

「……なるほど、道理でらしくない(・・・・・)わけだ」

 

「……え、何がです?」

 

「何でもないよ。さ、そんなことは置いといて中に入ろう。」

 

 コーク先輩はそう言ってそそくさと中に入っていった。

……らしくないとは一体何なんだろうか。確かに初等部からハウロシアにいた友人はなんかこう……キラキラというか高貴さがあったから分からなくもないが。

そもそもハウロシア国立魔法学院は初等部から高等部までを含めると2000名を超える在籍者を誇る巨大学校のくせに、内訳の8割が貴族などの上流階級という金持ち相手を主にしている面が強い学校だったりする。魔法を学びに言ったのに帝王学の教科書を手渡された時は来る場所を間違えたと本気で思った。そういう学校のため私のような一般の出からは高い基準を越えて学費免除・減免のある特待生として入るのがベターである。

……悲しいかな、考えれば考えるほどコーク先輩の「らしくない」発言にぐうの音も出せなくなる。まあ、一般家庭出身なのに貴族っぽいとか言われてもそれはそれでどうかとは思うが。

 

 

 初めてダンジョンに入った感想は暗いけど思ったよりは明るいというものだった。壁や天井はいかにも自然をくり抜いたといった感じの岩肌だけど、道はある程度舗装されている。所々にランタンが下げられていて薄暗く、かといって全く見えないとまではいかない明るさを保っている。雰囲気としては間違いなく満点だろう。

 

「あ、ランタンの燃料切れかかってる。代えの屑石*1持ってきておいて正解だった」

 

「屑石……ああ、魔道具だったんですね。てっきり1から火を起こして使ってるものかと思ってました」

 

「戦時中はそうだったみたいだけど今は専ら魔道具だよ。便利なのもあるけど、洞窟で現物の火はー……ちょっと、ね?」

 

「ああ……」

 

 確かに閉鎖空間で火を扱うのは危険なことだ。細やかな配慮というやつだろうか。

確か……魔道具は「誰でも負荷無しに魔法使えると便利だと思う」と勇者が設計し『原初の魔族』の人々と開発したのが始まりらしい。今では目の前のランタンや冷蔵庫に調理台、通信板*2など多岐に渡って魔道具は使われている。最早生活において切っても切れないものとなっている。その他にも勇者は異世界出身とかなんとからしく、異世界の技術や慣習を再現するために色々頑張ったらしい。正直なところ異世界云々の話は歴史に尾ひれがついた眉唾物とか当時の狂言が正史なったとか、そういうものだと思っている。なんにせよ生活が格段に良くなる技術を複数産んでくれたのだから感謝しかない。どれもこれも存在しない生活が考えられない代物ばかりだ。

 

「……キミ、結構ぼーっとすること多いね」

 

「っ! すみません」

 

「あ、気にしないでいいよ。待たせたのは私だから」

 

 そう言われても、気にすることは気にする。時間が空いた時に余計なことを考えてぼーっとするのは私の悪い癖だ。近いうちに直しておかないと、学生時代はともかく今私がいるのは仕事場なのだ。唐突に意識を明後日に投げてしまっては不味いことにしかならないだろう。

 

「というか、いつになったら業務の説明するんですか?」

 

「まあまあそう焦らないで。そろそろつくから」

 

 どこにだろうと思いながら後をつけると大きな鉄の扉の前に来た。

さっきまで岩肌むき出しな所しか見ていないから、どこからどう見ても人工物なこの扉の異質感が際立つ。よく見ると扉の表面には幾重にも防護魔法がかけられていて、絶対に破損させないという意思を感じる。その昔、なんとなく聞いた言葉を思い出した。

「ダンジョンには彼方(あちら)側と此方(こちら)側を隔てる扉がある。その先に行けば、最奥まで行くか死ぬ以外では帰ることができない」

きっと、いや間違いなく、これがそうなんだろう。寧ろそうとしか考えられない。

 

「これがダンジョンの真の入り口、通称『気分屋扉』。ここで一旦ストップかな」

 

「真の……ということは、私たちまだダンジョンに入ってなかったんですか?」

 

「正確には、だね。この先に入って初めて攻略が始まる。諸々の説明は入ってからの方が良いと思ってさ」

 

 正直面倒ではぐらかしてるのかと思っていた。先輩ら先輩なりにちゃんと考えて動いているらしい……端から見れば飄々としてるからそう思うのも仕方ないのだろうか? 何にせよ少し申し訳ない。

 

「ここで合言葉を唱えたら入れるんだよ。唱えた者に応じた階層……『フロア』に移動する。戦うタイプのダンジョンは浅い階層から順に入れるけどウチの管轄は大体ランダムになってるね。『気分屋扉』って言われてるのもそのせい」

 

「……それ、割と欠陥では? レベルに似合わないフロアに繋がったら危ないような……」

 

「そうだね」

 

「いやそうだねって……」

 

 コーク先輩は返事もそこそこにペタペタと扉を触り、コンコンコンと3回ノックした。

 

「だってウチ、エロトラップダンジョンだし……戦闘力要らないと言うか攻略はスキルの活用力とか対応力とかでどうにかなるというか……昔は扉すら無かったらしいし改善はしてるんだよ?」

 

 扉に赤い光が走り、魔法陣が浮かぶ。

どうやらコーク先輩は会話しながらダンジョンの扉を開こうとしていたらしい。いきなり何をと思ったがアレが開ける手順というなら納得いく。

 

「さてと……『冒険を始めよう』」

 

 扉に手を添え、なにやら恰好つけた言葉を唱えるとゴゴゴゴゴと地面を引き摺って扉が開く。中の様子を一目見ようと扉の先に目をやるとぐにゃりと陽炎が立っているような、空間そのものが歪んでいるような感覚を覚える。見ているだけで直接揺らされてるような気分に陥り、先の転移酔いも相まって余計に気持ち悪く感じた。

 

「開いたか。入るけどいいよね?」

 

「それはいいんですけど、何ですか? さっきの言葉。この扉、見た感じだとマナ回すだけで開きそうですけど」

 

「最終確認……かな。マナだけでも扉は開くけど言葉も含めて開くことでダンジョンに繋がるようになるんだよ」

 

「なるほど……なんであんな芝居がかった言葉なんです?」

 

「……これ設定した魔王様の趣味としか言いようがない」

 

「……そうですか」

 

 どうも遠い目をしていたからこれ以上言及できなかった。

 

 

 

 先輩がぐにゃりと歪んだ空間の前に立つ。一つ深呼吸を行い、右手を調子を確かめるようににぎにぎ動かしていた。

 

「ここに入る時は……よい……しょっと!」

 

大きく振りかぶり、思い切りよく空間に手を突っ込んだ。無色透明だった歪んだ空間に波紋が浮かび、一滴墨を垂らしたようにほんのりと黒ずんだ。

先が全く見えないそれは空間というより、山の溜め池や河川の水といった濁りのある水面を想起させる。

 

「こんな感じでグっと力込めて突っ込むといいよ。普通に入るとなんかまとわりつくから」

 

「まとわり……?」

 

「まあ体験してみて。先行ってるから!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 静止の願いは叶わず、先輩はいってしまった。多分ついてきてくれると信頼してのことだろうけど正直行きたくない。先輩の頭には私がここで逃走するとかいう考えはなかったのだろうか?

……でも、まあ、うん。私はここでその信頼を無下にするほど腐った人間ではないので。

 

「行くしかないよなぁ……うっわまとわりつく」

 

 仕方ないと腹をくくって、右腕を空間の中に突っ込んだ。

先輩の「なんかまとわりつく」発言の意味が嫌というほど分かった。見た目通り水に近い感触、どうにも抵抗を感じるがハチミツのようにベタベタしているわけではない。しいて言うならサウナの後の水風呂で感じる膜を張ったようなアレが常にあるといったところか。ともかく、なんかまとわりつくが一番的を得ている表現だった。

 

「入るしかないよなぁ……っと!」

 

 再度力を込めて、今度は頭まで入るような勢いで突っ込んだ。

水の中みたいなのに全く濡れた感覚がしないのが不思議でたまらなかった。

 

「……」

 

 頭まで入れた後、なんとなく息を止める。

水じゃないんだから呼吸できるだろうにとは思うけど、どうも未知の空間への恐怖のほうが勝ってしまっている。仕方がないだろう、初めてなんだから。

せめてこの何とも言えない感覚を感じなくなるまでは止めておこう……そう思った矢先、唐突に抵抗がなくなった。

 

「うおっ! ……いってててて……」

 

 ずっと力を入れて前に進んでいたものだから思わず転んでしまった。

顔面から倒れそうになったが何とか右手で受け身をとり、体勢を整える。何やら植物の上に手をついたらしく地面の硬い感触は無かった。転んだのは恥ずかしいが手を怪我しなかっただけマシだろう。

 

「ここが……」

 

 辺りを見回すと先ほどよりも明るい岩肌が目に入る。光源らしい光源が無さそうなのに明るいのがどこか不気味で、神秘的に感じる。とうとうダンジョンに入ったのだと実感させるには十分だった。

 

「というか先輩は……?」

 

 先に行ってからそんなに時間は経っていないはずだ。だというのに行方が分からないのが不思議でならない。横穴などがあれば別だが生憎そういうものも見当たらない。管理者側しか分からない抜け道でも使ったのだろうか?

 

 

「お、やっと来た」

 

 

「え? 先輩何処にいるんでぇっ!?」

 

 何処からか聞こえてきた先輩の声に戸惑っていると地面がとんでもない速さで隆起した。巻き上がった砂埃で視界が遮られ、何か細いものが全身をなぞるように駆け巡る。

周囲の状況が分かるようになる頃には体を蔦で縛られていた。着地地点のアレが急成長したとしか考えられない。

 

「いっ、いきなりなんぅ!? んー! んぅーっ!!」

 

開いた口を猿轡で塞ぐように蔦が滑り込む。音に反応したというより声を出したことに反応したような動きだ。もしかして……意志を持っているのだろうか?

 

「改めて、エロトラップダンジョンへようこそ」

 

コツ、コツ、と前方から先輩が歩いてくる。

謎の逆光で表情こそ見えないが、よっぽど抑えられないのか声に愉しさが滲んでいる。

 

「口頭で説明しても良いけど……初めてならインパクトのあるほうがいいと思ってね」

 

直立二足の立ち姿は変わらない。だがしかし、先ほどまでと明確に違う点が出来ている。

翼だ。腰のあたりから響蝙蝠(エコーバット)の翼が生えている。折りたたんでいてはっきりとは分からないけどかなり大きい翼だ。多分広げたら一人二人はすっぽりと包めてしまいそうなぐらいはある。

 

「まあ、うん。命は取らないから。挑戦者側の体験、存分に楽しんでね!」

 

やっぱ入り口でバックれればよかった。

*1
小さなマナ結晶やマナ結晶の破片のこと。電池

*2
スマホのこと。技術の都合上、電話機能、メール、連絡先の記録しか再現できなかったらしい

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