魔王城ダンジョン部エロトラップダンジョン課   作:カヲリユーキ

4 / 4
……え?前回の更新から一月以上経ってる……?
嘘だ……僕を騙そうとしてる……

おっそい更新で申し訳ないとは思ってます。その分出来る限り濃いめで作ってるので何卒……
世界観を深めていく毎に固有名詞がいっぱい出てきます。その分注釈入れるのが大変です
でも楽しい。あと書いてるうちに当初のキャラ設定からどんどん変化していくの何なんですかね?キャラがイキイキしてるのは嬉しいんですけど


初体験と真面目な説明

やってくれたなと思ったのが一つ目に、何するんだろうと感じたのが二つ目に。三つ目に嵌められたと思って、そこで漸くどう打開しようかと考えられるようになった。

もっとも、ハメられるのは今からかもしれないけれど。

 

「……」

 

「まあまあ落ち着いて。痛いことはしないから」

 

目の前で飄々としているコーク先輩をギッと睨む。ニマニマと楽しそうにしているのがどうにも気に食わない。というか半ば私のことを騙したようなものだろう、詫び寄越せ詫び。

 

「んー……やっぱ実践で使うには成長が不十分なんだよなぁ……外的要因でもう少し初期の成長が出来そうだけど基本ソロが前提のここでパーティ向けのギミック仕込むのはどうも上手く動いてくれそうにないんだよねぇ……天秤の時とかそうだったし。かといって今から品種改良するには時間無いのが問題なんだよなぁ。別のトラップと組み合わせて……媚毒が動いてなさそうだからガスと刺激要因の触手とが無難かな? でもガスと蔦ならともかく触手も置くのはちょっとコストがなぁ……」

 

なにやら確かめるようにメモに書き留めている。

……これ、ここ(エロトラップダンジョン)で使う試験品だったりするのだろうか? テストで私の体を使われてるのだとすれば少々不服に思う。少なくとも今じゃないだろう。

 

「む”ーっ! ぅう”ー!」

 

「ん、ああ。ごめんごめん……これまだ実用段階に至ってないから逐一動作のチェックしないといけなくてさ。そう怒らないでよ」

 

抗議の意味を込めた唸りが届いたらしく、コーク先輩は私を見て謝罪した。まだへらへらとはしているが、謝ってくれたのは確か。少し溜飲が下がった。

改めて自分の状態を確かめた。蔦で縛られているもののヒリヒリと痛む箇所は感じない。どうやら外傷は無いようだが……確か亀甲縛り、とかいうやつだっただろうか。特殊な縛られ方をしていて妙な圧迫感がある。蔦には何やらその辺の植物よりも濃いマナが流れているようで生きているようにじわじわとエネルギーを発している。それに密着しているため生暖かな熱を全身に感じるのが不思議な感覚だ。決して気持ち悪くは無いのだが……その、どうも落ち着かない。

 

「気分はどう? 試作品と言ってもダンジョンのギミックの一つだから痛みとかは感じないでしょ」

 

「……」

 

「まあまあそんなに睨まないでよ、絶対に外傷はつけないから。だってここに来るのは殆どが女性だよ? 向こうはダンジョンに来るってことで覚悟してるかもしれないけど、こっちとしては綺麗な顔を傷付けるなんて目覚めの悪いことしたくない」

 

……そういうことを言いたいわけじゃないのだが。

先輩は気づいていないかもしれないけど、この蔦、素肌に触れている部分に先端を伸ばして私のマナを吸っている。養分の補給というより捕らえた獲物を分析しているみたいな吸い方、まるで蔦が意識を持っているみたいだ。

ダンジョンのトラップというものはダンジョン外にあるようなものとは一味も二味も違うとよく話に聞くものだけれど、まさか植物が意思をもって絡みついてくるとは思わなかった。

 

「これはオオクチビラキ*1とかルツボグサ*2の食虫植物、あと寄生甲虫(パラサイトビートル)とかの他生物を母体にして繁殖する生物に発想を受けたトラップでね。食虫植物は獲物を溶かして養分にするんだけどこれは捕まえた対象の生体マナを読み取って自身の生体マナを獲物のものに近づけるんだよ。それだけだとなんのメリットも無いように感じるけどマナを近づけることでトラップ本体の生殖本能を獲物と同期させて……っと。これ以上のネタバレはつまらないか。こういうのは体験してこそだもんね」

 

聞いてもいないことをスラスラと語っていた口がピタリと止まった。

軽薄な雰囲気は未だ漂わせたまま、それでいて言葉にできない力が重く圧しかかる。同時に先輩の足元からじわりじわりとくすんだような赤色が広がり、辺りを塗りつぶす。

 

「普段はやらないけど今回は特別。私が一番、それの真骨頂を見てみたい」

 

《マナフィールド》。自らのマナを周囲に放出し、自身に有利な陣地を作る〈結界系〉の初歩的な魔法。最も簡単に習得でき、自身の使う魔法の効力や燃費を上げるというシンプルで使いやすい効果から雑に使っても一定の効果が見込める一方、この魔法自体の燃費がイマイチかつ基本的な効果範囲が狭いという欠点が目立つ魔法でもある。咄嗟に使うならともかく腰を据えて使う場合、大体は似た効果かつ燃費の良い《ブーストステージ》が使うため〈結界系〉を修練すればするほど自分で使わなくなるという良くも悪くも初心者向きらしさのある魔法だ。

こう言ってしまってしまうのは少々好ましくないが、他に選択肢があるのにわざわざ《マナフィールド》を使っている辺り、先輩は随分と演出家気質らしい。

 

「長くても5分程度だから対抗せずに我慢しててね? ──【injection】」

 

スペルを唱えて指を一振り。

空間を支配していた赤色のマナが蔦に入り込む。スペルのみだから具体的な種類は分からないけれど……おそらく単純な成長や強化の部類。となると〈増幅系〉の一つだろうか。

真偽は分からないが魔法をかけられた蔦は一瞬ピクリと動き、そのままフルフル震えだす。少し経つと今度はピタッと止まり動かなくなった。

あまりの挙動不審さに気味が悪くなり、さっさと抜け出そうともぞもぞ体を動かす。

それが一番の悪手だった。

 

「む……んんぅ!?」

 

「あ……やり過ぎた」

 

「んぅっ、~~っ!」

 

せき止めていた水がワッと溢れて流れ出るように、蔦が全身を覆いつくす。亀甲縛りされている箇所はそのままにグルグルと包帯で巻かれたような状態になっているから先ほどよりも縛られている感覚が際立ってなんともむず痒い。視覚も聴覚も塞がれてしまった。呼吸もやりづらいから、多分顔全体が覆い隠されている。とうとう呻き声すら出させてくれなくなったようだ。

最後に聞こえたのはいかにも想定外ですと言いたげな先輩の声。今すぐにでもふざけるなと言いたい。この状態を5分もとか正気じゃいられないだろう。

 

「っ! ……~っ!」

 

精一杯体を動かしても精々身をよじることが出来るくらい。しかもよじるたびに蔦が食い込むから余計に締め付けられるから下手に動きずらい。だんだんと蔦の拘束自体が硬くなってるようで、逃れようとあがくにもかなりの力が必要になってくる。これじゃ体力が消耗していくだけだ。声を出してもどうせここにいるのは先輩と私だけ。これは動かずに大人しく、体力を温存して制限時間の五分間を待っているほうが得策だろう。不本意だが、耐久勝負といくしかない。

 

 

 

 

そもそも先輩も先輩だ。ホイホイと連れられてここまで来てしまったけど、これでも一応は新入社員だ。なんなら今日が初出社のド素人の新人だ。

そんな右も左もさっぱりな人を罠にはめてトラップのテストをするとか道徳的にどうなんだと思う。まあ、私が来るまでは先輩が一番の下っ端みたいだからこれまで受けてきた新人いびりを私で発散したいとか言うんだったら分からなくもない。私もやられた分はやり返すのをモットーにしているから共感できるというか、学生時代に「これが通過儀礼だ!」とか言って仲のいい後輩相手に魔法をぶっ放したりそこそこのやんちゃはした。だとしても出会ってすぐの相手にやることではないだろう……これがほどけたら真っ先に《インパクト》*3の一つでも打ち込むとしよう。それくらいしても許される。

なんにせよ、さっさと終わって欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そろそろ二分くらい経っただろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が見えない

 

音が聞こえない

 

それでいて動けない

 

そんな暗闇に慣れてきた。体感時間はあてにするなとはよく聞いた言葉だが、今ほど実感する瞬間は無いだろう。

 

 

辺りがどんな状況なのかが全く把握できないのが嫌だ。そのくせ身動き一つ取れないのだから厄介なことこの上ない。

 

 

もっと言えばこの状態、呼吸がしづらい。致命的なことにはならないようにしていると思うけど、普段より浅い息になってしまっては何か起きてしまわないか心配になる。

 

 

本当に早く終わって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そろそろ終わってもいい時間……だと思いたい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手足の感覚がうすれる

 

いしきが雲散していくように感じる

 

 

話にはきいていた。こきゅうが浅いとこうなると

 

体験したくはなかった

 

 

 

 

心も、からだも

 

 

 

わたしが闇にとけていくみたい

 

 

 

 

 

 

 

こわい

 

 

 

 

苦しい

 

まだ?

 

おわらない?

 

 

 

 

 

 

 

……だれか……

 

 

 

 

ギチッ

 

 

 

「っ!」

 

微かながら、でも確かな感覚に落ち込んでいた意識が叩き起こされる。

締め付けられすぎて麻痺していた体に血が巡り、触覚が目覚める。

まさか……蔦が緩んだ? 制限時間が近づいているのだろうか。

 

「……っ! っ!」

 

思い切ってグッグッ、っと体をよじってみる。相変わらずの圧迫感とむず痒さだが……先ほどまで気が滅入って自分の意識が希薄になっていた私には、私はまだ生きている、ここにいる、といった存在証明のように感じて、妙な安心感すらあった。心なしか最初に比べて拘束そのものの力自体が緩んでいるようにすら感じる。

 

「っ、っ……~~っ!」

 

 

ごろんごろんと転がりそうな勢いで動いた。

亀甲縛りは相変わらず強固なまま。体に食い込み圧迫して仕方ないが、外側から押し付けてくる蔦は動きに合わせて徐々に解れていく。

拘束が解れる毎に、解放された体に血が流れてじんわりと熱くなる。先ほどまで麻痺していた感覚に流れ込むその熱さは、私の体が生きていることを高らかに叫んでいるような、快感すら感じさせる熱だった。やっとだ、やっと解放される! そんな風に叫んでいる幻聴すら聞こえてきそうなほど、どくんどくんと心臓が逸る。

体から汗が噴き出す。

興奮で息が荒ぶる。

締まる蔦が生きていることを鮮明にする。

もっと、もっと

この悦びを感じ「【deflation】っ!」

 

 

「あっ──」

 

 

一瞬にして拘束が解かれる。亀甲縛りまで無くなった。

やっと終わったという安堵もそこそこに、喪失感が思考を支配する。

 

「なんで……っ!?」

 

思わず口走って、今何を言った? という疑問が出て、漸く冷静になった。

 

「……どうやら、想定以上に楽しんでくれたみたいだね?」

 

「……ああ~~……」

 

コーク先輩が半笑いで紡ぐ言葉に、羞恥と敗北感がないまぜになった呻き声でしか返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お見苦しいところを見せました……」

 

「いいよいいよ、別に気にしないし……私も新人の時におんなじことされたから」

 

「通過儀礼か何かです?」

 

「多分ね。先輩たちもされたって聞いた」

 

体感時間で10分くらい経った後。

落ち着いた私は先輩に先導されてダンジョンの奥に足を進めていた。

 

「……それにしても、よくもまあ今日あったばかりの新人をトラップにかけたもんですね。普通、こういうのってそれなりに交流してから「この人なら大丈夫」みたいな線引き付けたうえでやるもんだと思うんですけど」

 

「んー、君なら大丈夫って思ったのが一つ。あとエロトラップダンジョン課とかいう名前の部署に諦めて荷物置いてきたような人なら不平不満垂れつつも仕事覚えてキビキビ働くだろうなって思ったのが一つ」

 

「はぁ……えっと、信頼してくれてありがとうございます?」

 

 さも当然のことのように私を信頼してますと伝えてきたからなんだか責めようにも責められない。一悶着で済ませたくはないがあれも先輩……というかこの課なりの歓迎挨拶みたいなものなのだろう。今回は甘んじて受け入れることにするとしよう。

そう考えていると前を歩く先輩の耳が赤くなっていることに気づいた。もしかして自分で言ったことに対して自分で恥ずかしくなってるとかだろうか、そうであるなら美人な先輩の可愛いところが見れそうなのだが。

 

「しっかし……んっふふ……」

 

……コーク先輩が笑いを堪えた様子で語りかけてくる。

 

「なんで……っ!? かぁ……ふふ……いや、トラップの影響もあるだろうけど……緊縛とか初めてだろうに随分気に入ったんだね……んふっ……ごめんちょっと待って……~~っぶふっ」

 

「【set】【impact】【lock】【shot】ォ!」

 

「え、ちょ、完全詠しょおっ!? いきなり何すんのさ!?」

 

「うるさい! ずっとしてやられてばっかなんです、一発くらい気持ちよくやり返させろくださいっ!」

 

「本性隠せてなあおっとぉ!? ちょ、やめ、止まってぇ!」

 

ホンットに肝心な時に信用出来なくなる発言するなこの先輩っ!?

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……トラップより……疲れた……」

 

「うん……なんかごめんね?」

 

「いえ……喧嘩吹っ掛けたのはこっちですから……こちらこそすみません」

 

 がむしゃらに《インパクト》を打ちまくった結果、コーク先輩の眉間を見事に打ち抜いたことでようやくお互い冷静になった。

冷静にはなったがマナ消費しつづけた私はともかく通路を縦横無尽に飛んで跳ねて駆けて逃げ回った先輩が息一つ荒げてないのがこれまた少々カチンとくる。なんかここまで来たら何しても頭にきそうだから無視することにした。冷静であり続ける練習はしたつもりだったが、まだまだ未熟者らしい。

 

「というか、結局なんにも説明されてないんですよ……身をもって体験したから何となくわかっちゃったんですけど。一応ちゃんとした説明は欲しいというか、はい」

 

「それは私が悪いね。初めての後輩だから少し舞い上がりすぎてたよ……改めて謝罪させてほしい。やりすぎてごめん」

 

「もう大丈夫ですよ。宣言通り目立った外傷は無いですし……まあ、その、悪い気分じゃなかったですし」

 

「……ありがとう。それじゃあ、次こそちゃんとした説明と行こうか。【open】」

 

 スペルを唱えると虚空に黒い靄で出来た球体が生まれる。確か……《アイテムボックス》、〈空間系〉と〈転移系〉の合わせ技として開発された魔法だと習ったが紐解いていくとやたら色々かかってる掛け合わせられてるから驚いた記憶がある。大体ワンドとかに刻んで使うのが一般的。スペルでの発動とは……少し珍しいものを見た。コーク先輩は《アイテムボックス》から一枚の紙を取り出してまじまじと眺めて始めた。

 

「えーっと

 

……エロトラップダンジョンは今から50年ほど前、戦闘はしたくないけれどダンジョンを楽しみたいという意見に対応したアトラクション型ダンジョンを基本として新たな刺激・発想を盛り込んで誕生した第三のダンジョン形式です。アトラクション型ダンジョンは老若男女種族問わず様々な層からご好評いただき、王都ハウロシアに設置した一号アトラクションダンジョン『グラディウス』を含め王都領に12、魔都領に9の計21個のアトラクションダンジョンが存在しています。(新マギア暦1724年現在)こうして「戦わないダンジョン」というダンジョン形式によりダンジョンに対するエンターテインメント的要素が高まった中、唯一対応していなかったものがアダルティックな刺激のあるダンジョンでした。

魔王城では施設を利用する皆様の声を聞くべく目安箱の設置やアンケートによる満足度調査などを行っています。その中でも特に質問・要望を記入して頂いている文書を「魔王城へのお便り」、通称お便りとして常より誠意を込めて回答させて頂いています。当初エロトラップダンジョン設営について書かれたお便りは本当に極僅かな量でしたが、昨今の同人誌活動の影響、また当初よりお便りを提出されてくださっていた作家のブルーベル氏による作品「冒険者リリィ・セレナーデの受難」シリーズの大ヒットによりエロトラップダンジョン設営を希望する多くのお便りを頂きました。皆様の後押しもあり、新マギア暦1674年、一号エロトラップダンジョン『イド』の運営を開始することが出来たのです……

 

これがエロトラップダンジョン及びエロトラップダンジョン課が生まれた経緯だね。パンフレットにも軽く乗ってるけどここまで詳しく説明してるのは初めてでしょ?」

 

「そうですね……意外と最近なんですね、エロトラップダンジョンって。てっきり昔からあるもんだと思ってました」

 

「一応概念自体は昔からあったらしいよ。あくまで魔王城が運営するような本物のエロトラップダンジョンが生まれたのが最近から……といってもここが出来たのも50年前だし、最近とは言い難いか。それこそ生まれたときからあったって人のほうが多いだろうし」

 

 私もその一人だしねー、とケラケラ笑っている。魔族の人は見た目と年齢が合致しないというのが有名な話だが、目の前の先輩はどうやら見た目通りの若さらしい。

 

「でも、それくらい浸透してるってのは嬉しいもんじゃない? ここで働いて五年にも満たないけど、ここじゃいつも驚かされっぱなしで全然飽きない。それにダンジョン関係の中でもここは積極的に最新技術取り入れる部署だから働いてて楽しいんだよね。さっきみたいにテスターとしての仕事もあるし、嫌なのは書類仕事ぐらい……名前こそアレだけど、こう楽しいところは中々ないもんだぜ~嬢ちゃん?」

 

「そうなんですか……誤魔化しきれてませんよ。耳、赤くなってます。書類仕事あたりで冷静になっちゃったから変な事言いだしたんでしょ」

 

「分かってるなら指摘しないでくれるかな!?」

 

「さっきまでの仕返しです……私、こう見えて根に持つんですよ」

 

「だからやりすぎたのは謝るってば! キミさては全然許してないな!?」

 

 焦ったように話すけれど口元や声色は大分明るい。かという私も口角が上がってるのが分かる。一悶着も二悶着もあったが、今日あった先輩とここまで話せるようになってるのは素直に嬉しい……それだけ先輩がコミュニケーション高いだけかもしれないけど。

 

「ふう……さて、次は実際にダンジョンで何をするのかって話だけど……私たちが表立って働くことって基本ないんだよね。大体裏方仕事というか、トラップの整備とか入退場管理とか色んな意味でトラップにハマって抜け出せなくなってるチャレンジャーの回収とか……チャレンジャーを責めるのはトラップの仕事だからそこの補佐をするのが現場にいる人達の役割かな」

 

「なるほど……それだけ聞くとさっき聞いた最新技術とやらが出てくる感じはしませんけど。裏方仕事じゃなくてトラップに使われてるんですか?」

 

「勿論トラップにも使われてるけど……これは見てくれたほうが分かりやすいかな。そこの角曲がったら分かるよ」

 

 直線の道をずっと歩きっぱなしだったが、急に曲がり角が出てきた。見ればわかるということは、ここが最奥部という認識でいいのだろう。

正直ニマニマしている先輩は信用ならないが、最新技術がどんなものなのか見てみたい。意を決して、角を曲がった。

 

瞬間、ブワァっと吹き飛ばされそうなほど強い熱風が吹き付けてきた。

 

「うわぁ!?」

 

突然のことに思わず顔を腕で隠した。詠唱も陣の起動もやる余裕が無いのでマナの放出のみで単純な簡易的な防壁を作り、身を固める。正直無詠唱は苦手だからまともな防御機能として動く気はしていない。ないよりは幾らかマシにはなるだろうけど。

 

「~~っついっ!」

 

不完全ながら一応は防壁を設置しているにも関わらず吹き付けてくる肌がひりつくような熱に思わず声が漏れる。もし防壁を張ってなかったらと思うと……ゾッとする。このままでは吹き飛ばされそうだから背中からもマナを放出して耐える。いわゆる逆噴射というやつ……若干違うかもしれないけど。

 

「っ~~……はぁ……はぁ……」

 

いきなりすぎて少々態勢を崩してしまったが何とか吹き飛ばされずには済んだ。発動の補助が何もないのにマナを放出したから少々体がダルいが、壁にぶつけられるよりはまだマシだろう。必要経費として甘んじて受け入れておく。

というかマナは自然回復で何とかなるから正直問題じゃない。問題は……

 

「……先輩、あれだけ言ってまたやったんですか……?」

 

「待って、これは違うから! 違うからね!? たまたまクールダウン中に立ち会っちゃっただけだから!」

 

「クールダウン……?」

 

慌てて否定しているから仕掛け人ではないんだろう。それよりもクールダウンとは……一体なんのことなんだろう?

 

「ほら、前見て前! まーえ!」

 

「わかりました……よ……」

 

 ゴウンゴウンゴウンゴウン

 

体を芯に直接響いてくるような振動音が、熱風が止まると共に鳴り出した。

 

「でっ…………か」

 

そこらの洞窟に到底収まるサイズじゃない。私が縦に20人は積めそうなぐらいには大きな鉄の塊がそこにあった。

ところどころ緑やオレンジの光が灯っているソレは時折点滅したり消灯したり、まるで生きているよう。これまで生きてきて、こんなもの見たことない。

わざわざ連れてきたのだから攻撃してくるようなものではないんだろう、でも備えておくに越したことはない。それよりもアレが何をしてくるのかを観察して「はーいストップー」

 

「っぁ、先、輩?」

 

「深呼吸してー、体の力抜いてー……落ち着いた? 気持ちは分からなくもないけど壊されたら仕事できなくなるからね?」

 

「す、すみません……私何してました?」

 

「足を軽く開いた後に軽く膝を曲げていつでも動けるような態勢取ってた。両手足にもマナ込めてるみたいだったし本気で逃げて迎撃も出来るようにしてたのかな……少なくとも一般人があんな如何にもな臨戦態勢取れるわけないよね。クムちゃん戦地の経験とかあったりするタイプ?」

 

「……なんかごめんなさい、学生時代の癖でつい」

 

「むしろ学生時代に何があったのか聞きたいんだけど」

 

「色々あったんですよ」

 

うっかり無意識に臨戦態勢を取っていたようだ。昔取った杵柄とはいうがこうなる経緯を知らない相手に見せるのは初めてだ。少し恥ずかしいところを見せてしまった。

トラップの時の反応? 向こうから仕掛けてきたのだから仕方ない。

 

「そ・れ・よ・り・も! なんなんですかこれ? このー……鉄塊? 生物? あんまりにも未知の存在過ぎて……もしかしてこれがさっきから言ってた最新技術なんですか?」

 

「ご名答! クムちゃんは魔法工学って知ってる? ハウロシアなら軽く習ってると思うけど」

 

「……まあ初歩的なものなら。ちょっと前に馬車の代用が出来る魔導車の開発に成功したとかいうニュースを聞いたくらいでそんな詳しいことは知りませんね。なんか便利なもの作るんだろうなーぐらいにしか思ってないです」

 

「まあそんなもんだよ。私も大したことは知らないし。でもうち(エロトラップダンジョン課)はダンジョンの運営・維持に魔法工学を最大限活用してるんだよ。それがあのでっかいやつ、魔法工学の最新技術を詰め込んだ魔王城製造部魔法工学課の集大成ことダンジョン連結型管理装置。通称『イズン』だよ」

 

「随分と説明口調ですね」

 

「別にいいだろう? 私はカッコいいものを壮大に説明したいクチなのさ」

 

 先輩はピッとデカブツに指をさして話を続ける。

 

「イズンはダンジョンの全てと繋がってる。ダンジョン内部の情報が全部集まるから、チャレンジャーが長時間同じところに留まっていたりトラップにエラーが起きたりすると警告音を鳴らして対応スタッフに知らせる。それを受けた対応スタッフが現場に急行して問題を解決する……そんな流れかな」

 

「なるほど……だからあんなにデカいんですか?」

 

「いや、最初は五分の一くらいだったらしい。最初はトラップだけに繋げてたけど、それだとトラップを潜り抜けてフロアに辿り着いたはいいものの力尽きて床に倒れこんだりしてるチャレンジャーみたいなトラップに接触してない場合に感知できないから回収が遅れたり~みたいなことが度々あったんだって。だから徐々に改造して今みたいな大きさになったらしいよ……私が初めて見たときからコレだから、全部受け売りの説明だけどね」

 

「はへー……ってことはここの発足当初からいる人いるんですか?」

 

「勿論いるよ。その内顔合わせがあるからその時に向こうから話に来ると思う……愉快な人だから。うん」

 

 |初対面の相手を拉致った挙句即現場に連れ込んで試作品のテスターをさせた人《コーク先輩》がそういう人がいるとは……こういうのは憚られるがよっぽどなのだろう……どうしよう、正直あんま会いたくない。

 

「ま、今はまだ会えない人よりも今から会う人のことを知ったほうがいいよね! ってことで……

おおーい!!! 私が来てやったぞーーーい!!!

 

「うわぁ!?」

 

 突然耳をつんざく……いや、なんというか直接頭に響いてくるような大声を出した。轟音が響いているから仕方ないとはいえ、いきなりは少し驚く。今更だけど、少しは配慮してほしい。

 

「いきなりどうしたんですか? 急な大声は驚きますよ……」

 

「ごめんごめん、じゃあ色々込みで説明させてもらおうかな。イズンはダンジョンと繋がってる装置だからダンジョンを開いている以上稼働させ続ける必要があるんだよね。それにエロトラップダンジョンって毎日ひっきりなしにチャレンジャーが来るし、場合によってはチャレンジャーを狙う不届き物も来るから防犯装置としても機能できるイズンは都合上止めることが出来ない……ここまではオーケー?」

 

「ええ。そもそもダンジョンって年中無休が基本ってところ多いって聞きますし……あ、分かったかも。もしかしてイズンの整備員の方が常駐してるんですか?」

 

「お、勘がいいね。クムちゃんの思った通りイズンみたいな装置には……えーっと……特定の魔法又はスキルの習得かつ各ダンジョンによって定められた基準に達している整備技術を有する者……うん、ようするにエリート整備員が常駐するようになっててさ。君が縛られてる間に今日勤務してる奴に顔合わせの連絡してたから呼んだって感じ。大体中に入って作業してるような奴だからあれぐらい声出さないと聞いてくれないんだよね」

 

 ちらちらとさっきの紙を見ながら話している。聞いている限りでは呼び出した相手はかなり優秀な整備員のようだが、その人のことを話す先輩の雰囲気はかなり明るいというか柔らかい。随分と気心知れた関係のようだ。

 

「にしても来ないなあ。もっかい呼びつけるから耳塞いでて」

 

「はぁ……その必要はありませんよ」

 

 装置の方から……ではなく、私たちの後ろの方からぬるりとした声が聞こえてきた。

振り向くと長身……で済ませるには少々大きい、コーク先輩よりも頭二つ分くらいある女性がけだるげに立っていた。長身もさることながら、腰丈まで伸びた艶やかな黒髪に鮮やかな緑のインナーカラーがとても視線を引き付ける。コーク先輩が王子様に称されるようなカッコいい系の美人だとしたらこの人は絵に描いたような綺麗なお姉さんという感じ。魔王城は採用条件の一つに「美人であること」でもあるのだろうか? 今のところ先輩と彼女しかあってないが悉く綺麗な人しかいない。次の出勤からフルフェイスマスクをつけてきてもよろしいですか?

あとその……胸がすっごい。グレーのタンクトップというシンプルな服装なのがより大きさを際立たせている。下手したら私の頭くらいあるぞ。なんだアレは、凶器だろ。

 

「お、作業してないとは珍しい。入れ替え?」

 

「ええ……皆さんからいい加減休めと言われたので仕方なく。粘りましたけど最終的にトニックさんの拳骨食らって負けました」

 

「ははは! 懲りないねぇキミ。今回は何時間?」

 

「ざっと50くらいですね。まだまだ余裕です」

 

流れるように出てきた相手と流れるように会話している……これ私要るか?

 

「あたしのことはこの辺でいいでしょう。彼女が件の新人さんですか?」

 

要るようだ。

 

「クムです。今日付けで……はぁ。今日付けで魔王城ダンジョン部エロトラップダンジョン課に配属されました。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 

挨拶のたびにこれ言わないといけないのかと思うと溜息が抑えきれなかった。印象悪く見えてしまっただろう、挽回しなければ。

 

「ふふ、やっぱり呼びなれないんですか? その課の名前」

 

彼女は体を屈め、私に視線を合わせて話してきた。

 

「え、あ、その……あんまり慣れ親しんでこなかったタイプの名称ですので……」

 

「仕方ないですよ、私も新人の頃は驚いてばかりでした。でもこれから一つずつ慣れていけばいいんです。どうぞ、よろしくお願いしますね?」

 

 そう言われた後、右手を差し出された。

言葉遣いも、一つ一つの所作も、なんだかとても色気があって同性ながら思わずドキリと来てしまう。

ちょっと演技っぽい感じはするけど、良い人だと思った。挨拶に答えるべく私は手を伸ばし──

 

「クムちゃん気をつけなー? 気を抜いたらすぐさまお持ち帰りだよー? 今日の夜には丸ごと食べられちゃってぐずぐずに蕩けちゃうよー?」

 

「……え? は!?」

 

突然のカミングアウトに全て持っていかれた。

同時に靄が晴れていくような感覚もする……私、また何かされていたのだろうか。

 

「……ちっ、流石に目の前では見逃してくれませんか。というかクムさん、あなた少し〈精神系〉が効き過ぎるきらいがありますね。初対面ながら心配になりましたよ」

 

「あなた私に何をしたんですか!?」

 

「ふふふ、目を合わせた際に《チャーム》を少々」

 

「何してくれてるんですかぁ!?」

 

 声を荒げる私の様子を見て、目の前の彼女はくすくすと笑った。

〈精神系〉、分類の通り精神に働きかける類の魔法のこと。難易度の高さに対する普段使いのし辛さからあまり人気が無いことで有名で、特に先ほどの《チャーム》みたいな他社の心に作用する魔法は過去に悪用され事件になったこともあるからか他社への使用が厳しく取り締まられている。

それを気軽に人にかけるとは……この人も只者じゃない。

 

「驚いたでしょ、こいつ女性なら取り合えず食べようとするようなやつだからさ」

 

「人を色狂いのように言わないでください。それにちゃんと満足するようにシてるんですからいいでしょう、不平不満を垂れた人は誰もいないんですよ?」

 

「キミを見るたびに股を抑えたり力が入らなくなって壁にもたれかかる人が続出するのは不平不満云々の前にトラウマを植え付けて言及出来なくしたようなもんでしょうが。記憶処理に奔走したのを忘れたとは言わせないよ?」

 

「……はい、その節は、ごめんなさい」

 

 思った以上にというかなんというか、コーク先輩とは違う種類のとんでもない人だ……ん?

 

「そういえば、名前……」

 

「ああ。ごめんなさい、まだ名乗っていませんでしたね」

 

 私を食べよう(意味深)としていた女性は改めてこちらに向き、胸に手を当てて話した。

 

「私はスオダ。麻痺蛇(パラライズスネーク)の魔族で魔王城製造部魔法工学課に勤めて4年の若造です。若手同士仲良くしましょうね?」

 

 

 

「ちなみにそいつはさっき言った通りのエリート様だから立場的には私たちをこき使える奴だよ」

 

「現場仕事したいから昇進蹴ってる奴に言われたくないですね」

 

……私の先輩達、色々濃い人ばっかりだな……

*1
此方側でいうハエトリグサのようなもの

*2
此方側でいうウツボカズラのようなもの

*3
空気中、あるいは生体マナを打ち出すだけの単純な魔法。スペルも魔法陣も必要なく、マナ操作のみで行使できる。その単純さ故に魔法を学ぶ際、一番初めに学ぶ魔法として知られる

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。