第一話
「…この糞がっっ!さっさと金を持って来いっ!」
怒声と共に振るわれた拳が少女の頬を叩いた。健康体とは言えない細い身体は抵抗も出来ず、壁へと叩きつけられる。少女は呻く様に息を吐きながら床に倒れ込み、必死に立ち上がろうとするが…その様子が男の神経を逆撫でしたのか男は倒れた少女の腹部を数度、無造作に蹴りつけた。少女がぶつかった衝撃で脆かった壁に穴が出来ていた、男はそれを見つけると指差して怒鳴った
「てめぇが開けた穴だ、さっさと塞いで金を持って来い!何度も言わせるなよ!」
そう言い捨てて、男は奥の部屋へと消えていく
少女――セラは口の端から垂れた血を腕で拭い、よろよろ立ち上がると隣の部屋から釘と手頃な木の棒、数枚のぼろ板を持って来ると可能な限り音を立てない様に板に釘を打ち始める。釘を打つ音が大きければ、それだけで再び暴力を振るわれる…それだけは避けなければならない。顔を上げるとキッチンから泣き出しそうな表情の妹――モネと目が合った、セラは唇だけを動かし囁く
「モネ、ダメ。隠れて」
「…っ!!」
モネは唇を噛み…涙を堪えて頷くと、再び身を隠した
―――男、ううん。お父さんはお母さんが死んでから変わってしまった…。優しかった父親は今は見る影も無く酒に溺れストレスの発散として暴力を振るう悪魔になってしまった。逃げ出そうと考えた事はあるが末っ子のシュガーはまだ赤ん坊だ…少なくても2年は耐えないといけない。それまでは何としてもアイツの標的を私だけにしお金を稼がないと
「…よし、塞いだから大丈夫なはず」
ようやく穴を塞ぎ終えたセラは小さく息を吐く、すると再びキッチンの方からモネが顔を出した。音がしなくなったから様子を見に来たのだろう
「お姉ちゃん、お仕事に行って来るから。隠れててね」
「うん…」
セラはボロボロの手で優しくモネを撫でた後に布と紐で作った肩掛けのカバンを持ち、殴られた傷を隠すようにフードを深く被り外に出る
(たった半年でここまでボロボロにされるなんて思わなかったな…)
たった半年、シュガーが生まれてそれしか時間が経っていない。そして、その"たった"であらゆるモノが崩れてしまった。大丈夫、きっと…どうにかなる。終わらないモノなんてない様に地獄にも終わりがあるはず。セラは祈る様にそう考えつつ紐を握る手に力を込めた
―――――
「ただいま戻りました……?」
近所の畑仕事と港の荷運びを終えたセラは暗い土道を急ぎ足で戻ってきた。殴られる覚悟を決め、出来る限り刺激しない様に扉を開ける
――だけど、今日は違った
いつもの罵倒も暴力も無く静かな空間がセラを出迎えた。正確には無音では無く話し声が聞こえる
「一番上はダメだ、アイツは赤ん坊の面倒を見させる。二番目はどうだ?殴っても無いから見た目は良いだろ?」
「本当か?モネで五百万ベリー!?あぁ?天竜人?何でもいいさ!言ってみるもんだな。何日後に来るんだ?三日後?分かった、それまでは閉じ込めておくさ」
(天竜人…?モネが五百万?…モネを売る気!?)
耳に飛び込んできた言葉に頭の中が真っ白になる。…怒りが全身を駆け巡り無意識に震える手がドアノブを掴んでいた。次の瞬間、感情のままに蹴りつけ扉を破る勢いで部屋へと飛び込んだ
「……っ!」
そこには、酒瓶を片手に電伝虫を机の引き出しへ仕舞いかけていた男――父親がいた。セラの突然の行動に驚き、目を丸くする
「今の会話…モネを奴隷商に売るって…本気なの?」
セラの声は震えていた。抑えきれない怒りが、そして信じたくないという思い、優しかった父親の変わり果てた姿を睨みつける
「ふん、聞いてたのか。なら話が早くていい」
父親は忌々しそうに唾を床に吐き、酒を煽るとニヤリと口元を歪める
「ガキ三人も育てる余裕なんざねぇんだよ。売れるうちに売った方が、本人の為でもあるだろ」
「…貴様っ!!」
「貴様?貴様だと!?誰に向かって言ってやがる!」
「ぎっ!?」
父親が立ち上がると同時に手に持っていた酒瓶が振り上げられ、酒瓶は真っすぐにセラの額を打ち抜き甲高い音を立てて割れた。セラはその場に膝から崩れ落ちるとぱっくりと割れた額から血が流れる。父親はそれでも気が済まないのか何度もセラを踏み付けるとモネを探す為に部屋を出て行った
「…逃げなきゃ…此処じゃない、どこかに…」
激しい痛みと吐き気を堪えてボロボロな体に鞭を打ち、壁に手をついて立ち上がる。視界は赤い、でも…動ける、まだ動けるなら…シュガーを抱えてモネを探して…逃げる…!
――――
「モネ…!」
「お姉ちゃん!?」
港の外れ、岩陰に隠された洞窟。中にはかすかな明かりを灯すランタンとシュガーをしっかり抱きながら座るモネの姿があった。セラの姿を見るとモネは駆け寄って行き、セラはモネがシュガーを抱えてる事に安堵した
「お姉ちゃん…!頭…血が…!」
「私は大丈夫。それより…今すぐこの島を出るよ」
「えっ…?島を出る?でも…」
突然の事にモネは混乱を隠せなかった。今にも倒れそうな姉を困惑の色が強い目で見つめる
「…ごめんね、モネ。こんな形になるとは思ってなかった。でも…時間がないの」
セラは小さく深呼吸し、震える声を落ち着かせるように続けた
「今ある分だけの荷物を持って、海に出る。小舟で隣の島まで…そこから定期船に乗るの」
「…そんな、お金…」
「ベリーは足りない。でも、雑用を手伝えば乗せてくれるかもしれない。何とかするよ、絶対に」
(本当は二年掛けて準備する計画があった。何もかも足りない…でも、今はモネとシュガーを連れて逃げることが先だ)
「うん…!」
セラは不安を隠す様に力強く頷くモネを涙を堪えながら優しく撫で、シュガーの頬に優しく触れる、静かに眠ってるのを見た後に出向の準備に取り掛かる
要望が多ければプロフィールも作成に取り掛かります。今の所、姿は想像保管して下さると助かります。