あの二人に長女を入れてみた   作:雪月-dox-

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オリジナルでどんどん進めます。


第二話

小舟に積めるだけの荷物を抱えて急いで港を出た。父親に見つかる事もなくセラ達は闇に紛れる様に出航する事が出来たのは唯一の幸運だったかもしれない

 

 

「しっかり座っておくんだよ」

 

 

月明かりだけを頼りにセラは必死にオールを漕いでいた。潮風は肌を刺すほど冷たく、波は低くとも不安定に揺れ続けている。隣の島には何度か行った事がある。出航前に何回も確認した方向に漕ぐが灯台の明かりが見えて来ない。セラは何度も冷静に…と自分に言い聞かせオールを動かすがやはり見えて来ない

 

 

「お姉ちゃん…一旦休もうよ。ちょっと揺れるけど、朝になったら良く見えるようになるし…それに酷い怪我してるし」

 

「…そう、だね。うん…」

 

「お姉ちゃん、シュガーをお願い。包帯巻くから」

 

 

モネの言葉にセラは小さく頷く、アドレナリンの影響で引いていた痛みに呻きながら頷く。モネにシュガーを預けられたセラは痛みに耐えつつモネに包帯をきつく巻いて貰った

 

 

 

―――

 

 

其れから何日経ったのか…冷たい風は容赦なく吹き付け海面は不規則なうねりを繰り返す。セラとモネは交代でオールを握り締め、ひたすらに進もうとしたが方向感覚は既に曖昧になっていた。何度目かも分からない眩しい太陽が地平線から上り始めていた、隣の島なら夜でも行けると考えていた自分をセラは呪った

 

 

「ごめん…モネ。私、間違えたかもしれない…」

 

「お姉ちゃん…違うよ。あの人は、もうここにいない。お姉ちゃんが殴られる事も、もうないんだよ…!」

 

 

そう言って笑うモネはセラの代わりにオールを動かし続ける。その目はひたすらに前を見つめていた。セラは腕の中に抱いたシュガーの体温が少しずつ確実に失われて行くのを感じていた――食料も水も尽き、体力も限界を迎えようとしている中、必死に自分の熱を分け与える。毎秒、毎分、シュガーの呼吸が続いている事にセラはただそれだけで安堵していた

 

 

(誰か、助けて…私は死んでもいい、だから…妹達だけは――!)

 

 

無駄だと分かっていた。奇跡なんて…そんな都合の良いモノがこの世界にあるはずがない。けれど…祈らずにはいられなかった。言葉にならない想いが胸から体中に広がる、何かに包まれる様な、得体の知れない感覚が心と身体を満たし行く

 

 

目を閉じて、ただひたすらに願い続ける。何度も、何度でも、モネとシュガーだけは助かって欲しいと――

 

 

そしてその時

 

 

海の地平にうっすらと――巨大な“影”が揺れた

 

 

「……っ!」

 

 

遥か遠方に帆を広げた黒い船体が浮かび上がる、堂々としたその姿

 

 

 

次第に近づいて来るそれの頂には――

ドクロの海賊旗。ドクロの下には、交差する二本の剣。そして…その口元に刻まれた大きな“ひげ”

旗印の意匠は、どこか威圧的ではなく、むしろ誇りと信念のような何かを感じさせる

 

 

その船こそが――

ゴール・D・ロジャー率いる、ロジャー海賊団の船《オーロ・ジャクソン号》

 

 

セラは知らなかった。その船がどれ程世界を騒がせた存在なのかを

 

 

ただ、分かったのは

あの船が自分達の方へ向かって来ており私の視界が真っ黒になった事だった

 

 

―――

 

 

「…随分とデケェ声だな」

 

 

朝焼けに染まる水平線をじっと見つめ…太く逆立つ黒い口髭を潮風になびかせ、赤いロングコートを羽織った男――ロジャーがぽつりと呟いた。帆を揺らす風が静まり返る船上…ロジャーは船縁から目を離さずに急に右手を振り上げ舵手に向かって命じた

 

 

「進路を変えろ!あっちだ!」

 

「ロジャー、やはりこの声は…」

 

 

背後から近づく声の主…金髪に眼鏡、右目に傷跡が顔に残る男――レイリーの声にもロジャーは海から視線を逸らさずに答える

 

 

「あぁ、間違いねェ…こいつは馴染みのある“色”だ」

 

 

にっと笑うロジャーにレイリーは小さく頷いた。誰かが強く願っている…必死に絶望の淵から

 

 

「まるで雷みてぇに頭に響いて来やがる。何があったか知らねェが…無視出来る声じゃねェよ」

 

 

そこで言葉を切るとロジャーは更に指示を飛ばした

 

 

「全速前進だっ!ヘクト!風を拾え!」

 

「りょ、了解!船長ッ!」

 

 

船体はうねる波を越えて加速する。甲板では赤髪の少年――シャンクスが望遠鏡を覗き込み声を上げた

 

 

「見えた!ちっちゃい船だ!…女の子が二人と、赤ん坊!?マジかよ…!」

 

「おい!シャンクス!俺にも貸しやがれ!」

 

 

青髪を後ろに束ねた赤鼻の少年――バギーががしっと望遠鏡を奪い取り、覗き込むや否や顔を引きつらせて叫んだ

 

 

「怪我してるじゃねぇか!おい、マジで死ぬぞあれ!!」

 

 

その騒ぎの中、ロジャーの鋭い声が飛ぶ

 

 

「バギー、シャンクス、準備しろ!引き上げに行くぞ!」

 

 

言うが早いかロジャーは船縁に駆け寄り、勢い良く海へと飛び込んで行った

 

 

「おいおい、また先走りやがって…!」

 

 

レイリーは肩をすくめつつもすぐに動き出す。甲板脇の収納から縄と毛布を手早く引き出し、後方へと声を掛ける

 

 

「クロッカス!急患だ、医務室の準備を頼む!」

 

「まったく…年寄りに休む暇をよこせってんだ…!」

 

 

ぶつぶつ文句を零しながらも、渋い緑色のタンクトップに眼鏡を掛けた男――クロッカスは既に医務室の方向へ駆けていた

 

 

オーロ・ジャクソン号と、浮かぶ小舟――

誰もが黙々と救助の為に動き出す中…ただ一人、海を泳ぐロジャーだけが笑みを浮かべていた

 

 

「――よぉし、助けに来たぞ。娘っ子共…!」

 

 

―――

 

 

夢を見ている――

 

最初に目に映った光景で、セラはそれを確信した

 

 

陽だまりの中、優しい父と母が微笑んでいる

まだ幼いセラの頭を撫でながら生まれたばかりのモネを三人で覗き込んでいた

あたたかくて、柔らかくて、眩しく幸せな時間だった

 

 

海に釣りに行った日

帰り道、転んで泣き出したモネを背負って帰る途中、父と母が心配そうに走り寄って来て

小さなすり傷ひとつで大騒ぎするその姿に、セラは笑った。幸せだった

 

 

そして、シュガーが生まれた

 

けれど…それと引き換えに、母は命を落とした…

墓前に立つ父の背中はどこか弱々しく、それでも「頑張る」と何度も呟いていた

母の代わりに自分がしっかりしなければ

そう思っていた…ずっと

 

 

…けれど、父は変わってしまった

 

 

少しずつ、少しずつ…

母の墓参りの回数が減り…酒の匂いが家を満たした

父の目は、どこかおかしくなっていた

 

 

夢の景色がゆっくりと、滲む様に崩れ去って行く

幸せだったはずの時間が灰色の波に呑まれて行く…

 

 

(…いやだ…戻らないで…)

 

 

セラは夢の中で声を漏らしていた

 

必死に手を伸ばし何度も掴み取ろうとするがその景色は消えてなくなってしまう。叫び出しそうになった瞬間、その手は誰かに握られた

 

 

―――

 

 

「…っ!」

 

 

手を握られた瞬間、ふわりと身体が浮いたような感覚に包まれた。ぼんやりとした光が瞼の裏に差し込む

 

 

「…お姉ちゃん!」

 

「モネ…?」

 

 

セラの手を握るモネは目に涙を浮かべながらも笑っていた

 

 

「よかった…よかったぁ…!」

 

「モネ…私…」

 

「シュガーも無事だよ…!みんな、生きてる!」

 

 

その言葉にセラの胸がぎゅっと締め付けられる。目柱から熱が溢れ出し止めどなく流れた

 

 

「みんな…生きてる…」

 

 

何度も何度も…自分に言い聞かせる様に繰り返した。モネも、シュガーも――ちゃんと、生きている

 

 

―――

 

 

「よう、娘っ子共はどうだ?」

 

 

医務室の前で腕を組み、壁に背を預けていたロジャーが声を掛ける

 

 

「最後の子が目を覚ましたぞ。…全員しばらく安静にする必要があるがな」

 

 

出て来たクロッカスがいつもの仏頂面でぽつりと報告した

 

 

「ワッハハハ!そうか!生きてるならそれでいい!」

 

 

ロジャーは嬉しそうに笑い天を仰ぐように伸びをした後に移動を始める

 

 

「入らないのか?」

 

「…まだ早いさ。目ぇ覚ましたばかりのガキ共には、落ち着く時間が必要だろ」

 

 

いつになく慎重な口調にクロッカスは小さく鼻で笑った。ロジャーなりに状況を見ていた

 

 

「移動しながら説明しておこう。全員、栄養失調と水分不足…それに低体温症だ。まぁ、漂流してたんだ当たり前だな。赤子…シュガーだったか?あれは発熱してたがもう心配ない。モネも落ち着いてる」

 

「そうか…で、セラって子は?」

 

「額の傷が一番酷かったな。下手すりゃ血が足りなくなってた。全身に打撲痕…長い間、誰かにやられてたんだろう。骨にひびすら入ってなかったのは奇跡だな」

 

 

ロジャーは少しだけ歩みを緩め、小さく溜息を零した

 

 

「そうか…傷が残っちまうのは、ちと可哀想だな」

 

「おいおい、誰に言ってるんだ?この船の医務室で完治するまで居てくれりゃ、傷一つ残さねぇよ」

 

「ワハハハ!すまんすまん!そうだったな!」

 

「…どっかの誰かさんは言う事聞かねぇからな。昔の縫い跡、何本残ってる?」

 

「そりゃあ…数えたらキリがねェな!」

 

 

クロッカスは呆れた顔をしながらやれやれと首を振り隣でロジャーは笑い続けていた




セラ15歳、モネ10歳、シュガー0歳
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