あの二人に長女を入れてみた   作:雪月-dox-

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第三話

ロジャー海賊団に保護されてから数日…セラたち三姉妹の生活は一変した。騒がしくも楽しい、好奇心をくすぐる日々が始まった。見るもの、聞くもの、触れるもの──すべてが新鮮で刺激に満ちていた。そんなある日、甲板にクロッカスの怒声が響き渡る

 

 

「お前らは医務室で寝てろって言っただろうがァ!!バーーーーギィィィ!!てめェも分かってて手伝わせるなよなァ!!」

 

 

怒り心頭のクロッカスにセラとモネは再び捕獲された。体調が万全ではないセラには「しばらくは安静に」と、クロッカスが厳しく命じていた。だが、じっとしていられないのがセラの性分。恩を返したい一心でバギーの見よう見まねで甲板掃除を始めてしまったのだ。バギーも「楽になるならまあいいか」と軽い気持ちで教えては手伝わせていた。モネも「お姉ちゃんがやるなら私もやる」と当然のように後を追い、バギーは「これは早く終わるぞォ……ししし!」とほくそ笑んでいた

 

 

…まぁ、世の中そう甘くはないと教えられるのだが

 

 

セラとモネは医務室へと叩き戻され、バギーは縄でぐるぐる巻きにされたあげく、船縁から海面ギリギリに吊るされるお仕置きを貰った。その一部始終を少し離れた場所から見ている男が居た――スコッパー・ギャバンである。丸いサングラスの奥で目を細め、斧の手入れをしながら、額にうっすらと汗を浮かべてぽつりと呟いた

 

 

「ま、あいつらしいっちゃ、あいつらしいな……」

 

 

そう言ってクロッカスの怒気がこちらに向かないうちにと、そそくさと後方へ退いた。“巻き込まれたら面倒くさい”――ベテランの勘に従って一人安全圏へと逃れたのだった

 

 

 

―――

 

 

 

「いいか!お前らは経過観察中だ!だから、大人しく!寝てろ!」

 

「うぅ…でも…」

 

「“でも”は聞き飽きた。船医の俺の言うことは絶対だ。…ったく、暇ならこれでも読んでろ」

 

 

あまりの剣幕にセラの背に隠れるモネ。恩を返そうとするセラにクロッカスは頭を抱えつつ、机の上に積まれていた本の山から数冊を彼女たちの前にどさりと置いた。遠慮して戸惑うセラの背後からすっと手が伸びる、モネはさっそく一冊を手に取りページをめくった。興味津々に文字を追う妹の様子を見て、セラもその中身を覗き込む…どうやら――医学書のようだった

 

 

「理解出来るか分からんが何もないよりはマシだろう」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「礼を言うなら医務室から出ないで欲しいもんだな」

 

 

モネはページをめくる手を止める事なく文字を指でなぞりながら呟いた

 

 

「…これって、薬草の名前かな?セラお姉ちゃん、”セージ”って知ってる?」

 

「えっ?えっと…聞いた事はあるけど…」

 

「はぁ…」

 

 

クロッカスはやれやれといった様子で椅子に腰を下ろす

 

 

「そう言うのはな、読むより実物を見た方が早い。お前らがちゃんと治ったら、見せてやる」

 

 

モネがぱぁっと顔を輝かせる。モネの表情に「…本当に分かってるんだろうな」とクロッカスは肩を竦めた

 

 

「…すみません。私達、迷惑ばかりかけて…でも、本当に、何かお手伝いしたくて…」

 

 

クロッカスは少しだけ視線を和らげ鼻を鳴らした。それから頭を掻いた後に

 

 

「気持ちはありがたいが、お前らが元気になるのが一番の“手伝い”だ。…それが終わってから、やりたきゃ好きなだけ働け」

 

 

その言葉にセラは目を見開き、そっと微笑んだ

 

 

「はい…」

 

 

そんなやりとりを横目にモネは医学書に夢中になりながら口を開き、クロッカスに質問を投げかけた

 

 

「…この絵、魚人の骨みたいだけど、ヒトと違うんだね」

 

「おお、そこに気づくか。なかなか筋がいいな」

 

「魚人の骨格は基本的にヒトに似てるが…内臓の構造が少し違う。ほら、そこのページを見てみろ。腸の形状と数が――」

 

「わ、ほんとだ!」

 

 

クロッカスは少し身を乗り出して、モネの開いたページを指差す

 

 

「魚人は水中でも消化効率が落ちないように腸が太く短い。陸上の生物とは食生活も代謝も違うんだ。海水も体に取り込むから腎臓の形もな――」

 

「クロッカスさーん!俺が悪かった!だから上げてくれー!!」

 

 

遠くからバギーの声が響く。クロッカスは咳払いひとつで話を止め鼻を鳴らして立ち上がった

 

 

「…空気を読まない奴が多い船だ、まったく」

 

 

そう言い捨てて部屋を出ていこうとする彼に、モネがふと口を開く

 

 

「ねぇ、また教えてくれる?」

 

 

その一言にクロッカスの足がぴたりと止まる。背を向けたまま少しだけ肩を動かし振り返らずに言った

 

 

「お前さんがちゃんと治ったらな。…それまでは絶対安静だ」

 

 

そう言い残し…バタン、と音を立ててドアを閉めクロッカスは去っていった。モネは満足げに小さく頷くと、医学書を抱え直して静かにページをめくる。ふと…小さな寝息が微かに変わった。セラはそっとシュガーの傍へ寄り添い、優しくその頬を撫でてやる。目を細めたシュガーが嬉しそうに声を上げるとセラの指を掴んだ。その感触に、セラの頬も柔らかく緩む

 

 

やがて、セラは窓の外に目を向けた

遠く…カモメのマークが描かれた船が、いくつも波間に揺れていた

 

 

 

―――

 

 

 

「ほ、ほんとぉにすみませんでした!!!」

 

「俺が良いと言うまで、手伝いはさせるなって言っただろうが!」

 

 

引き上げられたバギーの叫びと、クロッカスの怒鳴り声が甲板に響く。溜息をつきながら、クロッカスが再び説教を始めたそのとき——

 

 

「前方!海軍だ!」

 

 

シャンクスの声と同時にギャバンが両手に斧を構えて現れた。銀の刃が太陽に反射し、ギラリと光を放つ

 

 

「しっかり追って来てんじゃねェか…」

 

「イヤーーーッ!またバケモン連れて来てんじゃねぇのかぁ!?!?」

 

 

バギーの悲鳴が空にこだまし、船内の空気が一変する

 

 

「ロジャアアアアア!!! 今日こそはお前をインペルダウンに叩き込む!! 覚悟しろッ!!」

 

「やってみやがれ!! ガープ!!! まだ捕まる気は……微塵もねェぞッ!!」

 

 

船首に立つロジャーが、にやりと笑いながら叫び返す。直後、隕石のごとき轟音と共に砲弾が空を裂いて飛来した

 

 

「うおおっ!?いきなりかよ!!」

 

 

ギャバンは身構えるが砲弾は船の脇をかすめて海面に着弾。水柱が空を貫くかのように上がり船体を激しく揺らす

 

 

「あ、あの距離から届くのかよ!?!?本当にバケモンだな!?」

 

 

バギーの悲鳴のような絶叫が甲板に響く。それをかき消すかのように次弾が空を裂いて飛来した。船に直撃しかけた砲弾はレイリーの一撃によって弾き落とされる

 

 

「さて、どうする?ロジャー。このまま逆走ってのは、さすがに無謀だぞ?」

 

「ワーハッハッハッハ!!! どうするもこうするも……まずは向こうから来る連中を片付けるしかねェだろ!」

 

 

海の向こう…戦艦の艦首に立つ海兵の姿がはっきりと見えた。白い海兵の上着を翻し、鬼神の如き闘気を纏って立つ男――“英雄”モンキー・D・ガープ

 

 

「ロジャァ!! 行くぞォ!!」

 

 

ガープは無造作に片手で抱えていた砲弾を前方の海へ打ち込む

 

 

「ぬおッ!?」

 

 

着弾と同時に、海面が爆ぜ巨大な水柱が突き上がる。その瞬間、ロジャーの船と海軍戦艦の視界が遮られ、互いの姿が一瞬かき消える――が、あの二人にとって関係はない。ロジャーもガープも、互いの“気配”を正確に捉えていた。水柱を突き抜けガープが砲弾さながらの勢いで一直線に飛来する。ロジャーも笑いながら、船首から大空へと跳び出した

 

 

「直に来やがったァ!?」

 

 

甲板でそれを見上げたシャンクスが、思わず目を見開く。あまりの無茶に、思わず「着地どうすんだよ!?」と呟く

 

 

空間が軋む

 

 

空中でぶつかり合った二人の“覇気”は黒い稲妻となって弾け、天地を引き裂いた。その余波だけで空気がひしゃげ、雲が真っ二つに割れる。常識を超えた、怪物同士のぶつかり合いが――空の上で始まった

 

 

「シャンクス!船に飛んで来る砲弾を弾け!中将共は俺とレイリーが相手をする!」

 

「バギー、お前は医務室に行け。あの子達を守れ!」

 

 

ギャバンとレイリーが次々と船に乗り込もうとする海兵を斬り伏せながら指示を飛ばす。シャンクスは即座に動き出し、バギーはこれ幸いとばかりに船内へ駆け込んで行く

 

 

「おい、バギー。もしケガさせたら、ただじゃ済まさんぞ」

 

「う、うっす……!」

 

 

クロッカスの一言にビビったのは言うまでもない。操舵を任されてるヘクトは冷静に舵を切りながら敵の砲撃を躱しつつ同時に覇気を込めた銃で迫り来る海兵を正確に撃ち抜いていく。船は空から舞い戻るロジャーを受け止める為に――次の動きへと備えていた

 

 

 

―――

 

 

 

海軍との戦闘が始まった頃…セラはシュガーをしっかりと抱きしめながら、モネにしがみ付かれたまま医務室の窓から外の様子を見つめていた。モネから話は聞いていた、ロジャーさん達は本物の海賊で海軍に追われていると。だけど、実感なんてなかった

 

 

――今、ようやく分かった。これが"海賊"なんだ

 

 

甲板から轟音が響き、揺れる船体。その時…慌ただしい足音が廊下に響き勢いよく扉が開かれた

 

 

「おい! おめぇら、生きてっか!? ケガしてねぇか!?」

 

「は、はいっ! 大丈夫です…けど?」

 

 

驚きながらも返事をするセラの前に見覚えのある顔――バギーが息を荒げて立っていた。三人の無事な姿を見て、ホッとしたように呟く

 

 

「よかったぁ…俺、まだ死ななくて済みそうだ…」

 

 

そう言い残し、ガチャリと扉を閉める

 

 

「いいか、今は海軍と戦闘中だ。でも負けることはねぇ!俺は“保険”ってやつだ!安心してろ!」

 

「…でも、さっきまで船から吊るされてなかった?」

 

 

モネの突っ込みにバギーが思わず絶叫する

 

 

「黙らっしゃい!変なとこ見てんじゃねぇ!!」

 

 

そのやり取りにセラは思わず吹き出した。バギーはため息をついて、ぽりぽりと頬を掻きながらセラの隣に移動し、窓の外へ視線を向ける。空では雷のような閃光が何度も弾けていた。そんなバギーに、セラは少し遠慮がちに声を掛ける

 

 

「…バギー、さん?」

 

「バギーでいい。なんだよ?」

 

「その…ロジャーさん達って、どうして海軍に追われてるんですか?」

 

「はぁ?」

 

 

間抜けな声が漏れる。バギーは振り返りセラをじろりと見る。完全に「何言ってんだコイツ」と言う顔でセラを見た後に間を置かずに口を開いた

 

 

「海賊だからに決まってんだろ」

 

「…あ、じゃあ…その…略奪とか、してるんですか?」

 

 

セラの遠慮がちな問いにバギーは考える素振りも見せず、あっさり答える

 

 

「いーや、してねぇな」

 

 

その即答にセラはますます首を傾げた

 

 

「…じゃあ、どうして追われるんですか?悪い事してないなら、捕まる理由なんて――」

 

 

真っすぐに見つめて来るセラの瞳にバギーは少したじろいだ。「うっ…」と唸るように小さく呻き、視線を逸らす…ぷいっと横を向くと肩をすくめ、ぶっきらぼうに言った

 

 

「ったく…真面目な目で見んじゃねぇよ。そういうの、苦手なんだよ…。俺に聞くな。面倒くせぇ」

 

「…知りたきゃ、ロジャー船長かレイリー副船長に聞きな。俺なんかより、よっぽどちゃんと答えてくれるさ」

 

「…ありがとうございます」

 

「ふんっ!」

 

 

鼻を鳴らしたバギーはセラの雰囲気に落ち着かない様子で再び視線を外へ向ける。丁度その時、外でひときわ激しい閃光と衝撃が走り、揺れる窓越しに、海軍の戦艦が徐々に後退していくのが見えた

 

 

どうやら、戦いの決着は――ついたようだ




A.シュガーの「22歳」は新世界編での年齢ですが、私の創作は25年前の時代設定なので、モネやシュガーは原作よりも少し早く生まれたことにしています。ホビホビの実で見た目が子供のままという特殊性もあるので、そこはある程度自由に解釈しました
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