あの二人に長女を入れてみた   作:雪月-dox-

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第四話

「ワーハッハッハッハ!!飲め!騒げ!今からが、ロジャー海賊団の――最後の航海だ!!」

 

 

ガープを退け、船を正規の航路から外して進ませたその夜。ロジャーは盛大な宴を開き、開幕と同時に高らかにそう宣言した。…海賊団の面々は――誰ひとりとして驚いていなかった。既にその覚悟を胸に刻んでいたからだ。だが、それでも笑っていた。それがロジャー海賊団の“らしさ”だった。甲板の上では焚き火が赤々と燃え、陽気な唄と笑い声が夜の海に響いていおり。セラたちは少し離れた場所からその賑わいを眺めている

 

 

「最後の航海…?」

 

 

海王類の肉の串焼きに齧りついているモネを膝に乗せたままセラがぽつりと呟く。その声に応えるように、いつの間にか傍に来ていたレイリーが酒瓶を煽りながら静かに頷いた

 

 

「俺たちの旅の目的は、もう果たしたからな。これから偉大なる航路(グランドライン)を逆走するんだ。……好きな場所で、それぞれが降りる為にな」

 

 

レイリーが空を仰ぎ、ひと息ついたその隣でセラは黙って焚き火の明かりを見つめている

 

 

「……降りる場所」

 

 

呟くような言葉に、レイリーは横目で彼女たちを見ながら口を開く

 

 

「お前たちも…考えておいた方がいい。お前らにはまだ、これからがあるんだ」

 

 

その言葉にセラは小さく頷きつつ、モネの頭を優しく撫でる

 

 

「そう言えば、その、聞きたい事があるんです」

 

「なんだ?」

 

「えーっと…なんで、海軍に追われてるんですか?」

 

 

その問いに返事をしたのはレイリーではなかった

 

 

「ワーハッハッハッ!!そりゃあ、世界にとっちゃあ“真実を知った”奴ほど、厄介なもんはねェからな!」

 

 

突然背後から飛び込んできたのはロジャーの豪快な笑い声だった。手に大皿を抱えたロジャーが肉を頬張りながらふらりとやって来た

 

 

「でもな――知ってるからって、それを“教える”のが優しさとは限らねェんだよ」

 

 

口元をぬぐってから、にやりと笑い…セラたちに視線を向ける

 

 

「言葉にした瞬間、それは“呪い”になる。誰かの夢を、誰かの航海を、正しさって鎖で縛っちまうかもしれねェ。……それは“自由”を奪うってことだ」

 

 

セラは小さく息を呑んだ。ロジャーの視線は夜空の彼方を見据えたまま言葉が続く

 

 

「俺たちは、全部見て来た。全部知った。でも、それを話す事が“自由”を奪うなら――黙ってるのが、せめてもの礼儀ってもんだ」

 

 

焚き火がパチリと爆ぜ、火の粉がふわりと舞った。膝に座るモネも気が付けばロジャーの言葉に聞き入っている

 

 

「だからよ。お前らが“なんで俺たちが追われてるのか”を知りたきゃ――自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の心で決めな。……それが“自由”ってやつだ」

 

 

ロジャーは最後にそう言って豪快に肉をもう一口かぶりついた、レイリーが苦笑しながら酒瓶を掲げる

 

 

「つまり……そういうことさ」

 

「ま、海賊になるんなら――って話だけどな!ワーハッハッハ!」

 

 

豪快に笑いながらロジャーはバカ騒ぎから喧嘩に発展しているシャンクスとバギーの間に乱入していった。無論、勝者はロジャーだ

 

 

「……自由、か」

 

 

セラがぽつりと呟く。その声にモネが顔を上げセラを見つめる

 

 

「お姉ちゃん、自由って……海賊って、楽しいのかな」

 

「楽しいかどうかは……その人次第、かな」

 

「?」

 

「誰かの自由は、誰かにとっては苦しみかもしれない。でも――だからって、誰かに決められるよりは……自分で選びたいよね」

 

 

モネはその言葉の意味を完全には理解できなかった。けれど…どこか納得したように頷いた。そして、ぽつりと口にする

 

 

「……私、冒険してみたい」

 

 

思いがけない言葉にセラは驚いて撫でてる手を止める

 

 

「モネ……?」

 

 

モネは小さく頷いた。焚き火の明かりがその横顔を優しく照らしている

 

 

「お姉ちゃんは……いや?」

 

 

問いかける声にはほんの少しの不安が混じっていた。けれど、モネの目は真っすぐにセラを見つめている。セラはその視線を静かに受け止め、そして炎のゆらめきに目を落とした

 

 

「……どうだろうね」

 

 

ぽつりと呟いた後、小さく微笑む

 

 

「でも……それも、いいかもしれないね」

 

「だったら、お前たちも宴にしっかり参加しようぜ!」

 

 

声の主はシャンクスだった。走り寄ってきたかと思うとモネをひょいと抱え上げ。もう片方の手でセラの腕を引っ張る

 

 

「わっ……!ちょ、ちょっと!」

 

 

抱えられたモネは不満げにシャンクスの頬をぐいと引っ張っている。しかし、当の本人はまったく気にした様子もなく、むしろ得意げに笑っていた

 

 

「そういやぁ…おめぇら、フルネームを聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

 

 

ロジャーはジョッキを煽りながらセラに問いかける。シャンクスに手を引かれ、宴の中心まで引っ張り出されたセラはやや気後れしながらも答えた

 

 

「私たちの…?セラ・ルミナ、ですけど……?」

 

 

その瞬間、ロジャー、レイリー、ギャバンの三人が同時に吹き出した

 

 

「「「まぁぁじかぁぁ!?」」」

 

 

 

―――

 

 

 

一方――セラたちが逃げ出した新世界後半の名もなき島は、悲劇的な末路を辿っていた。金に目が眩んだ一人の男が…島全体に終末をもたらしたのだ。セラたちの父親…ヴィクトル・ルミナは娘たちの逃亡に気が付き捜し歩いたが結局捕らえることはできなかった。そして数日後「商品がいない」事を理由に、人狩りが行われた

 

 

だが、異常はそれだけでは終わらなかった

 

 

世界政府の役人らしき人物たちが乗る船へと人狩りの海賊たちが“荷”を次々と積み込んで行く光景が目撃されていた。港には海軍の軍艦の姿さえあったという…。声を上げた子供は翌朝には忽然と姿を消していた

 

 

「お前が!娘を売ろうなんて考えるからだ!だからこうなったんだよ!!」

 

 

ヴィクトルに向かって怒鳴ったのは同じく家族を売るよう迫られた男だった。顔には殴打された痕が残り、目には怒りと恐怖が宿っていた

 

 

「俺も!お前も!あいつらに、奴隷にされて!!……死ぬんだよ!!」

 

 

罵られたヴィクトルはなにも言い返さなかった。声を出す気力も、もう残っていなかった

 

“正義”の名の下でなぜ奴隷の取引が行われるのか。なぜ、あの男たちは世界政府の紋章を刻んだ書状を誇らしげに掲げていたのか――

 

それは、この世界に横たわる巨大な闇の、ごく一端に過ぎなかった

 

 

 

―――

 

 

 

「よーっし、向かうは東の海(イーストブルー)だ!セラ達が降りる前に、てめぇらも行き先決めとけよ!!」

 

 

ロジャーの声と共にヘクトの操るオーロ・ジャクソン号は風を受けて海を走る。海軍の追手と絡んで来る海賊たちの目をくぐり抜ける為に正規の航路からは抜けたままだ

 

 

「なぁ、セラ。冒険に出るんだろ?だったら、戦い方を知った方が良いんじゃないか?」

 

 

クロッカスからもう大丈夫と言われたセラとモネは甲板で手伝いをしながら海を眺めているとシャンクスに声を掛けられる、何かを察したバギーはさっさと逃げ出しておりモネは不思議そうにしていた

 

 

「…確かに、知っておいた方が良い。よね?」

 

「私も!私も戦う!」

 

 

勢いよく手を挙げたモネに、シャンクスが思わず吹き出す。

 

 

「モネはまだ早いんじゃないか?」

 

「そんな事ないもん!」

 

「そうかぁ?蹴られて終わりとかじゃ話にならないからまずは身体を大きくしてからだろ」

 

「むぅ…」

 

 

モネが頬をふくらませて不満を表すと、シャンクスは笑いながら彼女の頭をぽんぽんと撫でた

 

 

「焦んなって。モネに合ったやり方で強くなればいいさ」

 

「……それ、どういう意味?」

 

 

膨れっ面のまま見上げるモネにシャンクスは真剣な顔を向けた

 

 

「小さいからこそできる戦い方ってのがあるんだよ。体を鍛えるのも大事だけど、今はまず“逃げ方”と“隠れ方”を覚えな」

 

「えっ、戦わないの!? 強くなるのに、逃げちゃうの?」

 

「モネ。生き残るってのが一番大事なんだ。強さはその先だ」

 

 

シャンクスの近くにいたレイリーが、ゆったりとした口調で言葉を補う

 

 

「生きていれば、強くもなれる。けど、死んでしまったらそこで終わりだ」

 

 

モネはしばらく黙って考え込んだが、やがて小さく頷いた

 

 

「……うん。わかった」

 

「うっし、んじゃ…バギー!お前だ!一番得意だろ?」

 

「だぁぁぁぁれが!臆病者だぁぁ!?」

 

「そんな事言ってないぞ?」

 

 

にやにやと笑うシャンクスにバギーは顔を真っ赤にして怒鳴り返す

 

 

「絶対イヤだからな!?お、俺は忙しいんだ!宝の地図を……その、保管して……」

 

「ほぉ?じゃあ今夜の肉はナシでいいよな?」

 

 

ギャバンが通りすがりにニヤリと笑いながら口を挟むと、バギーは即座にくるりとモネに向き直った

 

 

「よっしゃ任せとけ!“逃げる”とか“隠れる”とか、俺の十八番じゃねぇか!!」

 

「うわぁ、開き直ったよこの人……」

 

 

モネが呆れた声を漏らし、セラは笑いをこらえながら肩をすくめる

 

 

「……でも、よろしくね。色々教えてもらえると助かる」

 

「へっ、まぁ見てなって。俺のスニーキング・バギー・スペシャル!」

 

「何それ」

 

「名前だけ派手だな」

 

 

辛辣な態度のモネと同じく辛辣な反応を見せるシャンクスにセラはついに笑ってしまう

 

 

「シャンクス、すまないがセラは私に任せてくれないか?」

 

「レイリーさんに?別にいいですけど…?」

 

「ありがとう、セラちょっといいかな?」

 

「は、はい」

 

 

セラに向かってレイリーは手招きで呼ぶと甲板に座る様に促す

 

 

「これから教えるのは“覇気”と言われる力だ。覇気には三色の色がある…」

 

 

レイリーの声は穏やかだが、その瞳はまっすぐにセラを見据えていた

 

 

「武装色・見聞色…そして、王の資質を持つ者だけが扱える覇王色だ」

 

「王の……?」

 

「いきなり全部を習得しろなんて言わない。今教えるのは“見聞色”と“武装色”だ」

 

 

そう言うと、レイリーはセラの前に五つの小箱を並べた。そのうちの一つにだけ小さな石が入っている、と説明をしてセラに目を覆う為の布を渡しながらレイリーは言葉を続ける

 

 

「先ずは気配を“感じる”事…。石がどこにあるか、当ててみなさい」

 

「は、はい…」

 

 

セラは目隠しをすると静かに息を整えた。何度も挑戦したがやはり簡単な事ではない、深く息を吸い…ゆっくりと吐き出した。甲板を吹き抜ける潮風、波の音、船のきしみ――周囲にある全ての情報を一度、意識の奥へと押しやっていく

 

 

「…。耳で聞くんじゃない。手で探るんでもない。もっと深く…“心”で感じてみなさい」

 

 

レイリーの静かな声が耳に届く。自分を取り囲む不思議な線の揺れを静かに抑えて広げて行く感覚…そして五個ある小箱の中に一つだけ、ポツンと浮かぶ“石”をセラは感じた

 

 

「…あった」

 

 

セラは静かに指を伸ばす。指し示した小箱を開ければ中には小さな石が入っていた、それを見たセラの顔には驚きと喜びが浮かんだ

 

 

「すごい、見えた訳じゃないのに……場所がわかった!」

 

「やはりな…そう、それが“見聞色の覇気”だ。気配を読む。感情を読む。更に鍛えれば未来を読む事も出来る」

 

「未来……」

 

「だが、それはまだ先の話だな」

 

 

レイリーは優しく笑い、次に石を握りしめた拳を差し出す

 

 

「今度は、“武装色”だ。見てみなさい」

 

 

セラが目を凝らすと、レイリーの手が黒く…光沢を帯びて変化していた

 

 

「これが武装色。肉体を強化し、攻撃を通す力だ。自然系(ロギア)の能力者の身体にも触れられ、物理が効き難い、又は効かない超人系(パラミシア)の能力者にもダメージを与えられる」

 

「……能力者?」

 

「ああ、能力者についてはクロッカスに詳しく聞くといい。……それと、武装色は見聞色以上に時間がかかる。焦らず、地道に積み重ねることだ」

 

「分かりました、やってみます!」

 

「その意気だ、この船にいる間に出来る限り教えてやろう。だが、無理はするなよ。疲れたらしっかり休むんだ」

 

「はい!」

 

 

セラが元気よく返事をするとレイリーは頷き歩き出した。その後ろ姿を見つめながらセラは小さく息を漏らす。冒険するにしろしないにしろ…守る手段は必要なんだから。そう意気込む。一方、そのやり取りを少し離れた場所で見ていたシャンクスは笑みを浮かべてレイリーに声を掛ける

 

 

「随分と気に入ったみたいですね、セラの事」

 

「まだ芽吹いたばかりだが…いい“素質”を持っている」

 

 

レイリーはふっと笑みを浮かべて続ける

 

 

「何かを守る為に強くなろうとする者は…時に想像を超える力を手にする」

 

「……なるほど」

 

シャンクスはその言葉を噛み締め甲板を見下ろす。そこではモネがバギーにスニーキングの指導を受けて、素早く反復横跳びしていた

 

 

「こっちの教え方はちょっと不安ですけどね」

 

「フッ、それも経験だ」

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