あの二人に長女を入れてみた   作:雪月-dox-

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第七話

ロジャーと別れてから数ヵ月が経った。セラたちはロジャーから託された資金で小さな住居を手に入れ、船を買うための資金を稼ぐべく日々仕事と鍛錬に励んでいた。時折、モネが『海賊でも来てくれれば、船を奪えるのにね』と冗談めかしてこぼすと、セラはやんわりとそれをたしなめた。……まぁ、確かに一理あるのだが

 

 

「明かり、消すよ」

 

「うん……」

 

 

部屋の中央でふわりと浮かんでいた光に、セラがそっと手を向ける。すると、何事もなかったかのように、光はふっと消えた。ロジャーから託された“悪魔の実”を食べて以来、こんな力が使えるようになったのだ。あれは本当に不味くて、何度も吐きかけながら、どうにか完食した。後に分かった事だが一口で良かったみたい、モネ、もう少し早く教えてよぉ……。

最初は何の変化もなかったが、ある時くしゃみをした拍子に光の粒子が舞い、さらに背中に違和感を覚えたと思えば……なんと、翼が生えていた

 

あの時は本当に驚いた。今思えば、もう少し慎重になるべきだったかもしれない。だが、この町の人々は心が広く、誰一人として騒ぎ立てたり、追い出そうとしたりはしなかった。……とは言え、『天使ちゃん』と呼ばれるのは、やっぱりちょっと恥ずかしい

 

 

「まぁ……消せるからよかったけど」

 

「何がー?」

 

「背中の翼だよ」

 

 

セラの独り言に、同じベッドで寝ていたモネが反応する

 

 

「ふわふわで柔らかいよね。真っ白できれいだし」

 

「おかげで『天使様』とか『天使さん』って呼ばれちゃってるけどね」

 

 

セラの愚痴に、モネはくすくすと笑った

 

 

「私も『お医者さん』って言われるから、同じじゃないかな?」

 

「そう、なのかな……?」

 

「港のおじさんたちは、ちゃんと名前で呼んでるよ?」

 

「あ、確かに……」

 

 

そんなふうに、ここでの暮らしの事をぽつぽつと話し続けているうちに――

いつの間にか眠ってしまっていた

 

目を覚ましたのは、外から聞こえてきた大きな声だった

 

 

『号外!号外だよーっ!』

 

 

 

―――

 

 

 

「お姉ちゃん……」

 

 

眠たげな声に目をこすりながら、セラは薄く目を開けた。窓の外はうっすらと明るくなり始めており、港のほうからは人々のざわめきが聞こえてくる

 

 

「今の……新聞売りの声?」

 

「うん。なんか、すごく大きな声だった……」

 

 

寝巻のまま階下へ降り、玄関を開けるとすでに何人かの住人たちが通りを行き交い、新聞を手にしてざわめいていた。セラは不安を覚えつつも一枚を受け取り、目を通す

 

 

 

そこには、大きな活字が踊っていた

 

 

“海賊王”ゴールド・ロジャー、ついに捕縛! 公開処刑決定――!

 

 

その見出しのすぐ下には男の写真があった。目元にはわずかに疲れが見えるが、それでもなお笑みを絶やさない――確かに、ロジャーだった

 

 

「ゴールド…ロジャー…?」

 

「知らないのか?世界を騒がせた大悪党だよ!」

 

 

新聞に書かれている名前を読み上げ、小首を傾げるセラに新聞売りの男が軽く答え、また通りの向こうへと声を張り上げていった

 

 

「“海賊王”ゴールド・ロジャー! 数千人を虐殺! 世界中に恐怖を撒き散らした悪の化身、ついに断罪へ! 奴隷貿易にも関与か!? 裏で操っていた黒幕の疑い! 五老星、異例の声明――『二度とこのような男を生まぬように』」

 

 

セラは手元の新聞をめくりながら小さな声でその“罪状”を読み上げていった。次のページ、また次のページへと目に飛び込んでくるのは信じがたい内容ばかりだった

 

 

「……なに、これ……?」

 

 

ページを捲るたびに羅列されていくありもしない犯罪。見出しはどれも恐怖と怒りを煽るような言葉で飾られ、ロジャーを"極悪非道な存在"として仕立て上げていた。まるで都合の悪い過去を全てロジャーという存在に押しつけて、記憶ごと焼き払おうとしている様に……

 

 

 

―――

 

 

 

「――漸く、“ゴール・D・ロジャー”が捕まったか」

 

 

重厚な円卓を囲み、五人の老人が静かに腰を下ろしていた。荘厳な石造りの会議室には、外界の光は一切差し込まず、ただ重苦しい空気だけが満ちている。

 

 

「これで、“真実”を知る者は、あの船に乗っていた者たちのみとなったか」

 

「“歴史の全て”を見た者どもを……放置するわけにはいかんな」

 

「ロジャーの命で散ったか、あるいは身を潜めているか……いずれにせよ、すべてを消し去らねばならん」

 

「“あの娘達”の行方は?」

 

 

ロジャーの船にルミナの血を引く娘が乗っていた――。その情報は既に一部の者たちの耳に届いていた

 

 

「未だ不明……だが、いずれ必ず浮上する。時間の問題だ」

 

「モネ・ルミナ、シュガー・ルミナ……そして、セラ・ルミナ。奴隷商にモネ・ルミナを売り払おうとしていた話があった。そこから情報を洗い出し、名前を割り出した」

 

 

老人たちは無言で頷き合った

 

 

「……全ては、“空白の一世紀”を守るために」

 

 

 

―――

 

 

 

「お前の所為で、金獅子がマリンフォードに攻め込んできたぞ!」

 

「ワーハッハッハ! 悪ぃ、悪ぃ!」

 

 

処刑の三日前。護送船の牢の中、鎖に繋がれたロジャーは、ガープの怒りを豪快に笑い飛ばした

 

 

「笑い事じゃねぇよ、まったく……」

 

「謝ったろっ。……なぁ、ガープ。一つ、頼みがあるんだ」

 

「おい、俺は海兵だぞ。海賊の頼みなんか――」

 

「わかってる。……けど、子供を残してきたんだ」

 

「はあっ!?」

 

 

ガープの怒声が鉄の船体に反響する。だが、ロジャーは動じることなく、静かに言葉を紡いだ

 

 

「お前……ほんっと勝手なやつだな」

 

「もうすぐ生まれる子だ。……俺の名なんて、足枷にしかならねぇ。けど、せめて――生きてほしい。海に殺されるような人生じゃなく、普通に……笑って生きてほしいんだ」

 

 

ガープは無言で拳を握りしめる

 

 

「……俺は正義の海兵だ。お前みてぇな海賊の頼みなんて――」

 

「それでも、お前になら託せる。……“エース”って名前だ。あの子を、頼む」

 

 

しばしの沈黙――やがて、ガープは深く息を吐いた

 

 

「……チッ。本当に、死ぬほど勝手なヤツだな、ゴール・D・ロジャー」

 

 

ロジャーが笑う。その声はどこまでも穏やかだった。そして彼は懐から一枚の紙切れを取り出した。かすかに揺れている、それはビブルカードだった

 

 

「それ……なんだ?」

 

「セラって娘のビブルカードだ。……少し前まで、船にいた子でな」

 

 

ガープが眉をひそめ黙っていると、ロジャーは続けた

 

 

「血は繋がっちゃいねぇ。でも、いつかエースの助けになるかもしれねぇ。……お前が、渡してやってくれ」

 

 

ガープはそれを無言で受け取り、くるりと背を向ける

 

 

「……聞いてねぇぞ」

 

「ありがとな、ガープ」

 

 

嵐の波が鉄の船体を打ちつけていた

 

 

 

―――

 

 

 

処刑の日

 

セラたちはいつもの様に日常を過ごしていた。ローグタウンに行くことも考えた

 

だが――行ったところで、何ができる?

 

……何より、ロジャーの死をこの目で見たくなかった

 

 

そのとき、街に設置された報道用の電伝虫がゆっくりと目を開けた。現場にいる記者が持つ個体と繋がったのだろう。ピクリと触角が動き、まばたきを一つ

 

 

次の瞬間、記者の興奮した声が響いた

 

 

「まもなく、海賊王ゴールド・ロジャーの処刑が執行されます!ローグタウンの広場には、押し寄せた群衆で埋め尽くされ――!」

 

 

セラは思わず顔を背けた。聞きたくないと思ったからだ

 

 

「ゴールド・ロジャー! 最後に何か言い残すことはあるか!」

 

 

一瞬の沈黙――そして

 

 

「……おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探してみろ――この世のすべてを、そこに置いてきた!」

 

 

その声は堂々と響き渡った。死を恐れず、未来に笑いかけるような、ロジャーのいつもの声だった

 

そしてこの瞬間こそが

 

後に“伝説”となり、世界中の人々を海へ駆り立てる――

 

 

大海賊時代の幕開けであった

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