シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ! 作:マジカル☆さくやちゃんスター
ラオウとサウザーの戦いを見守っていたシンが、何かに気付いた。
遠くから地響きを立ててこちらに近付く一団……拳王軍本隊がようやく追いついてきたのだ。
その先頭を走る拳王軍軍師ソウガは、壊れた城と睨み合うラオウとサウザー、戦いを見守るサクヤ、気絶したユダ、へたり込むレイナを素早く視認し……レイナの隣で腕組みをして立つシンを見て、怒りの形相を浮かべた。
何が起こったのか……その全てを今見た情報だけで理解するのは難しい。
だが分かる事がある。
聖帝軍との同盟は破られたという事。聖帝とユダ、そしてKINGが対拳王軍という目的の為に一時的に手を結んでいたのだという事。そしてラオウとすら引き分けた危険な男が妹の近くにいて、妹が何らかの理由で立ち上がれないという事。
「レイナから離れろ!」
ソウガが馬から跳躍し、シンへ襲い掛かった。
シンは腕組みを解かないまま、余裕の表情で空中のソウガを見上げている。
「嵩山旋風脚奥義! 噴進脚!」
ソウガの右の義足が開き、内蔵されていたジェット噴射によって回転。
シンの脳天目掛けて踵落としを放つ。
だがシンは腕組みを解くとソウガの義足を掴み、攻撃を止めてしまった。
「面白い『芸』だ」
そう吐き捨て、手刀一閃。
ソウガの義足を切断し、そのまま興味を失ったように視線をラオウとサウザーへ戻した。
義足を失ったソウガは地面に転がり、何とか起き上がろうとするも片脚では上手くバランスが取れない。
「止めておけ。わざわざ死期を早める事はなかろう」
「……!」
シンの言葉にソウガはハッ、と息を呑む。
ソウガは既に冥王軍との戦いで致命傷を受け、死兆星を見ている。
残された命は後二か月……ソウガは既に死の運命が確定している。
それを一目で見抜かれた事にソウガは驚愕した。
「に、兄さん……」
「レイナ……」
「ごめんなさい……ラオウから託された拳王府を守る事が出来なかった……」
拳王府は、ただの拠点ではない。拳王軍の始まりの場所であり、拳王軍の権威の象徴なのだ。
ラオウの統治は、ラオウの力への恐怖によるものである。
故にラオウの強さには一点の陰りもあってはならない。絶対的なものでなければならない。
だからこそ、『本拠地が敵に攻め落とされた』という汚点はあまりにも大きい。
しかしそれを成し遂げた男はまるで城など興味ないと言わんばかりに、ラオウとサウザーの戦いのみに集中していた。
拳王と聖帝……両雄既に満身創痍。鎧は砕け、鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく晒している。
しかし闘志は衰えず、相手の隙を窺おうと睨み合っていた。
「流石……とは言わぬぞラオウ。貴様は未だ我が身体の秘密を見抜けてはいない」
「驕るなサウザー! 貴様の身体の謎など解けずとも、その謎ごと俺の拳で砕いてくれるわ!」
サウザーとラオウが同時に踏み込んだ。
サウザーが極星十字拳を放つも、ラオウはこれをスウェーバックで回避。
不安定な姿勢のままアッパーカットでサウザーの顎を狙う。
しかしサウザーは高く跳躍してラオウの拳を避け、空中で後転。
着地と同時に素早い踏み込みで肉薄し、貫手の連打を放った。
ラオウが浅い傷を負いながらも直撃を外し、剛拳で応戦する。
しかしサウザーはその場で横を向き、ラオウの拳を背中スレスレに通過させるようにしつつ回転。
ローリングソバットでラオウの頭を狙う。
ラオウもすぐに反応して裏拳で応戦。サウザーの蹴りとラオウの拳が衝突し、重い打撃音が響いた。
反動でラオウの身体が下がり、サウザーが空中へ飛ばされる。しかし鳳凰にとっては空こそが本領を発揮出来る場所だ。
軽やかに体勢を立て直し、腕をクロスする。
「南斗爆星波!」
十字型の闘気の刃を放ち、更に着地と同時にもう一発同じ闘気の刃を放つ。
空中と地上から迫る二発の闘気の刃。それに加えてサウザー自身も相手の逃げ場を塞ぐように前進した。
だが闘気技ならばラオウの得意とするところ。
渾身の気を練り上げ、右拳を突き出す。
「北斗剛掌波!」
放たれた闘気の奔流が二発の十字の刃を消し去り、突き進んだ。
サウザーは軽快なステップで剛掌波を避けるが、すぐに第二発が飛来する。
これも回避して跳躍し、空中で上下反転してラオウの背後を取った。
致命のタイミングで放たれた極星十字拳――しかし、ラオウの無想陰殺がこれを相殺した。
吹き飛ばされながらも瞬時に体勢を直してサウザーが着地し、ラオウもすぐに振り返る。
「鳳凰呼闘塊天!」
「闘勁呼法!」
両者が同時に闘気を高め、二人の立っている地面が罅割れた。
益々激化する戦闘を不安そうにレイナが見詰めるが、誰もこの戦いを止める事は出来ない。
下手な援護攻撃など何の意味もなく、弱者が近付けば余波だけで死に至る。
今この場において拳王と聖帝の戦いに割って入れるのはシンくらいなものだが、そのシンも静観に徹していた。
「はあーーっ!!」
「ぬうあー!!」
サウザーとラオウが正面から打ち合い、鮮血が舞う。
勝負は完全な互角……どちらが勝っても不思議はなく、どちらが勝っても無事では済まない。
ラオウは一撃の重さ。サウザーは手数。
鳳凰の連撃で拳王の肉体が激しく傷付くも、たったの一発の直撃がここまでの連撃を帳消しにするほどの痛手を聖帝に刻む。
「北斗輯連打!」
「極星雷雹撃!」
ラオウの剛拳による連打を、サウザーの連撃が迎え撃った。
二人を中心に円形に地面が抉れ、闘気の渦が吹き荒れる。
ラオウとサウザーが同時に弾かれるように後方に飛び、何とか着地するもどちらも膝が震えていた。
激しく肩で呼吸し……サウザーが、笑みを浮かべた。
「フ……フフフフ……予想以上だ北斗の長兄。よくぞこの帝王をここまで追いつめた。しかし、それだけでこの俺を倒す事は出来ん!」
サウザーが後方宙返りを決め、拳王府の瓦礫の上に着地すると両手を十字に広げた。
その構えを見てシンは悟る。
――サウザーは、アレを出す気だ、と。
「ぬ……南斗鳳凰拳に構えが……!?」
「帝王の拳、南斗鳳凰拳に構えはない。眼前は全て下郎! しかし対等の敵が現れた時 帝王自らが虚を捨てて立ち向かわねばならぬ! すなわち天翔十字鳳! 帝王の誇りをかけた不敗の拳!!」
その瞬間、誰もが一瞬、サウザーの背後で羽ばたく鳳凰の翼を幻視した。
決してハッタリではない。そう理解させるほどの凄まじい闘気と気迫が、あの奥義には込められている。
無論ラオウもまた、サウザーの必勝への気迫、帝王の誇りを肌で感じている。
故に彼もまた、この強大な敵に相応しい奥義を尽くすべしと判断し、両手で円を描き始めた。
「よかろう。ならばこのラオウ! 全身全霊をかけてうぬを打ち砕いてくれる!」
ラオウがこれから放つのは、彼が持つ数多の奥義の中でも最も破壊力に長けた一撃だ。
帝王の謎が未だに分からぬ以上、秘孔を狙っても意味がない。
ならばやるべきは、純粋な破壊力による粉砕! 帝王の謎という名の鎧も、鳳凰の翼も、愚直に正面から捻じ伏せるのみ!
「受けてみよ――このサウザー不敗の拳!!」
「受けてみい――このラオウの無敵の拳!!」
鳳凰が羽ばたいた。
同時に拳王が高めた闘気を解き放つべく、両手を前に突き出す。
――南斗鳳凰拳奥義 天翔十字鳳!!
――北斗神拳奥義 天将奔烈!!
二つの奥義がまさに衝突の瞬間を迎え、シンは冷や汗を流しながら決着の瞬間を見逃すまいと凝視する。
ラオウの剛拳が回避を許さず帝王を打ち砕くか。それとも帝王が見事回避し、カウンターで致命の一撃を加えるか……どちらにせよ、この激突で決まる!
そして遂に衝突し――そこには、誰もが予想しなかった結末が待ち受けていた。
「……何だと?」
サウザーが、理解出来ないという困惑の表情を浮かべる。
「……何故だ」
ラオウが歯を食いしばり、目の前の不可解な現実に困惑した。
――彼等の目の前にあったのは、二人の間に立ち塞がったサクヤの……拳王と聖帝の拳を受け、致命傷を負った女の姿であった。
「かふっ……」
「サクヤ! 何て無茶を!」
サクヤが血を吐いて崩れ落ちる。
すぐにレイナが駆け寄り、サクヤの外套を除けて傷を確かめようとしたが……顔を背け、そっと外套を戻した。
外套で隠れているが、身体は相当酷い事になっているのだろう。
当たり前だ。拳王と聖帝の奥義をまともに受けたのだ。無事で済むはずがない。
むしろ原型を留めているだけ見事と褒められて然るべきだ。
これが並の人間ならば今頃は、人の形すら保てず微塵に散っていただろう。
原型をかろうじて留めていられたのは、サクヤ自身が類まれなる戦士であったから。
黒山陰形拳を極めたサクヤは、女性の身でありながらも頑強な肉体を持っていた。
そして、ラオウとサウザーの拳を受けながらも身を捻り、衝撃を逃がしていた。
だからこうして、人の姿を保っているのだ。
しかしそれでも、拳王と聖帝の奥義を受けては絶命は免れない。
外套に隠れたサクヤの身体は、レイナが一目見てサクヤの死を確信する程に凄惨を極めていた。
「お許しください……これ以外に、お二人を止める術が、見付かりませんでした……」
「愚かな」
二人を止める為に割って入った。
そう告白し、許しを求めるサクヤをサウザーは、一言で切り捨てた。
サウザーにとってサクヤの行いは、ただ愚かで、そして理解し難いものだった。
彼女は拳王軍の軍師だ。ラオウがこのままでは敗れると判断して横槍を入れるならば分かる。
しかし我が身を捨てて他人に尽くすなど、意味が分からない。
しかもこの女が選んだのは『サウザーを倒す』事ではなく『二人を止める』事。
……己の身と命を捨ててまで、ラオウだけではなくこのサウザーまで救おうとした?
何を馬鹿な、とサウザーは胸中で一笑する。
全くもって、理解に苦しむ。理解しようとも思えない愚かな行いだ。
ただ一つ理解出来た事……それは、やはり愛とは人を狂わせる不要な感情だという事だ。
サクヤはラオウを愛していたし、サウザーはその事を知っていた。
故にサクヤの行いを、愚かと断じる。
見よ、聡明なはずのこの女でさえこれだ。愛は人を盲目にする。理性を失わせ、愚かな行為に走らせる。
「お笑い下さい……しかし……今、お二人が戦うのは……無意味……」
サクヤの言葉に、ラオウもサウザーも口を閉ざす。
ここで、これ以上戦うのは無意味。その通りだ。
ここで潰し合えば、シン一人が笑うだけ。この先に待ち受けるのはサザンクロスの一人勝ちだ。
それを分かった上で戦いを続行したのは、ただの意地。
退くに退けぬプライドが、そうさせたに過ぎない。
「サウザー様……貴方は、愛を知らなければ……覇王になれませぬ……」
「ぬう……」
サクヤの啓示に、サウザーは低く唸り声を上げる。
愛とは、若き日のサウザーが要らぬ感情として真っ先に切り捨てたものだ。
覇王になるならば、最も不要なもの……それを知らねば覇王になれない。
そう言われ、サウザーは理解を拒むように顔を険しく歪めた。
「拳王様……貴方は、哀しみを知らなければ覇王になれません……」
「むう……っ」
こちらも、サウザー同様に苦々しい表情を浮かべた。
覇王とは、覇道を往く者。徳ではなく武力にて他者を従え、天下を統一する者。
それは即ち、武力侵略によって領土を広げる王という事だ。
当然その覇道には多くの死があり、血が流れる。
敵も味方も大勢死ぬ。そしてそれを踏み潰しながら進まなければならない。一々悲しんでいる暇などない。
ならば哀しみなど、覇王には最も不要な感情のはずだ。
なのに、サクヤはそれを知らねばラオウは覇王になれないと語る。
その矛盾をラオウは受け入れられず、何も言い返せなかった。
「そして……シン様……貴方は……執念と欲望に拘り続ける限り……運命を超える事は出来ません……」
「……何だと?」
シンはラオウやサウザーと違い、覇道を目指しているわけではない。
よって覇王になれないと言われようと別に痛くも痒くもないと思っていた。
だが、運命を乗り越えられないと言われ、その顔が僅かに歪む。
執念と欲望こそ、シンの強さを支える柱だ。シンの原動力だ。
だがそれに拘る限り、運命に打ち勝つことは出来ない……そう告げられ、シンは拳を握る。
「…………」
ラオウ、サウザー、シン。天下を左右する三人の王が黙り込む。
愛を知らねば覇王になれないサウザー。哀しみを知らねば覇王になれないラオウ。そして執念と欲望に拘る限り運命を超えられないシン。
皮肉なものだ。覇王を目指す二人には決定的なピースが不足しており、逆に覇王を目指していない男は根幹となるピースを捨てろと言われた。
未来を見通す女軍師は、最後の道標だけを遺し……そして、静かに息を引き取った。
~少し先のあるかもしれない未来~
ケンシロウ「ユ、ユリア!」
ラオウ「生まれて初めて女を手にかけたわ」
あの世のサクヤ「!?」
・サクヤはサウザーの一撃の方が致命傷だったかもしれないからセーフ。
拳王軍に殺された女性達「おい」
・部下がやった事だからセーフ。
カサンドラに赤子と一緒に閉じ込められて死んだ女性「おい」
・死ぬまで閉じ込めただけで直接手は汚してないからセーフ。