シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第二十五話 俺の名を言ってみろ!

 三大勢力に挟まれた緩衝地帯……現在再建中の拳王府とKINGシティを結ぶ一直線の進路上に存在する村が今、拳王侵攻隊の襲撃を受けていた。

 侵攻隊を預けられた隊長のガロンは、拳王に忠誠を誓う者には焼き印を刻み付け、従わない者は灼熱の鉄板の上に乗せて焼き殺す残虐な男だ。

 しかしこの村ではまだ誰も焼き印を押されておらず、鉄板にも焼かれていない。

 それは、ガロンの前に立ち塞がった男がいるからだ。

 

「ほう……兄者の犬か」

「貴様……拳王様に歯向かうつもりか?」

 

 ガロンの前に立ち塞がったのはヘルメットで醜い素顔を隠した北斗の三男、ジャギ。

 この男の事はガロンも知っている。

 拳王曰く、北斗の面汚し。気に掛ける価値もない小物。

 それはラオウだけではなく、北斗を知る殆どの者に共通する認識だ。

 北斗の兄弟を語る時は大抵、ラオウ、トキ、ケンシロウの三人で『北斗三兄弟』と呼ばれる。

 ジャギはそこに入っていない。

 それは、ジャギ一人だけが三人に比べて大きく劣っているからだ。

 だからこそ、ガロンはジャギを嘲笑した。

 

「フン! 愚物は愚物らしく大人しく拳王様に従っておればよいものを。

えーと……名前はなんといったかな? 覚える価値もない小物の名など覚えておらんくてな。

まあ、どうでもよいか。貴様如きが拳王様に逆らうなど片腹痛い」

 

 ラオウが何故今日までジャギを生かしていたのか。

 それは、相手にする必要もないと考えていたからだ。

 こちらに従うというのであれば、わざわざ殺す意味もないし、とりあえず使ってやる……その程度の認識でしかない。

 逆に言えば、従わないならいつでも消してしまえるという事だ。

 つまり、ここでガロンがジャギを殺してしまっても、ラオウから咎められる事はない。

 

「拳王様の手を煩わせるまでもないわ! 俺の火闘術で片付けてくれる!」

「ほざいたな? これから貴様に生き地獄を味わわせてやろう」

 

 拳王侵攻隊と、村人達が見守る中で二人の男が構えた。

 先に動いたのはガロンだ。

 彼は両手に持った剣をぶつけて火花を起こし、そこに口からガソリンを吹きかけた。

 すると炎が発生し、ジャギへ襲い掛かる。

 

「うおおっ!」

 

 慌ててジャギが回避し、距離を空けた。

 これみよがしに持っている立派な剣で切りかかって来ると思いきや、まさかの火炎放射である。

 これにはジャギも虚を突かれたようで、多少の焦りが見えた。

 掠めた炎がジャギを照らし、一瞬ジャギの姿が紅に染まった。

 しかし奇策が通じるのは一度のみ。見せてしまったからにはジャギも、火炎を前提に戦えばいいだけだ。

 

「ク、ククク……面白い芸だ。だが種は割れた。最早俺には通じんぞぉ」

「フッ、強がりを言いおって!」

 

 再びガロンが炎を吐いた。

 それと同時にジャギが跳躍し、ガロンの背後に立つ。

 振り返ることも許さずに蹴り、ダウンしたガロンをもう一度蹴り飛ばす。

 ガロンも転がってすぐに起き上がり火炎を吐くが、相手は腐っても拳の達人だ。

 ジャギはヘルメットの奥で目を光らせ、狼のように鋭い突きで炎を引き裂きながら接近した。

 

「南斗邪狼撃!」

「ぐわっ!」

 

 ケンシロウに「シンの足元にも及ばない」と評されたにわか仕込みの南斗も、このレベルの相手になら通用する。

 確かにジャギは北斗四兄弟の汚点だ。それは変えようのない事実だろう。

 四人の中で一番弱く、一番下劣で、一番品性も才能もない。

 同じ時代に生まれてしまった三人を引き立てる為だけの噛ませ犬。当て馬。それも残念ながら否定しようがない。

 だが侮ることなかれ。それでもジャギは、その天に選ばれた超天才三人にギリギリ食らいつき、最後まで伝承者候補に残った男なのだ。

 

「北斗羅漢撃!」

 

 炎に照らされた紅いジャギの連撃がガロンを打ちのめし、一瞬にして二十七発の攻撃が炸裂した。

 最早戦う力すらなくなったガロンを無理矢理立たせ、ジャギは彼にショットガンを突き付ける。

 

「そういやあテメェ、面白い事をほざきやがったな。覚える価値もないだと?」

「あっ、い、いや、あれは言葉のあやで……も、勿論覚えておるとも! 拳王様の弟を知らぬはずがなかろう!? は、ははは……」

「そうか……ならば貴様」

 

 ジャギは口元を嫌らしく歪め、ガロンの首輪を掴んで持ち上げた。

 

「俺の名を言ってみろォ!」

「う……ジャ……ジャヂ……?」

 

 ジャギは無言でガロンに膝蹴りを叩き込んだ。

 それだけでは気が晴れず、ついでにもう一度殴った。

 そして胸元を開き、七つの傷を見せ付ける。

 

「そうか。俺の胸の傷を見ても誰だか分からねえのか?」

「ひっ……」

 

 ジャギはショットガンを取り出し、ガロンの額へ突き付ける。

 

「もう一度だけチャンスをやろう」

「え、ええと……ジ……ジ……ジードォ!!」

「俺は嘘が大嫌えなんだ!」

 

 ジャギの怒りの蹴りが放たれ、ガロンの腹にめり込んだ。

 倒れるガロン。その近くにジャギが歩み寄り、近くにあったバイクからガソリンタンクを素早く抜き取ると、ガロンにぶっかけた。

 

「あっ!? な、なにを……」

「イーッヒッヒッヒッヒ! 貴様のその炎……今ぶっかけたガソリンに引火したらどうなるかなあ?」

「あっ、あ! ああああ! も、燃え……燃え……!」

 

 ガロンの吐いていた炎は当然のように、ガロン自身に移り始める。

 慌ててガロンは火炎を中断するが、もう燃え始めてしまったものは止まらない。

 そして被害はそれだけに留まらない。

 ガロンは腹の中にガソリンを溜め、好きな時に火炎を吐き出せる火闘術の使い手だ。

 つまり彼自身が巨大なガソリンタンクなのである。

 

「この俺の顔より醜く焼けただれろ! ひーっひっひ! どうだぁ? 悔しいかぁ~?」

 

 ジャギが高笑いし、そしてガロンから離れた。

 同時にガロンが爆発炎上し、原型すら留めぬ肉塊へと変わった。

 更に爆発に拳王侵攻隊まで巻き込まれ、大勢の兵が火達磨になって転げ回った。

 その光景を前にジャギは顔色一つ変えず、炎の中を歩んで肉塊と化したガロンを踏みつける。

 

「ヘッ! まだまだヒヨッコだぁ!」

 

 勝者はジャギ……完璧な勝利だ。

 そのまま踏み潰し、残りの兵達に殺気を飛ばす。

 

「さて……これで残るは雑魚だけだな。おい貴様等、まだやるか?」

「う、うう……」

「ひいい……」

 

 ジャギは北斗の兄弟の中では、他の三人と比べて大きく劣っている。

 兵士達はそう認識していたし、繰り返すがそれは正しい。

 だが腐っても北斗の兄弟。その実力は少なくとも、拳王軍の雑兵程度が相手になるものではない。

 ラオウやトキの強さを100とするならばジャギは40……いや、30もないかもしれない。

 だがそれでも、1にも満たない雑魚から見れば強大である事に変わりはないのだ。

 戦意を失った拳王軍が一人、また一人と逃げ出す。

 その光景にアンナは安堵し、村人達も嵐が過ぎ去ったと胸を撫でおろした。

 だが違う。そうではない。

 嵐は去ったのではない……これからやって来るのだ。

 ガロンや他の兵士など、嵐の前のそよ風に過ぎなかったという事を、彼等はこれから知る事になる。

 

「……へ? 影?」

 

 真っ先に逃げ出した兵士が、突然空が暗くなった事に気が付いた。

 遅れて、空が暗くなったのではなく、日差しを遮る巨大な何かが自分の頭上にあるのだと気付く。

 一体何だと思い顔を上げ……そして彼は見た。

 巨大な黒い山……否、山と勘違いしてしまうほどに巨大な威圧感を持った、黒い馬を。その上に跨る世紀末覇者を。

 

「貴様……」

「ひっ、け、拳王様……こ、これは……」

「この拳王の部下が敵に背を向けて逃げるとは……恥を知れい!」

 

 ラオウの怒りに呼応するように黒王が前足を上げ、そのまま兵士を踏み殺した。

 兜がまるで紙のようにひしゃげ、その内部の頭が破砕される。

 更にラオウが拳を一薙ぎすると、他の逃亡兵が纏めて千切れ飛んだ。

 人体がまるで紙クズのように空を舞い、原型を失って地面に落ちる。

 そうして拳王軍に不要な臆病者を始末したラオウは、青い顔をしているジャギへ視線を向けた。

 

「ジャギよ……まさか貴様風情が俺に盾突くとはな」

「あ、あわ……あわわ……」

「愚かな奴よ。大人しくしておれば生かしてやったものを」

 

 まるで蛇に睨まれた蛙であった。

 足はガクガクと震え、戦う前から冷や汗が止まらない。

 ジャギ自身、理解しているのだ。自分では絶対にラオウに勝てないと。

 伝承者はケンシロウだが、拳の腕だけを言えばラオウはケンシロウより強い。

 何より彼は北斗の長兄。『兄より優れた弟はいねえ』と豪語するジャギにとっては精神的にも決して頭が上がらない存在だ。

 

「ま、待ってくれ兄者! 別に俺ぁ兄者に歯向かうつもりがあったわけじゃねえ! 奴等が俺の住む村に来たから火の粉を払っただけだ!」

「…………」

「こ、ここだけ素通りしてくれ! そうすりゃあ俺は兄者の邪魔をしねえ! 本当だ! なっ! なっ!?」

「見苦しいわ。一度牙を剥いたからには、せめて一矢報いる為に足掻いて見せよ」

 

 ラオウは拳を握り、ジャギを鋭く睨む。

 残念ながら、もう交渉の余地はない。

 その事をジャギも悟り、自棄になったように構えを取る。

 

「こ、こうなったら! 兄者といえど……!」

「ようやくやる気になったか。どうやら貴様はこの俺と戦う運命にあったらしいな。

よかろう、どこからでもかかって来るがいい」

「な、何ィ!? 馬から降りねえのか!?」

 

 構えを取ったジャギに対し、ラオウは馬上のまま手を広げた。

 このレベルの超人同士の格闘戦において馬上というのは不利だ。

 槍を持っての合戦ならばむしろ騎兵の方が強いが、それは通常の人間ならばの話。

 ラオウのレベルならば馬に乗る事で自在に動けなくなるデメリットの方が遥かに大きい。

 

「フン……お前如きの腕でこのわしを同じ地上に立たそうと思ったか! 最早この私を対等の地に立たせる男は数えるほどしかおらぬわ!」

 

 余裕の表情でそう言い放つラオウに、ジャギは気圧される。

 せめて一人称くらい統一しろと言いたくなるが、そんな茶化してられる雰囲気でもない。

 

「く、くぬ~! ならば馬に乗ったまま死ねい! 北斗千手殺!」

 

 ジャギが跳躍し、腕が千本に見えるほどの高速の突きを放った。

 だが直後に巨大な拳の幻影がジャギに迫り、ジャギはラオウに触れる前に吹き飛ばされてしまった。

 無様に尻もちをつき、一体何が起こったのかとラオウを見上げる。

 

「ハアッ! ハアッ! い、今のは一体……!」

「今、うぬが見たものは俺の闘気(オーラ)。うぬ如きではこの俺に触れる事すら出来ん」

 

 格が違う。その事をジャギのみならず、戦いを見ている誰もが理解した。

 同じ北斗神拳の使い手であっても、ラオウとジャギの間には埋められない差が存在している。

 既にジャギは恐怖に飲まれ、立ち上がる事すら出来ていない。

 

「ジャギ!」

「だ、駄目だ! 来るんじゃねえアンナ!」

 

 思わずアンナが駆け寄るが、前に出てくるのは悪手だ。

 ラオウの後ろに控えている拳王軍のチンピラ達が好色な視線をアンナに向けており、もしこの村が制圧されれば奴等がアンナに何をするかなど考えたくもない。

 だからこそ、ジャギは震える足に活を入れて立ち上がる。

 勝てない事は分かった。だがせめて、アンナが逃げるまでの時間くらいは稼いでやる。

 その決意の元、ジャギは勝ち目のない戦いに身を投じる覚悟を固める。

 核戦争で世界が滅んでから、悪事は散々に働いた。今更自分が幸せになれるとは考えていない。

 だがアンナは、こんな時代でも前を向いて正しく生きようとしていた。

 ならばアンナが、自分の同類のようなチンピラ達に蹂躙される未来だけは断じて許容出来ない。

 

「そこまでです、ジャギさん」

 

 しかしジャギを止める男がその場に現れた。

 ボサボサの黒髪に鼻に付けた絆創膏。首元のマフラーに洒落っ気のないシャツとズボン。

 無精髭を生やしたその人物は、外見だけを言えばどこにでもいそうなくたびれた男でしかない。

 しかし飄々としたその姿はどんな嵐にも動じない森のようにラオウの威圧を受け流している。

 ――森のリュウロウ。

 南斗六聖とも並び称される南斗の智将が、ケンシロウより先に村の危機に馳せ参じた。

 

「森のリュウロウか……うぬもこの俺に歯向かうのか」

「微力ながら」

「うぬの事は知っている。南斗の軍勢を率いて幾度もの戦に勝利した智勇兼備の将。

ここで死なすには惜しい男よ……我が軍門に下れ、リュウロウ。うぬにならば、我が軍を預けてもよい」

「貴方が覇道を止めるならば考えましょう。民に寄り添い、共に生きる……しかし、貴方にその生き方は出来ますまい」

 

 リュウロウは村人達を一瞥し、それから語る。

 

「この村をご覧下さい。弱弱しくも、必死に生きようとしている。

この村は芽吹いたばかりの小さな芽です。いずれは森にだって成長するかもしれない。

しかし貴方のやり方では、ただここを更地にしてしまうだけ……何も生みません」

「だから俺に歯向かうと?」

「その通りです。私はこの数か月、ケンシロウさんと共にありました。

民と共に歩み、彼等を救う救世主の姿を目に焼き付けた。

そして真意はさておき、民の心を掴み、民を守る王がいる事も知った。

我が拳に最早迷いも、悔いもありません」

 

 リュウロウは嵐のようなラオウの殺気を流しながら、凛と構えた。

 その眼には彼の言葉通り、迷いも死への恐怖もない。

 この先の未来を任せられる存在がいる事を知り、そしてこの眼で見て確信した。

 きっと大丈夫だ。この世界は南斗の王によって蘇り、王の目が届かない人々は北斗の救世主が救う。

 北斗と南斗が一つになる時、世界は光を取り戻す。そして確かな光が生まれようとしている。

 ならば、この身はせめて、この小さな村の為の礎となろう。

 この場で、命に代えてラオウを討つ! そうリュウロウは決意した。

 

「俺とやる気か。ならば戦う前に一つ聞いておこう。うぬは北斗七星の横にある小さな星を見た事があるか」

「あります。我が命は既に役目を終えている」

「ほう、あるのか。フフ……そうか、うぬは俺と戦う運命にあったようだ」

 

 ラオウはリュウロウの死の運命を悟り、そして死を与えるのが己である事を知った。

 ならばここで引導を渡してやる事こそ、この拳王の宿命。

 馬上で闘気を高め、リュウロウの挑戦を受けて立つ姿勢を見せた。

 

「――往きます」

 

 リュウロウが残影と化してラオウを通過し、彼の背後に着地した。

 後の事など一切考えない。体力の配分など知った事ではない。

 ラオウを倒した後に力尽きて死ぬとしても悔いはない。

 ただ全力で……いや、全力以上で。

 生涯最高の速度と練度で放たれた突きはラオウですら完全には回避出来ず、兜が砕け散った。

 

「ぬう……この鋭さ!」

「馬から降りる暇は与えません……お覚悟を」

 

 リュウロウが跳躍し、突きの連打を繰り出した。

 迎え撃つようにラオウが振り返りながら横薙ぎの一撃を放ち、二人の間で衝撃波が散る。

 リュウロウが宙を舞い、錐揉み回転しながら衝撃を逃がし、着地……と同時に駆け出す。

 ラオウには確りとリュウロウの動きが見えている。

 だがラオウに見えても、黒王は見えていない。

 その為黒王は回避動作に入らず、ラオウは咄嗟に上半身だけを横に逸らした。

 ラオウの頬が裂けて血が流れ、リュウロウが背後を取る。

 これが馬上の不利だ。地に立っていたならばラオウはすぐに振り向いただろう。

 だが黒王が振り向くまでラオウは後ろを向けない。

 その隙を逃さずにリュウロウが跳び、生涯最高の手刀を放った。

 対し、まだ完全に振り向いていない黒王の上でラオウが北斗剛掌波を放った。

 だがリュウロウは回避せずに片腕を焼かれ、それでも勢いは止まらずラオウへ手刀が迫る。

 

「ぬうう!」

 

 ラオウが咄嗟に左の掌で突きを防ぐが、リュウロウの突きはラオウの掌を貫通した。

 だがそれでもラオウの額には届かず、ラオウは笑みを浮かべる。

 そのまま貫かれたままの左手を強く握り、リュウロウを掴んだ。

 

「掴んだぞ、リュウロウ!」

「……!」

 

 ラオウ渾身の一撃!

 ――最早ここまでか……。

 死を受け入れ、リュウロウが笑みを浮かべる。

 やはり死兆星はリュウロウの上に落ちた。

 しかし後悔はなかった。元々、シンがあの日訪れなければきっとラオウかサウザーに奪われていた命。

 それが今日まで、ケンシロウと共に歩むことができた。

 大丈夫、こんな時代でもまだ希望がある。

 哀しみを背負い、人々の為に戦うケンシロウの強さを見た。

 執念を背負い、世界の為に戦うKINGの姿を見た。

 北斗と南斗が力を合わせればきっと、絶望を希望に変えてくれる。

 悔いはない。この眼は確かに、そこにある希望の灯を見たのだから。

 

 

 

「二神風雷拳!!」

「蝙蝠拳!!」

 

 

 

 しかし死の運命は再び覆された。

 シンがリュウロウの命を拾い、そのリュウロウが拾ったライガとフウガがこの場に馳せ参じたのだ。

 二人の大男が操る鋼線が絶妙な力加減でリュウロウを絡め取り、ラオウから引き離した。

 更に入れ替わるように物陰から飛び出したのは、ジャギを監視する為にジョーカーが派遣していたサザンクロスの拳士だ。

 彼等の任務はあくまでジャギの監視であり、ジャギが拳王と通じているようならばその動きをジョーカーに報告する為にこの場にいる。

 しかしサザンクロスにとっての重要人物であるリュウロウの危機を見て、彼等は独自の判断で参戦を決意したのだ。

 南斗聖拳の流れを汲む蝙蝠拳の鋭い鉤爪攻撃だが、ラオウの肉体には傷一つ付けられない。

 地面に倒れ込むリュウロウを庇うようにライガとフウガが立ち、リュウロウはその大きな背中を見た。

 

「ご無事ですか、リュウロウ殿!」

「どうかお下がりを! 貴方は死んではならぬお方!」

 

 かつて鬼の哭く街を守護していた二人の男が、誰も泣かぬ未来の為に拳王の前に立ち塞がる。

 しかしそれはリュウロウがラオウに挑む以上に危険で無謀な行いだ。

 二人の頭上にもまた死兆星が強く輝いている。

 ラオウの背後には二人の密偵が立ち、鉤爪で威嚇している。

 そのあまりに無謀な挑戦に、馬上のラオウが呆れたような声を出した。

 

「カサンドラの衛士にシンの配下か……愚かな。うぬら如きでこの拳王の相手が務まると思うたか!」

「……務まらぬでしょう」

「しかし、我等が命はケンシロウ様とリュウロウ殿に救われたもの! この命を捨ててでも、せめて一矢報いさせていただきます! お覚悟を、拳王様!」

 

 ライガとフウガは一度リュウロウの方を向き、全てを悟ったような笑みを浮かべた。

 そして前を向き、同時に飛び込む!

 

「い、いけません! 貴方達では……!」

「うおおおおおおおお!!」

「二神風雷拳!!」

 

 ここで命と引き換えに拳王にせめて一傷!

 その覚悟を前にラオウは不敵に笑う。

 

「馬鹿め! 天は既にうぬ等に死を与えておるわ!」

 

 ラオウと衛士二人の影が重なる。

 ――そして血飛沫が、舞った。

 

 

ちなみにケンシロウはカサンドラからトコトコと歩いてきています。

壊しちゃったの!? 車!

ケンシロウ「わァ……ァ……」

走れケンシロウ!! また一人強敵(とも)が死んでいく!!

バット「もうさァッ無理だよ! 乗り物ないんだからさァッ!」

 

【サザンクロスの密偵】

蝙蝠のような、そうでもないような変な恰好をしたハゲ×2。

アニメオリジナルキャラで名前はない。

南斗聖拳の流れを汲むらしい蝙蝠拳で鉄骨を自在に飛び回りケンシロウ相手に善戦した。

片割れが爆死させられても顔色一つ変えずに戦闘を続行する胆力の持ち主。

このSSではジョーカーによってアンナの村の監視として派遣されていた。

ジャギは別に味方でもなんでもないので、ジャギの戦いを援護もせずに観察していたがリュウロウが来てしまったので現場判断で乱入した。

単体でもハート以外の四重臣より強い。

 

Q、どうしてリュウロウはレイより善戦出来てるんですか?

A、理由はいくつかあるんやで。

 

【1:原作だとこの時のラオウには初登場補正がかかっていた】

超メタ的な理由だが、原作ではこの時のラオウには初登場補正がバリバリにかかっていた。

この時のラオウは『初登場したラスボスの初戦闘』であって、主役以外の相手に敗北は勿論の事、苦戦すらしてはいけない状況だった。

仮にここでラオウがレイに苦戦してしまうと、「レイ強い!」ではなく「ラオウ大したことないじゃん」になってしまう。

なので圧勝以外の結末はあり得ない。

しかしこのSSではラオウは初登場ではないし、そもそも読者がラオウの強さを知っている事前提なので初登場補正をかける必要がない。

ちなみに世の中には、マジで初戦闘のラスボスを苦戦させるどころか一方的にボコボコにしたジャスティスマンなる塩超人がいるらしい。

 

【2:精神状態】

ジュウザ戦でラオウが言っていたことだが、恐怖は拳を鈍らせる。

この時のレイは完全にラオウに呑まれてしまっており、そもそも本来の実力を発揮出来ていなかった可能性が高い。というかレイは大体いつも動揺しているので基本的に本来の実力を発揮出来ない。

逆にリュウロウは迷いなし状態なので実力『以上』の力を発揮出来ている。

なので強さ的には レイ>リュウロウ なのだが、この状況に限るならば

対ラオウ戦のリュウロウ>対ラオウ戦のレイ になる。

もっと詳しくやるならこう。

レイ(対ユダ戦)>レイ>対ラオウ戦のリュウロウ>対ラオウ戦のレイ>リュウロウ

 

【3:ラオウは事前にレイの拳を観察している】

「南斗水鳥拳楽しませてもらった」という台詞にある通り、ラオウは戦う前にレイの拳を見ている。

北斗神拳を相手にこれはかなり致命的。

外伝まで含めていいなら、ラオウはレイVSロフウの水鳥拳対決も見ているので更に致命的。

 

【4:初手超必ぶっぱ】

MUGENのネタ系大会でよくレイがやるやつ。開幕断己ぶっぱやめろ。

しかも断己相殺拳は相打ち狙いの奥義であり、「相打ちor失敗して自分だけ死ぬ」の二択しかない。

そんな技を初手でぶっぱしてしまったものだから瞬殺されてしまったと思われる。

あの技を打った時点で結果は「開幕DKO」か「開幕パーフェクト負け」のどちらかしかなかった。

リュウロウにはそもそも、そんな技がないので善戦出来ているように見えるだけである。

実際はレイの方が勝率が高い。

「善戦は出来るが勝ち目がない」のがリュウロウで、「瞬殺される可能性が高いが上手く決まればラオウを倒せる」のがレイ。

ただ先述の通り、事前に観察されてしまっているのがあまりにも致命的。

 

【5:余談】

ちなみにこのSSではレイは僅差でジュウザより強い設定。

ただし対ラオウ戦時に限ればジュウザ>レイ。

レイは上記で説明した通りに「精神的に呑まれていた」、「そもそも水鳥拳を観察されていた」、「牽制もフェイントもガード崩しもせず初手超必ぶっぱ」などの敗因がある一方、ラオウ戦のジュウザはユリア生存を知ったばかりで精神的に絶好調状態に入っており、しかもユリアを守る為の戦いなので更に精神コマンド『愛』が入った最強モード。北斗の拳の男は愛の為に戦う時が一番強い。

普段のレイを9、普段のジュウザを8とするならばこの時のジュウザは10以上である。

この時のジュウザは、レイで言えばマミヤを守る為に義星が輝いているユダ戦時に相当する。

更に水鳥拳と違ってジュウザは我流であり、ラオウに事前に拳を観察されておらず読まれにくい。

尚、ユダ戦時レイVSラオウ戦時ジュウザor普段のレイVS普段のジュウザならば僅差でレイ。

(このSSでの設定です)

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