シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第三十一話 天空を舞う羽

 これまでずっと睨み合いを続けてきた聖帝軍とサザンクロス軍の全面衝突が始まった。

 聖帝軍とレジスタンス・サザンクロス連合の双方が大地を揺らして直進し、兵士が激突する。

 遂に始まってしまった大勢力同士の戦いを、バットとリンは固唾を呑んで見守る事しか出来ない。

 

「ヒャッハーーー! 聖帝軍は消毒だー!」

 

 ゴラスが叫び、彼の乗った戦車から砲弾が発射された。

 それは聖帝軍に直撃し、何人もの兵士を肉片へ変える。

 続いてサンダー軍団が一斉にバイクやバギーで突撃し、聖帝軍と衝突した。

 

「南斗雷脚斬風陣!」

 

 カレンが蹴りを繰り出す度に、衝撃波が地を走り、敵を近付けない。

 アジトには今、シュウ、カレンの達人二人に加えてカレン率いるダイヤ軍とシュウ率いるレジスタンスの精鋭がいる。

 ゴラスの砲撃にサンダー軍団とカレンの攻撃を潜り抜けて来るだけでも一苦労だが、仮に運よく突破して来た者がいたとしても、この守りを抜くのは困難を極めるだろう。

 

「カレン、合わせろ!」

「はいっ、師父!」

 

 シュウとカレンが同時に跳び、敵兵が密集している場所に着地した。

 そして背中合わせとなり、蹴りを繰り出す。

 

「南斗――」

「――烈脚斬陣!」

 

 二人の蹴りが周囲の敵を次々と蹴散らし、鮮血が舞う。

 その奮戦を背に、無人の野を往くが如く歩むのはサザンクロスの王。

 立ち塞がる聖帝軍の兵士など物の数ではなく、シンの前に何十人立ち塞がろうとすぐに屍に変えられる。

 やがてシンは敵陣の奥――サウザーの前に辿り着き、そこで足を止めた。

 同時にサウザーがバイクから飛び降り、シンと同じ地上に立つ。

 

「ようやく出て来たな……ドブネズミ共の飼い主が」

「その様子だと俺の完成前祝いは気に入ってくれたようだな」

「ああ、気に入ったとも。褒美に貴様を我が十字陵に組み込んでやろうと思うくらいにな」

 

 共に南斗の六聖、共にこの世紀末に野心を抱く男同士。

 しかしどちらも世界の頂点を目指す以上、そこに共生はあり得ない。

 表面上は余裕の笑みを張り付けながらもシンは敵意を。サウザーは激しい怒りをそれぞれ胸に秘め、必殺の意気を以てこの戦場に出ている。

 

「俺との戦闘を避けていた男にしては随分と大胆に動いたものよ」

「フッ、いい加減、いつまでも南斗の頂点のような面をされ続けるのも目障りなのでな」

 

 どちらの軍も隙あらば援護に入り、敵将を討ち取ろうと機を伺っている。

 しかしどちらも踏み込めず、シンとサウザーを中心として兵士が誰も立ち寄れない奇妙な空間が形成されていた。

 半端な実力で踏み込めば何も出来ずに死ぬ……誰もがそう理解し、唾を飲んで二人の衝突を見守る。

 

「抜かせ! 所詮貴様等は我が将星の衛星に過ぎん。大鷲風情が鳳凰に挑む無謀を知るがよい!」

「笑止! 所詮鳳凰は実在せぬ空想の産物。貴様の最強もまた、幻であった事を教えてやろう!」

 

 シンとサウザーが同時にマントを脱ぎ捨てた。

 口とは裏腹に、決して目の前の相手を侮っているわけではない。

 容易ならぬ強敵である事など、一番分かっている。

 だがそれ以上に、己の強さへの自負がある。譲る事の出来ない野心がある。

 この世紀末を支配する王は唯一人……並び立つ事は、決してない。

 覇を唱える二人の南斗が同時に跳び、そして空中で衝突した。

 

「南斗獄屠拳!」

「南斗瞬鳳断!」

 

 シンの鋭い蹴りと、サウザーの手刀が激突した。

 そのまま間髪を入れず、シンは本命の手刀へ移る。

 南斗獄屠拳は初見殺しにして二段構えの奥義。蹴りの後に手刀で敵の四肢を断ち切る!

 しかしサウザーは見抜いていたようにシンの手刀を蹴り上げ、不発に終わらせた。

 背中合わせに着地し、両者はすぐに振り返る。

 

「シュアッ!」

「ふんっ!」

 

 遠心力を合わせた拳の衝突。

 二人を中心に衝撃波が発生し、その余波だけで近くにいた兵士達がひっくり返った。

 すぐにシンはサウザーの顎を狙って蹴りを放つ――が、サウザーは後方宙返りの要領で回避。

 そのままサマーソルトキックへ移行し、逆にシンの顎を狙った。

 だがシンは振り上げた足を下げて踵落とし。サウザーのサマーソルトキックを相殺した。

 サウザーは後方宙返りが中断されて背中から地面に落下し、シンは相殺した蹴りの威力で宙に浮く。

 ――南斗白燕転翔。飛ばされた勢いを利用してシンは後方へ宙返りし、サウザーも後転。すぐさま逆立ちし、腕の力だけで飛翔した。

 空を翔ける大鷲を追って、鳳凰が飛ぶ。

 そして空で両手を広げ、闘気を纏ってシンへ突撃する。

 サウザー渾身の彷翔十字鳳。迎え撃つようにシンは着地と同時にすぐに構え、貫手で迎撃を試みた。

 闘気を纏った攻撃同士がぶつかり、シンは弾かれたように後ろへ下がった。

 サウザーも吹き飛びながら空中で受け身を取り、見事な着地を見せる。

 

「南斗千首龍撃!」

「南斗悠翔嶽!」

 

 正面からの貫手の応酬――!

 両者の間で激しく拳が何度も衝突し、火花を散らした。

 最後に二人の拳が互いの頬を切り裂き、後方へ吹き飛ばされる。

 だがどちらも怯まない。流血しながらも踏み留まり、そして駆け出す。

 まるで短距離走で競うかのようにシンとサウザーが横並びに走り、そして視線が交差――次の瞬間、二人は走りながら無数の攻防を繰り広げた。

 前方にいた邪魔な聖帝軍を巻き添えにして吹き飛ばし、切り裂き、場所を変えて激しい攻防が続く。

 やがて聖帝十字陵へ着き、それでも止まらず駆け上がりながら戦闘を続行。

 二人の男が聖帝十字陵を足場に跳び回り、何度も空中で交差した。

 シンの右の手刀をサウザーが避け、ガラ空きの心臓を狙う。

 しかしサウザーの回避を見越していたように二撃目の左の手刀がサウザーの眼前へ迫った。

 耳の上を削られながらもギリギリで避け、今度こそ心臓狙いの貫手!

 シンは身を捻り、脇腹を掠らせながら回転。回し蹴りをサウザーの頭目掛けて放つ。

 直撃……すると同時に、サウザーが倒れながら放った蹴りがシンの側頭部にめり込んだ。

 

「ぬっ……!」

「ぐぬっ……!」

 

 二人共よろめき、一度攻防が止まった。

 だが大鷲と鳳凰の眼がギラリと光り、敵が体勢を崩したこの好機を逃すまいと必殺の奥義へ入った。

 

「南斗鳳凰拳奥義!」

「南斗孤鷲拳奥義!」

 

 サウザーが高く跳躍し、急降下しながら腕を十字に組んだ。

 迎え撃つようにシンは姿勢を低くし、下半身に力を込める。

 

「天将鳳拳!」

「翔鷲屠脚!」

 

 大空から地上の下郎を葬るべく放たれた鳳凰の爪。

 対するは王者を仕留めるべく地上から大空へ飛翔する大鷲の嘴。

 この時、戦いを観戦していた者達は確かに視た。

 二人の南斗の拳士の闘気が鳥の形となり、激しく衝突する光景を。

 先程以上の衝撃が二人を中心に拡散し、砂塵が巻きあがる。

 聖帝十字陵に亀裂が走り、地震のように激しく大地が揺れ、天が裂けた。

 そして二人は……未だ健在! 所々傷付き、血を流しながらも五体満足で立っている。

 砂埃の中で二人のシルエットが止まる事なく動き、打撃音が響き続ける。

 数秒の攻防……煙を裂いて飛び出してきたのはサウザーであった。

 彼は口から血を流しており、聖帝十字陵の階段をバウンドしながら転げ落ちていく。

 その最中に後方宙返りをして着地。階段の上で足を振り上げた姿勢のままのシンを睨んだ。

 その光景を見て兵士達は理解する。この戦い、シンの方が一歩先を行っている、と。

 

「ぬうう……シン!」

「ククク……死が近いな、サウザー?」

 

 僅かな傷の差。僅かな体力の差。

 しかし達人同士の戦いでは、その僅かな差が致命的な差となる。

 そしてどちらが現在優位に立っているのかは、他ならぬ戦っている当人同士が分かっている事だ。

 

「お、おい……このまま勝てそうだぜ、リン!」

「うん! 頑張って、シンさん!」

 

 サザンクロス軍の後ろで戦いを見守っていたバットとリンが、味方の優位に喜んだ。

 ケンシロウが倒れ、目を覚まさない今はシンが頼りだ。

 だが無邪気に喜ぶ二人とは反対に、シュウの表情は険しかった。

 

「……師父?」

「いかん、このままではシンは負けるぞ!」

「な、何故!? 僅かですが、シン様が押しているように見えますが……」

「まだサウザーは南斗鳳凰拳究極の奥義を出していない。そしてアレを出されてしまえば、南斗聖拳に勝ち目は……ない! そしてシンはその事を分かっているはずだ!」

 

 シンは一見すると勝ち誇っているように見える。

 だがシュウは、心の眼で見抜いていた。

 シンのあの態度はハッタリだ。その内心には焦りが生じている。

 サウザーが究極奥義を出せば、シンの勝ち目は限りなく薄くなる。

 だからシンはサウザーが奥義を出す前に仕留めてしまうべきだった。

 しかしサウザーは南斗最強の男。究極奥義がなくても、彼は強い。

 

「フフフ……流石だ、シン。俺はとうとう、拳法の腕で貴様に勝つ事が出来なかった」

「……ほう。負けを認めるか……らしくないではないか」

「認める他あるまい。貴様は大した男だ。

誇れ。貴様はこの聖帝に敗北を認めさせたのだ……ただし、それはあくまで拳法家としての勝敗だがな……そして!」

 

 サウザーは高く跳躍――シンの頭上を飛び越して未完成の聖帝十字陵の頂点に立った。

 両手を広げ、全身から放たれる闘気は鳳凰となって羽ばたく。

 

「貴様に敬意を表し、この奥義を貴様に捧げよう!

眼前に立つは対等と認める我が生涯の宿敵!

拳法では貴様が勝利したが、それでも最終的に勝つのは我が不敗の拳!」

 

 ――南斗鳳凰拳究極奥義! 天翔十字鳳!

 

 雷光が煌めき、サウザーの姿を照らした。

 最早聖帝に油断はない。侮りも慢心もない。

 シンを対等……いや、それ以上の敵と認め、全力を出す事を決めたのだ。

 今だけは南斗の帝王ではなく、一人の男として。

 シンという強敵を全力で葬る事。それこそがサウザーがシンへ捧げる、最大の敬意であった。

 己より格上と認め、その上で南斗聖拳では決して破れぬ奥義を以て仕留める……それは、サウザーにとって勝利ではない。

 そして勝てなかったという事実は永遠に心に残るだろう……シンの名と共に。

 しかし拳法家としてはシンの勝利でも、生死はまた別の話。殺し合いでの勝敗はまた別の話!

 

「滅びるがよい! シン!」

 

 サウザーが跳んだ。

 それを見てシンは片手に闘気を集中させた。

 

「舐めるなよサウザー! 鳳凰の羽ばたきなど、この技で吹き飛ばしてくれるわ!」

 

 ――南斗雷震掌!

 シンが地面を思い切り叩き、サウザーの真下から闘気が噴出した。

 天翔十字鳳は天空を舞う羽根となり、あらゆる攻撃をすり抜ける。

 しかし決して、実体が空に同化しているわけではない。

 あくまで攻撃を受け流しているだけ。

 岩すら砕く強力も、空を舞う一枚の羽根を壊す事は出来ない。

 それと同じように、天翔十字鳳はあらゆる衝撃を受け流す。

 即ち天翔十字鳳の正体とは、全ての衝撃を受け流すほどの、究極の脱力!

 だが空を舞う羽根を殴る事は出来なくても、炎に巻き込んで燃やす事は出来るはずだ。

 それと同じように、シンは南斗雷震掌の闘気流によってサウザーを迎撃しようとしたのだ。

 

「フハハハハハ!」

「ヌウ!」

 

 しかし何事もなかったように雷震掌を飛び越えて来たサウザーが、シンの肩を切り裂いた。

 究極の脱力の前では雷震掌など届かない。

 爆炎が当たる前に、爆風が羽根を飛ばしてしまう。

 着地したサウザーは再度飛翔し、再びシンに襲い掛かる。

 

「ならば! 白鷲紅嘴!」

 

 シンの手から闘気が放たれ、それは剣となってサウザーへ伸びた。

 しかし当たらない。刺さったように見えてもサウザーは無傷で、シンとすれ違った。

 遅れてシンの背中が裂け、血が溢れる。

 

「ぐっ……おのれ!」

「フハハハハ! 無駄だ、シン! 南斗の技では鳳凰は堕とせぬ!」

 

 南斗聖拳は、この世に生まれたその時から北斗神拳の後塵を拝してきた。

 だからこそ、南斗の技に鳳凰を堕とす術はない。

 何故なら、北斗神拳には水影心がある。

 天翔十字鳳を打ち破る技などを作っては、必ずそれは北斗に真似られてしまう。

 無敵の天翔十字鳳に決して弱点を作ってはならない。

 だからこそ、南斗には天翔十字鳳への対抗策などないのだ。

 足元を狙っての蹴り、跳躍しての薙ぎ払い、グレイブのような鋭い手刀、南斗千手斬、そして南斗獄屠拳……その全てが当たらない。

 

「そうだな……確かに、南斗の技に鳳凰を堕とす術はない。だが、一つだけ例外がある」

 

 シンはそう言い、眼を閉じる。

 すると彼の全身から絶えず吹き上がっていた闘気が消えた。

 シンの強さの源は執念と欲望。だが邪心に塗れた拳は大きな力を発揮する事は出来ても、それはあくまで力で破壊出来るものに対してしか優位性を発揮しない。

 天地を砕く剛拳も一握りの心を砕く事は出来ない。それと同じく、力だけで戦うには限界がある。

 ならば力の通じぬ鳳凰を堕とすには、力以外の何かが必要だ。

 その為に余計な力みは……それを生み出す執念と欲望を捨てなければならない。

 故に心を空にし、サウザーと同じ領域へ!

 帝王は虚を捨てる事で天を舞う。ならばこちらも同じく、重りを捨てる事でしか同じ高度には届かない。

 

「そんなものはない! 死ね、シン!」

 

 サウザーが迫り、シンの前で両腕を薙いだ。

 しかしその攻撃は当たらない。

 確かに直撃させたはずの一撃が空を切り、シンをすり抜けたのだ。

 その直後にシンがサウザーとすれ違い、サウザーの腕が裂けて血が溢れた。

 

「何っ……こ、これは……まさか! 天翔十字鳳!?」

「そうだ。天を舞い無敵と化す王が自分だけだと思うな、サウザー」

 

 驚くサウザーに、シンはどこか浮かない表情で告げた。

 シンは、修行時代にケンシロウから盗んだ水影心がある。

 そして過去に何度もサウザーと組手を行い、天翔十字鳳をその眼で見た。

 だから、真似ようと思えば真似られるのだ……南斗鳳凰拳であろうと。いや、今までに見て来たあらゆる南斗の技さえも。

 しかしシンにとってこれは、納得のいかない戦い方であった。屈辱ですらあった。

 何故なら天翔十字鳳を使うというのは、結局自分の力では鳳凰拳に勝てないと認めたも同然だからだ。

 サウザーが拳法の腕では敗北を認めたのと同じように、シンもまた孤鷲拳の敗北を認めた上でこの技を使用した。

 

「ククク……見事だ、シン。俺と同じ天空へと至ったか」

「……そういう事だ」

「よかろう! ならばどちらが真の帝王か、決着を付けようではないか!」

 

 サウザーが跳んだ。同時にシンも跳躍し、上空で二人が接近する。

 ――そして、天翔十字鳳同士の戦いが始まった。

 

 

ちなみにターバンのガキはクラブの仇を討とうと無断出撃してその辺のヒャッハーの足を刺した直後にぶっとばされて失神しました。

イチゴ味世界線ならサウザーに迫れたものを……哀れ。

 

【いちいち技名言わないと打てないの?】

打てる。

名前を叫ぶのはただの気分。

宣言した技名と同じ技を本当に使わなければいけないというルールもない。

実際シンは時々「ナントゴクトケン!」と叫びながら天翔十字鳳を使う。

もしかして天翔十字鳳の名前覚えてない?

 

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