シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第三十三話 fufu、話を聞いてくれません

 勝敗は決した。戦いを見守っていた誰もが、そう確信した。

 聖帝軍、KING軍……そしてケンシロウがサウザーに挑んだと聞いて駆け付けたラオウとトキ。

 彼等の前で今、南斗最強の男の座が入れ替わろうとしていた。

 吹き上がる闘気によってシンの金髪が逆立ち、波打つ。

 一方のサウザーは重傷を負い、膝を突いていた。

 

「ぐっ……鳳凰を、超えるか……シンよ……!」

「そうだ。俺は今、極星を超えて新たな南斗の歴史を刻む。

サウザーよ……俺の下につけとは言わぬ。俺の新たな一歩を彩る糧となれ」

 

 これが他の男だったならば、敗者は勝者に従えと要求したかもしれない。

 しかし目の前の男は南斗最強の男。将星のサウザー。

 誇り高き帝王の誇りを、あえて地に堕とす事はしない。

 全身全霊を以て、『敵』として葬る。それが同じ南斗の拳士としてシンがサウザーに捧げる最後の敬意であった。

 

「一つ聞きたい……最後の一瞬、俺は貴様の果てしない執念を見た。

貴様の拳を高めたものは何だ? 鳳凰を超えたものの正体は……?」

「愛」

 

 サウザーの疑問に、シンは一切迷う事なく、一切の躊躇もなく言い切った。

 シンの目的は言語化すれば陳腐で単純で、そしてとても小さい。

 ――ただ、愛した女の笑顔を取り戻したい。それだけだ。彼はそれだけしか考えていない。

 それ以外一切合切、有象無象、森羅万象二の次だ。

 サザンクロスを築いたのも、この世紀末に苦しむ人々に居場所を与えたのも、文明的な生活を取り戻そうとしているのも……そして地球の環境を戻そうと遮二無二走っている事すらも。

 全てはただ、サラ一人の為。サラを笑顔にする為だけに行っている。

 だから仮に、人々を不幸にする事でサラが笑顔になるならば、彼は迷わずそれを実行しただろう。

 しかしサラはそんな事をしても喜ばず、その眼は涙に濡れると分かっている。

 ならば彼女が泣かない世界にしよう。その為の邪魔者は全て排除しようと決めた。

 そこに例外はない。たとえそれが聖帝や拳王……天の意思であろうとも。

 

「愛……愛だと……? 馬鹿な……愛など何の役に立つ!

愛故に人は苦しまねばならぬ……悲しまねばならぬ……! 愛は人を狂わせるのだ!」

「ならば狂おう。元より今は世紀末……最初からイカれている。この狂気に身を浸し、俺はこの手に全てを掴む」

 

 天に興味はない。KINGを名乗り勢力を束ねているが、実はそれほど王になりたいわけでもない。

 名声も栄光も国も、全ては副産物。本当の目的に辿り着く為の通過点に過ぎない。

 欲しいのはたった一つ……サラの笑顔のみ! 愛した女が心から笑える未来のみ!

 

「……なるほど、勝てぬわけだ……愛から逃げた俺と、愛という狂気を支配した貴様……。

サクヤの予言は正しかった……これが運命というものか」

「違うな。俺が貴様に勝てたのは、単純に俺が貴様を超えたからだ。運命などではない。

貴様の誇りを、運命や宿命などという他者に委ねるな……貴様の魂は、そんなに安くない」

 

 シンの叱責に、サウザーが愉快そうに笑った。

 この戦いに運命も宿命も天の意志も関係ない。

 ただ自分の意志で、自分の為に戦っている。

 その事に気付かされ、サウザーの全身から闘気が立ち昇った。

 

「フッ……フハハハハハ! その通りだ、シン! 俺達のこの戦いは、俺達二人以外の誰の意志も介在していない! 俺達だけの戦いだ!」

「ああ、そうだサウザー! 俺達は運命や宿命の奴隷ではない! 戦う事でしか己の道を切り拓けなかったが……常に、自らの意志で戦っていた!」

 

 全身から闘気を漲らせる南斗の男が二人、不敵に笑い合う。

 これから行われるのは最後の衝突。そして今生の別れ。

 だが迷いはない。後悔も恐怖もない。

 何故なら、自分で選んだ自分の戦いなのだから。

 

「ならば宿敵(シン)よ!」

「ああ、好敵手(サウザー)よ!」

 

 力強く地面を踏み締めて聖帝が歩む。

 

「退かぬ!」

 

 地面を踏み砕いてKINGが進む。

 

「媚びぬ!」

 

 サウザーとシンの視線が交差する。

 もう敵への怒りはない。ただ、目の前の漢への惜しみない敬意だけがあった。

 よくぞ俺に前に立ち塞がってくれたという感謝だけがあった。

 たとえ敗れ、死しても悔いはない……これほどの漢に討たれるならば。

 そして、その上で尚、この尊敬すべき敵に勝利したいと強く願った。

 

「「省みぬ!!」」

 

 シンとサウザーが更に踏み込み、二人の額が激突した。

 反動で離れると同時にサウザーが羽ばたき、最後の天翔十字鳳へ入った。

 シンも構えを取り、先程開眼したばかりの奥義を今一度我が物にせんと神経を研ぎ澄ませる。

 

「帝王に逃走はないのだーーー!」

 

 鳳凰が過去最高の練度を以て飛翔した。

 まるで翼のように広がる闘気が羽ばたき、大空を翔ける様――まさに天空の鳳凰。

 それを迎え撃つのは、天を食い千切らんと昇る龍。

 千の頭に見える程の連打を……それを上回る無限の想いをたったの一発へ集約してただ一つの龍となりて自らを再び生と死の狭間へ置いた。

 どう足掻いてもシンは、無想(ゼロ)の境地に辿り着く事は出来ないし、最早そのつもりもない。

 この無限の欲望を己の一部として受け入れて、前に進む。

 そして、どれだけ救いようのない荒廃しきった世界であろうとも、この世界で生きていくと決意する。

 綺麗に見えてその実何も変えられない救世主譚はいらない。

 醜く汚かろうと、この滅びた世界を蘇らせる悪党の物語を歩んでみせよう。

 だから、いくらでも生にしがみついてみせる。自分には無想も転生も必要ない。

 必要なのは『今』! この一瞬に全力を注ぎ込む。

 己を生と死の二択に立たせ、生きるという欲望を勝利へ変えてみせよう。

 これは無より転じて生を拾うその一瞬に一撃を叩き込む……その為の奥義!

 シンの周囲の景色がスローモーションとなり、究極にまで高めた集中力と体感時間はやがて、サウザーが攻撃へ移るほんの一瞬……刹那に等しい時間の隙間で、サウザーを停止させた。

 生と死の一瞬の狭間。時間の隙間。その世界にシンは己を潜り込ませ――サウザーの胸を貫くと同時に時間の流れが元に戻った。

 

「南斗孤鷲拳……いや、()()()()究極奥義――名付けて、有念無生(うねんむしょう)

 

 全ての思いを無くし心に何も思わぬ事を『無想』と呼ぶ。

 そして転生は、肉体が滅びても魂が巡り次の生へ到達する事を呼ぶ。

 その二つを合わせて無想転生。

 逆に形あるものを心に思い浮かべ、観想する事を『有念』と言い、無生は輪廻転生を否定し生と死のサイクルを断ち切る事を意味する。

 合わせて有念無生――心に思い描くのは愛する者が笑う未来。

 未来を目指し、転生を否定してこの世界で生きていく決意。それこそがシンの辿り着いた答えだった。

 シンは元々こことは別の世界で生きて、そして生まれ変わった転生者だ。

 だからこそ、もう転生はいらない。

 『次』に幸せを求めるのではなく、汚泥をすすろうとも『今』の世界を変える。

 一度転生して理解したのだ。たとえ生まれ変わろうと、次が幸せとは限らない。

 真に幸福になりたいならば、世界の方を変えるくらいの傲慢さも時には必要なのだ。

 故に……今ここに、シンの南斗真拳は完成した。

 

「ごはっ……!」

 

 サウザーの口から血が溢れた。

 龍の牙が鳳凰を捉え、貫いたのだ。

 二人を照らすように落雷が轟き、そして激戦の余波によって聖帝十字陵に亀裂が走った。

 鳳凰が堕ち、階段を転げ落ちる。

 シンは手についた血を拭う事もなく、倒れたサウザーへと近付いていく。

 

「サウザー……南斗最強の名、確かに貰い受けたぞ」

「フ……よかろう……誇るがよい。今より貴様こそ……南斗の……極星だ……!

この俺を倒したのだ……誰にも文句は言わせぬ……!」

 

 シンとサウザーが数秒、見つめ合う。

 もう余計な言葉は要らなかった。

 これからは俺が南斗最強の男として貴様の分まで君臨してやるという決意。

 俺に勝利したのだから、誰にも負けるなと言う激励。

 その全てが不要だった。相手の眼を見るだけで心が伝わった。

 

「さらばだ」

「ああ、さらばだ」

 

 シンはそのままサウザーを素通りし、サウザーもまたシンに背を向けたままどこかへ向かう。

 せめて最期は、死にたい場所で……。

 サウザーは聖帝十字陵の中腹まで向かうと、壁に手を添えた。

 するとサウザーを出迎えるように壁が崩壊し――中から、老人の遺体が現れた。

 

「お師さん……すまぬな、お師さん……南斗の頂点である鳳凰拳が、負けてしまった……。

だがあいつなら……シンならきっと……歴史上の誰も届かなかった……頂の先へ届くはず……。

悔いはない……奴ほどの男に敗れたならば……!」

 

 物言わぬ遺体にサウザーが語りかける。

 その様はまるで、父親に学校で起こった出来事を話す子供のように見えた。

 

「お師さん……せめて、その手の中で……もう一度、温もりを……」

 

 サウザーは遺体に縋りつき、静かに眼を閉じた。

 その顔からは険が消え、穏やかな表情をしていた。

 そして彼の死を嘆くように聖帝十字陵が轟音を立てて崩れていき。

 

 ――サウザーの姿は、瓦礫の中に消えて行った。

 

 

 その後の事を話そう。

 まず、サウザーとの戦いに勝利した俺は、そのまま聖帝軍と聖帝領を吸収した。

 従わない連中は勿論いたが、そういう奴等がどうなったかは……もう語る必要はあるまい?

 あえて詳細を語る事はしないが、俺に甘さを期待しない方がいいとは言っておこう。

 シュウも特別相談役という役職を与えて正式にサザンクロスに加え、レジスタンスも俺に下った。

 一応、同じ六聖拳という事もあって立場上は俺の配下ではなく相談役という位置付けにしているが、実質的には部下だな。

 これによって、我がサザンクロスの勢力は完全に拳王軍を上回った。

 とはいえ、あまり拳王領にちょっかいはかけないように言い含めている。

 いかに勢力で上回ろうと、それでもラオウ本人が弱体化したわけではなく、雑兵など何千人ぶつけようとラオウは倒せない。

 怪我が癒えたケンシロウはトキと共に村に帰り、ラオウも今の所は大人しくしている。

 サウザーとの戦いを観察されてしまったようだが、それを言うならば俺だってラオウとサウザーの戦いを以前観察させてもらっている。条件は五分だ。

 また、元ダイヤ軍とクラブ軍、それからクラブに影響を受けたレジスタンスの一部が集まって新たに軍楽隊を結成した。

 なんでもダイヤとクラブのバンド魂は生きているとか何とか。

 俺は音楽に詳しくないし、ヘヴィメタルもあまり好きではないのだが……まあ、やりたいならいいかと許可を出しておいた。

 これが意外と戦意高揚として役立っているらしい。

 

 この後の展開は、原作通りならばまずラオウがリハビリの為にコウリュウの許を訪れて殺害するが、この世界ではコウリュウはサザンクロスの一員として迎え入れているので、もうあの洞窟にはいない。

 まあ、リハビリなどしなくてもラオウなら普通に完全復活するだろうし、コウリュウと戦わなくてもほとんど変化はないだろう。

 一応、念のためシュウやレイといった実力者はKINGシティに滞在させているので、コウリュウの代わりに彼等が狙われる事はあるまい。

 その後はトキとラオウの宿命の兄弟対決。ここでトキが勝利してくれるのが一番楽でいいのだが、病の身という事を考えれば望みは薄い。

 だからといって邪魔をする気も、横槍を入れる気もない。

 あれはトキとラオウの、北斗の対決だ。他の誰かが邪魔していい戦いではない。

 宿命の兄弟対決の後はリュウガがアホをするが、もうリュウガは死んでいるので、多分トキは普通に天寿を全うするだろう。

 そして最後に南斗最後の将が動き、ケンシロウとラオウの対決へと繋がっていく……というのが俺の知る流れだ。

 つまり、まあ……ジュウザ以外の南斗五車星が雁首揃えてこっちに来るなんて展開、知らないんだよなあ。

 

「南斗五車星、海のリハクでございます」

「その娘、トウ」

「同じく五車星、炎のシュレン」

「風のヒューイ」

「山のフドウ」

 

 名乗りを上げた五人は、国境にある砦の前で片膝をついていた。

 少し前に、砦におかしな連中が押しかけてきていると報告があったので、調査に来たらこれである。

 以前から最後の将からのコンタクト希望の手紙や使者はしつこいくらい来ていたが、とうとう痺れを切らして五車星が来たらしい。

 こんな展開知らない、とは言ったが、一応原作でもこれに似たイベントはある。

 それは、ユリアが飛び降りた後の一幕だ。五車星がユリアを保護する為にサザンクロスを訪れるイベントは確かにあった。

 しかし、それは彼等の将であるユリアがいたからだ。

 一方この世界では、俺はユリアなど誘拐していない。というか頼まれても、あんな世紀末傾国火種など手元に置かない。もしラオウが奪いに来たら大喜びで初手無条件譲渡するくらいには要らない。

 ユリアが悪くないのは分かる。だがそれでも国を治める身として、断固として要らない。

 

「何の用だ。宣戦布告でもしに来たか?」

「いいえ、シン様。我等が争う理由は何もありませぬ」

 

 あるんだよ。

 お前等、うちの隣に陣取ってやがるだろうが。そのせいで領土広げられないんだよ。

 原作通り南に都作れよ。何でわざわざこっちに来るんだよ。

 正直、宣戦布告してくれる方がまだ有難い。

 そうすれば、こちらも遠慮なく大砲とミサイルを撃ちこんで瓦礫の山にしてやれる。

 

「シン様がサウザーを倒された今、暴凶星(ラオウ)が近いうちに動くでしょう」

「だろうな。奴を仕留めるのが俺か、トキか、それともケンシロウか……いずれにせよ、時代はまだまだ荒れる」

「ラオウは必ずや、我等が将を狙うでしょう。将が奴の手に落ちれば、将の眼は涙に濡れる」

 

 いや、だから何だ、としか言えない。

 ユリアが泣こうが笑おうが怒ろうが踊ろうが、俺にとってはどうでもいい。

 勝手に泣いてりゃいいんじゃないか?

 泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ、ほーら泣くぞ。

 私、『シン』を倒します。絶対倒し……あ、シンは俺だった。

 

「そうか」

「南斗極星たる我等が将は、永遠に輝く光。この世に光を取り戻す為になくてはならぬお方。将がラオウの手に落ちるのは避けねばならぬのです」

 

 いや、勝手に極星名乗るな。

 南斗の極星はサウザーの将星であって、慈母星じゃない。慈母星は将星の衛星だろうが。

 今までサウザーにビクビクして隠れてたくせに、サウザーが死んだ途端に極星気取りとか舐めてんのか。

 それにサウザーに勝利し、極星を名乗る事を認められたのは俺だ。サウザーと戦い、あの誇り高い聖帝に勝利したのは俺だ。断じてユリアではない。

 五車星にとっては慈母星こそが極星なんだろうが、それをよく俺の前で言えたものだな。

 もしかして、遠まわしに殺してくれって言ってる?

 

「分からんな。ここまで一切動かなかった奴が今更ラオウの手に落ちた所で何が変わる?」

「南斗と北斗が一つになった時、世界は平定を取り戻すのです。ケンシロウ様と我等が将が出会った時、世界に光が溢れるでしょう。最後の将なくして世界の平安はありえぬのです」

 

 ……fufu、話を聞いてくれません。

 俺の中のイマジナリー聖帝が再翻訳のような丁寧口調で話すくらいに、俺は呆れ果てていた。

 いや、それ原作でも言ってたけどさ……ケンシロウとユリアが再会した所で別に、何も変わらないだろ。

 あの二人が再会すれば、この荒れた世界が突然不思議パワーで元に戻るのか? ヒャッハー共が全員一斉に改心するか? ジャコウが天帝を解放するのか? 修羅の国が平和になるのか? 地面から建物がニョキニョキ生えてきて戦前の文明に戻るのか? 神の龍が現れて「さあ願いを言え。どんな願いでも叶えてやろう」と言ってくれるのか?

 もしそうなら、俺もあの二人を再会させる事に価値を見出してもいい。協力もしてやろう。

 だが実際は何も変わらない。二人でどこかに旅立って、そして同じような世紀末が続くだけだ。

 

「で?」

「……で、とは?」

「光るから何だと言うのだ? 永遠の光とやらがどう役に立つのか、俺には全く分からん。

光るだけならば、懐中電灯の方が優秀だ。いっそ今からでも電灯を最後の将にして崇めてみるか?」

 

 なんかこいつら、カルト染みてるっていうか……肝心な所が抽象的でフワフワしてて、具体的な事を何も言ってないというか。

 ケンシロウとユリアが再会して『何故』世界が平定を取り戻すのか、『どうやって』光が溢れるのか。それを全く説明出来ていない。いや、そもそも話しているリハク自身も本当はよく分かっていないのだろう。

 ここで例えば「ユリア様のテンプテーション能力で悪党を洗脳支配して秩序を取り戻しつつ勢力と領土を拡大して、敵対者はケンシロウ様にぶっ殺して頂きます」とか具体的な方針を示されていれば、まだ俺も賛同出来るかは別として納得出来なくはないのだが、そういう方針がこいつ等からは何も出てこないのだ。

 これは俺の考えだが、「南斗と北斗が一体になる事で真の天下泰平が実現する」というのは、北斗と南斗が力を合わせて、天帝を頭にしつつ人々を統治する、という事なのだと思う。

 その役割を慈母星が担っている理由は恐らく、飴と鞭の飴役に最適だからだ。

 歯向かう者を北斗の武力で黙らせ、従う者には慈母星が優しく接して懐柔する。そうして敵対者を減らしつつ味方を増やし、世界を統一支配する。

 つまり南斗と北斗が一体になる事自体はゴールではなくスタートに過ぎない。

 しかしリハクは、ケンシロウとユリアを再会させる事をゴールにしてしまっていて、その先を全く考えていないとしか思えないのだ。

 ……というか考えていたら、原作でケンシロウとユリアのラブラブ逃避行を見送らない。

 折角再会させた二人に、何の仕事も与えず放流してどうするんだ。何の為に大勢犠牲にしてまで引き合わせたんだよ。

 五車星はユリアがケンシロウと隠居暮らしをして、二人だけで満足する為に命を投げ捨てたのか?

 ユリア伝でもユリアが来るまで最後の将の代役をやっていたダーマとかいうおっさんが「北斗と南斗が結ばれる時、必ずや奇跡が起きましょう」と言っていたが、要するにこいつらの展望はその程度なのだ。

 本当に起きるかどうか分からない。起きたとしてもどんな奇跡か分からない。

 その程度の夢物語に全てを賭けている。

 

「……哀れな女だ」

 

 俺は思わず、小声で呟いた。

 なんか……あれだな。俺はユリアの事をラオウやサウザーに並ぶ脅威として見ているが、こんな連中に持ち上げられているという一点だけは同情してもいいかもしれない。

 今まで俺はユリアの事を未知の存在として見てきた。

 まるで『自分』というものが見えない、何をしたいのかも分からない人の形をした不気味な何か……そう思っていた。

 行動に一貫性もなく、宿命に従い待ち続ける一方で自らの兄を捨て石にし、そうまでして再会したケンシロウと共に統治するわけでもなくどこかへ去る。

 俺には奴が何をしたいのか、何処をゴールとして見ているのか全然分からなかった。

 だが何故だろうな。

 サウザーとの戦いを終えた今、俺の中に今まであった運命への……そしてユリアへの過度な恐れは薄れた。

 警戒を緩めたわけではない。依然として奴の魅了は脅威だ。

 しかしそれでもだ……今までの俺は、認めたくないがユリアを必要以上に恐れていた。

 恐怖というフィルター越しに見ていて、一度もユリアを直視しなかった。

 だが今になって改めてユリアという存在を見直すと、今までの自分の考えが実は正しくないのではないかという疑念が生まれた。

 ――ひょっとしてユリアという女は……ただ、分不相応な能力と宿命を与えられて持ち上げられているだけの……どこにでもいるようなただの哀れな女なのではないか……?

 

「シン様……貴方は最後の将の御力をまだ知らぬのです。我が南斗の都では、人々は将の光の下、笑顔で暮らしております。希望を持って日々を生きております」

「それは単純に南斗の都の治安がいいからだ。そしてその南斗の都を築き上げたのは最後の将ではなく、貴様だ。誇っていいぞリハク。南斗の都の民衆に安心と笑顔を与えたのは貴様だ。最後の将ではない」

 

 ちなみにリハクはよく節穴だの無能だのと言われるし、実際俺も原作のあの迷采配を擁護する事は……ちょっと出来そうにない。

 しかし統治者、政治家としてはこの男は有能である。

 何せ南斗の都を築き上げたのはこのリハクなのだ。

 更に軍団の編成に、各軍団への十分なバイクと武器の供給、でかい城の建築まで見事にこなしている。

 そう、この男は組織を作る手腕は恐ろしいほど優れている。確かな知識と知恵、そして人を使う才に長けている。

 「世が世なら万の軍勢を縦横無尽に操る天才軍師」という触れ込みも間違いではない。実際、多くの兵士を自由自在に操る事がこの男には出来る。

 ただ……操り方を間違えるだけだ。そして敵と味方の強さを見誤るだけだ。

 なので俺のリハクへの評価としては、「軍師以外は何でも出来る万能の男」である。

 いや、あるいは両軍の兵士の強さが同じくらいならば、リハクは本当に有能な軍師なのかもしれない。

 ただ、ラオウのような常識の通じない怪物には全く対処出来ないだけだ。

 あるいは、全ての行動の最優先目標に『ユリアの願いを叶える』を入れてしまっているせいで、その場で取るべき行動とやりたい行動が滅茶苦茶にズレてしまい、おかしな作戦ばかり取るようになったのだろうか。

 こいつ、ユリア存命中は節穴とネタにされるくらいおかしな行動を取り続けるけど、ユリアがいない第二部だと結構マトモなんだよな。

 

「最後の将に伝えるがいい。自ら動く気概もない輩の為にこの俺が動く事は決してない、とな。

だが責めはすまい……そうやってずっと、安全な場所で隠れて過ごすがいい。時代の荒波が収まるまでな」

 

 ユリアなどいなくとも時代は動く。

 だから是非このまま、全てが終わるまで隠れ潜んでいてくれ。その方が面倒がなくていい。

 待つのが宿命ならば待っていろ。

 俺かラオウのどちらかが、世界に秩序を齎すその時まで。

 ラオウが倒れれば俺のやり方で世界を纏め、俺が倒れればラオウのやり方で世界が支配される。

 そこに、ただ跪いて待っているだけの最後の将が入り込む余地などない。

 だが、それでいいだろう。俺の考えが正しければユリアは恐らく将に全く向いていないし、望んでいない。

 ただ周りにそう在るべしと望まれているだけ。

 ならば俺が世界を平定するまで待っていろ。

 その後にケンシロウと共にどこかで静かに暮らすならば、俺はその邪魔をする気はない。

 将ではなくただ一人の、どこにでもいる女として暮らせばいい。

 話を締めくくり、あくまで最後の将に会う気はない事を告げて話を終えた……その直後、窓から鷲が侵入して俺の肩に止まった。

 鷲は足に結びつけられた手紙を俺の眼前に差し出す。差出人はジョーカーだ。

 

「シン様、それは?」

「大した内容ではない。先日取り込んだ聖帝軍残党から不満が噴出しているだけだ。すぐに治まる」

 

 リハクの問いに嘘を返し、俺はすぐに手紙を懐にしまった。

 動揺は表に出していないから多分気付かれていないと思うが……参ったな。

 まさかコウリュウをこちらに引き込んだ事で、ラオウがこう動くとは思わなかった。

 手紙には、こう書かれていた。

 

 

 ――拳王が天帝の村に移動開始。目的は以前のケンシロウとの戦いで受けた傷の治り具合の確認とリハビリ。その為の対戦相手として選ばれた男の名は……金色のファルコ。

 

 

ラオウ「許さぬ……よくもこの拳王軍をここまでコケしてくれたな。殺してやる……」

シン「やばいぞケンシロウ!」

ケンシロウ「くっ!」

ファルコ「大変だなお前達」

 

ラオウ「殺してやるぞファルコ」

ファルコ「」

 

【オマケ IF・もしシンが余計な事を思い付いたら】

シン「ケンシロウに哀しみゲージ足りない? じゃあ俺はサウザーとの戦いで死んだ事にするか。

つーわけでケンシロウが目覚めたら俺はサウザーと相打ちになったと伝えておいてくれ」

バット「おかのした」

ケンシロウ「友よ……俺だけが生き残ってしまった……」

バット「大変だシンさん! ケンが戦いを捨てて毎日彫刻彫ってる!」

シン「早えよ! それ主要キャラ全員死んだ後の鬱モードじゃねえか!」

 

【恐怖フィルター解除】

覚醒した事で運命への過度な恐怖が消え、同時にユリアにかかっていた恐怖フィルターも外れました。

まあフィルター外れても魅了がクソ厄介なのは何も変わらないけど……。

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