シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ! 作:マジカル☆さくやちゃんスター
「ま、待て! 俺は……そうだ、俺はあんたに付こう! 親父なんかの為に命を張る理由もない! ど、どうだ……悪くねえ話だろ?」
「お、俺もだ! 俺達は降伏する……お、親父はこの先にいる……だから……」
ジャコウのいる屋敷へ進む途中、
降伏だと? 笑わせるな。
俺は蟻の反逆も許さん……とまでは言わんが、いずれ必ず裏切るだろう便所蠅まで許す程優しくない。
屋敷のドアを蹴り開けると同時に矢が飛んで来たので掴み、投げ捨てながら中へ踏み込む。
「ひっ、ひいい!」
ジャコウがボウガンを捨てて屋敷の奥へ逃げて行く。
このまま逃げられても面倒だと思っていると俺の中のイマジナリーサウザーが「矢を放て!」と叫んでいたので、まだ捨てきれていなかった矢を投げてジャコウの足に刺してやる。
「ひぎゃ!」
ジャコウは片足を刺され、片足だけで飛び跳ねて逃げ続ける。
逃げる先から小さな闘気の反応が一つ……天帝ではないな。格闘技など学んでいない小娘が闘気を放つとは思えない。
ならば、この闘気の持ち主はアスラという小僧か。
ドアを開けると案の定ジャコウと、その近くで縄で縛られている小僧の姿が目に入った。
「フッ……どうした? 鬼ごっこはもう終わりか?」
「ま、ま、待て! 俺を殺したら、天帝の命はないぞ!」
「知った事か」
人質を取るような輩に対し、やってはならぬ事がある。
それは、人質が有効だと思わせる事だ。
有効と思えば、そいつは決して人質を手放さない。あるいはすぐに代わりの人質を用意するだろう。
故に俺は人質では止まらん。
それに、これはハッタリだ。別にこいつの命と天帝の命が連動しているわけでもない。
そして駄目押しに、地下作業場には既にシュウを送り込んでいる。もし原作通りそこにいるなら、奴なら今頃は救出に成功している事だろう。
「死ね」
俺がジャコウに手刀を振り下ろす直前、壁を破壊して何かが飛来した。
闘気……? いや、電気か、これは!?
俺は咄嗟に捕まっている小僧を掴んで跳躍し、天井を砕いて脱出した。
直後に屋敷が炎上し、炎の中から珍妙な恰好をした男が現れた。
赤い髪に、目にはゴーグル。赤と白の趣味の悪い鎧を装着している。
俺は屋根の上からその男を見下ろし、挨拶代わりに挑発した。
「拳法ではないな。中々面白い大道芸だ」
「大道芸? ふふ……すぐにそんな口は利けなくなる」
この男が紅光のビジャマだろう。
立ち振る舞いは素人そのもの。覇気もない、闘気もない。まるで取るに足らん一般人だ。
だがそんな一般人があれほどの攻撃を放てたのだから、その才覚だけは評価していい。
なるほど、確かに天才だ……科学者としては、だがな。
「ジャコウ、これは貸しだぞ。さっさと行くがいい」
「――――」
「……ジャコウ?」
ビジャマの言葉にジャコウは返事をしない。
当然だ。死体は返事など出来ない。
生気を失ったジャコウは首から血を流して倒れ、そこでようやくビジャマもジャコウが既に俺に殺されていた事を悟ったようだ。
そう、この男は間に合ってなどいなかった。
俺が回避動作に移った時、既にジャコウには致命傷を与えていたのだ。
「ククク……残念だったな。その男は、貴様からの貸しなどいらんとよ」
「……なるほど、これが南斗聖拳か……面白い」
ビジャマは腰に取り付けている装置のレバーをグルグルと回した。
するとビジャマの全身から電気が放たれ、それが紅の闘気へと変換されていく。
その様だけを見れば、元斗皇拳のように見えなくもない。
ビジャマの背中の装置が昆虫の羽根のように開き、燃える屋敷から跳躍して俺の前へ立った。
「これで俺も元斗皇拳伝承者だ! どうだファルコ! お前が人生をかけて習得した拳法など、俺にかかればこんなものよ! ざまあみろ!」
ビジャマは、今ここにいないファルコへ向けて高らかに叫び、構えとはとても呼べない稚拙な構えを取った。
そして俺に向けて闘気弾を連射するも、俺は屋根から飛び降りて軽く回避した。
悪くない玩具だ。ファルコの元斗皇拳にはとても及ばないだろうが、先程片付けた雑魚将軍達に比べれば出力だけは強い。
何より、電気を闘気に変換するというのは実に面白い研究で、評価されるべき成果だ。
今は玩具だが、あれを発展、量産させればどんな雑兵でも元斗皇拳伝承者の端くれくらいの強さになれるかもしれない。
何より、奴の科学力は捨てがたい。
「死ねい!」
ビジャマが遠くから蹴りを放った。
すると奴の足がスプリングとなって伸び、俺に迫る。
義足か。そんな所までファルコと張り合わなくてもいいだろうに。
どうやら奴のファルココンプレックスは相当なものらしい。
俺は小僧を捨てて、闘気を集中させた腕でガードする。
すると身体ごと後ろに弾かれ、腕が痺れた。
「……悪くない威力だ。それだけに惜しい」
「その余裕、いつまでもつかな!」
ビジャマは闘気弾を連発するが、俺は跳躍して闘気弾を回避しつつビジャマの頭上を取った。
そのままビジャマの背中を蹴り、地面に叩き付ける。
いかに強力な武装を纏おうと、ビジャマ本人はあくまで科学者。
反応速度は常人レベル。俺の動きに全く反応出来ていない。
「お、おのれ……! これなら、どうだ!」
ビジャマは起き上がると、再び電気を闘気へ変換して技の構えへと入った。
手の中で赤い雷がバチバチと音を鳴らし、その威圧は俺のマントをなびかせる。
「真元斗皇拳奥義! 煉獄焦射!」
赤い雷のような闘気が、熱波となって俺に迫る。
回避は容易い。そもそも攻撃前の無駄が多すぎる。
しかし俺はあえて正面からの迎撃を選び、手刀に闘気を集約させて、迫りくる熱波に叩きつけた。
「南斗迫破斬!」
俺の手刀が熱波と衝突し、衝撃波が拡散した。
なかなかの威力に俺の腕が押され、身体ごと後ろにずらされる。
ビジャマが勝利を確信したように笑うが……すぐにその笑みを凍らせてやろう。
「っはあああァ!」
手刀を強引に振り切り、煉獄焦射をビジャマへ跳ね返した。
ビジャマは回避も出来ず、己の奥義の直撃を浴び、赤い電撃が迸った。
「ぎィやあああああああ!」
ビジャマの悲鳴が響き、電撃が収まると同時に黒煙を全身から吹き上げながら倒れ込んだ。
俺は倒れているビジャマの近くまで歩み、意識を失ったビジャマを蹴り転がす。
白目を剥いて完全に失神し、心臓も止まっている。電気ショックによる仮死状態に陥っていた。
もう止めを刺すまでもない。放っておけばじきに脳に酸素が回らなくなり、本当の死を迎える。
「…………」
しかし俺は、この男を惜しいと思った。
ビジャマは武道家としてはファルコの足元にも及ばない。真元斗皇拳とやらも本物とは似ても似つかない大道芸だ。
しかしそれでも、この男の頭脳が惜しい。技術が惜しい。
本来の歴史――原作において、ラオウ健在の頃は天帝の村は小さな集落でしかなかった。
しかしラオウの死後たった数年で夜も輝く煌びやかな都へと変貌している。
それがこのビジャマの力によるものだとすれば、この男は本物の天才だ。
だからこそ、ここで殺してしまうのが勿体なく思えた。
ならば、ここで打つべき手は一つ。俺は、ビジャマの秘孔を突いた。
するとビジャマの心臓が動き出し、激しく咳き込む。
意識を取り戻したビジャマは俺を見上げ、疑わしそうに表情を険しくする。
「……な、何のつもりだ、KING……何故、俺を助けた……」
「貴様を惜しいと思った。ビジャマよ、俺に仕える気はないか?」
「……ほう」
ビジャマは面白そうに口元を緩め、見定めるように俺を見る。
「貴様の頭脳と技術が欲しい。貴様の真元斗皇拳は『拳法』として見るならばお粗末なものだった。
だが電気を闘気に変換するという『技術』、そしてそれを可能とする『頭脳』に焦点を当てて評価するならば――見事だった。貴様は紛れもなく天才だ」
「俺が天才……ククッ、そうか……俺は天才か……悪くない気分だ」
この評価に嘘偽りは一切ない。
いや本当、電気を闘気に変換とかどうやってるんだ。
しかもその元となる電気もそんな簡単に生み出せるようなものじゃないはずだ。
それだけでこの男の天才性を疑う余地はない。
「ジャコウは死んだ。天帝の村も既に我が軍が制圧している。そしてファルコは……恐らく、もう帰ってこないだろう」
ファルコは、ビジャマの策略によってラオウがミュウを誘拐したと誤解してラオウの所へ行ってしまった。
本来ならばラオウも「そんな女は知らん」でファルコを追い返し、そこでファルコも謀られた事に気付くだろう。実際原作世界線でファルコとラオウが戦ったという話はないので、ラオウに追い返されたのだと思われる。
だが今、ラオウは戦う相手を求めている。そして本来ラオウが戦うはずだったコウリュウは俺がサザンクロスに連れて行った為にいない。
ならばそこに飛び込むファルコは、絶好の対戦相手。
きっとラオウはファルコと、誤解を解かないまま戦うだろう。
そして……万全の状態でラオウと互角のファルコが、片脚の状態で戦えばどうなるか。
ましてやラオウは以前より確実に強くなっているのだ。
結果は、もう見えている。
「元々ジャコウにそこまで忠誠を誓っていたわけではあるまい」
「その通りだ。俺はファルコさえ苦しめる事が出来れば、それでよかった。そのファルコも俺の策で死ぬ……ならば、この地に拘る必要もない。だがKINGよ、俺は高いぞ?」
「フッ……安心しろ。俺は能力のある者への支援と投資は惜しまん。貴様が我がサザンクロスに益を齎せば、それに見合うだけの報酬を与えよう。ただし裏切りには死を与える……覚えておけ」
俺の言葉に、ビジャマは不敵に笑う。
この男は善人ではない。むしろふてぶてしい悪党だ。
だがそれでいい。善悪ではなく、損得で動く輩の方が俺にとっては使いやすい。
「それと一つ保険をかける。いいな?」
「保険だと?」
「これから秘孔の一つである社友者を突く。この秘孔を突かれた者は相手を裏切った時、その知識の全てを失う!」
嘘である。そんな都合のいい遅効性の秘孔はない。
いや、あるかもしれないが俺は残念ながら知らない。
一応相手を意のままに操る洗脳系の秘孔はあるんだが、下手に洗脳なんかするとこいつの知性まで失われそうだし、ここはハッタリによる恐怖で縛っておくのがいいだろう。
「恐ろしい男だ。貴様には歯向かわん方がよさそうだな」
「賢明だな。その賢しさを保つ限りは、俺達は上手くやれるだろう。
我がサザンクロスは発展し、そして貴様は人類に文明の光を取り戻した偉大な天才として後世に記される事となる……もっとも、貴様が真の天才ならば、の話だが」
「俺の名が後世に……くくく……面白い。貴様は人をその気にさせるのが上手いな、KING」
ビジャマはどうやら、かなり乗り気のようだ。
しかし何か心の残りがあるのか、村の外れを一瞥した。
「KING……一つ聞きたい。この村の住人はどうなる?」
「望むならば我がサザンクロスの住人として迎え入れよう」
「望まぬ者は?」
「反逆するならば死に場所を与える。そうでないならば捨て置く」
ビジャマが気にしているのはきっと、ミュウの今後だろう。
俺の予想だが、ミュウはきっとサザンクロスの住人になる事を受け入れないだろう。
ファルコに殉じ、後を追うかもしれない。
「気にかけているのはファルコの女か」
俺がミュウの事に言及すると、ビジャマは「知っていたか」と苦虫を噛み潰したような表情になった。
「ミュウをサザンクロスで保護しろ。それが俺が従う条件だ」
「構わんが……そんな事をしても、その女は貴様に恩など感じんぞ。女にとって貴様は、最愛の男を罠に嵌めて死地に赴かせた張本人だ」
「今はな。だがいずれ変わる。そうとも……偉大な男となった俺を見れば必ず、ミュウの心は俺に傾くはずだ! それにいずれファルコの事など忘れるだろう」
そうかな……そうかも……。
実際、やった事だけ見るとミュウはファルコを見限っても許されるとは思う。
あくまで、この世界ではまだ起こっていない原作での話だが……ファルコはミュウをジャコウに売っている。
『俺の采配ミスと不注意で天帝人質にされちゃったから、ちょっとジャコウに抱かれて探って来てよ』とかほざく恋人なんぞ、ふざけるなとしか言えんだろう。
もしかしたらミュウから言い出した事かもしれないが……それでもあまりに不憫だ。
恋人なら女を守れ。自分のケツを拭く為の道具にするな。
そもそも人選ミスもいい所だ。ジャコウから見ればファルコの恋人が妾になりにきましたなんて、疑わない方がおかしいだろうが。何でこれで情報引き出せると思ったんだ……。
これ絶対ジャコウも『あいつアホなのかな……』と呆れてただろ。
「いいだろう。ならばミュウという女には屋敷を与え、使用人も付けよう。これは貴様への俺の期待と思え」
まあ、ミュウの心が今度どうなるかは知らんが……この程度でビジャマを買えるなら安いものだ。
その分、ビジャマにはしっかり働いてもらおう。
ちなみに原作で妾にされたミュウさんはしっかりジャコウに疑われ(そらそうよ)、密偵を付けられて(そらそうよ)行動が全部筒抜けになっておりました(そらそうよ)。
これでファルコを見限らないミュウさんはぐう聖では……?
まあ、うん……多分ミュウさんから「私が妾になって探ります」って言い出したんだろう……流石に。
ファルコが頼んだとかだったら、マジで擁護の余地ゼロになる……。
というか前回も言ったけど、なんでファルコさんは後付け設定で駄目な部分を追加されとるん……?
既に原作の時点で色々空回ってるんだから、そこはせめて有能エピソードを追加するとか……!
流石にこれはちょっと、ネタを通り越して同情するレベル……。
【オマケ 前回のシンとジョーカー】