シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第三十八話 天帝を守る最後の門

 ラオウとファルコの腕が、交差するように衝突した。

 たったの一撃で風圧が二人を中心に爆発的に広がり、砂利を吹き飛ばす。

 まずは挨拶代わりの一撃。こんなもので相手を倒せるとも、通じるとも思っていない。

 これは相手の力量を計るための握手のようなものだ。

 ラオウとファルコは至近距離で睨み合い、二人の放つ闘気が景色すら歪ませた。

 いざとなればファルコの誇りを汚す事になろうとも割って入ろうと考えていたオグルだが、二人の男が放つ圧の前に、割り込むどころか逆に一歩後ずさっていた。

 

「心地よい気迫よ。それでこそ、このラオウ復活の相手として相応しい!」

「復活ではない。本来の使命を忘れ魔道へ堕ちた北斗の魔拳は今日ここに堕ちるのだ!」

 

 振り払うように腕を薙ぎ、交差していた腕を解く。

 間髪を入れず繰り出されたラオウの剛拳をファルコが同じく剛拳で迎え打ち、二人の拳が衝突した。

 重い音。二人の足場を中心に地面が罅割れ、痺れるような痛みが二人の腕を伝う。

 続けて二撃、三撃、四撃。

 一発ごとに爆発のような轟音を響かせながら北斗と元斗の最強を自負する男同士の拳がぶつかり、互いに一歩も退かずに打ち合う。

 五発目――ここでファルコが動きを変えた。

 ラオウの拳を巨体からは想像出来ない軽やかな動きで避け、拳王の拳の上に着地する。

 元斗皇拳、天衝舞。この技は派手さこそないが回避と同時に次の攻撃への布石を両立する。

 人間というのは正面や横からの攻撃には強くても、上からの攻撃に強くは出来ていない。

 更に相手の武器である拳の上に乗る事で必然的に足場となっている拳を封じる。

 ならば残された手は、足場になっていない拳による攻撃か、振り払うかの二択。

 しかしそれよりも、ファルコが次の攻撃を入れる方が速い。

 

「ふんっ!」

「ヌウ!」

 

 ファルコがラオウへ闘気弾を放った。

 ラオウは咄嗟に回避しようとするが、その瞬間にファルコが全体重を足場に――即ちラオウの拳にかけた事で僅かに体勢が崩れ、動きが遅れた。

 闘気弾がラオウの頬を掠め、その隙を逃すまいとファルコが鋭い蹴りを繰り出した。

 しかしラオウも即座に反応し、その場で右足を軸に回転。回し蹴りで応戦する。

 蹴りが衝突し、空中という踏ん張りの利かない場所にいたファルコが弾き飛ばされた。

 無論着地を待つラオウではない。ファルコの着地地点を狙い打ちするように拳に闘気を集中させる。

 ファルコも同じく両手に闘気を集約させ、解き放った。

 

「北斗剛掌波!」

「元斗双掌猛波!」

 

 同時に闘気による砲撃を放った。

 二人の中央で闘気の塊がぶつかり、押し合う。

 

「ぬううっ……この俺の北斗剛掌波と渡り合うか!」

「愚かなりラオウ! 我が元斗皇拳は細胞を滅殺する拳! 闘気の扱いにおいては俺に分がある!」

 

 闘気を扱うという点では北斗と元斗は同じだが、その扱いには大きな差がある。

 北斗神拳はあくまで相手の秘孔を突いて死に至らしめる暗殺拳。その中に闘気を扱う技があるに過ぎない。

 一方元斗皇拳は闘気によって敵の細胞を滅殺する拳。闘気こそがこの拳法の主役なのだ。

 ならば闘気を扱うという一点において元斗が北斗に勝るのは必然。

 黄金の闘気が剛掌波を圧倒し、ラオウがじりじりと身体ごと後ろに押しやられていく。

 

「馬鹿な! このラオウの剛掌波を上回るか!」

「はーーーーっ!」

「うおおおおおっ!?」

 

 遂に黄金の闘気が剛掌波を蹴散らし、ラオウへ到達した。

 咄嗟に腕を十字に組んで防御するも、元斗皇拳は細胞を滅却する拳。

 ラオウの腕の表皮がじりじりと焼かれていく。

 並の拳法家ならばとっくに、この一撃で腕どころか全身が消え去っていた事だろう。

 

「ぬうう……ぬおおお!」

 

 しかしここにいるのは世紀末覇者、恐怖の拳王ラオウ! 

 腕の皮膚一枚を焼かれただけで、両腕を広げると同時に元斗双掌猛波を四方に弾き飛ばした。

 そればかりか、巨体に見合わぬ機敏さでファルコへ接近して彼を捕まえようと迫る。

 ファルコも咄嗟に両手を突き出し、互いの手を握り合う手四つの姿勢へ入った。

 押しも押されぬ傑物二人の力比べ。だがその最中、ファルコは何かが軋む嫌な音を聞いた。

 音の出所は義足の付け根だ。ファルコは顔色を変え、力比べを嫌ってラオウの腹を蹴り、強引に力比べを中断した。

 そして舞うように空中へ跳び、追ってラオウも高く跳ぶ。

 空で向かい合う両雄。ラオウとファルコは落下しながらも素早く拳を繰り出して互角の攻防を繰り広げた。

 重い音が連続して響き、戦いを見ていたオグルが余波だけで吹き飛ばされそうになる。

 隙あらば割って入ろうと思っていたが……とんでもない。入る隙がまるでない!

 大地が罅割れ、枯れた木々がへし折れて吹き飛ぶ。

 着地と同時に蹴りの交差。しかし今までと様子が変わり、ファルコの身体がよろめいた。

 

「しまった!」

「そこだ!」

 

 これを好機と見たラオウが握り拳を貫手に変え、ファルコの胸に突き刺した。

 ファルコの口から血が吐き出され、目の焦点がブレる。

 指が引き抜かれると同時に力なくファルコが後退し、膝を突いた。

 

「ファ、ファルコ!」

「来るなオグル……!」

 

 ゼイゼイと息を切らしながら、ファルコが苦し気に呻く。

 勝負あった……ラオウは勝利を確信した。

 今突いたのは秘孔・戈穴。

 じきにファルコは昏睡状態に陥り、ラオウが解除しない限り目覚める事はない。

 無論ラオウは解除する気などないので、実質永眠させる秘孔だ。

 死体を爆散させないのはファルコへのせめてもの敬意と、この拳王の恐ろしさを知らしめるため。

 ファルコは物言わぬ死体となって村に戻り、拳王の恐怖を伝えるのだ。

 

「これで勝ったと思うな、ラオウ……秘孔封じの奥義ならば伝わっておるわ」

 

 しかしファルコはまだ終わっていない。

 片手に闘気を集めると、その指先をラオウに突かれた胸へ突き刺した。

 

「フッ、フウッ、フッ! ぐ……ああああ!」

 

 激痛に叫び声をあげながら、自らの細胞を滅却していく。

 これこそ、元斗に伝わる北斗破りの奥義。

 秘孔の効果が全身に及ぶ前に突かれた場所の細胞を死滅させてしまう事で、秘孔を封じるのだ。

 だがこれは、秘孔封じというにはあまりに乱暴な処置だ。

 治しているのではなく、あくまで切り捨てているだけ。指から毒が入ったから指を切り落としているのと同じだ。

 その代償は重く、ファルコは明らかに消耗していた。

 

「俺は倒れぬ! このファルコこそは天帝を守る最後の門! この世に光が戻るまで俺は敗れるわけにはゆかぬ!」

 

 今にも倒れそうな身体を気力で支え、今まで以上に強く闘気が迸る。

 だが戦いは誰が見てもラオウ有利だ。このまま続ければファルコの勝ちはない。

 オグルが死を覚悟して乱入しようと機を伺い……それをファルコが手で制した。

 

「オグルよ、俺がもし倒れる事あらば……お前は村に戻り、いつの日か天帝を取り戻し……バトロ、ショウキと共に守ってくれ!」

「しかしファルコ!」

「見届けるのだ……そしてショウキとバトロに伝えてくれ。それがお前の使命だ」

 

 オグルを下がらせ、再びファルコがラオウと相対する。

 酷な話だが、実際にラオウと戦って分かった事がある。

 それはラオウの恐るべき力量。オグルを始め元斗の男達はいずれも達人だが、ラオウには遠く及ばない。

 残念ながらファルコ以外が挑んでも、ソリアの二の舞になるだけだ。

 加えて、絶望的な追加情報があった。

 

 ――ラオウは強くなっている。あの時よりも!

 

 あの日、天帝の村に攻め込んで来たラオウを見てファルコが下した評価は、『倒す事は可能だが自分も死ぬ』……即ち両足があった頃の全盛期の自分と互角というものだった。

 しかし今のラオウは違う。両足があったとしても、倒せると言い切れない。

 ましてや今のファルコは片足。あの時の両者の強さを10とするならば今のファルコは精々8か7。だがラオウは11にも12にも届いている。

 これではファルコ以外では戦いにすらならない。

 仲間全員……ソリア、オグル、バトロ、ショウキと共に挑んでも死体が増えるだけだろう。

 それに加えてラオウは元斗の動きに順応しつつある。

 これは北斗神拳奥義水影心により、先のソリアとの戦いで元斗の技を予習してしまったからだ。

 勝ち目は薄い。かつての勝率を五割とするならば今は二割か、それとも一割未満か。

 だが、それでも――退けぬ!

 

「ふはーーー……!」

 

 ファルコはゆっくりと息を吐き、己の死を受け入れた。

 元斗の使命はオグルに託した。

 世界の未来はケンシロウに預けよう。

 そして肉体が滅びてもこの心は天帝とミュウの許へ帰ろう。

 

「我が友よ……使わせてもらうぞ! お前から預かった最後の力!」

「ぬっ!? そ、それは……!」

 

 ファルコの取った行動に、ラオウが驚愕した。

 ファルコは己の太腿を指で突き刺し、次の瞬間全身に活力が漲った。

 

 

 ……秘孔というのは、凄いものだ。

 

 それは、ラオウと戦うより前の事。

 トキのいる村に辿り着いたファルコは、トキが大勢の病人や怪我人を道具もなく癒すのを見た。

 元斗は闘気によって敵を滅却する拳。だが北斗は使い方次第では弱者を救う癒しの技となる。

 歩く事すら出来なかった老人がトキの治療によって歩けるようになったのを見て、ファルコはとある考えを持つに至っていた。

 

「ケンシロウよ。秘孔の中に力を増す効果を持つものはあるか」

「いくつかある。だがお前ほどの男に使っても意味はない……一つを除いて」

 

 北斗神拳には力を増す技や、そうした効果を持つ秘孔はいくつかある。

 例えば転龍呼吸法。秘孔ではないが、特殊な呼吸法によって。常人では30%しか引き出せない潜在能力を100%引き出す事が出来る。

 だがこれは別に北斗の専売特許というわけではない。

 南斗も元斗も、技名は違うだろうが同じような事は当然のようにやっている。

 アミバが部下の力を底上げしたのに突いた秘孔もある。

 だがあれは元々がたいした事のないチンピラだからこそあそこまで劇的な強化を見込めたのだ。

 元々強靭なファルコに使用しても何も変わらない。

 それらはいずれも、普段は使えていない力を引き出して100%に近付けるもの。

 既に100%を出しているファルコには何の意味もないのだ。

 ただ一つ……無理矢理100%を超える秘孔以外は。

 

「その一つとは?」

「秘孔・刹活孔。一瞬の活力を得るがその後には死が待つのみの非情の秘孔だ」

「一瞬の活力……ケンシロウよ、その技を俺に教えてくれぬか」

「な、なに! ファルコ、まさか……!」

 

 刹活孔を教えてくれと請うファルコにケンシロウは驚きを隠せなかった。

 元斗の伝承者が北斗に教えを請うのも驚きだが、それ以上に刹活孔の効果を聞いて尚教わろうというファルコにこそ驚いたのだ。

 

「死ぬ気かファルコ!」

「俺とて死ぬつもりはない。だが無駄死にはそれ以上に耐えられぬ。

俺の見立てでは、かつて俺とラオウは互角だった……だが今の俺は片足を失っている。

この差を埋める何かが必要なのだ……!」

 

 ファルコの真剣な眼差しとケンシロウの視線が交差する。

 ファルコの眼には迷いがない。その事を察したケンシロウが覚悟を問うように言う。

 

「生は一瞬! その後には死しか残らぬぞ!」

「承知!」

 

 

 ファルコの全身に血管が浮き出し、筋肉が一回り膨れ上がった。

 今の自分が7しかないならば。ラオウが12だというならば。

 その差を、一瞬の生で埋めて見せよう。

 たとえその後死す事になろうとも、全ては天帝が生きる未来の為に!

 

「ファルコ! うぬは刹活孔を!」

「いくぞ! ラオウ!」

 

 死兵と化したファルコが生涯最後の覚悟を以てラオウへ挑んだ。

 ラオウも一瞬怯みかけるが拳王の誇りが後退しかけていた足を止め、前進へと傾ける。

 

「ぬおお!」

「はあ!」

 

 ラオウとファルコの剛拳が正面から衝突した。

 ビリビリと大気が揺れ、雲が割れる。

 一瞬の均衡……やがて、ラオウの拳が弾かれた。

 

「なに!? この拳王が力負けするなど……!」

 

 体勢を崩したラオウの側頭部へファルコの蹴りが叩き込まれた。

 たまらずラオウがよろめき、片膝を地に突いてしまう。

 この拳王が地に膝を! 驚愕しながらもラオウはすぐに起き上がり、ファルコの胸板へ拳をめり込ませた。

 秘孔は外されたが、それでもラオウの拳は秘孔関係なしに敵を粉砕するだけの力がある。

 しかしファルコはよろめいただけで耐え、逆に闘気の放出によってラオウを吹き飛ばした。

 

「ぬっ……」

 

 空中で回転して着地し、顔を上げる。

 予想外の強さに狼狽えるラオウの前でファルコはこれまでにないほど輝き、闘気を高める。

 

「死すならば誇りと共に! ラオウ……貴様はここで、俺と共に果てるのだ!

巨星堕つべし……この地が俺と貴様の墓場だ!」

 

 そう宣言するファルコの勇姿に、ラオウは冷や汗を流す。

 北斗七星の脇に輝く死兆星は今、二人の雄の頭上に平等に輝いていた。

 

 

【転龍呼吸法と似たような事は南斗も元斗もやっている?】

そんな設定も台詞も原作にはない。

このSSで勝手につけた設定。

ただ、そうでないと北斗側が100%で必死に戦っているのに、南斗や元斗は実は30%しか力を出せていませんでした……では北斗があまりにも弱すぎる。

あれだけ剛の拳を誇ってるラオウが実はレイやシンの1/3くらいのパワーしかありませんってのもちょっと……。

なのでこのSSでは南斗や元斗を始めとする凄い達人はそれぞれの方法で人間の潜在能力を完全に引き出しているものとする。

 

【オマケ:今回の大惨事を後で知ったKING主従】

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