シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

39 / 56
第三十九話 最後の奥義!

「元斗皇拳――衝の輪!」

「北斗双龍波!」

 

 ファルコが繰り出した二つの闘気の輪を、ラオウが両拳で迎え撃った。

 意地と意地、力と力の正面からのぶつかり合い。

 だが今この時に限っては、己の命すら燃料として燃やすファルコが僅かに勝る。

 ラオウが押し出され、数歩たたらを踏んで何とかダウンだけは免れる……だが、剛の拳に誇りを持つラオウにとって真正面からの小細工無しのぶつかり合いで後れを取るというのは大いなる屈辱だ。

 

「うぬ~……! おのれファルコ……いや、憎むべきはこのラオウ自身の不甲斐なさ!」

 

 ラオウは下唇を食いしばり、噛み締めた場所からは血が溢れる。

 ラオウは怒りに燃えていた。敵に対してではない。不覚を取り続ける自分自身にこそ彼は憤怒していた。

 勢力としてはサザンクロスに遅れを取り続け、個人としては末弟のケンシロウと痛み分け。そして今、ファルコにも圧倒されている。

 約束をしたのではなかったか。同じ夢を抱いて修羅の国からやって来て、命まで捧げてくれたソウガに。

 重傷を負ったが故に先に修羅の国に帰したレイナに、いつか天を掴んで迎えに行くと誓ったはずではなかったか。

 これでは天など夢のまた夢。カイオウを止める事など出来るわけがない。

 夢に手が届かないほどの己の弱さが、何よりも許せない!

 ラオウは衝動のままに拳を握り、正面から剛拳を放った。同時にファルコも闘気を纏った拳で迎え撃つ。

 

「ずえああああ!」

「ふおおおおお!」

 

 激突。それは先程までと同じ光景で、そして先程までは確かにファルコが優位なはずだった。

 だが今度は威力が拮抗し、互いの身体が後ろへ弾かれる。

 しかし威力は互角でも、耐久には差があった。ファルコの指は今の衝突で罅割れているのに対し、ラオウの拳は全くの無傷だったのだ。

 

「馬鹿な……これは!?」

 

 驚くファルコの前で、ラオウは血管が浮き出す程の鬼の形相を見せる。

 ラオウは憤怒していた。そしてその怒りこそがラオウの力の秘密であった。

 怒りこそ北斗神拳の真髄、怒りは肉体を鋼鉄の鎧と化す。

 命を捨てた刹活孔によってかろうじてラオウを凌駕していたファルコの強さに、自分自身への怒りに燃えるラオウが追い付いたのだ。

 

「ずりゃ!!」

 

 ラオウが素早く右ストレートを放った。

 ファルコはこれをかろうじて避け、カウンターの拳をラオウの胸筋に直撃させる。

 だがラオウは意に介さず、攻撃を受けながら次撃に入りファルコの顔を殴り飛ばした。

 地響きを立ててファルコが倒れ、追撃が入る前に素早く起き上がる。

 

「おおっ!」

 

 ファルコ渾身の連打がラオウに炸裂した。

 しかしラオウの鋼鉄の肉体を崩すには至らず、逆にラオウの反撃の連撃がファルコを打つ。

 秘孔を何とか外しながらも確実にファルコの身体に傷が刻まれ、ファルコはたまらず吐血した。

 想像を絶する苦闘の中、ファルコは考える。

 

 ――い、いかん……! 拳王の力はこのファルコの想像を遥かに上回っていた!

 ――このままではラオウに致命の一撃を入れる前に、俺の命が尽きる!

 ――……かくなる上は!

 

 ファルコの命は今や制限時間付きだ。

 刹活孔は一瞬の活力と引き換えに死を齎す。

 このまま続けても鋼鉄と化したラオウの命には届かず、その前にファルコの命が尽きる。

 ならば、ここで勝負をかけるしかない。そうファルコは決意した。

 

「ふーーー……」

 

 深く息を吐き、そしてファルコは驚くべき行動に出た。

 無防備にラオウに近付き、そして打って来いと云わんばかりに両手を下げたのだ。

 ファルコは今、防御を完全に捨てた。

 その狙いは無論、ラオウも分かっている。

 己の命を餌にした誘い! 先程のソリアと同じく、刺し違える事を決意しての最後の挑戦に出たのだ。

 だがソリアとファルコでは技の練度も脅威も違う。

 完全に読み切らなければラオウといえど、ファルコの死の道連れにされるだろう。

 

「このラオウを死出の道連れにするつもりか……よかろう、ファルコ! その挑戦乗ってやるわ!」

 

 拳王に後退はない。

 ラオウは冷や汗を流しながらもファルコ最後の挑戦を受けて立つ。

 ファルコの狙いは分かっている。

 こちらの攻撃を受ける事を承知の上で同時に奥義を繰り出して相打ちする気なのだろう。

 ならばあえて、その狙い通りに叩き込んでやろう。

 その上で奴の反撃を避けきって見せる。自分ならばそれが出来るという自信がラオウにはあった。

 いや、その程度やってみせなければ天を掴むなど出来るはずがない。

 

「受けてみよファルコ……このラオウの全霊の一撃!」

 

 拳が一瞬、実物の十倍以上の大きさに見えるほどの圧力を伴ってファルコに迫った。

 その瞬間ファルコも最後の賭けに出る。

 

「ぬおお! 元斗猛天掌!!」

 

 ファルコはラオウの狙い通り、防御を一切せずに同じタイミングで攻撃に出た。

 しかし事前に予測していたラオウは十分避ける事が出来る。

 ただしそれは、元斗猛天掌がラオウ自身に向かってくればの話。

 ファルコの突き出した掌底はラオウの拳を受け止めるように突き出されていた。

 ラオウは思わず笑う。そんな柔な掌底でこの拳王全霊の一撃を止められると思ったのか、と。

 それならばこの手ごと砕き、命を奪ってくれる。

 ラオウの思った通りに拳王の拳がファルコの掌を突き破りファルコの胸に叩き込まれた。

 

「ぐぶっ……!」

 

 ファルコの肋骨がへし折れ、折れた骨が内臓に突き刺さる。

 だがこの瞬間、ファルコは賭けに勝利した。

 突き破られた掌に闘気を流し、神経が切れた指を動かしてラオウの腕を掴んだのだ。

 

「何いっ……これは……!」

「掴んだぞ! ラオウ!」

 

 猛天掌は受け止める為ではなく、最初から突き破らせる為に打ったのだ。

 全てはラオウを懐に誘い込む為。そしてこうして掴み、確実に当てる為だ。

 ファルコの無事な左手に残された全ての闘気が集約され、生命力すら闘気に変換して生涯最後にして最強の奥義がここに今完成した。

 最早、このタイミングでラオウが回避する術は――ない!

 

「受けよ、このファルコ最後の奥義! 元斗皇拳秘奥義……黄光刹斬!!」

 

 黄金に輝くファルコの左手が手刀となってラオウに迫る。

 ファルコの全てを込めたこの手刀はラオウの鋼鉄の肉体といえど確実に切断するだろう。

 そしてラオウはもう回避出来ず、防御してもその防御ごと裂かれる。

 ラオウもまた己の間近に迫った死に目を見開き、そして自らの死を確信してしまった。

 

「ぬ、ぬおおおおおおおーーーーーっ!!」

 

 恐怖の混じったラオウの叫びが響き渡る。

 そして血飛沫が舞い、ここに二つの巨星の戦いは終わりを迎えた。

 

 

「……ファルコ」

 

 アンナの村でリン達と一緒に過ごしていたケンシロウは嫌な胸騒ぎを感じて外に出ていた。

 空は雨雲が覆い隠し、ぽつぽつと雨が降り始めている。

 

「天が……天が泣いている……」

 

 ケンシロウは、この雨がただの自然現象とは思えなかった。

 何か大切なものが失われたような喪失感がある。

 胸にぽっかりと穴が空いてしまったようだ。

 そして今ケンシロウの脳裏には、つい先日に強敵(とも)となったファルコの姿が思い出されていた。

 

「……ケン」

「リン……どうした? 何故泣く、リン」

 

 いつの間にかケンシロウの側にきていた少女、リンは涙を流していた。

 ケンシロウは彼女の目線に合わせるように座り、少女の眼から零れる涙を拭う。

 だがリンは止めどなく涙を流し、哀しみに暮れていた。

 

「分からないの……でも、どうしてか涙が止まらないの……」

 

 

 

 ――同時刻。

 全ての敵を片付けて天帝ルイを救出したシンは、元聖帝領に引き上げてシュウ達と今後の事を話し合っていた。

 その最中に額に落ちた水滴に思わず空を見上げれば、雨が降り始めていた。

 

「ほう、これは目出度い。勝利の祝福だ」

「ああ、恵みの雨だな」

 

 シンとシュウは全身が濡れる事も構わず、雨が降った事に喜びを見せた。

 この世紀末の荒野において水は大変貴重なものだ。

 だからこそ、雨はまさに自然の恵み。諸手を挙げて歓迎するべき自然現象である。

 命令するまでもなくKING軍の兵士達は貯水用の携帯タンクなどで水を貯められるだけ貯めようと行動している。

 サザンクロスは水が豊富だが、それでもあればあるだけいい。この雨という貴重な時間を無駄にする事は出来ない。

 この世紀末の世界において水の価値は同量の黄金に匹敵する。

 

「違う……これは恵みの雨なんかじゃない」

 

 しかしその喜びに水を差す者がいた。

 それは救助された天帝――いや、天帝という重石を背負わされ、そしてこれからその重石を取り上げられる事になるだろう少女ルイだ。

 ルイは大きな眼から涙を流し、シンを見上げる。

 それは救助された安堵への喜びの涙か。それともこれまでずっと耐えていた恐怖の涙か。

 しかしシンはすぐに、そのどちらでもないと悟った。

 これは……哀しみ! ルイの流している涙は哀しみの涙だ。

 

「何故泣く小娘……いや、まさか」

 

 シンはルイが涙する理由に思い至り、天を見上げた。

 ルイにはファルコの事は何も教えていない。

 ビジャマの策略によってラオウの所へ行ったなどと、教える必要がなかったからだ。

 だが……感じ取ったのだろうか。天帝の持つ不思議な力で己の守護者が堕ちた事を。

 まさかとは思うが、まさかで済ませられないのがこの世界だ。

 

「移動を急ぐぞシュウ。今すぐサザンクロス目指して出発する」

「? 雨が止んでからにするべきではないか? 何もそう急ぐ事は……」

「いや、急がねばならんかもしれん……俺の考えすぎならいいのだがな」

 

 ……ルイの涙は、ファルコが死んだ事の報せかもしれない。

 そんな事を考えながらシンは、急ぎ撤収の準備を部下達に進めさせた。

 

 

 雨が降り注いでいた。

 この世紀末の荒野では珍しいほどの雷雨だ。

 雷に照らされ、二人の男の姿が映し出される。

 二人の男は――背を向け合って立っていた。

 どちらも信じられないといった表情を浮かべ、何が起きたのか当人達にすら把握出来ていない。

 唯一その瞬間を目撃したはずのオグルも自分の見たものが信じられず、ただ震えていた。

 

「何故だ」

 

 それは果たしてどちらの言葉だったのだろう。

 掴んでいたはずだった、掴まれていたはずだった。

 避けられないはずだった。

 確実に倒せるはずだった。確実にやられていたはずだった。

 それが何故……何故、ラオウは無傷でファルコの後ろに立っている!?

 答えはどちらにも分からない。掴んでいたファルコにも、掴まれていたラオウにも。

 ただ結果として、ラオウは生きている。そしてファルコ最後の挑戦は失敗に終わったという残酷な結末だけがあった。

 雷光が輝き、ファルコが全身から血を溢れさせて倒れた。

 遂に刹活孔の効果が尽き、死神が迎えに来たのだ。

 勝者と敗者。生き残った者と死にゆく者。

 しかしラオウの心に喜びはまるでなかった。何故自分が無事なのか、何故勝ったのか分からない不気味さしかなかった。

 

「何が……起きたというのだ……」

 

 ラオウは茫然と呟き、自ら腕を見た。

 そこにはファルコによって付けられた指の跡があった。

 これを見ればどれだけの力で掴まれていたかが分かる。どれだけの覚悟で掴んでいたかが理解出来る。

 元斗最強の男が命を捨てて掴んだのだ。簡単に振りほどけるはずがない。

 だから今この瞬間、自分は真っ二つになって転がっていなければおかしいのだ。

 オグルにも説明は出来ない。それは今起こった現実があまりに不可解で理不尽だったからだ。

 あの瞬間……ファルコの最後の奥義が確かに決まったと思った瞬間の事だ。

 ありえない事が起きていた。

 確かに当たったはずの攻撃がすり抜け……それどころかファルコに掴まれていたはずのラオウがまるで実体を失ったかのようにファルコをすり抜け、今立っている場所まで移動したのだ。

 その直後、ファルコの全身が切り刻まれ、そして今に至る。

 

「何が……」

 

 その時、ラオウは思い出した。

 それはリュウケンを手にかけた日の事。

 ラオウはリュウケンから、とある技の秘密を聞いた。

 北斗神拳究極奥義……無想転生。

 それは哀しみを背負った者のみが体得出来るとされ、北斗神拳の歴史の中でも体得した者は一人もいないという。

 リュウケンは語った。この世で最も強いのは『無』。何者であっても無は倒せない。

 サクヤは死の間際にラオウに語った。

 哀しみを知らなければ覇者になれぬと。

 哀しみを知り、無想転生をものにしなければ覇者にはなれない……あれは、そういう意味だったのだろうか。

 

「……あり得ぬ! 俺は拳王! 俺の心に哀しみなどない!」

 

 そう、哀しみなどない。そんな弱者の心など、この拳王にはないはずだ。

 だが、何故だろうか。先に散っていった者達の事を考えると心に針が刺さるのは。

 ソウガの事を何故今思い浮かべる。レイナの姿をどうして振り払えない。

 これが同志を失った哀しみとでもいうのか。

 硬く握っていた拳を解き、ファルコを見る。

 ファルコは……もう動かなかった。元々ラオウの攻撃を無防備で受けた時点で致命傷だったのだ。

 そこに刹活孔の効果が切れた事による死が襲い掛かった。

 何より、ファルコの全身に刻まれた切り傷……ラオウ自身もあんな傷を与えた覚えはないが、あれが完全な止めとなったのは間違いない。

 これほどの強者であっても死ぬ時は呆気ないものだ。

 ラオウは地面に落ちていたファルコのマントを取り、ファルコの遺体にかけた。

 恐ろしい敵であった。そして敵ながら見事であった。

 一歩間違えればこちらが殺されていたほどの……いや、あの瞬間確かに自分はファルコに殺されていたのだ。

 今生きているのは、何かの幸運に過ぎない。

 

「おのれ、ラオウ……」

「止めておけ。ここでうぬが俺に挑み死ねば、誰がその英雄を弔う」

 

 構えを取ったオグルに、ラオウが静かな声で忠告した。

 それはラオウにしては不気味なほどに穏やかで、優しい声であった。

 ラオウは自分のマントを拾って羽織ると、黒王に跨る。

 

「ファルコを連れて帰り、そして伝えるがよい……この拳王をも追いつめた金色のファルコという男の偉大さと強さを」

 

 背を向けたままファルコを称え、そして手綱を引く。

 すると黒王は走り出し、ラオウの姿が遠ざかっていく。

 その姿を見ながらオグルは震え、己の弱さと情けなさに涙を流す。

 ……動けなかった。ラオウのあまりの強さに、身体が屈服していた。

 見届ける事が使命と言われたから動かなかった? 違う!

 ただ動けなかっただけだ。力の差を理解してしまい、身体が麻痺していたのだ。

 ここで挑んで死ねばファルコを誰も弔えないから挑まなかった? 伝える為に生きるべきだった?

 そうではない。ただ恐れていただけなのだ。臆病風で凍えて、指先まで凍てついていただけなのだ。

 ソリアのように挑んで死ぬ事も出来ず、ファルコの援護も出来ず……。

 

 ――荒野に、唯一人残されたオグルの悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

【ファルコ退場】

北斗の拳の全キャラの中でも最強クラスの一人であるファルコが今回で天に還りました。

本来なら帝都編の実質ラスボスになるはずの男としてはあまりにも早い退場で、少し貧乏くじを引かせてしまった感があります。

ま、まあ原作で実現しなかったラオウ戦やれたし……一応ケンシロウの強敵(とも)入りもしてるから無想転生の時に背後に出て来るし。

 

【同量の黄金】

冷静に考えると世紀末だと黄金に価値とかなさそうだけどそこは気にしてはいけない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。