シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ! 作:マジカル☆さくやちゃんスター
「ねえシンお兄ちゃん! これは何ていうの?」
「それはブランコだ。見た事がないのか?」
「うん、初めて見る!」
KINGシティ内に作らせた公園内で一人の少女が、様々な遊具に興味を示していた。
彼女はルイ。半月前まで天帝という称号を背負っていた小娘であり、今は称号を俺によって剥奪されたただの哀れな小娘だ。
はしゃぐ彼女を俺の隣のサラが微笑ましそうに見ているが、同時に子供がブランコすら知らないという事実に複雑そうな顔をしていた。
年齢的に核戦争が起きる前には生まれていたと思うが……何せ天帝だ。
下々の子供と同じように遊ぶ事など出来なかったのだろうな。
「使い方を教えてやる。アスラ、お前は隣のブランコに乗れ」
「え、でも……シン様……」
「下らん遠慮をするな。いいから乗れ」
ルイとアスラをブランコに乗せ、最初は使い方を学ばせる為に背中を押してやる。
どちらもまだ十歳に届くかという子供だ。
ならば今は身体を作るべき時期であり、子供は遊びを通して頑丈な身体を作るものだ。
この世紀末では身体の丈夫さはそのまま生存率に直結するので、ここで遊ぶというのは将来の得に繋がる。
最初は戸惑いながらも、慣れてからは自分で漕ぎ出したルイとアスラから離れ、俺は公園のベンチに腰掛けた。
ジャコウを始末してから一月ほどが経過した。
一時はラオウ不在で勢いを失っていた拳王軍もラオウ復帰に伴って復活し、手強くなっている。
聖帝軍が消えた今、主な勢力は我がサザンクロスと拳王軍、そして慈母星の軍のみ。
そのうち慈母星の軍は動かないので、実質サザンクロスと拳王軍の二つで覇を競う形になっている。
聖帝軍が消えた今、三すくみ状態は解除され緩衝地帯の意味はなくなった。
以前までは中央に緩衝地帯を挟み、下手に侵攻すれば他の勢力に横から殴られる状況だったので動くに動けなかった。
しかし聖帝軍がサザンクロスに吸収された今、三すくみはもうない。
緩衝地帯を残す意味もなく、我が軍と拳王軍は互いに緩衝地帯を制圧侵略しながら領土を広げている。
この分では近いうちに国境が隣接し、衝突の時を迎えるだろう。
侵略速度は拳王軍の方が圧倒的に早い。
サザンクロスは侵略と制圧の後に『統治』と『整備』というフェーズを挟むが、拳王軍にはそれがないからだ。
ラオウは制圧した地域の統治などしない。今日からお前等は拳王軍の支配下だと告げて村を監視する為の部隊を一つ置くだけで次に進む。
そして野盗連中は人格を考慮せずに、反抗的な奴以外は全員拳王軍に吸収する。
このやり方は制圧した村の人間に恐怖と反感のみを与える上に、ヒャッハーするような馬鹿ばかりが得をするが、余計な手間をかけずに済むので侵略としては効率がいい。
一方俺は制圧した地域の人心を掴む事に重点を置く。反抗心を持たせるのではなく、『前よりも支配されてる時の方がいい』、『このまま支配されていたい』と思わせる事が重要だと思うからだ。
だから制圧した地域の生活改善に力を入れるし、捕えた野盗も厳選して改心の見込みがある奴以外は処分か、反抗出来ない状態にして奴隷として使い潰す。
どちらのやり方が正しいか? そんなのは無論、俺だ……と言いたい所だが、ラオウの方は当然ラオウのやり方が正しいと信じて動いているだろう。
要するに俺もラオウも、自分が正しいと思って動いている。独裁者なんてそんなものだ。
つまり結論を言えば、勝者が正しいという事になる。
俺とラオウのどちらが『王』として正しかったのかなど、結果が教えてくれる。
正義も悪も勝者が作るものだ。正しい者が勝つのではない、勝った者が『自分が正しかった』と事実を捻じ曲げるのだ。
負ければ国も女も踏み躙られ、勝てば全てが手に入る。故に俺は必ず勝つ……それだけだ。
「シンお兄ちゃん、これはなに?」
「クライミングウォール。壁の出っ張りを掴んで上に登る遊具だ。やってみろ」
次にルイが興味を示したのはクライミングウォールだ。
これはガキ共の腕の力やバランス感覚を養うために設置している。
滑り台とセットになっていて、滑り台は小、中、大の三つ。高く上るほど高所からの滑り台を楽しめる。
この世紀末はサザンクロスの外に一歩出れば道の整備も何もされておらず、時には崖をよじ登るという行動を求められる。
その為の能力を子供のうちからここで鍛えてやろうというわけだ。
「ルイちゃん、楽しそうね。天帝って聞いた時はびっくりしたけど」
「フン、何が天帝だ。この荒れた時代に、蝶よ花よと温室で育てられた小娘を持ち上げた所で何が出来る。天帝は俺の手によって地に堕ちた……最早返り咲く事はない」
サラがルイの事を慈しむように見守っている。
俺も改めてルイを見るが、やはりあの小娘が天帝だと言われても何も感じない。
天帝のオーラも、カリスマ性もない。ただの好奇心旺盛な子供だ。
……やはり天帝としての能力はリンの方に大半を持って行かれているのだろうか。
「この景色がずっと続けばいいのだけれど……」
「続くさ。いや、今以上に豊かにしてみせる」
サザンクロス――特にこのKINGシティは北斗ワールドとは思えない程に豊かで美しい都市となった。
北斗ワールドの都というと恐らくは全く整備されていない砂漠か荒野に罅だらけの高層建築物の残骸が聳え立っていて、そこに人々が家やらを建てて暮らしているのをイメージするのではないだろうか。
この都は違う。道はしっかり石畳で整備され、木や花で飾り立てられている。
その景観はイギリスの古都チェスターのようだ。
流石に世紀末特有の曇り空だけはどうしようもないが……間違いなくこの都こそが今、世界で最も人が人らしく暮らしていける場所だろう。
しかしこれでもまだ道半ば……いや、俺の求めるゴールには程遠い。
やはり上手く原作通りにラオウが慈母星軍を壊滅させて、そのラオウをケンシロウが倒してくれるのを期待したいところだ。
いや、いっそもうトキが勝ってもいいが……流石にそれは期待薄か。
「ねえお兄ちゃん! あそこで胡坐をかいたまま両手をバタバタさせて空を飛んでる人は誰?」
「あれは自分をトキと思い込んでいる変な奴だ。目を合わせない方がいい」
★
噂をすれば影とはよく言う。
だが噂をすればジョインジョイントキィは流石に予想しなかった。
俺に来客が来たというので通してみれば、ケンシロウ一行勢揃いでした、はい。
ケンシロウ、バット、リンの三人組を始めとしてトキもいる。
最近偽物ばかり見ているせいで本物を見ても何だか、久しぶりに会った感じがしない。
ここまではいいとして更に何故かジャギにアンナ、アンナの兄、レイとマミヤまでいた。
トキの隣にいる黒髪ポニーテールの美女はトキ伝に登場した女医のサラか。
うちの
マミヤはサザンクロス正規軍とは別の、民間人のみで結成された義勇軍のリーダーを務めている。
以前のユダ襲撃の際にも先代ダイヤと共に奮闘し、サザンクロス防衛に大きく貢献してくれた。
現在ダイヤの座はカレンに移行しており、また国境警備はコウリュウ率いるスペード軍にバトンタッチしているが、コウリュウとも上手くやっているようで現地の兵からの信頼も厚い。
レイは以前のユダ襲撃の際にユダを返り討ちにしたのだが、それ以降マミヤと親密になったようで今では大体マミヤの村にいる。
そしてこの二人とコウリュウが警備を務める国境にケンシロウご一行がやってきたので、案内役としてマミヤとレイが同行して連れて来たようだ。
勿論俺は、すぐに自分をトキと思い込んでいる変な奴を本物とエンカウントしないように隔離した。
応接室に俺が入ると、ケンシロウとトキは行儀よくソファに座って俺を待っていた。
バットは来客用のお菓子をバリバリ貪っていて、アンナ兄妹は落ち着かない様子だ。
リンは外ではあまりお目にかかれないフカフカのソファで楽しんでいる。
レイは壁に寄りかかるように立っていて、マミヤは俺を見ると礼儀正しく一礼をした。
そして一番ふてぶてしい態度を取っていそうなジャギは、どういうわけか緊張した様子で座っている。
俺はケンシロウ達の対面側に座り、足を組んだ。
「さて……まずは遠路遥々ようこそ、と言っておくべきか。
お前の活躍は耳にしているぞ、ケンシロウ。各地で派手にやっているようではないか」
「……ああ……いや、俺など……」
「どうした? 暗いのはいつもの事だが、今日はいつも以上に陰気だな」
久しぶりに会ったケンシロウだが、どうも様子がおかしい。
明らかに暗く、落ち込んでいる。
「ケンシロウは先日、
トキの説明を受け、俺は納得した。
ファルコの事はジョーカーからの報告で聞いた事しか知らないのだが……どうも、俺の考えと違ってラオウと衝突せずに一度すれ違っていたらしい。
その先でケンシロウと出会って交友を深め、その後にラオウと戦って散ったのだという。
それでケンシロウは落ち込んでいる、というわけか。
「そうか……それにしても久しいなトキ。核戦争の時以来か? 奇跡の村の評判は俺も知っている」
「お前に比べれば私など大した事はしていないさ、シン。
ここに来るまでにサザンクロスの人々の暮らしぶりと笑顔を私は見た……こんな時代でもここまで人が人らしく生きられる場所がある……こんなに喜ばしい事はない」
トキの衰弱ぶりは原作知識で知っていたが、なるほど。こうして実際に見るとこれは酷いな。
身体つきこそ病人とは思えない程にガッシリしているが、生命力をまるで感じない。
これではラオウとの戦いなどなくとも、一年以内にこの世を去るだろう。
というかトキの浴びた死の灰の量は確か常人の数億倍だという……逆に何でまだ生きてるんだこいつ。
「ここに来た理由を聞こうか」
「ああ……ジャギ」
俺が質問をすると、トキはジャギに目配せをした。
するとジャギはいきなり俺に頭を下げた。
「シン、頼む! アンナ達をサザンクロスで保護してやってくれ!」
「移住希望か」
俺は彼等の訪問理由を聞き、とりあえず納得した。
こんな時代だ。少しでも安全に、少しでも豊かに、と暮らしの改善を望んでサザンクロスへ移住しようとする難民は少なくない。むしろ増え続けている。
特に聖帝軍が倒れて三すくみが解除されて以降はサザンクロスと拳王軍による緩衝地帯の切り取り合戦が始まった。
今までは緩衝地帯だからギリギリの危うい均衡で、どの勢力にも攻め込まれないという構図だった。
だが今や、座していればそのうちサザンクロスや拳王軍のどちらかの勢力圏に強制的に組み込まれる。
そして問題なのは、統治と整備というフェーズをすっとばしている拳王軍の方が切り取り速度が速い事だ。
なのでこのままでは拳王軍に制圧されると恐怖した緩衝地帯の村々が一斉に、難民となってサザンクロスに避難し始めたのである。
そのせいでサザンクロスの進軍速度は更に遅くなってしまった。
「お前達の村は元々サザンクロス国境に近い位置にある。そう慌てんでもそのうち俺の領土に入れてやるから安心しろ」
「だったら早く領土拡大しやがれ! 何をモタモタしてるんだ、兄者はどんどん領土を広げてるんだぞ!」
「そう簡単に言ってくれるな。土地を治めるというのは簡単な事ではないのだ。支配したならば同時に支配者としての責務が生じる。ただ制圧支配して終わりではなく、支配した土地の連中の生活を保障し、整えなければならん。そうでなければ無闇に増やした土地と民が逆に重荷となって破綻する」
よく言われる事だが、征服する事よりも征服した後こそが本番で大変なのだ。
ましてやこんな時代だ。何も考えずに制圧前進のみを繰り返せばそりゃ領土は増えるだろう。
ただしそれで残るものは、広大な痩せた荒野とボロボロの民だ。
これでは世界再生など望むべくもないし、何より国とは呼べん。
そんなものは国ではない。ただ広いだけの野盗の縄張りだ。
「だ、だが兄者は……」
「奴は俺と違い、長期を見据えていない。あれは短期決戦型……一つの目的を定めてそこに至る最短にして最も効率のいい経路のみを一直線に走っている。俺と奴とでは目指すゴールが違うのだ」
俺とラオウは同じ世紀末支配というゲームをやっている、としよう。
しかしその目的地もプレイスタイルも違う。
俺が目指すのはコンプリート率100%の完全クリア。じっくりと腰を落ち着けてのベストエンドを目指している。
一方でラオウは一つのエンディング――打倒カイオウを目的としたRTA走者だ。
だからカイオウ打倒への最短チャートを組み、そのルートしか走らないしクリアタイムを伸ばすような余計な事はしない。「とりあえず村の反逆さえ封じ込めればいいので、この村には役に立たない馬鹿を配置して次に進みます。治安は元々0なので問題ありません。たまに監視しないと村人を殺して遊び始めますがその時は馬鹿を殺して挿げ替えればいいでしょう。次イクゾー」……こんな感じだ。
一つ誤解しないで欲しいのは、こんなスタイルでも何もしないよりは格段にマシになるという点だ。マジで世紀末終わってるな。
「だがお前達の懸念は理解した。つまりこのままでは、サザンクロス領土に組み込まれるより先に拳王軍に制圧されるかもしれない……だからさっさと保護下に入れろという事か」
「そ、そうだ!」
俺は溜息を吐きたいのを我慢して飲み込んだ。これは何とも間の悪い。
先程も言ったように、今はサザンクロスへの移住を求める難民が増えて、長蛇の列を作っている。
なのでそいつらを受け入れる為に、既存の村を広げたり余った土地に新しい村を急ピッチで作って順次受け入れている状態だ。勿論ただ受け入れるだけではなく難民の人格や能力の精査に見張りの設置も行わなければならない。
難民に紛れたヒャッハーを入れてしまえば面倒だし、実際に紛れ込んでいる馬鹿が嫌になるほど多い。
アスガルズルや元聖帝領でも同じ事をしているが、それでも間に合っていないのが現状だ。
俺の侵攻スピードがラオウと比べて遅いのも、この難民という名のお邪魔ぷよによる大幅なタイムロスが大きな理由である。
この状態でアンナの村の連中を特別扱いで入れてしまうと、それはつまり割り込みになるわけだ。
当然不満は高まるし、俺の公平性への信頼も減る。
とはいえ……これはケンシロウ達に恩を押し付ける好機でもある。ただ追い返すのは勿体ないな。
「難民は今順番待ちだ。割り込ませる事は出来ん」
「シン……!」
「だが、裏道はある。その村の連中を『避難民』ではなく『従軍希望者』として迎え入れる事ならば出来る」
保護ではなく編入。民ではなく兵。こういう形ならば割り込みにはならない。
文句が出れば『いつでも戦力は歓迎している。お前も兵士にならないか?』で封殺可能だし、実際兵士は多くても困らない。
「ア、アンナ達に戦えって事か!?」
「軍属イコール前線ではない。補給や医療、兵士達のメンタルケアに体調管理、食事の配給係、機械整備という役もある。そうした危険の少ない部隊に配属してやる。これが駄目ならば俺がそこまで領土拡大するのを待っていろ」
最近サザンクロスの民として迎え入れた連中として、天帝の村の村人がいるが、あれとはケースが異なる。
天帝の村は俺が出向いて制圧した村の人間だ。だから俺が戦利品として持ち帰って来た扱いであり、難民ではない。
しかしアンナの村はそうではない。まだ俺はそこまで進軍していないのだ。
「ジャギ、私はそれでいいよ」
「アンナ……!」
「少なくとも、サザンクロス領の外にいるよりはずっといいのは間違いないからね。これで贅沢言ってたらバチが当たるよ」
アンナはジャギの手を握りながら言い、ジャギも覚悟を決めたように頷いた。
それから俺に向き直る。
「シン、だったら俺をアンナと同じ場所に!」
「それは俺の軍門に下るという事で構わんか?」
「ああ、それでいい!」
ジャギが俺の軍門に、かあ……。
……大丈夫か、これ? 後で裏切ったりしない?
アンナがいるなら大丈夫だと思うんだが、何せジャギだしなあ。
まあ実際ジャギは何だかんだで役に立ちそうだし、裏切ったらその時は消せばいいか。
「俺としてはお前くらいの実力者は前線に送りたいのだが……仕方あるまい。アンナと言ったな、その娘と同じ部隊に入れてやる」
「すまねえシン、恩に着る」
これでジャギと、アンナの村の連中が俺の部下として加わったわけだ。
とはいえ、ジャギとアンナ、アンナの兄と彼等が率いる元バイクチームはそこそこ役立つとして、問題はただの村人だな。
適性を見て振り分けるつもりだが、何も出来ない老人や子供をどうするか……。
それに、もう一つ問題がある。
……ケンシロウ達がこれまで拠点にしていたアンナの村がこれで実質なくなるわけだが、今後ケンシロウ達はどこを拠点にする気なんだ?
まさかこのままサザンクロスに住む気じゃないだろうな、こいつ。
Q、村人虐殺する馬鹿を配置するのに、どうしてよくなるの?
A、その辺にポップするヒャッハーは一瞬で村を滅ぼしてしまうけど、ラオウが配置する馬鹿は村人を長く虐めて遊ぶので滅ぶまでの時間が長くなって結果的にマシになる。
それにラオウは一応村人虐殺禁止命令を出しているので(無視する奴だらけだけど)何だかんだで滅ぶ村は格段に減る。なので全体で見ると本当にマシになっている。
もっともマシというだけで拳王軍全体が基本的にアレなのは変わらない。
あのリュウガですら暴走した馬鹿共を諫める側で相対的にマシに見える時点でお察し。本当にマトモなのはレイナくらいだが、そのレイナすらいなくなった。
マジで世紀末終わってるな!
というか前も言ったけどレイナは修羅の国出身者のくせにマトモすぎて一周回って一番おかしい。
仮にも令和からの転生者であるシンよりも倫理観が上。
ちなみにケンシロウはファルコの死をオグルから聞きました。