シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ!   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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Q、どうやってハトをラオウとヒューイの所に狙い通り飛ばせたの?
A、ラオウの兜を巣と認識してるハトを使った。


第四十四話 誰が言うかー! 知れば疾風となって将の下へ走る! 天を握ったきさまが最期に望むものがわが将!!

 ――リハクの城。

 そのバルコニーに立ち、一人の女性が天を見ていた。

 彼女の名はユリア。慈母星の宿命を持つ南斗最後の将だ。

 北斗と共に最後に現れるが故に最後の将。北斗神拳伝承者と最後の将が一つになる時、世界は光を取り戻し真の平安を得る。そう教えられてきた。

 しかしユリアの心には今、抑えようのない疑問と不安があった。

 ――本当に私は必要なのか……?

 

「また……星が消えた。炎の星が……」

「悲しむ事はありません。シュレンもまたヒューイと同じように宿命に殉じたのです」

 

 現在慈母星軍は今までの拠点から離れ、リハクの城を中心に新たな都を建設している。

 その理由も一応聞いている。

 あの場所に留まるのは危険だと……しかし本当にそうなのだろうか?

 

「リハク……サザンクロスと共にラオウを迎え撃ってもよかったのではないですか?」

「シン様は最早、天帝にすら牙を剥くもう一つの暴凶星と成り果てました。次に狙われるのは貴方である事は必然」

 

 リハクの手の者はサザンクロス以外の各勢力に潜み、その動向をリハクに伝えている。

 サザンクロスだけはガードが固く密偵が全て発見されてしまってるが、それでも他の場所から情報は手に入る。

 そして先日、天帝の村から恐るべき凶報が伝えられた。

 それはKING軍による天帝の村壊滅……そして天帝の死だ。

 逆賊ジャコウによって殺されたとの話だが、果たしてどこまで真実か……。

 最悪の場合、シンが己の野心の為に天帝を手にかけた可能性まで考慮しなければいけない。

 シンはここまでに聖帝と天帝を始末している。次は拳王か、あるいは慈母星か。

 どちらにせよ、あのままサザンクロスの近くに留まるのは危険とリハクは判断した。

 

「シン様の欲望は無限に高まり、自らの覇道の妨げとなるものを全て飲み込み、全てを手にするまで止まる事はないでしょう。ケンシロウ様もその優しさのせいで利用されております」

「シンが世界を手にする……それでもよいのではないですか? サザンクロスは活気に満ち、人々には笑顔が溢れていると聞きます」

「何を仰ります! ユリア様!」

「しかし……私の為にこれ以上の血を流してよいものか……」

「気弱になりなさるな」

 

 リハクはユリアの肩に手を置き、城の外で待機している兵士達を見せた。

 

「見なされ、彼等の顔を。皆、貴方の為ならば喜んで命を投げ出しましょう。それも全ては貴方の光あればこそ」

「彼等の心は救われています。だから死をも恐れぬのです」

 

 リハクの言葉を引き継ぐように、娘のトウが補足した。

 しかしその説明を聞いても、ユリアの心は晴れない。

 自分の為に死んでほしいなんて、思った事は一度もない。

 しかし彼等は命を投げ出し、そして次はきっと、兄のジュウザまで死地に赴かせようとするだろう。

 将の眼を涙で曇らせぬ為に……彼等は常日頃そう話す。

 ……泣かないと思うのか? 血を分けた兄を使い捨てて死なせて、それで涙を流さないと本気で思われているのか? ユリアには、彼等の心が分からなかった。

 

「全ては貴方様の力のおかげ。貴方様はこの乱世になくてはならない星。強く温かく永遠に光り続けねばならないのです」

「その為にケンシロウが必要なのです。この戦いで散っていく者達も喜んでその命を懸けましょう」

 

 まただ……とユリアは思った。

 会話がどこか噛み合っていない。

 『ユリアを頂点に立たせてケンシロウに会わせる』……この結論が最初にきて、その部分を決して譲らずに他の事を進めるせいで全てがズレてしまってる……そんな気がしてならない。

 確かにユリアもケンシロウと再会したい。今すぐにあの逞しい胸に飛び込んで、将ではなく一人の女に戻りたい……。

 だが、何故ケンシロウと再会しなければいけないのか。再会してどうすればいいのかを誰も説明してくれない。

 永遠に光り続けろと言われても、永遠など存在しない。

 乱世になくてはならないと言われても、具体的に何をどうすればいいのかが分からない。

 今だってそうだ、将の仕事など何もしていない。全てリハクがやってくれている。

 

(こんな時……シン……貴方ならきっと、下らないと言って突き進むのでしょうね……)

 

 シン――ユリアを明らかに敵視している南斗の男。

 ユリアはシンが嫌いだった。宿命を笑い飛ばし、自らの力で道を切り拓けるあの男がどうしても好きになれない。

 自分がケンシロウと会いたいのを我慢して、出来もしない将の役目を果たしている時にあの男は好きなように生きて、ケンシロウの信頼を勝ち取っている。

 将など、それこそ彼にやらせればいいではないか、と思う。

 シンには力がある、行動力がある、そして大勢の部下がいる。

 そして歪んでいるものの、その目指す先は平和な世界だ。

 ならば南斗総勢でシンに協力し、彼を頂点にして世界を纏めればいい。 

 その統治下で、短い間でもいいから……永遠に光り輝かずともいいから、淡い蝋燭の光を囲んで、ケンシロウと一緒にいたい……。

 大勢の兵士の死を恐れぬ笑顔ではなく、ケンシロウの優しい微笑みを見たい。

 

 ただそれだけを願い、ユリアは天を見て涙を流した。

 

 

 一つ言いたい事がある。

 KINGシティ(うち)はネームドキャラの集会場じゃないんだ。

 俺は、縄でグルグル巻きにされている目の前の男――雲のジュウザを見下ろしながら、どうしたものかと溜息を吐いた。

 一体何故こんな事になっているのか……それは、半日前まで遡る。

 

 偽の手紙によって無事に拳王軍の進路を変える事に成功した俺は、同時進行でリハクとユリアがいなくなった元南斗の都を急いで制圧し、サザンクロス領に編入した。

 これは領土拡大の為でもあるがそれ以上に、拳王軍の進路変更に気付いたリハク達が戻って来て、サザンクロスを盾にするのを防ぐ為だ。

 同時にこの行いは今までなあなあで『敵ではないが味方でもない』という中立関係にあったサザンクロスと慈母星軍の関係性を完全に『敵対』に変える事も意味している。

 こちらに拳王軍をトレインしようとしたのは向こうだ。もう遠慮の必要はないだろう。

 勿論抗議や弁明の使者が何人か来たが全て門前払いし、それでも無理矢理侵入しようとした馬鹿は死体に変えてそれを返事とした。

 

 実の所……リハクも本気でサザンクロスを潰すつもりでトレインしたわけではないだろう――というのがリュウロウの読みだ。

 リハクの城の位置は、サザンクロスと拳王軍が衝突した際に横から拳王軍を殴れる位置取りだ。

 つまりリハクの策はラオウをサザンクロスにぶつけてから参戦し、強制的に慈母星・サザンクロス連合VS拳王軍の構図に持ちこむ事だったのだろう。

 その上でサザンクロスの窮地を救った恩を売りつけてその後の交渉を有利に進めるつもりだったのではないか、とリュウロウは推察している。

 少なくともリハクは無辜の民まで進んで殺すような悪党ではない。民に犠牲が出る事なくラオウを倒せると読んでいた……との事らしい。

 とはいえトレインされそうになったのは事実。ここで甘い顔をしてやる理由はない。

 というかリハクの読みって外れる印象しかないし、もし本当にそうだった場合、最終的には民に犠牲が出て「読めなかった! ラオウの力がここまでとは、この海のリハクの目をもってしても!」とか「私が余計な策を講じたばかりに民に被害が! このリハク一生の不覚!」とか言い出しそうで怖いわ。

 

 そうしてようやく慈母星軍との縁も切れたかと思った矢先、KINGシティの食糧庫の一つに何者かが忍び込み、食料を食い荒らす事件が発生。

 ただの賊かと思いきや兵士の手に負えず、ジュガイとレイとジャギが現場に急行した。

 それでも、まるで雲のように捉え所なく逃げ回る賊をなかなか捕まえられず、最後には鎧羅孔なる新秘孔を突いて筋肉モンスターと化したトキのそっくりさんがパイルドライバー(これぞ柔の拳!)を決めて大人しくさせた。

 そうして四人がかりで捕縛された賊は俺の前に突き出された。

 ……で、その賊が何か見覚えのある傾奇者(ジュウザ)でしたと。

 

「……貴様は何をしているのだ」

「へっへっへ、そうカリカリすんなって。あんなに溜め込んでんだからちょっとくらいいいじゃねえか」

 

 動きを封じられ、実力者に囲まれてもまるで悪びれる事なく言う男――雲のジュウザ。

 こいつがここにいるのはリハクの差し金か、と一瞬思ったが、それは流石に無理があるかと考え直す。

 拳王軍が迫る今、五車星最大戦力であるこの男を拳王軍足止めにもユリア防衛にも使わず、こんな所で遊ばせていたら本物の馬鹿だ。

 ……だが、まあ……リハクだしな……一応確認くらいはしておくか。

 俺は前動作なく手刀を突き出すと、ジュウザの額に突き付けた。

 

「……っ、何だよ、そこまで怒る事か?」

「いや、ただ確認しただけだ。どうやらしばらく見ないうちに魂をどこかに置き忘れてしまったらしいな。腑抜けた眼と闘志だ……以前の貴様ならば縄に縛られていてもこの程度の奇襲は難なく反応し、避けていたぞ。いや、トキの偽物如きに後れを取る事もなかっただろう」

「トキの偽……え?」

 

 最後の将の正体を知っているか? とかリハクの差し金か? とか、そんな遠まわしな質問は必要ない。それ以上に今のジュウザを知る確実な方法がある。

 それは魂を取り戻しているか否か確かめる事。

 ユリアの生存を知っていればジュウザは魂を取り戻し、ラオウやトキに匹敵するとまで言わしめた天賦の才を輝かせる。

 しかし今のジュウザは、明らかに輝きが曇っていた。

 

「やはり、貴様はユリアの事を……」

「……っ! 言うな!」

 

 俺の言葉にジュウザが怒りを見せるが、その眼には深い哀しみが宿っていた。

 これで確信出来た。ジュウザはまだ最後の将の正体も、ユリアの生存も知らない。

 だとすれば、ここにいるのはリハクの差し金ではない。

 俺は手を引っ込め、部下に命じる。

 

「縄を解いてやれ」

「し、しかし」

「構わん」

 

 本来の力を取り戻したジュウザならともかく、今の抜け殻状態のジュウザならば俺の脅威にはならない。

 縄を解かれて自由になったジュウザは、不貞腐れたように床に胡坐をかいた。

 

「食料を食い荒らしたのは不問としよう。知らん仲でもないしな」

「……そりゃあどうも」

「しかし、こんな所にいていいのか? まさか最後の将の現状を知らんわけではあるまい」

 

 俺の問いにジュウザは、つまらなそうにフン、と鼻を鳴らした。

 最後の将の正体は知らないとしても、拳王軍が迫っている事くらいは知っていてもおかしくない。

 いや、もしやリハクは元々サザンクロスに拳王軍を擦り付ける気だったから、まさか方向転換すると思わずジュウザにも連絡を取っていないのか?

 

「ああ、そういやリハクの部下が言ってたなあ。拳王軍が近付いてるんだろ? シュレンが足止めに向かってるらしいな」

「何だ、知ってるではないか」

「俺の知った事じゃねえ。俺は雲、何者にも縛られねえのさ」

 

 お前ついさっきまで物理的に縛られてたけどな。

 それはともかく、ジュウザは動く気が全くないらしい。

 まあ、ジュウザは最後の将の正体がまさかユリアとは思っていないようなので、それも仕方のない事なのだろう。

 

「ここに来た理由はリハクの部下から逃れる為か?」

 

 俺は、原作でもアニメでもやたらしつこかったリハクの部下を思い出しながら聞く。

 ジュウザがいくら嫌だと言ってもひたすら将の為に動いて下さいの一点張りで、女湯にまで当然の権利のようについてきて、ジュウザが動いてくれなきゃ死んでやる! と自分の命を盾にしジュウザの良心に付け込んで動かそうとするも「じゃあ死ねば?」と言われて結局自害せず、その後は何事もなかったかのようにまたしつこくジュウザにお願いを繰り返していた恥知らずな姿を思い出す。

 そういえば最近、サザンクロスに無理矢理侵入しようとしていたリハクの部下らしき馬鹿を何人か処分したと報告が上がってきていたが……その中にいたかもしれないな。

 

「ああ、あいつら本当にしつこい上にどこまでもついてきてなあ……だが、それだけじゃねえ。知りてえ情報があるんだ」

「ほう。言ってみろ」

「ケンシロウの居場所」

 

 ジュウザの発した言葉に、ジャギとレイが僅かに反応した。

 ジャギは今でもケンシロウへの劣等感と憎悪を捨てきれていない。

 だが何だかんだで今は一応味方であり、ジャギとケンシロウが互いに向ける感情は複雑だ。

 一方レイは、ケンシロウ滞在中に意気投合して仲良くなっていた。

 だがレイよ、あまりケンシロウと仲良くならない方がいいぞ。それ死亡フラグになるから。

 

「知ってどうする?」

「勿論ぶっ飛ばす。ユリアを守らなかった情けねえ男のツラに一発、思い切りブチ込まなきゃ気が済まねえ」

「ふん、なるほど」

 

 ジュウザは怒りを滲ませながら……いや、無理矢理絞り出すようにしながら拳を握る。

 恐らく本当はケンシロウへの怒りなどないのだろう。

 ただ、ユリアを失った哀しみと怒りをぶつける場所が欲しいだけだ、この男は。

 同時に、何でもいいから目標を用意しなければ歩く事も出来ないのかもしれない。

 まあ、ぶっ飛ばすだけなら別にいいだろう。

 

「入れ違いだな。ケンシロウならばつい先日までこの町にいた。今は緩衝地帯の方に向かっている」

「シン! 何故!?」

 

 あっさりとケンシロウの情報をバラした俺の肩を、レイが強く掴んだ。

 明らかに害意を持っている相手に何を話しているんだと、レイの顔がそう言っている。

 しかし俺は肩を掴むレイの手をどけると、理由の一つを説明してやる。

 

「その男にはケンシロウを殴る資格と権利がある。それだけだ」

「そ、それは一体……」

「ケンシロウの恋人は、ジュウザの妹であるユリアだ」

「……!」

 

 俺の言葉にレイは衝撃を受けたように固まった。

 そういえばレイって、ユリアの事をどこまで知っているのだろうか?

 南斗正当血統のユリアを知らないって事は流石にないと思うが、ジュウザとの関係とかをレイが知っているかは割と不明だな。

 

「そうか……入れ違いか」

「そのうちこの町に戻って来る。それまでの宿くらいは用意しよう」

「やけに協力的だな?」

「貴様とケンシロウの戦いは俺も興味があるのでな」

 

 これは半分本当で半分嘘だ。確かにケンシロウVSジュウザは気になるが、魂の抜けているジュウザとケンシロウでは流石に勝敗が見えている。

 何せ外伝での話になるが、魂の抜けているジュウザはリュウガ如きと互角だったからな。

 それよりも今は外に出さない事が重要だ。

 外に出せばすぐに新しいリハクの部下が接触してきて、そこから睡眠薬飲まされて連行されてからの原作ルートに入る可能性が高い。

 だがこの町にいる間は、リハクの部下など全て門前払いするのでジュウザには近付けないし、無理矢理入ろうとしたらその時は始末すればいい。

 ジュウザは死なせるには少し惜しい男だ。

 だから生かせるならば生かしたい、というのが俺の考えだった。

 

「ありがたいが、自分の足で探す事にしよう。雲は一か所には留まらないのさ」

「……そうか」

 

 だがジュウザは結局、滞在を選ぶ事はなかった。

 ケンシロウを追い、町を去る後ろ姿――俺はそこに、死の気配を感じずにはいられなかった。

 

 

 拳王軍はリハクの城を目指して移動している。

 幸いにしてサザンクロスとは別方向だが、それでも距離的に言えば確実に拳王軍はサザンクロスにも迫っていると言えるだろう。

 なのでここ最近は国境の警備を増加し、実力者も配置して万全の態勢を敷いている。

 ラオウは真っすぐリハクの城を目指すにしても、その部下は分からない。

 丁度いい位置にサザンクロスがあるからとちょっかいをかけてくる可能性は十分あるだろう。

 そうなった時に即座に動けるよう、俺自身も国境に出向いて万一に備えるつもりだ。

 そしてラオウの接近を感じ取り、トキが闘志をかつてない程に高めていた。

 

「シン……ラオウが近付いているのだな」

「ああ。リハクの城を目指しているようだが、油断は出来ん」

「ならば私を連れて行ってくれ」

 

 急ピッチで出撃準備を進める我が軍の精鋭達を城のバルコニーから見下ろす俺にトキが後ろから話しかけてきた。

 トキは今、限りなく全盛期に近い状態にある。

 髪の色こそ白髪のままだが、やつれていた身体は若々しさと力強さを取り戻し、はちきれんばかりの闘気に溢れている。

 もう無理に刹活孔を突いて偽りの剛拳を得なくとも、今のトキならばラオウの闘気と筋肉の壁を突破して秘孔を突く事が出来るだろう。

 

「ラオウが向かう道中には、私もよく知る場所がある。きっとラオウは一度その場所を訪れるはずだ」

 

 トキがよく知る場所っていうと……あれか。トキとラオウが生まれ育ったという約束の地。

 格闘ゲームでは、あのお馴染みの処刑用BGMが流れる場所だ。

 ジョインジョイントキィナギッペシペシナギッペシペシ……うっ、頭が。

 修羅の国出身なのに、違う場所が生まれ故郷ってどういう事やねんとはよく突っ込まれるが、これに関しては元々そこで生まれ育ってから修羅の国→日本と経由したのかもしれないし、色々あったショックでトキが記憶を失っただけかもしれない。まあ、今言及するような事でもないので置いておこう。

 しかし、そうか……そんな場所にあったのか。

 今ラオウがいるのは元々海だった場所なんだが、多分元は離島のどこかだったのだろう。

 俺が知っている離島かもしれないし、前世の世界には存在しなかった離島かもしれない。どちらにせよ俺の勢力圏外だ。

 

「どうしても戦う気か? 俺としてはお前には無理に戦いなどせず、一日でも長く生きてその術を後世に残して欲しいと思っているのだがな」

 

 トキが生きる一日は、百人の命を救うと俺は思っている。

 この世紀末において人格と能力の両方を備えたトキという人物は、ラオウをぶつけて死なせるにはあまりに惜しい。

 もしもトキが戦いを避けてくれるならば、俺はそれを全力で歓迎しよう。

 それでも尚、天がラオウとトキの戦いを望むならば……うちにいる偽トキじゃ駄目か?

 髪を白く染めておけば案外天も気付かないんじゃないかと思うんだが。

 

「シン、お前のおかげで私の身体はかつてない程に活力に満ちている。まるで病にかかる前に戻ったようだ。だがお前も分かるはず……これは所詮一時的なものに過ぎないと」

「……そうだな。今のお前は小さな穴の空いた浮き輪に無理矢理空気を詰めて一時的に膨らませたようなものだ。だがいくら膨らませようと穴を塞がぬ以上、命という空気は確実に抜けていく。そしてその穴を塞ぐ術はない」

 

 今、トキは俺から見ても力強く、圧倒される。

 しかし所詮は一時的なものだ。根本的解決が出来ない以上、何度空気を詰め込もうといずれはしぼむ運命にある。

 穴が空いたその時点で、その浮き輪は既に死んでいるのだ。

 心底……本当に心底惜しいと思う。

 俺はトキの事を人として、そして格闘家として尊敬出来る男だと思っている。

 この世界で数少ない、真に尊敬すべき人間であると認めている。

 何よりも、幼き日からラオウを追い続け、病に冒されても尚諦める事のないその執念に、俺は敬意を表する。

 だからこそ惜しい。誰にも負けぬ拳の才を持ち、兄を越えようと誰よりも努力し、そして誰よりも優れた人格を持ちながら、誰よりも強い執念を持ちながら……『天に見放された』という、たったそれだけの事で全てを失おうとしているこの男が。

 

「だからこそ今……かつての力が戻っている今のうちに、ラオウと戦いたい。これは天が私に与えてくれた最後のチャンスなのだろう」

「……天、か。あまり好きな考え方ではないな」

 

 どいつもこいつも天、天、天! 何だお前等、全員餃子か!?

 天さんさようなら、どうか死なないで。

 という冗談はともかく、この世界の天の意思はあまり信用しない方がいい。マジで。

 

「トキよ、お前に最後のチャンスを与えたのは天などではない。この俺だ。

そして俺の助力を勝ち取ったのはお前自身の才覚と、お前がこれまで歩んで来た道だ。そこに天などという下らぬ何かの意思が介在する余地などない。

戦うならば天ではなく自らの意思で戦え。チャンスが欲しければ自らの力で掴み、物にしろ。肝心な場面で自分以外の何者かに委ねる男に勝利はない」

「……自らの、力」

「天に勝利を乞うな、天の微笑みなど求めるな。勝利を乞うならば自らの鍛え上げた技に乞え! 微笑みが欲しくば……勝利の女神に求めろ。俺は一度も天の笑みなど求めた事はない。俺は常に、俺の勝利の女神の微笑みのみを求めている」

 

 俺は常に、俺の女神(サラ)の笑顔だけを求めている。

 天などという、どんな奴かも分からない他者(・・)の笑みなど、そこらに落ちているゴミ程の価値もない。

 トキはこう言っては悪いが、どこか他力本願な部分がある。

 病に冒された身では仕方ないのかもしれないが、最後の最後の肝心な部分で天の判断を求めている……神頼みをしているような気がするのだ。

 トキ伝でも刹活孔を突く時に「天よ、最後の力を」と懇願し、ラオウとの戦いが終わった後は「天はやっと私に微笑んでくれた」と言っていた。

 だがそうではないだろう。最後の力はお前自身の内側から絞り出すべきものだ。

 そして微笑んでくれる相手ならば、すぐ側にずっといただろう。

 

「お前の隣にもいるはずだ。お前の事を誰よりも想い、信じている女が」

「……サラ」

 

 少し、語り過ぎたな。他人の信条に口を出すなど俺らしくもない。

 トキがどう生き、どう死のうが知った事ではないだろうが。

 ただ、トキの側にいる女が俺の惚れた女と同じ名前だったからだろうか……いらん口出しをしてしまった。

 

「シン……ありがとう」

「…………ふん」

 

 背中越しにかけられた言葉に返事をせず、俺はバルコニーから飛び降りた。

 

 

ジャギ「何故諦める必要がある!? 何を迷う事がある奪い取れ!」(飛び降り強制キャンセル)

シン「おい」

 

【ジュウザ】

慈母星を守護する五車星のうち「雲」を司る男。

ラオウやトキと互角の拳才を持ち、我流の拳法を操る。

ラオウが馬から降りたり、かなり善戦したりと、六聖級かそれ以上の強さを見せ付けた。

強さのムラが激しく、魂を失う前はシンと互角、魂を失った後はガルダやリュウガと互角。

そしてユリアを守る為の戦いではラオウ相手に善戦と、レイほどではないが強さが安定しない。

フドウと並ぶ五車星最強にしてユリアの血を分けた兄でありながら、どういうわけか最後の将の正体を教えてもらっていない。

原作ではリハクの部下に付きまとわれた挙句に薬を盛られて拉致され、ユリアに「お前の命が欲しい」と言われて捨て石として散った。

アニメではリハクに「ジュウザ、全てはお前の拳にかかっている。我が将の瞳を涙で曇らせてはならん」と言われるが、要するに「お前が死んでもユリアは泣かない」と言われたようなもの。

ユリアの「お前の命が欲しい」発言もジュウザ視点だと「ケンシロウとの再会>ジュウザの命」と言われたようなもの。

ジュウザ、お前は泣いていい。

ついでにこんな事を言う羽目になったユリアも泣いていい。

 

【アミバなんかにやられるほどジュウザ弱くないだろ!】

死の灰を浴びたと聞いていたトキらしき何かがムキムキのプロレスラーみたいな姿でやってきて「これぞ柔の拳!」と言いながらプロレス技を仕掛けてきた。

ジュウザは混乱のあまり頭が真っ白になった。

ジュウザ「お前、トキ……? えっ? その、随分鍛え直し……いや、死の灰どこいった……というか本当にトキかこれ!?」

 

【リハクの策】

実はサザンクロスの民にまで被害を出すような悪辣な策を講じたわけではない。

根本はあくまで一応善の人。多分。

リハクの策では拳王軍はサザンクロスに入れずに入り口でシンやサザンクロスの戦力によって食い止められるので、その間にケンシロウとユリアを再会させて慈母星軍が参戦して挟み撃ちで確実に拳王を倒すつもりだった。

トレインした事は墓の下まで持っていき、サザンクロスの窮地を救ったという事実を作れればシン側の態度も軟化するという考え。

尚、全て裏目に出た模様。

よ、読めなかった……! まさかこのような事態に陥るとは! このリハク一生の不覚!

 

最早トキのそっくりさんですらない誰か「とんだ期待はずれだな(ハンニンマエノワザデハ)私が本気を出せる奴はどこにいるのだ(オレハタオセンゾ)!?」

シン(……これならワンチャン、本物と会わせても大丈夫か……?)

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