シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ! 作:マジカル☆さくやちゃんスター
俺達は多分、どちらも相手の事を嫌っていたのだろう。
互いに避けられる限り避けて、悪意のフィルターを通して相手を見ていた。
だから俺の目にはユリアは理解の出来ない何かに映っていたし……きっと、ユリアから見た俺もまた理解出来ない怪物だったのだ。
ケンシロウとユリアをサザンクロスで保護してから一月。
俺はこれまで極力関わらないようにしていたユリアと遂に、対面の時を迎えていた。
別に何かそうしなければいけない出来事があったわけではなく、決意を固めて会いに行ったわけでもない。
ただ、ケンシロウに今後のユリアの治療プランの話を持っていったら、今日は体調はよかったらしく外に出ていたユリアとばったり遭遇してしまっただけだ。
「…………久しいなユリア。核戦争以来か」
「……ええ、そうですね……」
俺とユリアの間に気まずい沈黙が流れる。
どちらも口を開けず、間に立つ事になってしまったケンシロウは無表情のまま狼狽えていた。
俺とユリアが不仲であり、互いを避けている事は薄々ケンシロウも察していたはずだ。
しかしここで仲を取り持つ、なんて器用な真似が出来る男でもないので居心地悪そうに立っている事しか出来ない。
「シン……貴方にはお礼を言わなければなりません。私とケンの安住の地を提供して下さったこと……深く感謝します」
「構わん。それより、もうリハク達が求める役割は終わったのか?」
「そのようです。私とケンが安住の地を求めて離れた時……彼等は何も言いませんでした」
俺は溜息をかろうじて飲み込んだ。
リハクめ……やはり、ケンシロウと再会させた後に何かプランや展望があったわけではなかったか。
この世界ではもしかしたら違うかもしれないと思っていたのだが、結局二人を再会させるのがゴールで、その先がない。
後は奇跡が起こるのを待っているだけで、きっとこの先サザンクロスが文明の光を取り戻してもリハクの中ではケンシロウとユリアを一つにしたからこその奇跡として都合よく処理されるのだろう。
「シン……私は……最後の将とは……一体、何だったのでしょう……? 私は何の為に……」
「それを俺に聞くのか?」
「……皆……同じ事しか答えてくれぬのです……」
ユリアは消えそうな声で呟き、俯いてしまった。
まあユリア視点だとわけがわからんだろうな。
幼い頃から「貴方は将として立つべきお方!」と持ち上げられて教育され、実際に将になってユリアの為に大勢が自ら命を投げ出した。
その果てに何かやれと求められるわけでもなく、ケンシロウと再会してはいお終い、後は二人でお幸せに……だ。
「先に言うが、まず貴様の求めているような優しい答えは返せんぞ。加えて言うならば、俺なりの解釈であって正解である保証はない」
「構いません……何も分からぬよりは……」
「そうか」
こうして見ていると、ただのか弱い女にしか見えない。
いや、きっとそれが正しいのだろう。
誰もが慈母星という光を見て、ユリアの中に巨大な偶像を作り出す。
だがそうしたものを抜きにして見たならば、そこにいるのは……ただの女だ。
せめて少しでも長く、愛した男と一緒にいたいと願うだけの、野心のないただの人間なのだ。
その程度の事に気付くまで、俺も大分長い間かかってしまった。
「役割的なものを言えば、北斗神拳伝承者、元斗皇拳伝承者と共に天帝を支える表の将だろう。陽の存在である南斗が民を纏め、陰の存在である北斗が汚れ仕事を請け負う。そして元斗が門となって帝を守護する。慈母星もまたそのうちの一つ……もっとも、貴様が俺に聞いているのはこんな表面的な話ではあるまい」
「はい……その役割は既に崩壊していました。なのにリハク達は私を将として支えてくれて……私は彼らに何を求められていたのか……分からないのです」
それは本人に聞け……と言いたいが、聞いた上でこれなんだろうな。
きっと、何度質問しても「貴方はこの乱世になくてはならぬお方」とか「永遠に輝く光なのです」とか、そんな答えしかもらえなかったのだろう。
一体リハク達は結局、ユリアに何を求めていたのか。
それは俺にも分からない。だからこれから話すのはあくまで、俺なりの憶測になる。
「恐らく……役割など
「えっ……」
「この乱世という暗闇の中で誰もが道を見失った。人は何もない暗闇の中では正気を保つ事ができない……だから、光を求めた」
リハク達がユリアに求めたもの……それは本人達が散々言っていたように、光だ。
そして人が恐怖した時に求める光とは何か?
絶望の淵に立たされた時、屈強な男でも最後に助けを求めるのは母の存在だろう。
慈母星という光は、そこにあるだけで彼等にとって自分を繋ぎとめる希望になったのだ。俺はそう思う。
「奴等が散々言っていた通りでしかない。貴様にはただずっと光っていてもらえばそれでよかった。それだけで奴等にとっては無くてはならないものだったのだ。要するに何かに縋りたかっただけなんだろう」
ユリアという存在は、本人の望む望まざるに関係なく相手の心を焼いてしまう。
彼女に会えばほとんどの者が、そこに光を見出す。そしてユリアの為に自ら命を投げ出す。
この希望がまるで見えない世界で、何らかの希望が欲しかったのだろう。
そして縋りたかった。そうしなければ、何もかもを諦めて畜生に成り下がってしまう。
「では、私は何の為に……何の為にケンと引き離されて……私の為に死んでいった者達は、一体何の為に……」
「ユリア……」
顔を両手で覆ってしまったユリアを、ケンシロウが心配そうに支える。
その姿は何と言えばいいのか……哀れ、としか言えなかった。
★
ユリアにとってシンという存在は、理解しがたいものであった。
同時に見たくないものでもあった。
シンという存在を見れば見るほどに、自分の中にある薄暗い感情と向き合わなければならなくなる。
今なら分かる……それが羨望であり、そして妬みという感情だったのだと……。
ユリアはずっと、耐えて生きてきた。
南斗正統血統……生まれたその瞬間から決められていた運命。
幼い頃からいつか南斗の将となって立つべきと教えられ、望んでもいない予知の力を天より与えられた。
飛行機の墜落……火災……大切な従者の死……ユリアは多くの不幸な未来を見て、そしてそれらは全て現実のものとなった。
こんな忌まわしい力など望んでいない。
それでも耐えられたのは、それが宿命だと思えばこそ。
この望まぬ力も、宿命の為に天に与えられたもの……そう思う事で、ユリアはこの過酷な現実と何とか向き合ってきた。
愛する男と引き離されても、将として祭り上げられても……自分の為に大勢が喜んで命を投げ出しても、そういうものなのだと思えば諦めがついた。
待つのが己の宿命。天より与えられた使命。そう自分に言い聞かせ、周囲にもそう在るべしと望まれて……でも、本当は……。
――そんな役割など全て投げ捨てて、ケンシロウの胸に飛び込みたかった。
だから、シンの事は見たくなかった。
向こうが意図的にユリアを嫌っていたのと同じように、ユリアも意図的にシンを軽蔑した。
天に中指を立てる愚か者。
宿命に背を向ける臆病者。
己の運命を理解しようとせずに自分のやりたい事だけを欲望のままにやる卑怯者。
そう思いたかった。
だがユリアとて馬鹿ではない。この時代でシンが成し遂げている事が……そしてこれから成し遂げようとしている事が、どれだけ世界の為になるのか分かってしまう。
シンは国を作り、軍を作り、そして人々が笑って暮らせる世界を取り戻しつつある。
愛する人が隣にいて、死の運命にあったはずの者達と並び立ち、同じ夢を見て歩いている。
その隣にはケンシロウもいて……ズルい、と思った。
誰よりも彼を愛している自分が宿命に殉じて待っているのに、どうして殉星の男が宿命を無視してケンシロウと一緒にいる?
そこは、私がいたかった場所なのに……。
手紙で『邪魔だから引っ込んでいろ』と言われた時も、違うと言いたかった。
慈母星などいなくても世界は平和に出来ると言われたようで……それなら自分は今、何の為に待っているのか、分からなくなってしまう。
リハク達は何も教えてくれない。
光だのなくてはならないだのと言っても、具体的にどう必要なのか……将として何をすればいいのかを誰も教えてくれない。
拳を学んだ男達のように戦って道を切り拓く事も出来ない……ユリアは、待つ事しか出来なかった。
「俺達は互いに、悪意のフィルターを通して相手を見ていたらしい」
「悪意の……フィルター……?」
「そうだ、ケンシロウ。俺はユリアの事を、天の意思の代弁者のように思っていた。俺が打倒すべき怪物に見えていたのだ」
天の意思の代弁者……そう言われて、ユリアはシンが何故自分からやけに距離を取りたがっていたのか、その理由をようやく知った。
彼は運命や宿命を嫌う。
だから、全てを宿命として耐えていたユリアの姿は何でもかんでも宿命として、それに従わせようとする敵に見えていたのだろう。
そしてそれは、半分正しい。
ユリアは確かに、シンも自分のように宿命に従うべきだと思っていた。
だって、そうじゃないとあまりにズルいから……自分が必死に耐えているのに、宿命に背を向けているシンだけが欲しいものを手に入れるなんて、惨めな気持ちにさせられるから……。
「シン、そんな事は……! 断じてそんな事は……!」
「分かっている、俺が勝手に作り出した幻影だ。今こうして相対してハッキリと分かる……怪物など、
シンの言葉を聞き、ユリアは彼の変化を知った。
もうそこには、運命に怯えていた男はいない。
何が来ても打ち倒す意思を持った一人の男がいた。
「貴様はどうだ、ユリア。貴様の眼にはまだ、俺は怪物に見えているか?」
「……いいえ……私もまた、私の中の妬みこそが怪物の正体でした。今、私の前にいるのは……ただのケンの友人です」
「友人」の部分で何故か一瞬シンが顔をしかめたが、ユリアの返答に彼は穏やかな表情で「そうか」とだけ返した。
★
それから俺は、今後のユリアへの治療と、ユリアの光に心を焼かれる者への対策を話した。
今まで俺が魅了能力扱いしていたユリアの不思議な力だが……今なら分かる。実際にはそんなものはない。
ただ、ユリアの持つ慈母の光がそれに近い効果を発揮してしまっていただけだ。
そして対策は既に分かっている。
何故人々がユリアに安らぎを覚えるのか。何を求めてユリアに心酔してしまうのか。
……それは、母の愛だ。
幼い頃に母を失った原作のシンもまた、ユリアに母を重ねてしまったのだろう。
つまりあれだ。ララァは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ! と似たような心境ってわけだ。
つまり、母の安らぎを求める奴であればあるほど、ユリアの光に嵌る。
そして世紀末で母の安らぎを求めてない奴など少数派なので、ほぼ全員がユリアに光を見てユリア様こそ永遠の光! となってしまう。
ラオウやトキも同じだ。幼い頃に失った母の面影をユリアに見たのだろう。
だが例外もある。例えば最初からそんなものを求めていないジャギのような奴はユリアの光の影響を全く受けない。
後は実際に本物の母が存命の奴とかも多分大丈夫だろう。
ともかく、少しずつ色々と試してユリアに近付けていい奴とそうでない奴を見分けていくとしよう。
リハク「見よ、世界に再び光が戻った! しかしユリア様とケンシロウ、そして宿命に導かれた男達がいなければこの世界は永遠に闇に閉ざされていただろう」
【慈母の光がそれに近い効果を発揮してしまっていた】
Q、それ結局魅了では?
A、…………。