シン・南斗の拳 俺達の戦いはこれからだ! 作:マジカル☆さくやちゃんスター
重苦しい沈黙が場を支配していた。
すぐにでも返答が来ると思っていたが、予想に反してまだオグルとバトロは口を開かない。
殺気は隠しているはずだが、俺の真意に既に気付いているのかもしれないな。
彼等の視点で見れば、俺は今「天帝を手元に置いている」というこの世界の最重要情報を明かした形になる。
そしてそれだけの情報を明かした以上、返答次第では無事に帰す気がないという事も悟ったのかもしれない。
ケンシロウならまず気付かないだろうが、やはりこの二人は馬鹿ではなさそうだ。
「……幸せそうな笑顔だ。村にいた頃には見られなかった」
最初に口を開いたのはバトロだった。
ルイの養育係だったというこの男は、きっと誰よりもルイの事を見てきたはずだ。
その男がこう言うという事は、村にいた頃のルイは本心から笑った事はなかったのかもしれない。
幼くして背負わされた天帝という期待と重荷。子供であろうとその重圧を感じないほど彼女は鈍くない。
子供らしい子供として過ごす事など許されず、『ルイ』ではなく『天帝』を求められ、それで無邪気に笑う事など出来なかっただろう。
原作では幼い頃からずっと、失明するほどに幽閉されていた。つまり幼少期から大人になるまでの青春の大部分を幽閉されて過ごしていた事になる。
普通に考えればそのメンタルや精神年齢は幽閉当時の子供のまま止まっているはずだ。何せ全く人生経験を積めていないのだから。
だというのにリンと再会した時の口調や態度はどうだ?
その気品や物腰はまるで大人のもの……外見から考えれば自然だが、彼女の置かれた境遇を考えれば自然である事が逆に不自然。
つまり幽閉された当時……幼い少女時代で既に、天帝としての振る舞いを叩き込まれていたわけだ。
それでは本心からの笑顔など引き出せまい。
「KINGよ、質問を増やしてもよいだろうか?」
「言ってみろ」
「あのリンという女性は天帝……ルイ様によく似ている……当初、私は彼女をルイ様と思ったほどだ。彼女は一体……」
バトロが見間違えるのも無理はない。実際ルイとリンは瓜二つだ。
しかしリン側がバトロの事を全く知らなかったので別人と確信した、といったところだろうか。
そしてファルコは、リンの存在を本当に誰にも教えていなかったらしい。
その点だけは評価出来る。
「知るべきではない情報というものがこの世には存在している。リンの素性もその一つだ。
ファルコが墓にまで持って行ったその情報を俺が語る事はない。
どうしても知りたければ、墓の下に入った時にでもファルコに聞きに行くのだな」
まあ、要約すると「教えねーよバーカ」という事だ。
この二人はリハクほどのアホではなさそうなので、このルイとリンの関係を教えても「テンガフタツニワレテイルー」とかほざいて血迷う事は多分ないだろう。
しかし絶対ではない。なので結局余計な事は教えないのが一番だと俺は判断した。
ちなみにリハクには絶対教えない。リハクは肝心な部分がフワフワしていて何の根拠もなくオカルトを信じるタイプなので二人の天帝を知ったら絶対余計な事をしでかすのが目に見えている。
結局ケンシロウとユリアが再会しても何も起こらなかったわけだが、リハクの中では「ケンシロウ様とユリア様が再会なされた事で世界に光が戻った!」という事になっているらしいからな……ちょっとマジで思考回路が理解出来ない。
「……そうか……ならばKINGよ、頼みがある……」
「何だ?」
「お二方を……どうか、頼む……!」
バトロが深々と頭を下げ、オグルもそれに続いた。
お二方ときたか。こりゃ何となく察していそうだな。
とにかく、天帝に関しては予想外の軟着陸を見せてくれた。
正直ここで二人とやり合う覚悟を決めてきただけにこいつは嬉しい誤算である。
しかしまだもう一つの問題が残っている。
そう、ビジャマとミュウの事だ。
これに関しては、元斗視点で見ればまあほぼ……というか十割こっちが悪い。
ビジャマの奸計のせいでファルコがラオウに突撃し、本来ラオウに殺されるはずだったコウリュウを俺が遠ざけた事で起こらなくてもいいラオウVSファルコの戦いが発生してファルコが死んだ。
別にこの件で俺の心に悔いがあるだとか、そういう事は一切ない。
俺にとってファルコは厄介な障害であり、ラオウと衝突して消えてくれたのはむしろ願ったりかなったりだ。
第一あいつは本来の歴史では南斗を虐殺する奴だし、何で俺がそんな奴の死に心を痛めねばならんのか。
あの時点でのファルコの死は俺にとっても予想外の出来事だったが、仮に止める手段があったとしても止めなかっただろう。
そしてビジャマの要望でミュウをKINGシティに連れてきたのも悪手とは思っていない。
ファルコの存在によってラオウからお目こぼしを受けていた天帝の村がファルコ亡き後も無事かどうか分からなかったし、ヒャッハー共に蹂躙される可能性は大いにあった。
というか実際あの後蹂躙された。具体的にはラオウが修羅の国に渡った辺りで、拳王の恐怖から解き放たれたヒャッハー共がこれ幸いと暴走しまくったようで、俺がそこまで勢力圏を伸ばした時は既に天帝の村は跡形もなくなっていた。
バトロとオグルも頑張って村を守ろうとしたはずだが、結果を見るに駄目だったらしい。
多分、囮にいい具合に引っかかったり、数で押されたり、多面作戦を展開されたりしたんじゃないだろうか。知らんけど。
ともかく、もしミュウをあのまま村に残していたらどうなったかは……まあお察しだろう。
「それと……」
「ミュウの事か。それならばビジャマとミュウの二人との間に話し合いの場を設けよう。後はそちらで勝手にやってくれ」
オグルの言葉に割り込み、ミュウの問題を当人達に丸投げした。
悪いが俺にとって、それはどうでもいいのだ。
別に俺自身がミュウをこの町に迎え入れたかったわけではなく、ビジャマの要望で保護したに過ぎない。
だからミュウがこの町を離れたいなら好きにすればいいし、留まりたいならそれも拒否しない。
幸い、かつて天帝の村だった場所も今では俺の勢力圏内だ。
今ならあそこに帰ってもヒャッハー共に襲われる事はないだろう。
「ただしビジャマは我がサザンクロスの幹部だ。害すればそれは俺への宣戦布告になる事は覚えておけ」
「……承知した」
俺の提案にオグルとバトロは何も文句を言わなかった。
無理矢理保護した事への反発がもう少しあると思ったが、それがなければ今頃ミュウはヒャッハー共の慰み者か、あるいは殺されていたのは間違いない。
それが分かっているから何も言えないのだろう。
やはり力……力こそが正義……。
力のないものは何も守れないし死に方も選べない。
何事も暴力で解決するのが一番だ。ケンシロウ……暴力はいいぞ!
★
後日、俺はバトロとオグルを連れてビジャマの屋敷へ向かっていた。
勿論、今日向かう事は事前にビジャマに通達してあるので今頃は歓迎の準備をしてくれているはずだ。
とりあえず一応、俺も付き添う形ではあるが話し合いに口を挟む気は一切ない。
とはいえ、話し合いは長引きそうだし今日は退屈な一日になりそうだ。
欠伸を噛み殺しながらビジャマの屋敷へ近付くと、そこで俺は異変に気が付いた。
「ああ、ファルコ……貴方はやはりもう……」
バルコニーに立ち、空を見上げるのはまさに今日の話し合いの主役のはずのミュウであった。
彼女の視線の先にあるのは、いつも通りの曇り空だが……まさか、ファルコが見えている……?
くそっ、これだから北斗世界は油断出来んのだ! 何かよく分からんオカルトで死が伝わりやがる!
俺は嫌な予感がし、バルコニーの下に走った。
「今……貴方のもとへ……」
「よせ! ミュウーーー!」
ミュウは何かに吸い寄せられるようにバルコニーから
そしてギリギリで間に合った俺は跳躍して彼女を受け止めた。
くそ、ビジャマめ! だから
地面に着地し、ミュウを見る。
……よし、気絶しているが生きている。全くの無傷だ。
遅れてオグルとバトロが駆け付け、心配そうにミュウを覗き込んだ。
「ミュ、ミュウ!」
「KING、ミュウは!」
「安心しろ、無事だ」
とりあえず俺は空を睨むが、当然そこにファルコの亡霊などいない。
くそ、ミュウは一体どうやってファルコの死を感知したんだ。
やはりファルコの念的な何かがミュウの前に現れたのか?
後でファルコの墓に祈祷師を送り込んで除霊してやると強く決意しつつ、屋敷から聞こえる音に耳を傾けた。
ビジャマはどうやら泣きながら階段を急いで降りているらしく、駆け降りる音と涙声が聞こえる。
「ミュウ! そこまでファルコを……! もう……もう俺を愛せとは言わん! 生きて……ただ生きてさえいてくれればもう……」
……なんだろう、この既視感。
どっかで聞いた覚えのある台詞だな。どこだったっけ?
やがてビジャマは俺達の前に姿を現し、ミュウを見て安堵の息をついた。
「おお……き、奇跡か! 傷一つ負っていないとは!」
「危ない所だったな、ビジャマ。俺がいなければこの女は死んでいたぞ」
「KING!」
だからフェンス付けろって言っただろこの馬鹿!
……と言いたいのを堪え、立ち上がる。
とりあえずミュウを野晒しにしておくのはあれだ。まずは屋敷の中に入るべきだろう。
生きているし傷もないが、それでも飛び降りの恐怖は相当なものと聞く。
しっかり療養させて医者に見せるべきだ。
しかしビジャマはミュウをじっと見ているだけで、動こうとしない。
「久しぶりだなビジャマ」
「……オグルとバトロ……か」
「俺達はミュウを村に連れ帰りに来た。ファルコが眠る、あの……」
「言うな!」
バトロの言葉を遮り、ビジャマが叫んだ。
そして彼らに背を向けて、未練を断ち切るように叫ぶ。
「連れていけ!」
え? いいの? マジで?
ビジャマお前あんなに執着してたのに本当にいいのか?
「何度愛を囁こうと……何を贈ろうと……ミュウが俺に笑顔を向ける事はなかった……。
ミュウは俺の物に……決してならない……。
どんな宝石もドレスも、ただ虚しいだけ……! 俺が欲しかったのはミュウの心だ!
俺は結局……ファルコに勝てなかった……! 俺とファルコの戦いは永遠に決着がつかんのだ……」
うーん、なんだろう、この既視感。
どっかで聞いた覚えのある台詞だな。どこだったっけ?
聞いているだけで何故かビジャマの姿に俺自身を重ねてしまう。
「ビジャマ」
「何も言うな……何も……」
俺の声も今は聞く気がないようで、ビジャマはそのまま寂しそうな足取りで屋敷へと戻って行った。
長引くと思った話し合いが、まさか話し合いにすらならず終わるとはこのシンの目をもってしても見えなかった。
流石のビジャマもミュウに
予想外の結果に頭を押さえつつ、俺はオグルとバトロを見る。
「まあ、そういう事らしい……よかったな、連れて帰れるぞ」
「……ああ。しかし何とも、世の中とは残酷なものだ」
「ビジャマは我らにとって恨むべき相手だが……流石に哀れよ」
結局その後、オグル達はミュウを一度医者に見せた後に連れ帰り、屋敷にはビジャマ一人となった。
そしてビジャマは失恋の空虚を埋めるためか今まで以上に真面目に仕事に打ち込むようになり、我がサザンクロスの技術レベルはますます向上した。
うん……結果を見れば悪くない。むしろ俺としてはプラスと言っていいだろう。
しかし……なんだ、その……まあ、うん。
今度からもう少しビジャマには優しくしてやるか……そう思った。
殉星「お前が死にものぐるいで俺を乗り越えたところで、俺は何度でも蘇るのだ……更に強くなってな!」