全部くれーーーーーー!!!!
エリエルカ・ラディ。ギルドからの派遣員。凄腕
外見はといえばゆるくウェーブを描いた金色の髪は収穫前の麦畑を思わせる美しさで、思わず手が伸びそうになるほどだ。それを咎める切れ長の二重にはラピスラズリのように輝く瞳が嵌め込まれていて、まるでショーケースのように眼鏡がそれを引き立てる。スタイルも抜群で、妖艶でありながら可憐という奇跡的なバランスの体型。歩けば男が皆振り返るような絶世の美女であった。
午後三時、昼下がりの酒場でそんな彼女が腕を組んで眉を吊り上げている。
「アンタねえ、ふざけんのもいい加減にしなさいよ!!」
どん、と勢いよく置かれたエールのジョッキが泡を零す。ついでにエリエルカの豊かな胸も揺れたような気がする。俺は胸をガン見しながら答えた。
「なーんにもふざけてねえよー、ガチのマジだって」
「はぁ!? アンタ世界唯一の
「もしかしてイモムシ界の勇者だったんじゃねえ? クソ強かったし」
「畑用の除草剤かけただけで死んだってえの!!」
ギルドからやってきた彼女とパーティを組むことになり、フォーメーション——守ってもらうための最適な陣形とも言うが、まあその辺の現場でしか培われない細かなサムシングを詰めていくことにした。そうして話をするうちに何か軽く依頼でも受けようかという話になったのだ。
「やれやれ、元気なお嬢さんだな」
「なに格好つけてんだアホ!!」
そこまでは良かったが、肝心な「楽して稼ぎたい」という俺の思惑が伝わってなかったためか、何故か俺は畑に住まう悪魔、呆け芋虫と戦うことになり当然のようにボコボコにされた。
俺は安酒をあおりながら尋ねる。
「つーかさ、エリエルカはギルドからどう言われて俺とパーティ組むことになったわけ?なんか噂とか聞いてねえの?」
あいつ世界最弱記録持ってるよ、とか。
本人を前に言いづらいことでもあったのか数瞬言い淀んだものの、エリエルカは明け透けに答える。
「……あんた自身については何も? これまでの研究が評価されて英雄のパーティに参加できるって話が舞い込んだのよ。名が売れると研究費も出るし、世界を救ったって男に興味もあったから、それでかしら?」
まさかその英雄サマが芋虫に負けるとは思ってなかったけど、そう付け加えてエリエルカはジョッキを傾けた。へらりと笑うとすぐさま鋭い視線が飛んでくる。肩を竦めて俺は彼女に尋ねた。
「んじゃあ、パーティ組むのはやめとくか?」
「……わざわざ斡旋されたパーティを初日で抜ければ悪評が立つし……しばらく世話になるわ」
不承不承、という言葉のこれほど似合う顔もあるまい。親の仇でも見つけたような形相である。
「そうかい。まあ、多分世話になるのは俺だけどな。よろしく頼むぜ、
「誰が金づるよこのインチキ勇者!!」
*
「自壊する魂、流動する土塊!応えよ母知らぬ
エリエルカが地面に幾何学的な模様を描き、そこに試験管から何やらサイケデリックな色彩の液体を垂らすと呪文を唱える。
地面がめこりと持ち上がる。まるで意思を持つかのように、あるいは何者かの手に捏ねられたように土が形を成し始め、俺たちの頭を超えて大きくなると人型になり始めた。その姿はヒトの成長を何万倍速もの速さで見せられているかのようだ。
「乗せなさい」
人で言えば顔にあたる部分、奈落のごとくぽっかりと空いたその空洞に身を寄せたエリエルカは、懐から取り出したサファイアをその少し上へ埋め込む。瞳のように配置された青色の宝石が喜ぶように煌めいた。
マッカニア近郊の森、つい先日恐ろしい強敵相手に惜敗したそこに俺たちは再び足を踏み入れていた。魔力場の乱れから周囲は鬱蒼した木々に囲まれ、モンスターの気配に怯えた動物たちも姿を現さない。そんな森の中で異常がないか確認しながら歩き回る
ランクDというのはいわゆる冒険者の駆け出しにあたるレベルである。街の中での雑用ばかりのランクEとは違い、冒険者としての危険や責任を負う依頼を受けることになる。具体的に言えば女神の祝福に満ちた領域の外へ出てみるだとか、そこに蔓延るモンスターを倒してみるなんてものがメインで、俺からすればそんなものを引き請けるのは正気の沙汰ではない。
その中でも今回請けた「森林調査」が属する調査依頼というのは複合的な技術を求められるものであり、ランクDの中では高難度とされる依頼だ。危険な祝福外を歩き回る能力、些細な異常を見落とさない観察力、森への深い造詣。どれも俺にはないものなので遠慮なくエリエルカに頼ることにした。彼女は随分と不満そうにしたが、普段研究ばかりしているとはいえ俺よりは冒険者としての実力が確実なのだから、任せておけば問題ないだろう。
「Aaaaaa…………!!!」
低位とはいえ、ゴレムの精密性は術者の力量に左右される。故に本来鈍重なはずの土の人形はそれを感じさせない効率的な動きで襲いくるモンスターを叩き潰していく。瞳がわりに埋め込まれたサファイアに魔力の灯りが炯々と灯っている。
「ぶあああああああ死ぬ!!!死ぬう!!!!」
一方、それを横目に俺はと言うとあっさりと死にかけていた。目の前では恐ろしい
「ゴレム!!」
だがしかし、生憎と今回はエリエルカが俺のポンコツ具合をきちんと把握している。哀れゴレムの叩きつけるような拳を喰らったゴブリンは呆気なく森の緑を彩る赤色の絵の具と成り果てた。ちなみに俺の鼻先を凄まじい風圧が通り過ぎて思わずチビりそうになったのは秘密だ。
一面に広がるゴブリン・ペーストを
「ざまあみやがれ、これがチームワークだ!!」
「いやこれただの寄生でしょ。ゴブリン相手にチームワークいらないし」
「なんとでも言え、これが俺の生き方だ!!」
「なんで私が……ホント、情けない……」
「はっはっは、愉快愉快!!何でもかかってこいや!!!」
なお、その後突然足元にイモムシが現れ、当然のように俺は転がされた。これが本当に俺の生き方なのだろうか?