YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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主人公の名前……安直でスミマセン。
TSヒロインを贔屓しているので、猪熊柔さんのファンの皆様、ごめんなさい。

アンチでは無いので、よろしくお願いします。


第1話:赤い閃光、乙女の身に宿りし武人の魂

 

轟音が空間を支配し、閃光が網膜(もうまく)を焼く。

 

「ぐおおおおっ! まだだ…まだ終わらんぞぉぉぉっ!! 」

 

血と硝煙の匂いがこびりついた操縦桿を握りしめ、巴武蔵は咆哮(ほうこう)した。

眼前には、人類の存亡をかけた最後の敵。仲間たちの絶叫が通信機越しに響き、ゲッターロボGは限界を超えた軋みを上げていた。

 

(竜馬…隼人…! お前たちは、必ず生き延びろ…!)

 

それが、武蔵の最後の意志だった。

 

ゲッター炉心の輝きが臨界点に達し、凄まじいエネルギーが機体を包み込む。

敵もろとも、自らを爆砕する覚悟はとうにできていた。

ゲッター線が、まるで意思を持つかのように武蔵の魂を優しく包み込む。

その温かさの中で、武蔵の意識は急速に薄れていった。

 

(ああ…これで、終わりか…)

 

仲間たちの未来を、この一撃に託して。

 

「ゲッタァァァァァ・ビィィィィィムッ!!」

 

絶叫と共に放たれた最後の力が、敵を粉砕する。 同時に、武蔵の乗るポセイドン号もまた、閃光の中に消えていった。

 

爆心地には、巨大なクレーターだけが残り、やがて静寂が訪れる。

 

武蔵の魂は、熱い奔流に抱かれていた。ゲッター線。それは進化を促す宇宙の意思。戦い抜き、全てを捧げた魂に、それは(ささや)いた。

 

『ご苦労だった、武蔵。 お前の魂は、ここで(つい)えるにはあまりにも惜しい』

 

優しい光が、武蔵の意識をどこかへといざなう。抵抗する力は、もはや残っていなかった。

 

◇◇

 

「ん…う…」

 

最初に感じたのは、柔らかな布団の感触と、微かに香る石鹸の匂いだった。重い(まぶた)をこじ開けると、見慣れない木目の天井がぼんやりと映る。

 

(ここは…どこだ…? 天国…いや、地獄か…? )

 

戦いの記憶が断片的に蘇る。

爆発の衝撃、灼熱の痛み。

だが、今の自分に痛みはない。

むしろ、妙に体が軽い。

 

ゆっくりと上半身を起こそうとして、武蔵は自分の体に異変を感じた。

 

(…軽い? 軽すぎる…!)

 

まるで羽毛でも持ち上げるかのように、自分の体がすんなりと起き上がる。

そして、視界に入った自分の「手」。それは、戦いの中で鍛え上げられた武骨な男の手ではなく、白く、華奢な、まるで少女のような手だった。

 

「な…なんだ、これは…!?」

 

慌てて自分の体を見下ろす。薄手のパジャマからは、明らかに女性的な体のラインが見て取れた。胸には、ささやかながらも確かな膨らみがある。

 

(嘘だろ…おい…)

 

混乱する頭で状況を把握しようと、部屋を見渡す。

勉強机らしきものの上には、可愛らしいキャラクターのついた鏡が置かれていた。震える足でベッドを降り、おぼつかない足取りで鏡の前に立つ。

 

そこに映っていたのは、見知らぬ少女だった。

 

大きな瞳、通った鼻筋、桜色の唇。肩にかかるくらいの、艶やかな黒髪。まだ幼さを残しながらも、将来の美貌を予感させる可憐な顔立ち。それは、数え年で十三になるかという、まさに成長途上の少女の姿だった。

 

「…………俺、なのか…? これが…?」

 

鏡の中の少女が、武蔵と同じように呆然とした表情で自分を見つめ返している。

信じられない、信じたくない。

だが、鏡の中の少女は、武蔵が顔をしかめれば同じように顔をしかめ、首を傾げれば同じように首を傾げる。

 

紛れもなく、鏡の中の少女は「自分」だった。

 

「な、なんで…なんで俺がこんな姿に…!」

 

思わず叫びそうになるのを、かろうじて飲み込む。その声すら、以前の野太いものではなく、ソプラノに近い澄んだ声に変わってしまっていた。

 

頭を抱え、その場にへたり込む。

ゲッターロボのパイロット、巴武蔵が、可憐な少女にTS転生。そんな荒唐無稽な現実を、どう受け止めろというのか。

 

「夢だ…これはきっと、悪い夢なんだ…!」

 

(ほお)をつねってみる。痛い。紛れもない現実だ。

 

しばらく呆然としていた武蔵だったが、不意にドアがノックされ、優しい女性の声が聞こえてきた。

 

(ともえ)ー? 起きてるー? 朝ごはんできたわよー」

 

(ともえ…? 俺のことか…? )

 

反射的に、野太い声で「おう!」と答えそうになり、慌てて口を押さえる。

 

「…は、はい! 今、行きます! 」

 

か細い、自分のものではないような声で返事をすると、ドアの向こうから「はーい」という明るい声が返ってきた。

 

武蔵巴(むさし ともえ)……それが、今の俺の名前、か……)

 

立ち上がり、もう一度鏡を見る。

そこには、不安げな表情を浮かべた少女がいる。 だが、その瞳の奥には、かつての巴武蔵の、不屈の闘志の残り火が微かに揺らめいているように見えた。

 

「…くそっ、どうなってるのかサッパリ分からんが…とりあえず、腹ごしらえだ…!」

 

男勝りな口調はそのままに、武蔵巴は覚束ない足取りで部屋を出た。

 

この世界での、新しい「日常」が始まろうとしていた。

 

 

◇◇

 

リビングへ向かうと、エプロン姿の優しそうな女性と、新聞を広げた人の良さそうな男性が食卓についていた。

そして、武蔵…いや、巴より少し年上に見える、快活そうな少年も。

 

「おはよう、巴。よく眠れた?」

 

母親らしき女性……武蔵紀子(のりこ)が、巴に気づいて笑顔を向ける。

 

「…お、おはようございます…」

 

ぎこちなく挨拶をすると、父親らしき男性……武蔵剛健(ごうけん)も新聞から顔を上げ、

 

「おはよう、巴。今日は少し寝坊助だったな」と笑った。

 

「…ええ、まあ…」

 

曖昧に頷き、指定された席につく。

目の前には、湯気を立てる味噌汁と、ほかほかのご飯、焼き鮭に卵焼きという、日本の典型的な朝食が並んでいた。

戦場ではろくな食事にありつけなかった武蔵にとって、それは眩しいほど平和な光景だった。

 

「お姉ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?

また夜更かしして漫画でも読んでたんでしょ」

 

向かいに座った少年……弟の武蔵(いさむ)が、ニヤニヤしながら言った。

 

「……読んでねえよ」

 

思わず低い声で返してしまい、紀子に

 

「巴、女の子らしい言葉遣いをしなさいっていつも言ってるでしょ」と優しく窘められる。

 

「…は、はい……」

 

(くそっ、慣れねえ…! なんで俺がこんな…!)

 

内心で毒づきながら、箸を取る。

だが、その細く軽い箸の感触にすら違和感を覚え、うまく力加減ができない。

鮭の身をほぐそうとして、勢い余って皿から転がり落としそうになる。

 

「もう、巴ったら、今日どうしたの? ボーっとして」

 

紀子が苦笑しながら、新しい鮭を巴の皿に乗せてくれる。

 

「……すみません」

 

その優しさが、今の巴には少しだけむず(かゆ)かった。

ゲッターチームでは、自分のことは自分でやるのが当たり前だった。

食事も、訓練も、そして戦いも……

誰かに世話を焼かれるという経験は、あまりにも久しぶりで、そしてあまりにも場違いに感じられた。

 

食事中も、巴の戸惑いは続く。

味噌汁を飲もうとして、お椀を持つ手が震える。ご飯を口に運ぶ仕草が、どこかぎこちない。

何よりも、この「武蔵巴」という少女の体に、まだ自分の魂が馴染んでいないのだ。

 

(体が軽い…まるで綿のようだ…これじゃあ、ゲッターの操縦どころか、パンチ一つまともに打てねえんじゃねえか…?)

 

そんな物騒なことを考えながら、黙々と食事を進める。 味は、美味い。温かくて、優しい味がする。 だが、それがかえって今の自分の状況とのギャップを際立たせ、胸の奥がチリチリと痛んだ。

 

「巴、今日から新しいクラスね。友達できるといいわね」

 

紀子の言葉に、ハッとする。

 

(そうか…俺は…いや、私は…学生、なのか…?)

 

ゲッターロボのパイロットとして戦場に身を置いていた自分にとって、「学校」という場所はあまりにも縁遠いものだった。

 

「…ああ、うん……」

 

気の無い返事をすると剛健が、

 

「巴なら大丈夫だ。昔から誰とでもすぐに打ち解けるし、運動神経もいいからな」と励ますように言った。

 

(運動神経、ね…この体で、どこまでやれるか…)

 

不安と、ほんの少しの好奇心。武蔵巴としての人生は、まだ始まったばかりだった。

 

 

◇◇

 

新しい制服……清楚なセーラー服に身を包んだ巴は、鏡の前で深いため息をついた。

 

「…似合わねえにも程があるだろ……」

 

スカートのひらひらとした感触が、どうにも落ち着かない。

足元は白いソックスにローファー。どこからどう見ても、ごく普通の女子中学生だ。

だが、その中身は歴戦の勇士、巴武蔵。

このギャップは、もはや喜劇の域に達していた。

 

「お姉ちゃん、早くしないと遅刻するよー! 」

 

階下から弟の勇の声が飛んでくる。

 

「…今行くっつーの!」

 

つい地が出そうになるのを堪え、か細い声で「はーい」と返事をする。

 

通学路は、桜並木が美しい、のどかな道だった。ランドセルを背負った小学生が元気よく挨拶をしていく。

そんな平和な光景に、巴は言いようのない違和感を覚えていた。

 

(本当に…平和な世界だな…俺たちが守ろうとしたのは、こういう日常だったのかもしれねえ…)

 

ふと、そんな感傷が胸をよぎる。

だが、すぐに首を振って打ち消した。感傷に浸っている暇はない。まずはこの世界で、この体で生きていく術を見つけなければ。

 

武蔵野第三中学校。

 

それが、巴が今日から通うことになる学校だった。

昇降口で上履きに履き替え、指定された教室へ向かう。緊張と不安で、心臓が妙に早鐘を打っていた。

 

担任の教師に紹介され、教壇に立つ。クラスメートたちの好奇の目が一斉に巴に注がれる。

 

「えー、今日から皆さんの新しい仲間になる、武蔵巴さんです。

横浜から転校してきました。 皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 

教師の紹介の後、巴はぎこちなく頭を下げた。

 

「…武蔵巴です。よろしく…お願いします」

 

できるだけ「女の子らしく」振る舞おうと意識するが、その声はどこか硬く、表情もこわばっている。

 

席は窓際の後ろから二番目。 教科書やノートを机にしまいながら、周囲の視線を感じる。

特に男子生徒からの、何かを品定めするような視線が不快だった。

 

(…なんだ、ジロジロ見やがって…)

 

(にら)み返しそうになるのを、ぐっと堪える。

休み時間になると、早速数人の女子生徒が巴の席にやってきた。

 

「武蔵さん、よろしくね! 私、高橋ミカ! 」

 

「私は木村陽子! 何か分からないことがあったら、何でも聞いてね! 」

 

快活な笑顔を向けてくる彼女たちに、巴は戸惑いつつも「…ああ、よろしく」と短く答えた。

 

「武蔵さんって、なんか雰囲気あるよね。

ちょっとクールな感じ? 」

 

「でも、目がすごく綺麗! まつ毛長いし! 」

 

女子たちの屈託のない賞賛に、巴はどう反応していいか分からない。

男として生きてきた自分にとって、「綺麗」などという言葉は縁遠いものだったからだ。

 

「…そうか? 別に普通だと思うが…」

 

思わず素っ気ない口調で返してしまうと、女子たちは「えー、謙遜しちゃってー」と笑った。

 

その日の体育の授業は、ソフトボールだった。

運動神経には自信があった武蔵だったが、この少女の体でどこまで動けるかは未知数だった。

 

打順が回ってきてバッターボックスに立つ。ピッチャーが投げた緩いボールを、巴は鋭い目で捉えた。

 

(……遅えな)

 

ゲッターロボで超高速戦闘を繰り広げていた巴にとって、そのボールは止まって見えるかのようだった。

力任せにバットを振る。

 

カキィィン!

 

快音と共に、ボールは空高く舞い上がり、あっという間に校庭のフェンスを越えていった。

 

「「「……ええええええええっ!?」」」

 

生徒たちも、教師も、唖然として打球の行方を見送っている。

 

「…お、おい…今の、ホームランじゃねえか……?」

 

「武蔵さん、すっごーい!! 」

 

女子たちが歓声を上げる中、巴はバットを置き、気まずそうに頭を掻いた。

 

(…やべえ、加減間違えた……)

 

この体の非力さを考慮して、軽く振ったつもりだった。

だが、それでも常人離れしたパワーを発揮してしまったらしい。

 

守備に回っても、巴の「異常さ」は際立った。

男子が打った痛烈なライナーを、こともなげに素手でキャッチ。送球すれば、レーザービームのような速さでファーストミットに突き刺さる。

 

「…武蔵さん、何かスポーツやってたの? 」

 

チームメイトの女子がおずおずと尋ねてくる。

 

「…いや、別に何も…ただ、体を動かすのは好きだ」

 

そう答える巴の額には、うっすらと汗が滲んでいた。 久々に体を動かした満足感と、この体の潜在能力に対する驚きが入り混じる。

 

(この体…思ったより、使えるかもしれねえな…)

 

昼休み、教室で弁当を広げていると、クラスの男子数人が巴の席にやってきた。

リーダー格らしい、少しガタイの良い男子が、ニヤニヤしながら話しかけてくる。

 

「よう、転校生。 武蔵っつったか?

なかなか良い体してんじゃねーか」

 

下卑た視線が、巴の胸元あたりを舐めるように見る。その瞬間、巴の全身から殺気にも似た鋭いオーラが放たれた。

 

「…なんだ、テメエ。なんか用か? 」

 

地を這うような低い声。 それは、かつての巴武蔵の声そのものだった。

 

男子生徒たちは、その凄まじい威圧感に一瞬で顔色を変えた。

目の前にいるのは可憐な少女のはずなのに、まるで獰猛(どうもう)な獣に睨まれたかのような恐怖を感じたのだ。

 

「ひっ…い、いや…な、なんでもねえ……」

 

リーダー格の男子は、情けない声を出すと、仲間たちと共に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「…チッ、ザコが」

 

小さく舌打ちする巴。

その様子を、遠巻きに見ていたクラスメイトたちは、ただただ唖然とするばかりだった。

 

一部の女子生徒は、そんな巴の姿に「…か、かっこいい…」と頬を赤らめていたが、それはまた別の話である。

 

武蔵巴の転校初日は、こうして嵐のように過ぎていった。

その可憐な容姿とは裏腹な男勝りな言動と、時折見せる常識外れの身体能力は、早くも武蔵野第三中学校に新たな伝説を刻み込もうとしていた。

 

 

◇◇

 

夜、自分の部屋のベッドに横たわりながら、巴は天井を眺めていた。

 

新しい学校、新しい友人(?)、新しい日常。

それは、かつての自分が想像もしなかった世界だった。

平和で、穏やかで、そしてどこか退屈な世界。

 

(俺は…ここで、何をして生きていけばいいんだ……? )

 

ゲッターロボに乗り、仲間たちと共に戦う。

それが巴武蔵の全てだった。

生きる目的であり、存在理由だった。

だが、この世界にはゲッターロボも、恐竜帝国も、百鬼帝国も存在しない。

 

魂が、何かを渇望しているのを感じる。

血が沸き立つような興奮を。

己の限界を超えるような試練を。

 

(戦いてえ…誰かと、本気でぶつかり合いてえ…!)

 

無意識のうちに、拳を握りしめる。

この少女の体では、かつてのような力は出せないかもしれない。

だが、魂の奥底で燃える闘争本能は、少しも衰えてはいなかった。

 

ふと、机の上に置かれた弟の勇の漫画雑誌が目に入る。

表紙には、道着を着た男たちが激しく組み合うイラストが描かれていた。

 

「…柔道、か…」

 

かつて、流竜馬が「武の道は一つに通じる」と言っていたのを思い出す。

柔道もまた、己の肉体と精神を鍛え上げ、相手と技を競い合う武道の一つだ。

 

(柔道…ね…)

 

その言葉が、妙に心の琴線に触れた。

 

まだ、この世界で自分が何をすべきなのか、明確な答えは見つからない。

だが、巴の魂は、無意識のうちに次なる戦いの舞台を求め始めていた。

 

窓の外には、静かな夜空が広がっている。

 

(竜馬…隼人…お前たちは、今頃どうしてるだろうな…)

 

遠い世界の仲間たちに思いを馳せながら、巴はそっと目を閉じた。

 

明日からは、この新しい体と、新しい環境にもう少し真剣に向き合ってみよう。

 

そして、いつか見つけてみせる。

 

この世界で、俺の魂が再び燃え上がることができる何かを。

 

武蔵巴の波乱に満ちた第二の人生は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 




不定期連載になります。

出来るだけ間を空けないようにしますので、よろしくお願いします。
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