YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~ 作:月影 流詩亜
インターハイでの激闘から数ヶ月。 俺は、高校生ながら特例に近い形で、全日本選抜体重別柔道選手権大会への出場権を掴み取っていた。
インターハイでの猪熊柔との死闘や、その後のいくつかの大会での型破りな勝ちっぷりが、どうやら柔道連盟のジジイ共の目に留まったらしい。
会場である東京体育館は、インターハイとはまた違う、ピリピリとした空気に満ちていた。
ここにいるのは、学生だけじゃねえ。 実業団の猛者や、オリンピック、世界選手権を目指す日本のトップランカーたちが集結している。
まさに、国内最高峰の戦いだ。
(…猪熊柔だけじゃねえ。 本物の日本のトップが、この会場にうじゃうじゃいやがるってわけか…不足はねえぜ)
俺の胸には、あの忌々しい銀メダルと共に、新たなる武器が秘められている。仲間たちとの血と汗の結晶、「武蔵巴流・大雪山おろし」。この大舞台で、こいつを炸裂させる日が来たんだ。 静かに闘志を燃やし、俺は自分の出番を待った。
◇
初戦、二回戦。相手はやはり、インターハイで戦った連中とはレベルが違う。
組み手争い一つ取っても、老獪で、簡単には俺の得意な形にさせてくれねえ。俺のパワーを警戒して、徹底的に距離を取ってくる奴もいれば、逆に懐に潜り込んできて、細かい技でポイントを狙ってくる器用な奴もいる。
(ちっ、こいつら、一筋縄じゃいかねえな…だが、俺だってあの頃のままじゃねえんだぜ!)
「大雪山おろし」は、まだ出す時じゃねえ。ここぞという場面まで温存するつもりだ。
俺は、これまでの戦いで培ってきたパワーと勘、そして山嵐先生や花園先生に叩き込まれた柔道の基礎を総動員して戦った。
ギリギリの試合が続いたが、なんとか一本勝ちや優勢勝ちを拾い、トーナメントを勝ち上がっていく。
だが、観客席からは、
「武蔵巴、インターハイの時ほどの勢いがないな」
「やはりトップレベルでは、あのパワーだけでは通用しないか」
なんて声も聞こえてきやがった。
うるせえ、黙って見てやがれ。俺の本当の牙は、まだ隠したままなんだからよ !
◇
そして迎えた準々決勝。相手は、優勝候補の一角にも挙げられている、実業団所属のベテラン選手、陣内とかいう女だ。
過去に何度も日本代表に選ばれている、この階級の「顔」みてえな存在らしい。
その眼光は鋭く、歴戦の強者だけが持つ、重厚なオーラを放っていた。
試合開始直後から、俺は完全に相手のペースにハマっちまった。 陣内は、俺のパワーを巧みにいなし、老獪な組み手で俺の得意な右組みを徹底的に封じてくる。
懐に入ろうとしても、絶妙な体捌きでかわされ、逆に鋭い足技や払い腰で何度も体勢を崩された。
(くそっ…! 全然、自分の柔道がさせてもらえねえ…!)
ポイントも、先に効果を取られ、リードを許しちまう。 時間だけが刻々と過ぎていき、俺の焦りは募るばかりだ。
このままじゃ、ジリ貧で負けちまう。 インターハイの猪熊柔戦とはまた違う、じわじわと首を絞められるような、嫌な展開だ。
(やるしかねえのか…! この大舞台で、いきなりアレを…! だが、ここで負けるわけにはいかねえんだ!)
俺は、覚悟を決めた。
この
◇
残り時間、あとわずか。 俺は、一瞬の隙を突いて、陣内の懐に猛然と飛び込んだ。
これまでの試合では見せたことのない、捨て身の突進。陣内の顔に、一瞬、驚きの色が浮かんだ。
(もらった!)
俺は、陣内の体を両腕でがっちりと捕縛する。
そして、ゲッター3のパワーをイメージし、全身の筋肉を連動させ、超人的な力で陣内の体を天高く持ち上げた!
「な、なによ、この馬鹿力はーっ!? 」
陣内の悲鳴にも似た声が聞こえる。
俺の頭上高く掲げられたその体は、まるで木の葉のように軽々と舞っているように見えた。
その瞬間、会場全体が水を打ったように静まり返り、次の瞬間、割れんばかりのどよめきと、一部からは悲鳴に近い声が上がった。
「な、なんだ、あの技はーっ!?
人間が、あんな高さまで持ち上げられるなんて、ありえねえぞ! 」
観客席の最前列で、エブリデイスポーツの松田耕作が、カメラを構えるのも忘れて口をあんぐり開けている。
「ほっほっほ…ついにやりおったわい、あのじゃじゃ馬娘が! あれこそが、武蔵巴の真骨頂じゃ! 」
どこからともなく現れた滋悟郎の爺さんが、満足そうに腕を組んで頷いている。
一瞬の静止。 俺は、持ち上げた陣内の体のバランスを完璧にコントロールし、そして、狙いを定めて畳へと叩きつけた!
ズゥゥゥゥゥン!!!!
東京体育館の床が、地響きを立てて揺れた。轟音と共に、砂埃が舞い上がる。まさに、山が崩れるような、圧倒的な衝撃。
◇
投げられた陣内は、ピクリとも動かねえ。完全に戦闘不能だ。
だが、技の見た目のあまりの危険性に、会場は騒然としていた。観客席からは、
「危険すぎる!」
「あんなの柔道じゃない!」
なんて声も飛んでくる。
主審も、一瞬呆然としていたが、すぐに試合を止め、審判団の席へと駆け寄った。
何やら、深刻な顔で協議を始めている。
「…今の技は、どう判断すべきか…明らかに危険行為ではないか? 」
「いや、しかし、投げられた選手に怪我はないようだ。意識もはっきりしている」
「技のコントロールは、されていたように見えたが…前代未聞の技だな…」
審判たちの声は聞こえねえが、そんなやり取りがされているんだろう。
俺は畳の中央で、固唾を飲んでその判断を待った。
隣では、竜子と隼、そして応援に駆けつけてくれていたみちるが、祈るような表情で俺を見つめている。
(頼む…! これで反則負けなんぞになったら、シャレにならねえぞ…! )
長い、長い協議の時間。そして、ついに主審が畳に戻ってきた。会場の全ての視線が、主審の一挙手一投足に注がれる。
主審は、一度大きく息を吸い込み、そして高らかに宣言した。
「い、一本!! 勝者、武蔵巴!! 」
その瞬間、会場は再び爆発的な歓声とどよめきに包まれた。
俺は、思わずガッツポーズを繰り出していた。 やった…! やったぞ! 俺の「大雪山おろし」が、この大舞台で認められたんだ!
◇
この一勝、そして「大雪山おろし」という前代未聞の必殺技は瞬く間に柔道界を、いや、スポーツ界全体を揺るがす大ニュースとなった。
翌日のスポーツ新聞の一面は、当然のように俺の記事で埋め尽くされた。
『武蔵巴、人間ミサイル炸裂! 柔道界の常識を覆す、超ド級必殺技で強豪撃破! 』
『嵐を呼ぶニューヒロイン誕生! 天才・猪熊柔に新たなる脅威出現! 』
『大雪山おろしとは何か!? 専門家も驚愕、その威力と危険性! 』
松田耕作の奴は、ここぞとばかりに大袈裟な見出しを並べ立て、号外まで出す勢いだ。
まあ、あいつの記事のおかげで、俺の名前と「大雪山おろし」が一気に全国区になったのは間違いねえがな。
他の選手たちも、俺の新たな武器に戦慄し、対策を練り始めたようだ。 会場で俺とすれ違う選手の視線が、以前とは明らかに違う。
恐怖と、そしてほんの少しの敬意が混じっているような、そんな目だ。
そして、猪熊柔。 あいつも、テレビか何かで俺の試合を見ていたらしい。
山嵐先生経由で聞いた話じゃ、俺の新技の映像を食い入るように見つめ、その威力と、自分にとっての「脅威」に、静かに闘志を燃やしていたそうだ。
(武蔵巴…あの子、とんでもない技を隠し持っていたのね…インターハイの時とは、まるで別人じゃない…私も、真剣に対策を練らないと、次は…)
ふん、それでこそ猪熊柔だ。 俺がただのパワー馬鹿じゃねえってこと、ようやく理解したようだな。
◇
「大雪山おろし」という、俺だけの絶対的な武器。
それをこの大舞台で証明できたことは、俺にとってとてつもなく大きな自信になった。
この一勝は、間違いなく俺の柔道人生における、大きな大きなターニングポイントになるはずだ。
だが、大会はまだ終わっちゃいねえ。この後には、準決勝、そして決勝が待っている。 俺の本当の戦いは、まだ始まったばかりなんだ。
(ふん、驚くのはまだ早えぜ、日本の柔道界よ。俺の「大雪山おろし」は、まだ進化の途中だ。そして、この武蔵巴の伝説もな!)
次なる戦いに向けて、俺は不敵な笑みを浮かべた。
嵐を呼ぶのは、これからだ。
この俺が、柔道界の常識を、根底からひっくり返してやるぜ !