YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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第11話:学園祭と淡い想い、柔道着を脱いだ少女たち

 

武蔵野第三高校の学園祭当日。 普段は汗臭い道場と、厳しい稽古に明け暮れている俺たち柔道部も、この日ばかりはハチマキを締め、エプロン姿で模擬店に精を出していた。

 

発案者はもちろん竜子。

 

「学園祭っつったら、やっぱ焼きそばっしょ! 柔道部秘伝のスタミナ焼きそばで、ガッツリ儲けようぜ!」

 

なんて息巻いていやがった。

会計は几帳面な隼が担当し、俺は…なぜか焼き係と力仕事担当に任命されちまった。

 

「学園祭なんぞ、軟弱な奴らの浮かれたお祭りだと思っていたが…まあ、たまにはこういうのも悪くねえのかもしんな」

 

校庭に立ち並ぶテント、各クラスや部活が趣向を凝らした出し物、そして何よりも、生徒たちの普段とは違う弾けた笑顔。

そんな喧騒と熱気に包まれていると、俺もなんだか少しだけ気分が高揚してくるのを感じた。…いや、気のせいかもしれねえが。

 

柔道部の看板には、竜子が描いたヘタクソな(だが味のある)俺の似顔絵と共に、

 

「武蔵野の赤い閃光 特製! 鉄板焼きそば! 一度食ったら止められねえ! 」なんていう、恥ずかしいキャッチコピーが躍っている。

エプロン姿の俺は、自分でも似合ってねえと思うが、なぜか……

 

「可愛い!」

 

「巴ちゃんのエプロン姿、レア!」

 

なんて言って、写真を撮っていく女子生徒が後を絶たねえ…解せぬ。

 

 

 

だが、焼きそば作りというものは、俺が思っていた以上に難易度の高いシロモノだった。

 

「巴! だから火は強火じゃなくて中火だって、何度言ったら分かるんだ!

キャベツが丸焦げじゃねえか! 」

 

「おい、巴! ソース入れすぎ!

それじゃ焼きそばじゃなくて、ソースの煮物だぞ! 」

 

「きゃあああ! 巴ちゃん、それ、麺じゃなくて自分の指を炒めようとしてない!? 」

 

竜子の怒号と、隼の冷静なツッコミ、そして周囲の悲鳴。

俺は、鉄板の上でコテを握りしめ、まるで初めてゲッターロボの操縦桿を握った時のように、悪戦苦闘していた。

キャベツを切れば大きさがバラバラになり、肉を炒めれば焦げ付き、麺をほぐそうとすればブチブチに切れる。

 

(くそっ…! たかが焼きそばごときに、この俺がここまで苦戦するとは…! ゲッター3の整備の方が、よっぽど楽だぜ…!)

 

俺の作る「破壊的焼きそば」は、客に出せる代物じゃなく、試食した竜子に「…まずい。罰ゲームレベルでまずい」と酷評される始末だ。

 

まさにその時、救世主が現れた。

 

「あ、あの…武蔵さん、僕、少しだけ料理できますけど…お手伝いしても、いいですか…?」

 

おずおずと声をかけてきたのは、いつの間にか柔道部の手伝いに来ていた、早乙女みちるだった。エプロンに三角巾という、完璧な出で立ちだ。

 

「お、おう、みちるか…助かるぜ…」

 

俺は、正直ホッとしてコテをみちるに渡した。

みちるは、意外にも手際が良く、俺が散々苦労した焼きそばを、あっという間に美味しそうに仕上げていく。 その姿は、なんだか頼もしく見えた。

 

「巴は、力仕事と呼び込みに専念しろ! 焼き場はみちるに任せる! 」

 

竜子の鶴の一声で、俺は焼き係をクビになり、客寄せパンダならぬ「客寄せ武蔵」として、店の前で声を張り上げることになった。

まあ、焼きそばを炭にするよりはマシか。

 

 

 

みちるのおかげで、柔道部の焼きそばは飛ぶように売れた。 昼過ぎには完売し、俺たちはようやく休憩時間に入ることができた。

汗だくの俺に、みちるが冷たいお茶とタオルを差し出してくれる。

 

「武蔵さん、お疲れ様です。これ、どうぞ」

 

「…おう、サンキュな。お前がいなかったら、どうなってたことか…」

 

俺が素直に礼を言うと、みちるは嬉しそうに顔を赤らめた。

しばらくの沈黙の後、みちるが意を決したように、俺に声をかけてきた。

 

「あ、あの…武蔵さん…もし、この後お時間があったら…その…一緒に、学園祭、回りませんか…?」

 

その言葉に、俺は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

 

「はあ!? お、俺と二人でか…? な、なんでまた…」

 

「だ、ダメ…でしょうか…? 武蔵さんと一緒に回れたら、きっと楽しいと思って…」

 

俯いて、もじもじと指をいじるみちる。

その姿は、なんだか庇護欲をそそられる…って、 俺がそんなこと思うなんて、どうかしてるぜ。

隣で聞いていた竜子が、ニヤニヤしながら俺の脇腹を肘で突いてくる。

 

「いいじゃねえか、巴! 行ってこいよ、青春しろ青春! 」

 

隼も、珍しく面白そうな顔で

 

「たまには、柔道着を脱いで羽を伸ばすのもいいんじゃないかしら」なんて言ってくる。

 

(こ、こいつら…! 面白がってやがるな…! )

 

だが、みちるの期待に満ちた、潤んだ瞳に見つめられると、断るという選択肢は、なぜか俺の中から消えちまっていた。

 

「…べ、別に…いいけどよ…暇だしな…」

 

俺は、そっぽを向きながら、ぶっきらぼうにそう答えた。みちるの顔が、パアッと輝いたのが分かった。

 

「じゃあ、俺、着替えてくるから、ここで待ってろ」

 

そう言い残し、俺は足早に更衣室へと向かった。私服に着替える。といっても、俺の私服なんざ、Tシャツにジーパンみてえな、色気もクソもねえボーイッシュな格好ばかりだ。

それでも、普段の道着や制服とは違うわけで…。

 

鏡に映る自分の姿を見て、なんだか落ち着かねえ気分になった。

こんな格好で、男のガキと二人で学園祭を回るなんざ…ゲッターロボに乗って恐竜帝国と戦う方が、よっぽど気が楽だぜ。

 

 

 

みちると合流し、俺たちは学園祭の喧騒の中へと足を踏み入れた。 みちるは、俺の私服姿を見て、

 

「わ…武蔵さん、すごく…素敵です…」

 

なんて言って、また顔を真っ赤にしている。こいつは、いちいち反応が大袈裟なんだよ。

最初に立ち寄ったのは、射的の屋台だった。

 

「武蔵さん、やってみませんか?」

 

「射的か…まあ、嫌いじゃねえぜ」

 

ゲッターロボのパイロットとして、射撃訓練は嫌というほどやらされた。その経験が、こんなところで役に立つとはな。

俺は、コルク銃を構え、的を睨みつけた。

精神を集中させ、呼吸を整える。 そして、引き金を引く。

 

パァン!

 

コルク弾は、見事に的のど真ん中に命中し、景品がゴトリと落ちた。

 

その後も、俺は次々と的を射抜き、あっという間に屋台の景品を総ナメにしちまった。ぬいぐるみやらお菓子やら、両手いっぱいの景品を抱えたみちるは、目を丸くして俺を見ている。

 

「す、すごいです、武蔵さん! まるで、伝説のガンマンみたいです!」

 

「ふん、これくらい造作もねえぜ」

 

まあ、実際はゲッター1のビームガンの方が、よっぽど扱いやすかったがな。

次に向かったのは、お化け屋敷。俺はこういうのは平気だが、みちるは入り口の前でブルブル震えている。

 

「だ、大丈夫ですかね、武蔵さん…僕、こういうの、苦手で…」

 

「情けねえな。男だろ、しっかりしろよ」

 

俺がそう言って先に入っていくと、みちるは慌てて俺の後を追ってきた。

暗闇の中、突然脅かし役の生徒が飛び出してきたり、不気味な効果音が鳴り響いたりする。

その度に、みちるは「ひゃあああっ!」と悲鳴を上げ、俺の腕にガッチリとしがみついてきやがった。

 

「お、おい、みちる! くっつくんじゃねえよ、暑苦しい!」

 

俺はそう怒鳴りつけながらも、内心では少しだけドキドキしている自分に気づいていた。華奢な少年の体温が、腕を通して伝わってくる。 こんな経験、もちろん初めてだ。 なんだか、心臓が妙な音を立てている。

 

お化け屋敷を出る頃には、みちるはすっかり俺に懐いた子犬みてえになっていた。

その後も、金魚すくいをやったり(俺は一匹も掬えなかったが、みちるが意外と上手かった)、わたあめを食べたり(俺は甘すぎて一口でギブアップした)、二人で他愛のない話をしながら学園祭を巡った。

柔道の話だけでなく、お互いの好きな食べ物の話や、将来やってみたいこととか…。みちるは、俺の話を真剣な顔で聞いてくれ、時折、的を射たような質問をしてきたりもした。

 

(こいつ…ただ気弱なだけじゃなくて、優しいし、それに、意外と芯が強いところもあるんだな…)

 

一緒に過ごすうちに、俺はみちるの新たな一面に気づき始めていた。そして、そんなみちると一緒にいる時間が、不思議と心地よいものに感じられていた。

 

 

 

 

そんな和やかな雰囲気も、次の瞬間にぶち壊されることになった。

賑やかな中庭を通りかかった時、人だかりの向こうに、見慣れた…いや、見慣れたくねえ二人組の姿を見つけちまった。

 

猪熊柔と、あの優男風の風祭。

二人とも私服姿で、何やら楽しそうに話している。

柔の奴、道着姿の時とは全然雰囲気が違う。淡い色のワンピースかなんかを着ていて、髪もいつもより少しだけ念入りにセットしているように見える。普通の、どこにでもいる可愛らしい女の子、って感じだ。

 

(…なんだよ、あいつ…あんな格好もするのかよ…別に、似合ってねえわけじゃねえが…むしろ、その…かなり…)

 

俺は、思わず柔の姿に見とれてしまっていた。道着の時には感じなかった、柔らかな女性らしさ。それが、なぜか俺の胸を締め付ける。

 

風祭の野郎は、相変わらず馴れ馴れしい態度で柔に話しかけ、柔もまんざらでもなさそうに笑っている。その光景が、俺の目にはどうしようもなくイチャイチャしているように映り、またしても胸の奥がチクリと痛んだ。

 

「…けっ、浮かれやがって…あんなチャラチャラした奴のどこがいいんだか…」

 

無意識のうちに、そんな悪態が口をついて出る。みちるが、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「武蔵さん…? どうかしましたか…?」

 

「…いや、なんでもねえよ。ちょっと、気に食わねえモンが目に入っただけだ」

 

さらに、その柔たちの少し後ろの方から、鋭い視線を感じた。振り返ると、そこには聖プレジデント学園の制服を着た、本阿弥さやかが仁王立ちしていた。

いかにも「偵察に来ました」と言わんばかりの、険しい表情だ。 さやかは、柔と風祭の様子と、俺とみちるの親密そうな雰囲気を交互に見比べては、ギリギリと歯ぎしりをしているように見えた。

 

(…やれやれ、今日は役者が揃いすぎだぜ…)

 

 

 

柔たちとすれ違った後、俺の機嫌は明らかに悪くなっていた。みちるもそれを察したのか、少し心配そうに俺の顔色を伺っている。

学園祭の喧騒から少し離れた、夕陽が差し込む校舎裏。俺たちは、並んで自動販売機の前に立っていた。

 

「武蔵さん…あの…さっき、何か嫌なことでもありましたか…?」

 

みちるが、おずおずと尋ねてくる。

 

「…いや、別に。お前の気にするこっちゃねえよ」

 

俺はぶっきらぼうに答えたが、みちるは納得していないようだった。

しばらくの沈黙の後、みちるは意を決したように、俺に向き直った。そして、真っ直ぐに俺の目を見て言った。

 

「僕…武蔵さんのこと、本当に、本当に尊敬してるんです。武蔵さんは、すごく強くて、いつも真っ直ぐで…そして、時々、すごく…可愛いですから!」

 

「か、かわっ…!?」

 

俺は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。顔が、カッと熱くなるのが分かる。

 

「な、何言ってんだお前は! 頭でも打ったのか!? 気色悪ぃこと言うんじゃねえよ! 」

 

狼狽えながら、思わず怒鳴り返してしまう。

だが、みちるは怯まなかった。その瞳は、どこまでも真剣で、揺るぎない光を宿していた。

 

「嘘じゃありません! 武蔵さんは、僕にとって、憧れのヒーローなんです!

…ううん、ヒーローっていうより、もっと…その…」

 

みちるは、言葉を探すように少し黙り込み、そして、はにかみながら言った。

 

「…初めて会った時から、ずっと、特別な人だって思ってました」

 

特別な人、ねえ…。

武蔵として生きていた頃、俺にそんなことを言う奴はいなかった。ゲッターチームの仲間たちは、俺を戦友として、あるいは少し手のかかる弟分みてえに扱ってはくれたが、こんな熱烈な好意を、しかも年下の男のガキから向けられるなんて、想像もしたことがなかった。

 

それが、巴として転生したこの世界では、どうだ。

俺の心臓が、ドクドクと大きく脈打っている。これは、試合前の興奮とは違う、もっと甘くて、苦しくて、そしてどうしようもなく戸惑うような感覚だ。

俺は、何も言えなかった。ただ、真っ赤になった顔を隠すように、俯くことしかできなかった。

 

 

 

学園祭も、そろそろ終わりの時間が近づいていた。 夕焼けが、校庭をオレンジ色に染め上げている。

俺とみちるは、言葉少なに、校門へと向かって歩いていた。さっきの出来事のせいで、なんだか気まずい空気が流れている。

 

「…今日は、その…悪くなかったぜ。色々と、付き合ってくれて、ありがとな」

 

俺は、蚊の鳴くような声で、不器用に礼を言った。自分でも驚くほど、しおらしい声が出た。

みちるは、俺の言葉に顔を上げ、そして、今日一番の、最高の笑顔を見せた。

 

「僕の方こそ、本当にありがとうございました! 武蔵さんと一緒に学園祭を回れて、一生の思い出になりました!」

 

その笑顔は、夕焼けの光を浴びて、キラキラと輝いて見えた。

俺は、なんだか胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

(…なんだか、今日は調子が狂いっぱなしだったな…猪熊の野郎のことも気になるし、みちるの奴には変なこと言われるし…)

 

だが、それでも……

 

(まあ…たまには、こういうのも…悪くねえのかもしれねえな…)

 

柄にもなく、そんなことを思っちまった。

夕焼け空を見上げると、一番星が微かに輝き始めていた。俺の心の中にも、何か新しい、小さな光が灯り始めたような、そんな予感がした。

 

武蔵巴の、嵐のような日常の中に吹いた、ほんの少しだけ甘酸っぱい風。

 

その風は、俺の魂を、ほんの少しだけ変えちまったのかもしれねえな。

 

 

 




日常パートです。

巴ちゃん? ゲッターではあまり見られない甘酸っぱい青春のシーンですね。
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