YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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猪熊柔は、作中では主に 48kg以下級 の選手として活躍しています。

これは女子柔道においては最も軽い階級、いわゆる最軽量級にあたります。

したがって、柔よりも軽い階級(体重別)は、現在の女子柔道の公式な階級には存在しません。

ただし、柔は祖父・滋悟郎の意向で無差別級の試合に出場することもありました。

無差別級は体重による制限がないため、自分よりはるかに体の大きな選手とも戦っています。

巴とは主に無差別級で闘うシーンが多くなるかもしれません。





第13話:五輪への道、日本代表候補合宿の試練

 

全日本女子柔道選手権で、あの猪熊柔を破って優勝した俺は、当然のようにオリンピック代表候補選手に選ばれた。

まあ、当然と言やあ当然だが、まさかこの俺が、日の丸を背負うかもしれねえ日が来るなんてな。 ゲッターロボのパイロットとして戦っていた頃には、想像もつかなかったぜ。

 

そして今日から、地獄の(と噂される)強化合宿が始まった。 場所は、都内某所にあるナショナルトレーニングセンターとかいう、バカでかい施設だ。

全国から、各階級のトップ選手たちが集められ、その顔ぶれはまさにオールスター。どの面構えも、俺に負けず劣らずギラギラとした闘気を放ってやがる。

 

(…ここからが、本当の戦いの始まりってわけか。 オリンピック…不足はねえぜ、最高の舞台じゃねえか)

 

俺の隣には、同じく代表候補として選ばれた猪熊柔が、静かな闘志を湛えて立っている。

あの決勝での死闘以来、俺たちの間には、ライバルとしてのピリピリした空気と、どこか戦友みてえな連帯感が混じり合っていた。

 

そして、意外なことに、あの本阿弥さやかも、執念で代表候補の座を掴み取ったらしい。

相変わらず、俺や柔に対してトゲトゲしい視線を向けてきやがるが、その実力は本物だ。

こいつも、一筋縄ではいかねえ相手の一人だ。

コーチ陣の檄が飛び、強化合宿の火蓋が切って落とされた。

 

オリンピックへの道は、ここから始まるんだ。

 

 

 

強化合宿の練習は、噂に違わず地獄だった。

早朝からの長距離ランニングに始まり、午前中はウェイトトレーニングと基礎体力向上メニュー、午後はぶっ通しでの乱取りと技の研究。

夜はミーティングと、休む暇なんざありゃしねえ。

 

「おい、武蔵! まだ余力があるのか! その、でかい態度でバテるのが早すぎるぞ!」

 

鬼コーチの一人が、俺に檄を飛ばす。

うるせえ ! 俺はゲッター3乗りだぞ、スタミナには自信があんだよ! …とは言え、さすがにこの練習量は堪える。

乱取りでは、他の階級のトップ選手たちとも組むことになった。

俺のパワーも、そう簡単には通用しねえ。中軽量級の選手は、まるで猿みてえに素早く動き回り、俺の懐に潜り込んでは鋭い技を仕掛けてくる。

重量級の選手は、俺とまともに組み合ってもビクともしねえような、とんでもねえ馬力の持ち主もいた。

 

(こいつら…! さすがは日本のトップクラスだ。一筋縄じゃいかねえ奴らばかりだぜ…!)

 

特に本阿弥さやかとの乱取りは、毎回バチバチの火花が散った。

 

「ふん、武蔵巴! その程度の力で、猪熊さんに勝ったなんて信じられないわね! 」

 

「ほざけ、お嬢様! 口先だけじゃなくて、実力で見せてみろってんだ! 」

 

互いにライバル心を剥き出しにして、遠慮なしに技をぶつけ合う。さやかの得意技である華麗な内股は、確かに切れ味鋭いが、俺の「大雪山おろし」の圧力の前には、まだ分が悪い。

それでも、こいつの執念とプライドは、並大抵のもんじゃねえ。

厳しい練習の中で、俺は自分の柔道が、まだまだ荒削りであることを痛感させられた。 だが、同時に、強敵たちと凌ぎ合うことで、確実に成長している手応えも感じていた。

 

 

 

そんな地獄の合宿の中で、一つだけ予想外の出来事があった。 部屋割りが発表された時、俺のルームメイトとして名前が呼ばれたのは、なんとあの猪熊柔だった。 偶然なのか、それともコーチ陣の差し金なのかは知らねえが、俺と柔は、一つ屋根の下、同じ部屋で数週間を過ごすことになったんだ。

最初は、お互いにどこかぎこちなかった。畳の上ではあれだけ激しくやり合っているが、こうして二人きりになると、何を話していいか分からねえ。

だが、連日の厳しい練習でクタクタになり、部屋に戻って互いに湿布を貼り合ったり、アイシングをしたりしているうちに、自然と会話も生まれてきた。

 

「…武蔵さんの、あの『大雪山おろし』…本当に、どうやってあんなことができるの? まるで、人間業じゃないみたいだわ」

 

柔が、風呂上がりに髪を乾かしながら、ポツリと尋ねてきた。

 

「…企業秘密だ。 だが、お前のあの変幻自在の巴投だって、どうなってやがるんだ? まるで生き物みてえじゃねえか」

 

「ふふ…それは、私にもよく分からないわ。体が、勝手に動いてしまうの」

 

互いの柔道スタイルについて、技の秘密について、時には真剣に、時には冗談を交えながら語り合う。 畳の上では見せない、柔の意外な一面。

例えば、甘いものが大好きだったり、実は方向音痴だったり。 そういうのを知るたびに、俺は、この天才柔道家も、普通の女の子なんだな、なんて思っちまう。

 

ある夜、消灯時間も過ぎて、部屋が真っ暗になった時、柔が小さな声で話し始めた。

 

「…風祭さんがね、この間、また…その…会いに来てくれて…」

 

もじもじしながら、風祭とかいうチャラ男のことを話し出す柔。 その声は、いつもよりずっと女の子っぽくて、なんだか聞いてるこっちが恥ずかしくなるぜ。

 

「…ふん。あんな軟弱そうな男のどこがいいんだか、俺にはサッパリ分からねえがな」

 

俺がそう言うと柔は、

 

「もう、武蔵さんは分かってないんだから!」

 

なんて言って、少しだけむくれていた。

 

「…武蔵さんだって、いるんじゃないの? そういう、気になる男の子とか ?」

 

不意に、柔がそんなことを聞いてきやがった。

俺は、一瞬言葉に詰まった。 脳裏に、あのメガネをかけた気弱な少年の顔が浮かぶ。

 

「…べ、別にいねえよ! 俺には柔道しかねえ!」

 

慌てて否定したが、顔が熱くなるのを感じた。

 

「…ただ、まあ…応援してくれる、ちょっと変わったガキがいてな…手作りのクッキーだの、栄養ドリンクだの、色々差し入れしてきやがるんだ…迷惑な奴だよ、まったく…」

 

俺は、みちるのことを、なぜか柔にだけはポツリと漏らしてしまっていた。

柔は黙って俺の話を聞いていたが、やがて、

 

「…ふふ、武蔵さんも、可愛らしいところがあるのね」

 

なんて言って、クスクス笑いやがった。

うるせえ、可愛くなんざねえよ!

 

こんなふうに、俺と柔は、畳の上ではライバルとして火花を散らしながらも、部屋に戻れば、どこか戦友みてえな、よき理解者としての絆を深めていった。

 

こんな関係も、悪くねえな、なんて思えるようになっていた。

 

 

 

そんな合宿生活も中盤に差しかかった頃、またしてもあの嵐を呼ぶ男が、このトレーニングセンターに現れた。猪熊滋悟郎、その人だ。

しかも、「特別臨時打撃コーチ」とかいう、意味不明な肩書を引っ提げて。…柔道に打撃コーチなんざいらねえだろうが。

 

「ふぉっふぉっふぉ! 若人どもよ、気合は入っとるか! この猪熊滋悟郎直々の指導を受けられるとは、お前たちは果報者じゃわい! 」

 

道場に響き渡る、爺さんのダミ声。 選手たちは、突然の珍客に戸惑いを隠せねえ。

そして始まった、滋悟郎スペシャル(という名のハチャメチャ)トレーニング。

 

「そこの小娘! その投げ技はなっておらん!

もっとこう、熊でも投げ飛ばすくらいの気迫でいかんか!」

 

「なんだその寝技は!

赤ん坊の寝小便みてえな緩さじゃ!

関節の一本や二本、へし折るくらいの気概を見せんか!」

 

爺さんの破天荒な言動と、常識外れの指導(?)に、選手たちは完全に振り回されっぱなしだ。

鬼コーチたちも、さすがに柔道界の重鎮には強く出れねえのか、苦笑いを浮かべて見守るしかねえ。

俺も、もちろん爺さんのターゲットにされた。

 

「おお、武蔵巴! お前の『大雪山おろし』、なかなか見所があるわい!

よし、試しにこのワシを投げてみろ!

手加減は無用じゃぞ!」

 

「冗談じゃねえ! あんたみてえなジジイ投げたら、骨の一本や二本じゃ済まねえだろうが!」

 

「何を言うか! これでも昔は、ヒグマと素手で渡り合った男じゃぞ! さあ、遠慮はいらん、かかってこい!」

 

結局、俺は爺さんの無茶な要求に付き合わされ、ヘトヘトになるまで「大雪山おろし」の練習台(という名のサンドバッグ役)をさせられた。

だが、不思議なことに、爺さんのアドバイスは、無茶苦茶なようでいて、どこか柔道の真髄を突いているような気がした。

 

「力の流れを読め」

 

「相手の重心を崩せ」

 

「技は心でかけるもんじゃ」

 

…そんな言葉が、妙に俺の心に引っかかった。

 

(このジジイ…ただの変人じゃねえな…やはり、本物の「武道家」ってことか…)

 

嵐のような数日間が過ぎ去り、滋悟郎の爺さんは「あとは若い者で頑張れ」とだけ言い残して、またどこかへ消えていった。

残された俺たちは、疲労困憊だったが、どこか一皮むけたような気がしていた。

 

 

合宿の終盤、コーチ陣による海外のトップ選手の試合映像を使った研究会が開かれた。 薄暗いミーティングルームのスクリーンに映し出されるのは、俺たちとは別次元の強さを持つ「怪物」たちの姿だった。

 

自分と同じくらいのパワーを持ちながら、それを遥かに上回るテクニックとスピードを兼ね備えたヨーロッパの選手。

まるで蛇みてえに絡みつき、一瞬で関節を極めてくる南米の寝技師。

そして、俺の「大雪山おろし」に似た、豪快な投げ技をいとも簡単に繰り出す、ロシアの巨漢選手。

 

(こ、こいつら…化け物か…!? 俺の『大雪山おろし』も、まともに組ませてもらえなきゃ意味がねえ…!

それに、パワーだけじゃ、こいつらには通用しねえかもしれねえ…!)

 

特に衝撃だったのは、自分と同じ無差別級の海外選手の、パワーだけに頼らない多彩な技と、老獪なまでの戦術眼だった。

相手の動きを読み、罠を仕掛け、一瞬の隙を突いて勝負を決める。そこには、俺がまだ持ち合わせていない「クレバーさ」があった。

 

「今のままじゃダメだ…! パワーだけじゃ、世界の頂点には絶対に立てねえ…!

もっと、頭を使わねえと…もっと、技を磨かねえと…!」

 

映像を見終わった後、俺は強烈な危機感と、同時に新たな闘志を燃やしていた。

 

俺の柔道は、まだ完成形じゃねえ。もっともっと、進化できるはずだ。

 

 

 

長かった強化合宿も、ついに最終日を迎えた。俺は、この合宿を通じて、自分の強さと、そしてそれ以上に、克服すべき多くの課題を明確に認識することができた。

 

猪熊柔との、ライバルでありながらも深まった絆。

 

本阿弥さやかをはじめとする、全国の強豪たちとの切磋琢磨。

 

滋悟郎の爺さんの、型破りだが本質を突く指導。

 

そして、世界のトップ選手たちの、圧倒的な実力。

 

それら全てが、俺をさらなる高みへと押し上げるための、かけがえのない経験となった。

合宿所を出る日、俺は柔と二人、並んでバス停へと向かっていた。

 

「…武蔵さん。この合宿、あなたと一緒で、本当に良かったと思ってるわ。 たくさんのことを学べたし、それに…楽しかった」

 

柔が、少し照れくさそうに、だが真っ直ぐな目で俺に言った。

 

「…ふん。俺も、お前という目標がいなけりゃ、ここまで来れなかったかもしれねえな。

まあ、オリンピックでは、俺が金メダルをいただくがな」

 

俺がそう言うと、柔は「それはどうかしら?」と挑戦的に微笑んだ。

 

(見てろよ、世界…! この武蔵巴が、お前たちの度肝を抜くような、もっともっとすげえ柔道を見せてやるぜ! そして、オリンピックの金メダルは、必ずこの俺が掴み取る!)

 

オリンピックへの道を、確かに一歩踏み出した。俺の胸には、新たなる課題と、それを乗り越えるための、燃えるような決意が宿っていた。

 

武蔵巴の挑戦は、まだ始まったばかりなのだから !

 

 

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