YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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第16話:日の丸の重み、初めての国際大会inパリ

 

オリンピック日本代表の座を掴み取った俺たちに、次なる試練の舞台が用意された。

それは、オリンピック前哨戦とも言われる、パリ国際柔道大会。

俺にとって、生まれて初めての海外遠征だ。

日の丸を背負って戦うってことの重みを、ズシリと感じ始めていた。

 

成田空港から飛び立ったジャンボジェットの窓から見える景色は、雲ばかりで正直退屈だったが、十数時間のフライトを経て、ついに花の都パリとやらに到着した。

シャルル・ド・ゴール空港とかいう、やたらデカい空港に降り立った時の感想は、

 

「…思ったより、普通のコンクリートジャングルだな…」だった。

 

もっとこう、キラキラしたモンを想像してたんだが。

日本選手団のバスに揺られ、ホテルへと向かう道中、初めて見るパリの街並みは、確かに日本のそれとは違っていた。古い石造りの建物、お洒落なカフェのテラス、そして何よりも、やたらと鼻の高い外国人ども。

 

「すっごーい! 巴さん、あれエッフェル塔だよね!? 本当に鉄骨むき出しなんだぁ~!」

 

隣の席では、猪熊柔が子供みてえに目を輝かせている。 こいつ、意外とミーハーなところがあんだな。 他の代表選手たちも、初めての海外に興奮を隠せねえ様子だ。

 

そして、なぜかこの遠征に、日刊エヴリーの松田耕作までが「日本代表オフィシャル応援団兼広報部(自称)」みてえな顔をして同行してやがった。 まったく、あの男の嗅覚と図々しさには、呆れるのを通り越して感心すら覚えるぜ。

 

(これが、パリか…ゲッターロボで世界中を飛び回ったことはあるが、こうして平和な時代に、一人の柔道家として外国に来るってのは、なんだか不思議な気分だぜ…)

 

俺の心は期待と、ほんの少しの不安で揺れていた。

 

 

 

パリでの生活は、正直言ってストレスの連続だった。 まず、言葉が通じねえ。

俺は日本語と、あとはゲッター線の波動くらいしか理解できねえんだ。 ホテルの従業員に何か頼むにも一苦労だし、レストランでメニューを頼むなんざ、もはや暗号解読の世界だ。

 

「くそっ、フランス語なんぞ、古代ムー帝国の象形文字より難解だぜ…!」

 

そして、食事。出てくるモンが、パン、チーズ、バター、肉、肉、パン…の繰り返し。

日本の米と味噌汁が、こんなに恋しいモンだとは思わなかった。

 

「巴さん、あまり好き嫌いしてはダメですよ。これも国際経験です」

 

花園先生に優しく諭されるが、俺の胃袋は正直、限界を訴えていた。

そんな中、唯一の(迷惑な)癒やしは、やっぱり松田の存在だった。 あいつはあいつで、言葉の壁と文化の違いに悪戦苦闘し、毎日何かしらの騒動を巻き起こしていた。

 

ある時は、一人でパリの街に繰り出して見事に道に迷い、半泣きで日本大使館に保護されたり。

またある時は、蚤の市で怪しげな壺を高値で掴まされそうになり、俺がフランス語の代わりに拳で交渉して(相手が勝手に勘違いして逃げただけだが)事なきを得たり。

 

「武蔵選手~! あなたは私の命の恩人です~! このご恩は、必ずや特大スクープ記事でお返しいたしますぅ~!」

 

「うるせえ! 大体、お前が余計なことするから、俺まで面倒に巻き込まれるんだろうが!」

 

まあ、こんな調子で、松田のおかげで退屈する暇はなかった。

日本にいる竜子や隼、そしてみちるとは、時々国際電話で連絡を取った。

あいつらの声を聞くと、なんだかホッとする自分に気づく。 特にみちるは、俺が海外にいるってだけで心配で仕方ねえらしく、電話口で何度も

 

「お体には気をつけてくださいね!」

 

「変なもの食べちゃダメですよ!」と繰り返していた。…お前は俺の母親か。

 

 

 

そして、ついにパリ国際柔道大会が開幕した。

会場となったベルシー体育館は、ヨーロッパ独特の熱気と、各国の応援団のけたたましい声援で、異様な雰囲気に包まれていた。

畳の上に立つと、肌で感じる風圧が日本の大会とはまるで違う。

 

初めて対峙する海外の選手たち。

まず、その体格に圧倒される。

俺だって、女子の中じゃ普通の方だが、こいつらはそれ本当にゴツくて、手足が長い。そして何よりも、そのパワー。組み合った瞬間に、ズシリと来る重みが、日本の選手とは比べモンにならねえ。

 

(こいつら…! 見た目だけじゃねえ…気迫も、パワーも、何もかもが規格外だ…!)

 

だが、怯んでる暇はねえ。 俺は日本の代表だ。この日の丸の重みを、みくびるんじゃねえぞ。

 

 

俺の初戦の相手は、地元フランスの選手だった。観客席からの、割れんばかりのフランス応援団の声援が、俺の耳を劈く。 だが、そんなもんで俺の集中力が乱れると思うなよ。

 

試合開始と同時に、俺は得意のパワーで相手を圧倒し、そして、満を持して「武蔵流・大雪山おろし」を繰り出した!

相手のフランス選手は、何が起こったのか理解できねえといった顔で宙を舞い、そして轟音と共に畳に叩きつけられた。完璧な一本。

 

会場は、一瞬の静寂の後、爆発的などよめきと、一部からは悲鳴にも似た驚愕の声に包まれた。

 

「Mon Dieu! なんだあの技は!? まるで人間じゃないわ!」

 

「日本の秘密兵器か!? あんなクレイジーな投げ技、見たことがないぞ!」

 

実況アナウンサーも、興奮のあまりフランス語で何かをまくし立てている。

松田の奴は、カメラを構えながら

 

「やった! やりましたぞ! 武蔵選手、世界デビュー戦で衝撃の一本勝ち! これぞ日本の最終兵器、人間ミサイルだぁーっ!」と一人で大騒ぎだ。

 

その後の数試合も、俺の「大雪山おろし」は猛威を振るった。 各国の選手たちは、その前代未聞の技の前に、次々と沈んでいった。

俺の名前は、このパリの地で、瞬く間に注目の的となった。

 

だが、そんな状況がいつまでも続くほど、世界の壁は甘くなかった。

準々決勝あたりから、明らかに相手の戦い方が変わってきた。俺の「大雪山おろし」を、徹底的に警戒し、研究し尽くしてきやがったんだ。

 

(ちっ、こいつら、ビデオで俺の技を丸裸にしやがったな…! 研究熱心すぎんだろ、この外国人どもは…!)

 

組み手を徹底的に嫌い、俺にまともな体勢を取らせねえ。 懐に潜り込もうとしても、巧みなステップワークでかわされ、逆にカウンターを狙われる。 俺の得意技である「大雪山おろし」が、完全に封じ込められちまったんだ。

 

 

 

「大雪山おろし」を封じられた俺は、途端に苦しい戦いを強いられることになった。海外の選手たちは、パワーだけじゃねえ。それぞれが、自国の柔道スタイルをベースにした、多彩な技と戦術を持っていた。

 

ロシアの選手は、サンボ仕込みの関節技で、俺の腕をへし折らんばかりの勢いで攻めてくる。

 

ブラジルの選手は、柔術をベースにした、粘り強い寝技で俺をグラウンドに引きずり込もうとする。

 

ドイツの選手は、俺以上の巨体から繰り出す、重戦車みてえな投げ技で俺を圧倒しようとする。

 

(くそっ…! パワーだけじゃ、こいつらには勝てねえ…! もっと、もっと技の引き出しを増やさねえと…寝技も、もっと真剣に取り組まねえと…!)

 

俺は、これまでの自分の戦い方が、いかに単調で、力に頼りすぎていたかを痛感させられた。

ゲッターロボの戦いでは、状況に応じて機体を乗り換え、戦術を変えるのが当たり前だった。

柔道だって、それと同じはずだ。

一つの必殺技に固執していては、いずれ必ず対策される。

 

結局、俺は準決勝で、地元フランスのベテラン選手に、巧みな戦術と寝技で抑え込まれ、一本負けを喫しちまった。

 

「大雪山おろし」を一度も出させてもらえねえ、完敗だった。

 

 

 

一方、俺が世界の壁に跳ね返されている間に、猪熊柔は、その美しくも力強い柔道で、パリの観客やメディアを完全に虜にしていた。

 

どんな相手にも臆することなく、柳のように相手の力を受け流し、そして閃光のような速さで一本を取る。

その姿は、まさに「畳の上のプリマドンナ」。

フランスの新聞には、「日本の至宝、マドモアゼル・イノクマ、パリを魅了!」なんていう見出しが躍っていた。

 

そして、なんと、あの風祭の野郎が、パリまで柔の応援に駆けつけていやがった。

試合後、セーヌ川のほとりかなんかで、二人仲良く語らっている姿を、俺は偶然目撃しちまった。 夕陽に照らされた二人の姿は、まるで恋愛映画のワンシーンみてえで、俺はなんだか見てるこっちが恥ずかしくなったぜ。

 

(…けっ、あいつら、どこまでもおめでてえな…パリまで来て、逢い引きかよ…)

 

だが、同時に、柔の実力は素直に認めざるを得なかった。 あいつの柔道は、確かに世界でも通用するだけの普遍的な強さと美しさを持っている。

今の俺には、まだそれが足りねえ。

 

(…だが、羨ましいなんて思ってんじゃねえぞ、俺は。ただ、あいつのあの強さは…少しだけ、眩しいとは思うがな…)

 

ライバル心が、チリチリと胸を焦がす。 そして、ほんの少しの焦燥感。

 

俺は、このままじゃ終わらねえ。

 

 

 

パリ国際大会。 俺の結果は、結局3位。銅メダルってやつだ。

 

柔は、決勝で惜しくも地元フランスの選手に敗れたが、堂々の準優勝だった。

初めての海外遠征は俺にとって、大きな課題と、それ以上の収穫をもたらしてくれた。

世界のレベルを肌で感じ、自分の弱点を嫌というほど認識させられた。

そして何よりも、「大雪山おろし」が対策されたことで、俺の柔道が新たなステージに進むための、明確な指針を得ることができた。

 

パリのシャルル・ド・ゴール空港から、日本への帰りの飛行機に乗り込む。 窓から見える、遠ざかっていくパリの街並み。

 

(パリは、ただの通過点だ。俺の本当の戦いは、あのバルセロナの地で始まる…!)

 

猪熊柔との実力差、そして世界の壁の高さ。

それを改めて痛感したからこそ、俺の魂はますます激しく燃え上がっていた。

 

この敗北を糧にして、俺は必ずもっと強くなる。パワーだけじゃねえ、技も、戦術も、そして心も。

 

(見てろよ、世界…! 次に会う時は、お前たちの度肝を抜くような、全く新しい武蔵巴を見せてやるぜ!)

 

夕焼けに染まるパリの空に、俺はバルセロナでの勝利を、強く、強く誓った。

 

武蔵巴の世界への挑戦は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

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