YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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第21話:限界突破! 魂焦がす準決勝の死闘

 

オリンピック準々決勝。 俺の目の前に立ちはだかるのは、ロシアの巨熊、イリーナ・ボルコワ。

 

その圧倒的なまでのパワーは、まさしくシベリアの氷壁みてえに俺の行く手を阻もうとしていた。

 

(こいつのパワー…底が知れねえ…! まともに組み合えば、骨まで砕かれちまいそうだ…!)

 

試合開始の掛け声を聞くと同時に、俺はボルコワの猛烈な圧力に晒された。

何度も投げられそうになるが、その度に俺は歯を食いしばり、ゲッター3の粘り腰をイメージして必死に畳に踏みとどまる。

道着が破れんばかりの力と力の応酬。

会場からは、悲鳴にも似たどよめきが絶え間なく聞こえてくる。

 

俺の得意技、「大雪山おろし」も、ボルコワの怪力と徹底した警戒の前には、なかなか出す隙が見つからねえ。

懐に潜り込もうとしても、熊みてえな太い腕で阻まれ逆に危険な体勢に持ち込まれちまう。

 

(くそっ…! このままじゃ、ジリ貧だ…!

だが、ここで折れるわけにはいかねえんだ!

俺は、武蔵巴なんだからな! )

 

試合は互いにポイントもねえまま、延長戦にもつれ込んだ。

体力も気力も、もう限界に近い。

だが、俺の魂は、まだ諦めちゃいなかった。

延長戦、残り時間あとわずか。 ボルコワが、勝負を決めるべく、捨て身の豪快な払い腰を仕掛けてきた。

その瞬間、俺は相手の動きを読んでいた。

いや、読んだというより、魂が感じ取ったんだ。

 

(今しかねえ…!)

 

俺は、ボルコワのパワーを逆利用し、カウンター気味に小内刈りを合わせた。

泥臭い、決して美しい技じゃねえ。

だが、そこには俺の全ての執念が込められていた。 ボルコワの巨体が信じられねえといった表情で、ゆっくりと畳に崩れ落ちる。

 

「有効! 」

 

主審の声が、まるで天啓みてえに聞こえた。

そして、無情にも試合終了のブザーが鳴り響く。

勝った…!

あのロシアの氷壁を俺は執念で打ち砕いたんだ!

 

「やった! さすが巴だぜ! お前ならやれると思ってたぜ! 」

 

竜子の歓声が聞こえる。

隼も、安堵の表情で小さく頷いている。

みちるは…また泣いてやがるな、あいつは。

 

だが、喜びに浸っている暇はねえ。

次が、本当の正念場だ。

 

 

 

ボルコワとの死闘で、俺の体力はほとんど底をつきかけていた。

だが、休む間もなく、準決勝の準備が始まる。

息つく暇もねえとは、まさにこのことだ。

準決勝の相手は地元スペインに近い、フランスのソフィー・デュポン。

通称、「ル・ストラテジスト(戦術家)」。

その名の通り、パワーや技のキレよりも相手を徹底的に分析し、巧妙な戦術で試合を支配する知将タイプの選手らしい。

 

これまでの試合でも、格上の相手を次々と番狂わせで破ってきた要注意人物だ。

 

(今度の相手は、パワーじゃねえ…頭脳で来るタイプか…ボルコワとは、また全然違う厄介さだな…)

 

俺は花園先生や隼と一緒に、デュポンの過去の試合映像を食い入るように見た。

確かに、派手な技はねえ。

だが、相手の弱点を的確に突き、じわじわと自分のペースに引きずり込む戦い方は、見ていて不気味なほどだ。

そして何より、俺の試合も徹底的に分析してやがるに違いねえ。

 

(「大雪山おろし」は、そう簡単には出させてもらえねえだろうな…)

 

重苦しい空気が、俺の肩にのしかかる。

だが、ここで怖気づいてる場合じゃねえ。

どんな相手だろうと、俺は俺の柔道を貫くだけだ。

 

 

 

そして始まった、準決勝。

 

畳に上がった瞬間から、俺はデュポンの見えざる罠にハマっていたのかもしれねえ。

デュポンは俺の得意な右組みを徹底的に避け、まるで踊るように距離を取り、俺にまともな組み手をさせねえ。

 

「な…!? こいつ、俺の動きを完全に読み切ってやがる…! 」

 

俺が前に出れば、デュポンは巧みなステップでそれをかわし、俺が技を仕掛けようとすれば、その起こりを完璧に見抜いて潰してくる。

「大雪山おろし」はもちろん、払い腰や体落としといった得意技も、ことごとく封じられちまった。

 

逆に、デュポンは俺の僅かな隙を突き、ポイント狙いの細かい足技や効果の低い投げ技を的確に決めてくる。

派手さはねえが、確実にポイントを積み重ねていく、嫌らしい戦い方だ。

 

(くそっ…! どうなってやがるんだ…!

俺の体が、まるで自分のモンじゃねえみてえに動かねえ…! )

 

焦りが、俺の冷静さを奪っていく。

無理に技を仕掛けようとしてバランスを崩し、逆にポイントを献上してしまう。

時間だけが、無情にも過ぎていく。

 

会場の雰囲気も、徐々に俺の敗北を予感し始めているようだった。

日本の応援団席からも、悲痛な声が聞こえてくる。

 

「ま、まずいぞ武蔵選手! このままでは、ポイント差が…! 」

 

松田の焦った声が、やけに大きく耳に響いた。

 

 

 

ポイントは、デュポンに大きくリードされていた。 残り時間も、もうほとんどねえ。

体力も、精神力も、もう限界寸前だった。

畳に膝をつきそうになるのを必死に堪える。

 

(…ここまで、なのか…? 俺のオリンピックは、こんなところで終わりになっちまうのか…? )

 

諦めの二文字が俺の頭をよぎった、まさにその瞬間。

俺の脳裏に、鮮烈な光景がフラッシュバックした。

 

それは、かつて巴武蔵として、ゲッターロボGに乗り込み、最後の戦いに挑んだ時の記憶。敵の猛攻を受け、機体はボロボロになり、意識も朦朧としていた。もうダメだ、と思ったその時。

温かく、力強い光が、俺の体を包み込んだ。ゲッター線だ。

その光の中で、俺は確かに聞いたんだ……

 

『諦めるな…! 武蔵…!

お前の魂は、まだ燃えているはずだ…! 』

 

それは、竜馬の声だったかもしれねえ。

隼人の声だったかもしれねえ。

あるいは、ゲッター線そのものの意志だったのかもしれねえ。

 

その声は、武蔵としての俺の「死」ではなく、巴としての俺の「新たな生」を肯定してくれる、力強いエールだった。

 

(そうだ…俺は、まだ諦めちゃいねえ…!

俺の魂は、まだ燃えている! )

 

ゲッター線に包まれた時の、あの全身の細胞が活性化するような、万能感にも似た感覚。

それが、今、このバルセロナの畳の上で俺の体の中に蘇ってくるのを感じた。

 

 

「…諦めるな…! 俺は…俺は、武蔵巴だァァァァァッ!! 」

 

俺は、心の底から叫んでいた。

 

その声に呼応するかのように、日本の応援団席から、竜子、隼、みちる、そしてオフクロたちの、魂を揺さぶるような声援が、まるでゲッター線の奔流みてえに俺に降り注いできた。

 

「巴ーっ! 諦めるなーっ! 」

 

「あなたならできるわ、巴! 」

 

「武蔵さーん! 負けないでーっ! 」

 

仲間たちの声が、俺に最後の力を与えてくれる。

残り時間、あと数秒。

もう、戦術もクソもねえ。

俺は、これまでの戦い方を全て捨て本能のままに、ただひたすら前に出た。

 

デュポンは、俺の突然の変化に明らかに戸惑っていた。 その表情に初めて焦りの色が見える。

 

(もらった…!)

 

俺は相手の意表を突く、全く新しいタイミングと角度で、あの技の体勢に入った。

それは、これまでの「大雪山おろし」とは違う。

 

もっと速く、もっと鋭く、そして何よりも、ゲッターの魂が宿ったかのような、常識を超えた一撃。

 

「ゲッタァァァァァ・トマホォォォォク!! 」

 

いや、違う !

俺が放ったのは、柔道の技だ。

だが、その気迫と威力は、まさしくゲッターロボの必殺技にも匹敵するモンだったかもしれねえ。

 

轟音と共にデュポンの体が、まるで木の葉みてえに宙を舞い、そして畳に叩きつけられた。

 

一瞬の静寂。

そして、主審の、震えるような声が響き渡った。

 

「…い、一本!! 勝者、武蔵巴!! 」

 

 

 

俺は畳の上に大の字に倒れ込み、荒い息を繰り返していた。 信じられねえ…本当に、勝っちまったのか…?

 

目からは、汗なのか涙なのか分からねえ液体が、とめどなく溢れ出てくる。

会場は、信じられないといったどよめきと、やがてそれが割れんばかりの歓声へと変わっていった。

 

奇跡的な逆転勝利。

まさに、アンビリーバブルな結末だ。

 

竜子と隼、そしてみちるが、泣きながら畳の上に駆け寄ってきて俺に抱きついてきた。

 

「やったな巴! さすがだぜ! お前なら、お前なら絶対にやると信じてたぜ! 」

 

「…本当に、心臓が止まるかと思ったわ…でも、おめでとう、巴! 」

 

「武蔵さん…! すごいです…!

僕、感動で…言葉になりません…!」

 

滋悟郎の爺さんも、いつの間にか俺のそばに来ていて、

 

「…ふん。あの小娘、土壇場でとんでもねえ力を出しおったわい…ゲッターの魂、か。面白いことを言うわい」なんて、ぶっきらぼうだが、どこか嬉しそうに言っていた。

 

この奇跡的な勝利で俺はついに、オリンピックの決勝の舞台へと駒を進めることができた。

 

決勝の相手は、もちろん、あの猪熊柔だ。

日本代表同士の、宿命の対決。

それが、このバルセロナの地で金メダルを賭けて実現するんだ。

 

(待ってろよ、柔…! 今度こそ、本当の本当に、お前との決着をつけてやる…! そして、俺が金メダルを掴み取る!)

 

極限の死闘を乗り越え、俺の魂は、今、オリンピックの頂点に向けて、かつてないほど激しく、そして誇り高く燃え上がっていた。

 

武蔵巴の最後の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

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