YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~ 作:月影 流詩亜
「Sore made!(それまで!)」
主審の鋭い声が、バルセロナのパラウ・ブラウグラナ体育館に響き渡った。
長い、長い死闘が終わった。
俺と猪熊柔は互いに力を出し尽くし、畳の上に大の字に倒れ込んでいた。
もう、指一本動かす気力も残っていねえ。
体育館全体が、水を打ったように静まり返っている。
誰もが固唾を飲んで、電光掲示板に表示されるであろう最終的なポイントと審判の宣告を待っている。
俺の心臓は破裂しそうなくらい激しく脈打っていた。
(終わった…のか…?
俺と柔との戦いが…そして、俺の、このオリンピックが…)
朦朧とする意識の中、俺はゆっくりと顔を上げた。
隣には、同じように倒れている柔の姿がある。
その瞳は、俺と同じように何かを渇望するように虚空を見つめていた。
やがて、主審がゆっくりと中央に進み出て、何かを確認するように副審たちと短い言葉を交わす。
そして、ついに、その手が振り上げられた。
「勝者、赤、Nippon、MUSASHI Tomoe !!!」
その瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
勝った…? 俺が…? あの猪熊柔に、このオリンピックの決勝で勝った…だと…?
信じられねえ。
まるで、夢を見ているみてえだ。
だが次の瞬間、体育館を揺るがすような割れんばかりの歓声と拍手が俺の全身に降り注いできた。
日本の応援団席からは、地鳴りのような「巴! 巴!」コールが巻き起こっている。
「やった…! やったんだ…!
俺が…この俺が…オリンピックで…金メダルを…!! 」
込み上げてくる熱いものを、もう抑えることはできなかった。
俺は畳に突っ伏し声を上げて泣いた。
悔し涙じゃねえ。 嬉し涙でもねえ。
それは、今まで俺が経験したことのない、もっと純粋で、もっと魂の奥底から湧き上がってくるような黄金色の涙だった。
ゲッターロボで戦っていた頃の記憶、この世界に転生してからの戸惑い、柔道との出会い、仲間たちとの絆、そして、猪熊柔という最高のライバルとの激闘…。
その全てが、この一瞬のためにあったような気がした。
◇
どれくらい泣き続けていただろうか。
ふと、肩を優しく叩かれた。
見上げると、そこには同じように涙で顔をぐしゃぐしゃにした猪熊柔が立っていた。
その首には、銀色のメダルがかけられている。
「…おめでとう、武蔵さん…いえ、巴」
柔の声は少し震えていたが、その表情はどこまでも清々しかった。
「あなたの勝ちよ。
強かったわ…本当に、心の底から強かった」
柔は、そう言って俺に手を差し伸べてきた。
俺は、その手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「柔…お前がいたからだ。
お前という、とんでもねえ目標がいなけりゃ、俺は絶対にここまで来れなかった。
お前が俺をここまで強くしてくれたんだ…!
ありがとう…! 本当に、ありがとう…!」
俺たちは互いの健闘を称え合い、そして言葉もなく強く抱き合った。
汗と涙でぐしょ濡れの道着。
だが、その温もりは、どんなものよりも心地よかった。
勝者と敗者。
その結果は確かに出た。
だが、俺たちの間には、そんなものを遥かに超えた、もっと尊くて、もっと美しい絆が確かに輝いているのを感じた。
ライバルであり、そして、かけがえのない親友。それが、俺と猪熊柔なんだ。
◇
表彰式。
俺の首に、ずっしりと重い金メダルがかけられた。
その黄金色の輝きは、まるで太陽みてえに眩しくて、俺はまたしても涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。
日本国旗「日の丸」が、ゆっくりと一番高い場所へと掲げられていく。
そして、荘厳な「君が代」のメロディーが、バルセロナの空に、そして俺の魂に、どこまでも誇らしく響き渡った。
観客席に目をやると、竜子、隼、みちる、オフクロ、勇、花園先生、山嵐先生…俺を支えてくれた全ての人たちが、涙を流しながら、そして最高の笑顔で俺に拍手を送ってくれているのが見えた。
みちるは、俺があげた…いや、あいつが作ってくれたゲッターロボのお守りを胸の前でギュッと握りしめている。
(みんなのおかげだ…俺一人じゃ、絶対にこの景色を見ることはできなかった…!
本当に、本当にありがとう…!)
俺は胸に手を当て、深々と頭を下げた。
この感謝の気持ちを、どう表現したらいいのか、言葉が見つからなかった。
◇
その頃、日本列島は俺と柔の歴史的な一戦の余韻に、まさに歓喜の渦に包まれていた。
テレビのニュースは、朝から晩まで俺たちの特集を組み、新聞の号外が街中に舞い、インターネットの掲示板は祝福のメッセージで埋め尽くされていた。
「うおおおぉぉん! 巴! よくやったぞ!
そして柔も、本当によく戦った!
ワシは…ワシは、今、間違いなく世界で一番幸せなじじいじゃぁーっ!
これで、安心してあの世に行けるわい! 」
猪熊滋悟郎の爺さんは、テレビカメラの前で子供みてえに号泣しながら俺たちの健闘を称えていた。
「歴史的快挙!
武蔵巴、世界の頂点に君臨!
天才・猪熊柔とのオリンピック史上に残る死闘を制し、日本女子柔道界に、いや世界のスポーツ史に、新たなる金字塔を打ち立てたのだ!
うおおお、感動で感動で記事が!
記事が止まらん!
ペンが! ペンが折れそうだぁーっ!」
日刊エヴリーの松田は、興奮のあまり過呼吸になりながらも、血走った目でキーボードを叩き続けている。
その記事は、きっと日本中の読者の胸を熱くするだろう。
遠く離れた日本の地で、本阿弥さやかもまた、テレビの前で一人、静かに涙を流していた。
「…やるじゃないの、あなたたち…本当に、金メダル獲っちゃうなんて…私も…私も、もっと頑張らなきゃ…!」
その瞳には、悔しさよりも、新たな目標を見つけたかのような強い光が宿っていた。
選手村に戻った俺を、竜子、隼、みちる、そして家族たちが手荒くも温かい祝福で迎えてくれた。
「巴! お前、マジで最高だぜ! カッコよすぎだろ! 」
「…本当に、おめでとう、巴。あなたの努力が、報われたのね」
「武蔵さん…! 僕、もう、言葉もありません…! 本当に、本当に、おめでとうございます! 」
「姉ちゃん、すげー! 俺、友達に自慢しまくるぜ! 」
「巴…よく、頑張ったわね…お母さん、嬉しいわ…」
仲間たちの、家族の、そしてみちるの温かい言葉の一つ一つが、俺の心に深く染み渡っていく。
俺は、本当に幸せ者だ。
◇
オリンピックの全ての競技が終わり、俺たちは日本への帰国を数日後に控えていた。
バルセロナの最後の夜、俺は一人、選手村の自室のバルコニーで金メダルを手に満天の星空を見上げていた。
これまでの激闘の日々。
ゲッターロボのパイロット・巴武蔵としての記憶。
そして、武蔵巴としてこの世界に転生してからの目まぐるしい日々。
その全てが、この小さな金メダルの中に凝縮されているような気がした。
(…ゲッター線がくれた「ご褒美」…それは、この新しい人生そのものだったのかもしれねえな…そして、この金メダルは俺がこの世界で、自分の力で掴み取った、もう一つの「ご褒美」…)
そんなことを考えていると、ふと、あの懐かしく、そして温かい感覚が俺の全身を包み込んだ。
ゲッター線だ。
それは、幻聴だったのかもしれねえ。
あるいは俺の魂が感じ取った、ただの気のせいだったのかもしれねえ。
だが、俺には確かに聞こえたんだ。
『…よく頑張ったな、武蔵…いや、巴。
お前の魂は、この世界で確かに眩いほどに輝いているぞ。
それは、お前自身が掴み取った何よりも尊い「ご褒美」だ。 誇りに思うがいい』
その声は、竜馬の声にも、隼人の声にも、そしてゲッター線そのものの声にも聞こえた。
俺は、その声に応えるように静かに微笑んだ。
武蔵としての俺も、巴としての俺も、全てが肯定され、そして祝福されたような、そんな満ち足りた気持ちに包まれていた。
(ああ…ありがとうよ…みんな…)
◇
俺のオリンピックは終わった。
だが、俺の柔道家としての道は、まだこれからも続いていく。
新たな目標、新たな挑戦が、きっと俺を待っているだろう。
猪熊柔という最高のライバルと共に俺たちはこれからも、もっともっと強くなれるはずだ。
そして、俺のこの生き様、この不屈の魂が、ほんの少しでも誰かの心に勇気や希望の光を灯すことができるのなら、それ以上に嬉しいことはねえ。
俺は、バルセロナの星空に向かって高らかに宣言した。
「見てろよ、世界!
この武蔵巴の伝説は、まだ始まったばかりだぜ! 」
── 武蔵巴の戦いは、一つの頂点を極めた。
しかし、彼女の魂が灯した希望の光が消えることはない。
そのゲッターの魂を受け継いだ赤い閃光は、これからも多くの人々の心を照らし、困難に立ち向かう勇気を与え、そして輝かしい
ゲッターの魂よ、永遠なれ!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
ゲッターに燃え、YAWARA!に萌えた私の物語は、どうだったでしょうか ?
楽しんで貰えたなら嬉しいです。
また、次回作でお会い出来ることを祈っています。