YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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第4話:芽生える友情、そして小さな目標

 

山嵐柔道クラブでの稽古が、俺の日常になって数週間が経った。 相変わらず山嵐先生の指導は厳しく、道場の空気はピリッと張り詰めている。

だが、それが今の俺には心地よかった。ゲッターチームにいた頃の、あの緊張感と充実感を思い出させてくれるからな。

 

そして、流竜子と神谷隼。この二人との関係も、少しずつだが変わってきた気がする。

最初は、お互いにどこか探り合っているような雰囲気だったが、毎日のように顔を合わせ、汗を流し、時には互いの技を受け合ううちに、自然と会話も増えてきた。

 

「巴! 今日こそアンタから一本取ってやるからな!」

 

稽古前、竜子はいつものように元気よく俺に宣戦布告してくる。その真っ直ぐな瞳は、どこか昔の竜馬を思い出させて、俺もついニヤリとしてしまう。

 

「ほざけ。返り討ちにしてやるぜ」

 

一方、隼は相変わらずクールだが、時折見せる的確なアドバイスや、俺の型破りな動きに対する冷静な分析は、なかなか鋭い。

 

「巴、今の動き、面白いけど少し大振りね。 カウンターを狙われたら危ないわよ」

 

「…分かってるよ。だが、当たらなければどうということはねえ」

 

なんて軽口を叩き合えるくらいには、打ち解けてきたってことだろう。

こいつら、なかなか骨のある奴らだ。竜子のパワーと突進力、隼の緻密な寝技と戦略眼。それぞれが、俺にはねえモンを持っている。 そして何より、二人とも柔道に対する情熱が本物だ。

 

(まあ、ゲッターチームの連中に比べりゃ、まだまだヒヨッコだがな…)

 

それでも、この世界で初めて出会った「戦友」と呼べるかもしれねえ存在。それが、こいつらだった。

 

 

 

通常の稽古が終わった後、俺たち三人は自主練習と称して道場に残り、日が暮れるまで技の研究や乱取りをすることが日課になっていた。

 

「巴、アンタのあの変な体幹トレーニング、ちょっと教えてくんねえ? なんか、効きそうだし!」

 

「変な、とは失礼な。 これはゲッター…いや、俺秘伝の鍛錬法だ。 まあ、お前にはちとキツいかもしれねえがな」

 

「隼は寝技ばっかりじゃなくて、もっと立ち技も磨けよなー。 巴みたいにドカーンと投げられたら気持ちいいぜ、きっと!」

 

「竜子こそ、もう少し頭を使いなさい。力任せだけでは、いずれ壁にぶつかるわよ」

 

互いの得意技を見せ合ったり、時には辛辣な(だが的を射た)アドバイスを送り合ったり。竜子の豪快な大外刈り、隼の蛇のように絡みつく三角絞め。そして俺の、まだ名前もねえが、ゲッター3の粘り腰を応用したような、相手の力を吸収して投げ返す技。

 

汗まみれ、泥まみれになって畳の上を転がり回る。それは、ゲッターロボのコクピットで硝煙に塗れた日々とは違う、もっと生々しくて、温かい感触だった。

 

休憩中には、柔道の話だけじゃなく、学校の他愛もない話もするようになった。

 

「そういや巴、また隣のクラスの男子に告白されたんだって?」と竜子がニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「…なんでお前がそれを知ってんだ」

 

「ウワサになってるぜー、『武蔵野三中のクールビューティー、武蔵巴を射止めるのは誰だ!?』ってな!」

 

「…くだらねえ。 俺はそんなことに興味はねえ」

 

「あら、巴にも好きな人くらいいるんじゃないの?」と隼が珍しくからかうような口調で言う。

 

俺は思わずムッとして、

 

「い、いねえよ! 色恋沙汰なんぞ、時間の無駄だ!」と一蹴する。

 

実際、今の俺の頭の中は柔道のことだけでいっぱいいっぱいだ。…まあ、それとは別に、この少女の体で恋愛なんぞ、想像もできねえってのもあるが……

 

「ふーん? ま、巴はそういうの、疎そうだもんなー」

 

「竜子だって、人のこと言えないでしょう。 この間、サッカー部のキャプテンに呼び出されてたじゃない」

 

「なっ!? そ、それは違うんだって! ただ、練習試合の申し込みを…!」

 

そんな、いわゆる「女子トーク」ってやつに、俺は正直どう反応していいか分からねえ。

ゲッターチームに女はいなかったし、いたとしても、こんな甘っちょろい会話はしなかっただろう。

 

(…お、俺は、そういうのはよく分からんが…)

 

それでも、竜子や隼とこうして馬鹿話をしている時間が、不思議と嫌じゃなかった。むしろ、少しだけ心地よさすら感じ始めていた。これが、同性の「ダチ」ってやつなのか…?

ゲッターチームの仲間たちとは違う、なんだかむず痒いけど、悪くねえ感覚だ。

 

 

 

月に一度、山嵐柔道クラブでは道場内試合が行われる。 日頃の稽古の成果を試す場であり、門下生たちの実力を見極める場でもある。 俺も、当然のように出場することになった。

 

試合が始まると、俺は面白いように勝ち進んだ。まだ柔道の「じ」の字も分かっちゃいねえが、この体のバネと、ゲッター仕込みの勝負勘、そして何よりも規格外のパワーが、他の門下生を圧倒した。 荒削りな投げ技でも、相手は面白いように吹っ飛んでいく。

 

「す、すげえ…巴ちゃん、マジで怪物だよ…」

 

「あのパワー、本当に中学生女子かよ…」

 

周囲のどよめきを背に、俺はトーナメントを駆け上がった。 そして、決勝の相手は、高校生の男子で、この道場でも古株の一人だ。さすがに、こいつは今までの相手とは格が違う。 組み合った瞬間に、その実力差を感じた。

 

(…ちっ、こいつ、なかなかやるじゃねえか…!)

 

パワーだけじゃ押し切れねえ。 技も巧みで、俺の攻撃をことごとく捌いてくる。

何度か危ない場面もあったが、土壇場でゲッター3の粘り腰を発揮し、強引な払い腰で無理やり相手を畳に叩きつけた。

 

「い、一本!!」

 

審判の声が響き、俺の勝利が決まった。道場内が、わっと沸く。

正直、勝った気はしなかった。 完全に力技。

柔道じゃねえ、ただのケンカみてえなもんだ。

 

試合後、山嵐先生に呼び出された。褒められるかと思いきや、先生の顔は般若みてえに厳しかった。

 

「巴。今日の試合、お前が勝ったのは認める。

だがな、アレは柔道じゃねえ。ただの力任せの暴挙だ」

 

先生の言葉が、グサリと胸に突き刺さる。

 

「お前のその規格外の力と勘は、確かに天賦の才かもしれん。

だが、それに胡坐(あぐら)をかいていては、いずれ必ず頭打ちになる。

柔道の『道』というものが、お前には全く見えておらん。 基礎がなっていない何よりの証拠だ!」

 

厳しい叱責。 だが、その言葉の端々には、どこか俺に対する期待のようなものも滲んでいる気がした。

 

「…だが、その荒削りな力は、磨けばとんでもない武器になるやもしれん。 勘違いするなよ、小娘。 お前はまだ、畳に上がったばかりの赤ん坊同然だということをな」

 

それだけ言うと、先生は背を向けて去っていった。

 

(…ちくしょう、あのジジイ…見てやがるぜ、的確に…)

 

反発したい気持ちはあったが、先生の言葉が正しいことは、俺自身が一番よく分かっていた。今の俺は、ただ闇雲に力を振り回しているだけだ。

猪熊柔のような、あの洗練された「柔の道」には、程遠い。

 

もっと、もっと強くならねえと。そして、本当の「柔道」を身につけねえと。

 

 

そんなある日の稽古後、道場に一人の女性が訪ねてきた。歳は三十代前半くらいだろうか。優しそうな顔立ちだが、どこか芯の強さを感じさせる人だ。

武蔵野第三中学校の教師で、柔道部の顧問をしている花園と名乗った。

 

「武蔵巴さん、流竜子さん、神谷隼さん、ですね?

あなたたちの噂はかねがね伺っていました。ぜひ一度、お話がしたいと思いまして」

 

花園先生は、俺たち三人の前に座ると、穏やかな口調で話し始めた。

 

「単刀直入に言います。我が校の柔道部に、入ってはいただけませんか?」

 

柔道部へのスカウト。正直、俺はあまり気乗りしなかった。

 

(部活なんぞ、面倒くせえ…道場の稽古だけで十分だろ…)

 

そう思っていたんだが……。

 

「面白そうじゃん! やるやる! ね、巴、隼も!」

 

竜子は、目を輝かせて即答。 こいつは本当に、新しいことが好きな奴だ。隼も、

 

「…練習時間が増えるのは歓迎よ。それに、団体戦というのも経験してみたいわね」と、意外にも前向きだった。

 

おいおい、お前らまで…。俺は渋い顔をしたが、花園先生がダメ押しの一言を放った。

 

「猪熊柔選手も、中学時代から柔道部で活躍し、その才能を開花させたと聞いていますよ。

皆さんも、きっと素晴らしい柔道家になれると、私は信じています」

 

(猪熊柔も…か…)

 

その名前に、俺の心がピクリと動いた。あいつが通った道なら、俺も通ってみる価値があるかもしれねえ。それに、こいつら二人がやるってんなら、俺だけ仲間外れってのも、なんだか据わりが悪ぃ。

 

「…まあ、こいつらがやるって言うなら、付き合ってやらんでもないですけど」

 

俺は、わざとぶっきらぼうに答えた。 内心では、少しだけワクワクしている自分に気づいていたが、それを悟られるのは(しゃく)だった。

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

花園先生は、満面の笑みで俺たちの手を取った。こうして、俺たち三人は、武蔵野第三中学校の柔道部にも籍を置くことになった。

 

 

 

武蔵野三中の柔道部は、正直言って弱小だった。部員は俺たち三人を含めても数えるほどしかおらず、専用の道場もねえ。普段は体育館の隅っこで、古びた畳を敷いて練習しているような状態だ。

 

だが、花園先生は熱心な指導者だった。 山嵐先生とはタイプが違うが、一人一人の個性を尊重し、長所を伸ばそうとしてくれる。そして何より、柔道に対する愛情が深い。

 

入部して最初のミーティングで、花園先生は俺たちに目標を提示した。

 

「皆さんの当面の目標は、夏の地区大会での団体戦優勝、そして個人戦での上位進出です!

特に団体戦は、あなたたち三人が揃えば、十分に優勝を狙えるはずです!」

 

(地区大会…ねえ。まあ、腕試しにはちょうどいいかもしれねえな)

 

「よーし、やってやろうじゃねえか! 目指すは優勝だぜ!」

 

竜子は、いつものように元気いっぱいだ。その隣で、隼も静かに闘志を燃やしているのが分かる。

 

団体戦か…。ゲッターチームも三人だったな。竜馬、隼人、そして俺。あいつらと力を合わせて戦った日々を思い出すと、胸が熱くなる。

こいつらと、どこまでやれるだろうか。

 

「おい、巴! ボーッとしてないで気合入れろよな!」

 

「…分かってるよ。お前らこそ、俺の足を引っ張るんじゃねえぞ」

 

軽口を叩き合いながらも、俺たちの間には、確かに「チーム」としての意識が芽生え始めていた。

 

 

 

その日の部活帰り、俺たち三人は夕焼けに染まる道を並んで歩いていた。山嵐柔道クラブでの稽古も終え、心地よい疲労感が全身を包んでいる。

 

「なあ、巴」

ふと、竜子が俺に話しかけてきた。

 

「アンタさ、なんでそんなに強いんだ?

まだ柔道始めたばっかりなのに、まるで何年もやってるみてえだぜ」

 

その問いに、俺は少しだけ言葉に詰まった。ゲッターロボのことなど、言えるはずもねえ。

 

「…さあな。ただ、負けるのは死ぬほど嫌いなだけだ」

俺がそう答えると、竜子は「ふーん、巴らしいな」と笑った。

 

その時、隣を歩いていた隼が、ポツリと呟いた。

「…私たちは、きっといいチームになれると思うわ。あなたたち二人となら」

 

その言葉に、俺は少し驚いて隼の顔を見た。いつもクールなこいつが、そんなことを言うなんて珍しい。

 

(チーム、か……)

 

ゲッターチームとは違う。血生臭い戦場じゃなく、汗と涙が交じる畳の上で。だが、仲間と力を合わせ、一つの目標に向かって進む。その本質は、同じなのかもしれねえ。

夕焼け空が、やけに綺麗だった。

 

(ダチ…ねえ。悪くねえな、こういうのも…)

 

この二人と共に、俺は強くなる。そして、いつか必ず、あの猪熊柔と同じ畳の上に立ってみせる。

 

それが、この武蔵巴の、新たな誓いだった。

 

 

 

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