YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~ 作:月影 流詩亜
中学柔道地区大会当日。 会場である市民体育館は、朝から独特の熱気に包まれていた。
各校のジャージを着た選手たちの緊張した面持ち、応援席からの威勢のいい声援、そして畳の匂い。俺の魂が、否応なく高ぶるのを感じる。
「いいか、お前ら! 相手が何処だろうと、自分たちの柔道を信じて、思いっきりぶつかってこい! 」
武蔵野第三中学校柔道部のゼッケンをつけた俺たち三人に、花園先生がいつもの穏やかな笑顔で、しかし力強い言葉をかけてくれる。
隣では、竜子が「押忍!」とばかりに拳を握りしめ、隼は静かに目を閉じて集中力を高めている。
(ふん、言われなくてもそのつもりだぜ。 相手が誰だろうと、俺のやることは一つだ)
団体戦のメンバー表を確認する。先鋒・流竜子、次鋒・神谷隼、そして大将・武蔵巴。
たった三人の弱小チームだが、不思議と負ける気はしなかった。 こいつらとなら、何かやらかせる。 そんな予感がしていた。
「よし、行くぞお前ら! 武蔵野三中、初陣だ!」
俺が檄を飛ばすと、竜子と隼が力強く頷いた。
目指すは、もちろん優勝だ。
◇
団体戦一回戦。 相手は、そこそこの強豪校らしい。 先鋒の竜子が畳に上がる。
「うおおっしゃあ! いっくぜえええ!」
いつものように雄叫びを上げて相手に突っ込んでいく竜子。
その勢いは凄まじく、相手は完全に気圧されている。 組み合ったかと思うと、あっという間に豪快な大外刈りを叩き込み、一本勝ち。
「っしゃあ! まず一勝! 」
ベンチに戻ってきた竜子を、俺と隼が拳で迎える。幸先のいいスタートだ。
続く次鋒戦。 隼は竜子とは対照的に、冷静沈着な試合運びを見せる。
相手の動きをじっくりと観察し、巧みな足技で体勢を崩すと、すかさず寝技に持ち込む。
一度グラウンドに持ち込めば、隼の独壇場だ。 蛇のように絡みつき、鮮やかな腕ひしぎ十字固めで一本。
「……よし」
小さくガッツポーズをする隼。 クールな表情は崩さないが、その瞳には確かな闘志が宿っている。
そして、大将戦。 俺の出番だ。
畳に上がると、相手校の選手が明らかに警戒した目で俺を見てくる。 まあ、無理もねえ。 この可憐な(と自分では認めたくねえが)少女の姿で、さっきまでの竜子や隼とは明らかに違うオーラを放っている自覚はある。
「はじめ! 」
主審の声と共に試合開始。
相手は慎重に間合いを取ってくるが、そんなもの俺には通用しねえ。
一気に踏み込み、相手の腕を鷲掴みにする。
「なっ!? 」
相手が驚く間も与えず、そのまま強引に一本背負いを仕掛ける。
技の形なんぞ、まだメチャクチャだ。 だが、俺のパワーとスピードは、中学生レベルでは規格外らしい。
相手は抵抗する暇もなく宙を舞い、ドスンという鈍い音を立てて畳に叩きつけられた。
「い、一本!! 」
あっけない幕切れ。 相手はしばらく起き上がれず、俺は軽く一礼して畳を降りた。
会場が、一瞬シンと静まり返り、その後、ざわめきが広がる。
「な、なんだあの大将…強すぎるだろ…!?」
「あのパワー、本当に中学生女子かよ…」
他校の選手や監督たちが、驚愕の表情で俺を見ている。 ふん、これくらいで驚いてるようじゃ、先が思いやられるぜ。
その後も、武蔵野三中は快進撃を続けた。
竜子が勢いでポイントを稼ぎ、隼が堅実な試合運びでリードを守り、そして俺が圧倒的な力で試合を決める。
この勝ちパターンで、あれよあれよという間に決勝まで駒を進めちまった。
決勝の相手は、この地区の優勝候補筆頭と言われる強豪校。 さすがに今までの相手とは違い、先鋒の竜子も、次鋒の隼も苦戦を強いられた。
一勝一敗で迎えた大将戦。
勝負の行方は、俺の双肩にかかっている。
相手の大将は、俺よりも頭一つ大きく、見るからにパワーがありそうだ。
組み合った瞬間、ズシリとした重みを感じる。 こいつは、今までみたいに力任せではいかねえかもしれねえ。
だが、俺の辞書に「退く」という文字はねえ。
真っ向からぶつかり合い、互いに技を出し合う激しい攻防。 相手の得意技である内股を、粘り腰で必死に堪える。
(くそっ、こいつ、なかなかやるじゃねえか……! )
だが、俺の闘志は衰えねえ。一瞬の隙を突き、俺は渾身の力で相手の体を持ち上げにかかった。ゲッターロボの操縦で鍛えた、全身のバネを使って。
「な、なんだこの力は!? 」
相手が驚愕の声を上げる。 そのまま、俺は相手を脳天から叩きつけるような、無茶苦茶な大腰で投げ飛ばした。
山嵐先生が見たら、「あれは柔道じゃねえ!」と怒鳴りそうな、荒っぽすぎる技だ。
だが、結果は一本。
「それまで! 一本! 勝者、武蔵野第三中学校! 」
主審の声が、会場に響き渡った。 俺たちは、勝ったんだ。
竜子と隼が、泣きながら俺に抱きついてくる。
「やったー! 巴、やったぞー! 」
「…本当に、勝っちゃったわね…私たち……」
俺も、思わず目頭が熱くなるのを感じた。ゲッターチームで勝利を掴んだ時とは違う、なんだか温かくて、くすぐったいような感動。
これが、仲間と掴む勝利の味か……悪くねえな。
◇
団体戦の興奮も冷めやらぬまま、午後は個人戦が始まった。
俺は、団体戦の勢いそのままに、個人戦でも破竹の勢いで勝ち進んだ。
対戦相手は、俺のパワーを警戒して、なかなか組み合おうとしてこねえ。
だが、そんな消極的な相手には、容赦なくプレッシャーをかけ、強引に技を仕掛ける。
(逃げてんじゃねえよ、もっとかかってこい!)
巴投、大外刈り、一本背負い。
まだ形は不格好だが、一つ一つの技に込めるパワーは、中学生の女子が出せるレベルを遥かに超えていた。
試合時間は、ほとんどが数十秒。相手は俺の力に為す術もなく吹っ飛ばされていく。
「あの子、本当に中学生なのか…? まるで、小さな重戦車だな…」
「技は荒削りだが、あの身体能力と勝負勘は本物だ…末恐ろしい新人が現れたもんだ……」
観客席からは、そんな声が聞こえてくる。
山嵐先生も、腕を組んで厳しい表情で俺の試合を見つめていたが、時折、小さく唸るような声を漏らしているのが分かった。
あのジジイも、少しは俺の実力を認めてくれたかね。
決勝戦の相手は、団体戦決勝で俺と戦った、あの強豪校の大将だった。
「またお前か。 今度は、あんな無茶苦茶な投げ方はさせんぞ」
相手は、リベンジに燃えているようだった。
だが、悪いが俺に二度同じ手が通用すると思うなよ。
試合は、予想通り激しいものになった。
相手は俺のパワーを警戒しつつも、巧みな技で攻めてくる。
俺も、ただ力任せに攻めるだけじゃなく、ゲッター2のようなスピードと、ゲッター1のようなトリッキーな動きを意識して戦う。
最後は、相手が仕掛けてきた大技を、紙一重でかわし、カウンターの体落とし。
これもまた、教本には載ってねえような、我流の技だ。だが、見事に一本。
個人戦も、優勝。 まあ、当然の結果だ。
◇
試合の合間、控室で休んでいると、竜子が興奮した様子で柔道雑誌を手に駆け寄ってきた。
「なあ、巴! 見ろよコレ! 猪熊柔だって! やっぱりすげえなあいつ! 」
竜子が指差したページには、カラー写真付きで猪熊柔の特集記事が組まれていた。
『天才柔道少女、猪熊柔!
全国中学校柔道大会、衝撃の二連覇へ!』
なんていう、デカデカとした見出しが躍っている。
記事には、柔が全国大会で並み居る強豪を次々と破り、圧倒的な強さで勝ち進んでいる様子が詳細に書かれていた。
そして、トレードマークの一本背負いを鮮やかに決めている、躍動感あふれる写真。
(猪熊柔…やっぱり、俺とは住む世界が違うぜ…)
俺が今戦っているのは、たかが地区大会。一方、あいつは全国の頂点を目指して戦っている。その差は、あまりにも大きい。
だが、不思議と劣等感は感じなかった。むしろ、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じる。
「…全国、か」
俺は、雑誌の柔の写真を睨みつけるように見つめた。その瞳は力強く、一点の曇りもない。
美しいだけじゃねえ、本物の「強さ」を持った者の目だ。
「俺も、いつか必ずあの舞台に立ってやる。 そして、あいつと…あいつと戦って、必ず勝つ!」
無意識のうちに、そんな言葉が口をついて出ていた。隣にいた竜子と隼が、驚いたように俺の顔を見る。
「巴…本気なんだな」
「…あなたなら、本当にやり遂げるかもしれないわね」
二人の言葉に、俺は力強く頷いた。
今の俺の実力じゃ、あいつの足元にも及ばねえだろう。 だが、目標は高く持たねえと意味がねえ。
この武蔵巴、やると言ったら必ずやる男…いや、女だ。
◇
個人戦の決勝が終わり、表彰式までの間、俺は一人で体育館の隅にある自販機でスポーツドリンクを買って飲んでいた。
団体戦と個人戦、立て続けに試合をしたせいで、さすがに少し疲労を感じる。
「あ、あのっ…!」
不意に、後ろから遠慮がちな声が聞こえた。振り返ると、そこには俺より少し背の低い、中学生くらいの少年が立っていた。
黒縁のメガネをかけた、どこか気弱そうな印象の少年だ。手には、スケッチブックのようなものを抱えている。
「…なんだ、お前。なんか用か?」
俺がぶっきらぼうに尋ねると、少年はビクッと肩を震わせ、顔を真っ赤にしながら言った。
「む、武蔵…巴さん、ですよね…!? 今日の試合、全部見てました! すっごく、すっごく、かっこよかったです! 」
……かっこいい? 俺が?
今まで、そんなことを言われた経験はねえ。
ゲッターチームの連中からは「無鉄砲」だの「猪武者」だの言われたことはあるが。
「あの、僕、早乙女みちるって言います!
武蔵さんの大ファンになっちゃいました!」
早乙女…みちる、ねえ。なんだか、女の子みてえな名前だな。
少年……みちるは、キラキラとした、憧れの眼差しで俺を見つめてくる。その純粋で真っ直ぐな視線に、俺はなんだか調子が狂っちまう。
「ふ、ふぁん…? なんだそりゃ…気色悪ぃな…」
「えっ!? あ、ご、ごめんなさい! でも、本当に、今日の武蔵さんの戦いぶり、感動したんです! あの、力強くて、でも、時々すごく可憐で…! 」
……可憐? 俺が? おいおい、こいつ、どこ見てんだ。
みちるの言葉に、俺はますますどう反応していいか分からなくなる。年下の、しかも男のガキから、こんなふうに褒められたことなんざ、一度もねえ。
「お、おう…そうかよ…まあ、ありがとよ…」
俺は、頭を掻きながら、ぎこちなく礼を言った。なんだか、顔が熱い気がする。
すると、みちるは恐る恐る、抱えていたスケッチブックを俺の前に差し出した。
「あ、あの! もしよかったら、サイン、頂けませんか…?」
「さ、サイン…? 俺のかよ…?」
「はい! お願いします!」
必死な形相で頭を下げるみちるに、俺はため息をついた。
「…チッ、しょうがねえな。ペン、あるのか?」
「は、はい! これ、使ってください!」
みちるが差し出したペンを受け取り、スケッチブックの真っ白なページに、デカデカと「武蔵巴」と書き殴る。我ながら、女の字とは思えねえ、力強い筆跡だ。
「わ、わああ! ありがとうございます! 一生の宝物にします! 」
みちるは、俺のサインをうっとりと眺め、顔を真っ赤にして喜んでいる。
そのあまりの純粋さに、俺はなんだか毒気を抜かれちまった。
◇
「じゃあ、僕、これで…! また、応援に来ます! 必ず! 」
みちるは、深々と頭を下げると、嬉しそうにスキップでもしそうな勢いで去っていった。
俺は、その後ろ姿を呆然と見送りながら、ポツリと呟いた。
「…なんだか、変な奴に懐かれちまったな…」
だが、その表情は、自分でも意外なほど穏やかだったかもしれねえ。
結局、地区大会は、団体戦も個人戦も、俺たち武蔵野三中が優勝を掻っ攫っちまった。
表彰台の一番高い場所に立ち、金メダルを首にかけてもらう。ゲッターロボで勲章をもらった時とは違う、くすぐったいような誇らしさがあった。
花園先生は泣いて喜んでくれ、竜子と隼も、最高の笑顔を見せていた。
山嵐先生は、相変わらず厳しい顔をしていたが、
「まあ、今日のところは及第点だ。 だが、都大会ではこうはいかんぞ」と、少しだけ認めてくれたような気がする。
次の目標は、都大会。
そして、その先には全国大会、そして猪熊柔が待っている。
道はまだまだ遠く、険しいだろう。
だが、俺の闘志は、ますます燃え上がっていた。
竜子と隼という頼れる仲間、そして、早乙女みちるという奇妙な(だが、悪い気はしねえ)ファン。
俺の世界は、この世界で、少しずつだが確実に広がり始めている。
(ま、どんな相手が来ようと、俺のやることは一つだ。 ぶっ飛ばして、頂点まで駆け上がってやるだけだぜ!)
体育館の窓から差し込む夕陽が、俺の金メダルをキラリと照らした。
武蔵巴の戦いは、まだ始まったばかりだ。
中学生の柔道大会で優勝した場合には、通常は金メダルが授与されることが一般的です。トロフィーや盾(タテ)も副賞や表彰として贈られることがあります。
ただし、大会の規模や主催者によって異なる場合もあります。一般的な例としては、金メダルが最も主要な賞です。
chatGPTより調べました。