YAWARA!クロス・ソウル ~熱血武蔵巴、不屈の柔道一代記~   作:月影 流詩亜

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第9話:嵐を呼ぶ新技! その名は「大雪山(だいせつざん)おろし」

 

インターハイ本戦が終わって、数週間が経った。

 

俺の首にかかった銀メダルは、誇らしさよりも、あの猪熊柔に敗れた悔しさの象徴みてえに、ズシリと重かった。

畳の上で味わった、二度目の完全な敗北。

あの瞬間の無力感は、今でも鮮明に思い出せる。

 

(今のままじゃ、あいつには勝てねえ…何度戦っても、結果は同じだろう…)

 

俺のパワーは、確かに全国レベルでも通用する。 だが、猪熊柔のあの天才的な柔道センスと、洗練された技の前には、それだけじゃ足りねえ。

何か…何か、あいつの想像を超えるような、圧倒的な「決め技」が必要だ。

俺の全てを叩き込めるような、必殺の一撃が。

 

練習に身は入っていたが、どこか焦りのようなものが常に胸の奥にあった。

山嵐先生や花園先生も、そんな俺の様子に気づいていたかもしれねえ。

 

「巴、少し肩の力を抜け。 お前の強さは、そんな焦りから生まれるモンじゃねえはずだ」

 

山嵐先生にそう言われた時、俺はハッとした。そうだ、俺はもっと、俺自身の戦い方を見つめ直さなきゃならねえ。

 

 

 

ある夜、自室で一人、ゲッターロボの操縦マニュアルをぼんやりと思い出していた時だった。

ゲッター3のあの技の映像が頭の中に飛び込んできた。

 

『大雪山おろし』

 

ゲッター3の代名詞とも言える、荒々しくも強力な投げ技。

敵メカを掴み上げ、大地に叩きつける、まさに山をも砕くような一撃。

 

(これだ……!)

 

俺の脳裏に、電流が走った。

あのパワー、あの豪快さ。

あれを、柔道で、この俺の体で再現できねえだろうか?

もちろん、ゲッターロボみてえに相手を破壊するわけにはいかねえ。

柔道のルールの中で、安全に、それでいて相手を一撃で仕留められるような、必殺の投げ技として !

 

相手を高く、天に届くほどに持ち上げ、そしてコントロールされた力で畳に叩きつける。

 

そのイメージが、頭の中で形を結び始めた。

猪熊柔の華麗な一本背負いとは対極にあるような、荒々しくも絶対的な「力」の象徴。

 

それこそが、俺が求める新しい武器だ !

 

(よし、やってやる…! 俺だけの「大雪山おろし」を、この手で編み出してやるぜ!)

 

 

 

翌日から、俺の新技開発への挑戦が始まった。山嵐柔道クラブの道場や、武蔵野三高の体育館の隅で、俺は来る日も来る日もその技の練習に没頭した。

 

だが、言うは易く行うは難しだ。

 

最初は、ただ相手を持ち上げようとするだけで、全く上手くいかねえ。バランスを崩して自分が倒れちまったり、相手を中途半端な高さで落っことしそうになったり。

 

「おいおい巴! 本気で私を天井に突き刺す気かよ!? ちょっとは加減しろってんだ! 」

 

練習台にされた竜子が、本気で悲鳴を上げる。

まあ、無理もねえ。 俺の試作段階の「大雪山おろし」は、ただの危険な暴挙にしか見えなかっただろうからな。

 

「巴、その入り方では相手に警戒されるわ。

もっと踏み込みを深く、一瞬で相手の懐に潜り込まないと」

 

隼は、いつも通り冷静に的確なアドバイスをくれる。

こいつの分析眼は、本当に頼りになる。

 

そして、早乙女みちる。

 

あいつは、俺が新技の練習を始めたと聞きつけると、毎日練習に顔を出すようになった。

俺の動きをビデオカメラで撮影し、コマ送りで分析してくれたり、柔道の教本を読み漁って、関連しそうな技のポイントをまとめてくれたり。

 

「武蔵さん、今日の練習のデータです!

ここ、踏み込みの角度が浅いみたいで…あと、これ、栄養バランスを考えた特製ドリンクです! 」

 

汗だくの俺に、タオルと手作りのドリンクを差し出しながら、みちるは一生懸命に俺をサポートしてくれる。

そのひたむきな姿に、俺はなんだか気恥ずかしくなりながらも、素直に「…おう、サンキュな」と礼を言うしかねえ。

 

(こいつら…なんでここまで、俺のために…)

 

竜子も隼も、自分の練習時間を割いてまで俺の無茶な技開発に付き合ってくれる。

みちるに至っては、もはや俺の専属マネージャーみてえだ。

ゲッターチームの仲間たちとは、また違う種類の「絆」。それは、巴武蔵としての記憶にはねえ、温かくて、少しむず痒いような感覚だった。

 

だが、その温かさが、俺の心を強く支えてくれていた。

こいつらのためにも、絶対にこの技を完成させてやる。 そう思うと、不思議と力が湧いてくるんだ。

 

 

 

そんなある日の午後、俺が武蔵野三高の道場で「大雪山おろし」の練習に励んでいると、道場の入り口にひょっこりと、見慣れない…いや、見慣れたくねえジイさんが現れた。

 

「ほっほっほ…ここが噂の武蔵巴とかいうじゃじゃ馬娘のいる道場かのう?」

 

白髪白髭、仙人みてえな風貌。だが、その眼光は妙に鋭い……猪熊滋悟郎、その人だった。

 

なんでこんなところにいやがるんだ、このジジイは !?

 

花園先生が、慌てて滋悟郎の爺さんを出迎えている。

俺は構わずに練習を続けようとしたが、滋悟郎の爺さんは、ズカズカと俺のそばまでやってきやがった。

 

「ほう…あれが、お前さんの編み出そうとしとる新技か。 なかなか面白いことを考えるわい!

その心意気、気に入ったぞ! 」

 

爺さんは、目を爛々と輝かせながら、俺の型破りな練習風景を興味津々といった顔で見ている。

 

「…あんたに気に入られても、嬉しくもなんともねえがな」

 

俺がぶっきらぼうに返すと、爺さんは「ふぉっふぉっふぉ」と楽しそうに笑った。

 

そして次の瞬間、とんでもねえことを言い出しやがった。

 

「よし、巴とやら! その技、もっと高く相手を持ち上げてみんか! そうじゃ、天井に頭がつくくらいまでな! 」

 

「はあ!? 何言ってんだこのジジイ!

死人が出るだろうが! 」

 

「何を言うか! それくらいの気概がなくって、必殺技なんぞ編み出せるか!

よし、巴! 今度はそのまま、道場のあの太い柱に叩きつけてみろい!」

 

「だから、死ぬっつってんだろ! 」

 

滋悟郎の爺さんの無茶苦茶なアドバイス(という名の妨害)に、俺は血管が切れそうになる。

花園先生は「じ、滋悟郎先生、お戯れを……」とオロオロするばかり。

竜子と隼も、呆れた顔で俺たちを見ている。

 

(このクソジジイ…マジで何しに来やがったんだ…!)

 

イライラは最高潮だったが、不思議なことに、爺さんの言葉の端々には、どこか本質を突いたような鋭さが感じられた。

 

「相手の力を利用する」

 

「技の起点を悟られるな」

 

「体全体をバネのように使え」

 

……そんな、一見無茶苦茶な要求の中に、俺が気づいていなかったヒントが隠されているような気がした。

 

 

 

滋悟郎の爺さんが嵐のように去っていった後も、俺の試行錯誤は続いた。爺さんの(半分迷惑な)アドバイスも、どこかでヒントになっているのかもしれねえ。

 

新技「大雪山おろし」を完成させるためには、いくつもの壁を乗り越えなきゃならなかった。

 

まず、相手を安全に、かつコントロールしながら高く持ち上げるための圧倒的な筋力と絶妙なバランス感覚。

これは、ゲッター3の操縦で培った、全身のパワーを一点に集中させる技術と、ミリ単位での精密な機体制御の経験が役立った。

 

次に、畳に叩きつける際の衝撃のコントロール。相手に怪我をさせずに、それでいて確実に一本を取れるだけの威力をどう両立させるか。

これは、ゲッターロボの着地時の衝撃吸収システムや敵にダメージを与えつつパイロットを守るための防御フィールドの理論を応用して考えた。

 

……まあ、柔道にフィールドなんざ張れねえが、力の逃がし方や衝撃の分散のさせ方は参考になった。

そして何より、技に入るタイミングと、相手に悟られずに懐に潜り込むための踏み込み。

これは、ゲッター2の高速戦闘や、ゲッター1の奇襲攻撃の経験が活きた。 相手の意表を突き、一瞬で勝負を決める。

 

練習は過酷を極めた。何度も失敗し、畳に叩きつけられ、体中アザだらけになった。

だが、その度に竜子や隼、そしてみちるの顔が浮かんだ。

あいつらの期待を裏切るわけにはいかねえ。

そして、あの猪熊柔の顔も。 あいつを倒すためには、これくらいの試練、乗り越えられなくてどうする !

 

俺は、ゲッター線の流れをイメージした独自の呼吸法で精神を統一し、全身の細胞の一つ一つにまで意識を行き渡らせた。 巴武蔵としての闘争本能と、武蔵巴としての柔軟な発想、そしてゲッターの魂。 その全てを、この新技に注ぎ込む。

 

 

 

そして、ある晴れた日の午後。 山嵐柔道クラブの道場。

 

俺は竜子を相手に、新技の最終調整を行っていた。

みちるがビデオカメラを構え、隼が固唾を飲んで見守っている。 山嵐先生も、道場の隅で腕を組み、厳しい目で見ている。

 

「…行くぜ、竜子! 覚悟しろよ! 」

 

「おうよ! いつでも来い、巴! 」

 

竜子と組み合い、一瞬の隙を突いて懐に飛び込む。全身のバネを使い、竜子の体を、まるで羽毛でも持ち上げるかのように軽々と天高く抱え上げた。

道場の天井が、すぐそこに迫る。

竜子の驚愕の表情が、スローモーションのように見える。

 

そして、一瞬の静止。

 

次の瞬間、俺はコントロールされた動きで、竜子の体を畳へと導いた。 衝撃を最大限に逃がしつつ、しかし確実に一本を取れるだけの威力で。

 

ズゥゥゥン!!!

 

畳が、地響きを立てて大きく揺れた。

道場に、轟音と砂埃が舞う。

 

投げられた竜子は、しばらく目を白黒させていたが、やがて「…い、生きてる…?」と呟いた。 怪我はねえようだ。

 

「で、できた…! これが…これが、俺の…武蔵流・大雪山おろしだァァァッ!! 」

 

俺は、天に向かって雄叫びを上げた。

隼とみちるが、駆け寄ってくる。

 

「凄い…巴、本当に完成させたのね……! 」

 

「武蔵さん、かっこよすぎます! まるで、山が噴火したみたいでした! 」

 

山嵐先生も、厳しい表情を崩さないまま、だが確かにその目に称賛の色を浮かべていた。

 

「…ふん。まだ荒削りだが、とんでもねえ技を編み出しおったわい…」

 

そして、どこからともなく、あの聞き覚えのある笑い声が。

 

「ふぉっふぉっふぉ! 見事じゃ、巴!

こいつは、とんでもない破壊力じゃわい!

ウチの柔も、うかうかしておられんな! 」

 

いつの間にか、滋悟郎の爺さんが道場の入り口に立って、満足そうに頷いていた。…このジジイ、本当に神出鬼没だな。

 

 

こうして、俺の新しい必殺技、「武蔵流・大雪山おろし」は完成した。

それは、ゲッターロボの魂と、この世界で出会った仲間たちの支え、そして俺自身の執念が生み出した、まさしく俺だけの技だ。

 

この技があれば、あの猪熊柔とも互角以上に渡り合えるはずだ。 いや、必ず勝つ !

 

(待ってろよ、猪熊柔…! この「大雪山おろし」で、今度こそお前から一本取ってやる!

そして、全国の頂点は、この俺がいただくぜ!)

 

新たなる牙を研ぎ澄まし、俺は次なる戦いへと闘志を燃やす。

 

武蔵巴の伝説は、まだ始まったばかりだ。

 

この嵐を呼ぶ新技と共に、俺は柔道界に新たな旋風を巻き起こしてやる !

 

 

 

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