力の代償は魔法少女~契約の代償が幼女化なんて聞いてない!?~   作:匿名の匿名希望

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第10話 「魔法少女とスタンピード」

「……なんだこれ」

 

 魔物の大群が押し寄せていると報告のあった街の西側へと向かった俺たちが目にしたのは目を疑う光景だった。数えきれないほどの数の魔物が押し寄せ、衛兵や冒険者たちが応戦しているがその圧倒的な数に押されていた。

 

「……おかしい。スタンピードにしてもこんなにバラバラな種類の魔物が襲ってくるなんて」

 

 セリナの言葉に俺は改めて魔物の群れを見渡した。ざっと見ただけでも狼や猿、食人植物、蟹、蛇、鳥、亜竜――と、様々な種類の魔物の混成だった。

 

 スタンピードと呼ばれる魔物の大量襲撃はたびたび起こる。だが、通常のスタンピードはある程度の統一性があり、今回のような混成構成は異質だった。

 

「今はこいつらをなんとかすることが先だ」

 

「そうだね。……リオン、私はこの辺りで回復とか補助に回るから遊撃を任せてもいい?」

 

「分かった」

 

 事態の解決を優先することにした俺たちは二手に分かれる。セリナは後方でのサポート、俺は魔法少女としての戦闘力と身軽さを生かした遊撃だ。

 

「リオン、気をつけてね」

 

「ああ、そっちもな」

 

 俺たちは別れる前に言葉を交わす。もちろん死ぬ気はないが、これだけの魔物相手に必ず無事だという保証はなかった。

 

『我も行こう』

 

 いよいよ出発しようとした矢先、バフォが俺の隣に現れた。

 

「勝手にしろ。ただ待ったりはしないからな」

 

『上等だ』

 

 俺はバフォを置いていくつもりで全速力で駆け出す。だが、バフォは余裕でついてきた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「邪魔だ!」

 

 トレントと呼ばれている樹木型の魔物を三体まとめて切り払う。だが、その直後には別の魔物が俺へと迫る。

 

「……キリがないな」

 

 新手の魔物を切り返した俺は魔物の多さにぼやく。もう軽く五十体は倒したと思うが魔物の勢いは全く衰えていない。魔物のほとんどはグランベア以下の雑魚ばかりだがとにかく数が多い。

 

『なんだ、もうバテたのか?』

 

「そうはいってないだろ。気が散るから黙って……ん?」

 

 バフォの冷やかしに返しながら魔物を倒していたその時、かすかに悲鳴のような声が聞こえた。

 

「……あっちか」

 

 俺は進路を変え、声のした方へと駆け出した。

 

 声の主はすぐに見つかる。それはこの街の衛兵で、三人の衛兵が壁を背にして魔物に囲まれていた。

 

「ブロッサムバースト!」

 

 周囲の魔物をブロッサムバーストで一掃した俺はそのまま衛兵へと駆け寄った。

 

「大丈夫か?」

 

「女の子?」

 

「冒険者……なのか?」

 

「……今のは君が?」

 

 俺が衛兵に声をかけると彼らは目を丸くして俺の方を見る。まあ、俺のようなフリフリの服を着た少女がこんな血なまぐさい戦場にいれば困惑するのも無理なかった。

 

「怪我人がいるなら向こうに回復班がいる。付き添った方がいいか?」

 

「……悪いが足をやられた。露払いをしてくれると助かる」

 

「分かった」

 

 状況を尋ねると衛兵の一人は足に怪我をしていた。そのため俺は三人の露払いをしながら臨時拠点へと戻った。

 

「はは、まさか娘と同じぐらいの子に助けられるなんてな」

 

 その途中、衛兵の一人が戦う俺の姿を見て苦笑いをする。

 

「……この街を守りたいのは俺も同じだよ」

 

 勘違いを訂正しようかと思ったがそれよりも今まで魔物相手に持ちこたえてくれた衛兵への感謝を優先した。この後、衛兵を臨時拠点まで送った俺は少し休憩すると再び戦場へ戻った。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……おらあ!」

 

 一振りで猿の魔物を切り捨て、それの切り返しで更に蟹の魔物を切り捨てる。

 

「……ふぅ」

 

 魔物討伐を始めてから数時間。何度か休憩や救助で臨時拠点に帰りながらも俺は戦い続けている。その成果か、魔物の勢いは最初の頃に比べて確実に弱まってきていた。

 

『雑魚ばかりでは面白みが……ん? これは!?』

 

「ん、どうかした……は?」

 

 バフォが驚きの声を上げた方を見た俺は、言葉を失った。

 

 そこにいたのは深紅の巨竜。家屋より巨大な体躯を覆う赤い鱗は鈍く輝き、鋼すら容易に切り裂くだろう爪と牙はその一つ一つが大剣よりも重厚だった。

 

 そのプレッシャーはアースドレイクやサラマンダーなどの亜竜の比ではない。巨竜の一つ一つの動作に心臓の鼓動が速くなり、体が震えた。

 

「っ!」

 

 巨竜の咆哮。攻撃ですらないただの威嚇行動だが、それだけで大気と大地が揺れ、身がすくむ。――だが、街までそう遠くないこの場所で逃げ出すわけにはいかなかった。

 

「ここで……止める!」

 

 覚悟を決めた俺は魔法の剣を展開し、巨竜へと駆け出す。それに対して巨竜は火炎ブレスによる迎撃を行う。もちろん予想はしていたがその範囲も威力も俺の予想を遥かに超えていた。

 

「……ちぃ!」

 

 あまりの火炎の苛烈さに俺は後退を余儀なくされる。それでも魔法少女衣装の端が焦げており、あと一歩判断が遅ければ全身を焼かれていたかもしれなかった。

 

「やっぱり竜は強いな」

 

 魔法少女になって強くなったつもりだったが巨竜の強さを目の渡りにして乾いた笑いがこぼれる。とはいえ泣き言を言っていられる場合じゃない。

 

「行くぞ!」

 

 俺はもう一度、巨竜へ接近を試みる。もちろん火炎が吐かれるが今回は臆さず進む。被弾覚悟の全力疾走、そして跳ぶ!

 

「あっつ!?」

 

 跳躍と魔力による防御で火炎の直撃は避けた。だが、少し掠っただけでも思わず声が出るほどだった。

 

「……っと」

 

 なんとか賭けに勝ち、巨竜の目前まで来た俺だが所詮最初の関門にすぎない。安心する間もなく巨竜の爪が俺へと振り下ろされる。

 

「お返しだ!」

 

 跳躍で爪を回避した俺は前足手首の鱗の継ぎ目を狙って斬る。――だが、斬れない。鱗を避けて斬ってもその下の分厚い筋肉に止められてしまった。

 

「……この」

 

 動きの止まった俺へ巨竜のもう片方の前足が迫る。慌てた俺は剣を捨てて距離を取ったが、体勢を整える前に大木程の太さがある巨竜の尻尾が俺の目前に迫っていた。

 

「……待っ……ぐはっ!」

 

 咄嗟に障壁を張ったが、尻尾の大質量は防ぎ切れない。障壁が破られ、吹き飛ばされた俺は地面に思い切り叩きつけられた。

 

 「ぐっ……! まだ……だっ!」

 

 なんとか立ち上がるが膝が笑い、視界が揺れる。そんな俺に対して目の前の巨竜は、まだ悠然と立っていた。

 

 「……一か八かだ」

 

 俺は魔力を限界まで解放する。後のことは考えない。ただ全力で竜の元まで駆ける。全身が焼けるように熱い。骨がきしむ。――それでも、走る。

 

 当然、竜も迎撃する。吐かれた火炎で眼前が赤く染まる。

 

「今だ!」

 

 魔力を足元に集中させ、力いっぱいの跳躍! 火炎で髪が焼け、服が焦げる。それでも止まらない。

 

 「──これで、終わりだッ!!」

 

 目の前にはブレスを吐くために下がった巨竜の頭。距離はゼロ。俺はありったけの魔力を込めて巨大な魔法の剣を生成する。

 

 跳んだ勢いが乗った巨大な刃。それは巨竜の瞳へと突き刺さり、更にその奥の頭蓋を貫いた。

 

 その一撃に巨竜は呻き、崩れ落ちる。それと同時に、俺も地面へと落下した。

 

「……やったか?」

 

 地面に落下したままの体勢で俺は倒れた巨竜を見るがその巨体はもう動かない。すると、誰かが俺の元へと近づいてきた。

 

『ああ。よくやった』

 

 それはバフォだった。俺と巨竜との戦いを見届けたバフォは俺のことを褒めた。

 

『まだ動けるか?』

 

「……無理だな」

 

 バフォの問いに俺は正直に答える。立ち上がるどころか指一本動かせない。気を抜けばすぐに意識を失ってしまいそうだった。

 

『……そうか』

 

 それを聞いたバフォが後ろへ振り向く。巨竜が倒れてから静まり返っていた辺りが騒がしくなる。巨竜に巻き込まれないよう遠巻きにいた魔物たちが戻ってきたようだ。

 

 魔物たちは巨竜を倒した俺を警戒してかすぐには手を出してこない。だが、それも俺が動けないと気づくまでの時間の問題だ。

 

(……セリナ、悪い)

 

 今際の際に浮かんだのは幼馴染の顔。死ぬことは冒険者として覚悟はしていた。あんな巨竜を倒すなんて以前の俺ではどうあがいても無理なことを成し遂げたのだから後悔はない。――ただもう少し、あいつと冒険者をやっていきたかった。

 

「リオンー!」

 

 そんな時、幼馴染の幻聴が耳に響く。せめて最後にあと一言だけでも――

 

「天からの雷よ。我が前の障害を打ち砕け。サンダーブレイク・ルミナ!」

 

 突然の落雷が周囲の魔物を一掃する。そして――

 

「リオン、大丈夫!」

 

 俺の目の前に見知った幼馴染が、見知らぬ格好で空から降りてくる。濃い青と黒を基調とした魔法使いのローブと魔法少女服の中間のような露出度の服装だった。

 

「……凄い怪我。でも任せて。ヒール・ルミナ」

 

 俺の状態を把握したセリナは回復魔法をかける。その回復力はこれまでの彼女の回復魔法とは比べ物にならず、重症の俺の傷はあっという間に癒えていった。

 

「……そういうことかよ」

 

「そういうこと」

 

『そういうことだな』

 

 傷が治り、動けるようになった俺は思わずため息をつく。死にそうなところを助けてくれたセリナに感謝はある。感謝はあるが、それはそれ。

 

「お前も魔法少女になるのはいい。……なんでお前はスタイル良くなってんだよ~!」

 

 セリナの隠し事。それは俺のグッズ開発の裏でバフォと魔法少女の契約をしていたこと。それは別にいい。文句を言わずにいられなかったのは俺はこんな幼い姿にされたのに、セリナはスタイルがよくなった大人びた姿になっていることだ。

 

『その方が面白そうだったからな』

 

「魔法少女グラン・ルミナ……だよ!」

 

 バフォが俺の疑問に答え、セリナは名乗りながらポーズを決める。そのポーズの自然さからおそらく何度も練習しただろうことが見て取れた。

 

「お前らさあ……」

 

 ある意味いつも通りの一人と一匹に俺は呆れるしかない。

 

「ほら、リオン。スタンピードももう少しだし頑張ろう」

 

「……そう、だな」

 

 気を取り直した俺たちは改めて戦場に復帰する。セリナの魔法少女化もあり、スタンピードは大きな被害はなく終息。街は救われた。

 

 その功績を称えられ、俺とセリナはC級からA級冒険者に昇格することになった。




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次回『魔法少女の憂鬱』
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