力の代償は魔法少女~契約の代償が幼女化なんて聞いてない!?~   作:匿名の匿名希望

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第2話 「魔法少女とマスコット(邪神)」

「私たち以外知らないことも知ってるしやっぱりリオンみたいだね」

 

「だからそういってるだろ」

 

 謎の声のせい? で女の子になった俺はセリナに昔の出来事を根掘り葉掘り聞かれ、その疲れから大きなため息をついた。

 

「流石に原理が分からな過ぎてね。倒れた時に聞いた謎の声って何? それから……」

 

 喋りながらセリナはじりじりと俺との距離を詰め、俺の肩に手をかける。

 

「とりあえず服を脱がしてしっかり確認してもいい?」

 

「いや、ちょっと待てよ!」

 

 詰め寄るセリナの目はキラキラと好奇心に満ちている。疑いや心配よりも知的好奇心が勝っていることが、幼いころから彼女に付き合わされて何度も大変な目にあった俺には分かった。

 

『それは我から説明しよう』

 

「なに、この声!?」

 

「この声……さっきの!?」

 

 そんな中、再び頭に直接、謎の声が響く。するとすぐ近くの地面に見たことのない魔法陣のようなものが描かれていた。

 

「……何か来る!」

 

「おいおい、何が来るんだよ」

 

 魔法陣から放たれるプレッシャーに俺たちは思わず戦闘態勢を取る。その直後、魔法陣が輝きだし、声の主がその姿を現した。

 

『……実体の感覚も久々だな』

 

 魔法陣から現れたそれは体を軽く動かしながら一人呟く。闇のように黒い肌、湾曲した双角、血のように赤い瞳、巨大な翼――まさに悪魔や邪神と呼ぶにふさわしい。

 

 ……ぬいぐるみの形をしていることを除いては。

 

「か、かわいい」

 

「まあ、そうだな」

 

 ぬいぐるみらしく短い手足で自らの挙動を確認するその一挙手一投足をセリナは興味深く見つめていた。だが、その少女らしい言動には動く仕組みを知りたいという欲求も多分に含まれていることを俺は知っている。

 

『……おっと、久々の顕現で忘れるところだった』

 

「お前は一体……?」

 

 俺たちの言葉にぬいぐるみは俺たちの方へと向き直る。そんな謎な存在に対しては俺は質問を投げかけた。

 

『我か。……この世界や他の世界を干渉し暇つぶしをしている上位存在バフォメール。お前たちに分かりやすく言うなら神や悪魔に近い』

 

「……神は神でも邪神の方じゃねえかな」

 

「それじゃあバフォメールさんって呼んだらいいのかな?」

 

『それでもいいがマスコットらしく気軽にバフォちゃんと呼んでくれると嬉しい』

 

「マスコット?」

 

「バフォちゃん?」

 

 確かに見た目だけならマスコットもバフォちゃんという名前にも違和感はない。だが今までの言動を考えると突っ込みどころ満載だった。

 

「それじゃあ、バフォちゃん。リオンを女の子にしたのは暇つぶしってことでいいの?」

 

『ああ、そうなる』

 

「マジかよ」

 

「嘘とか隠し事はしてないよね?」

 

『お前たちのような下位存在相手に嘘をついては興がそがれるからな。安心して信用するといい』

 

 バフォメールは上位存在らしい傲慢な言い分を答える。それが本当に信用していいか怪しいところだったが、疑ったところで俺たちにはどうしようもないのでひとまず信用することにした。

 

『それで魔法少女となったリオンよ。望み通りくれてやった力はどうだ?』

 

「まず魔法少女ってなんだよ?」

 

『広義的に言えば異世界で魔法やそれに類する力によって人助けをしたり、戦う少女たちのことだ』

 

「どうして女の子限定なの?」

 

 バフォメールの言葉にセリナは率直な意見を投げかける。実際、そこは俺も気になった。

 

「魔法少女といっても様々な種類の魔法少女がいるため一言で説明するのは難しいな。まあ、時間がある時に我の一押し魔法少女集を見せてやろう」

 

「……魔法少女集?」

 

「それはそうとどうして魔法少女にしたかも答えてほしいんだが」

 

『端的に言えば、我の趣味だ。昔は人を二度と社会に戻れぬような化け物に変えていたが、今はこちらの方が気に入っている。運が良かったな』

 

「……まあ、化け物よりはマシか」

 

 バフォメールの言葉に俺は化け物になった姿を想像する。そう考えると確かに化け物よりは今の少女姿の方が何倍もマシだった。

 

「一応聞くけど俺はもう元の姿には戻れないんだよな?」

 

『ああ、そうだ。だがしっかり力は手に入っただろう?』

 

「……まあ、この姿はアレだけどちゃんと強くはなったのは確かだな」

 

 改めて俺は自分の体を見渡した。見た目は幼い少女にしか見えないが漲る力は今までの比ではない。

 

「せめてこの服だけでもどうにかならないのか?」

 

『ああ、それなら変身と変身解除の一言で魔法少女姿と通常の姿に切り替えられる。だが、解除すると……』

 

「変身解除……うわっ!?」

 

 バフォメールの言葉を聞いて、俺はすぐに変身解除を行った。しかしその直後、俺の体は俺が魔法少女になる前に着ていた鎧に押しつぶされてしまう。

 

「~~!!」

 

「リオン!?」

 

 鎧に潰された俺はさっきまであった力が全く入らず、声を出すことすら困難だった。

 

「馬鹿め! すぐ再変身しろ」

 

「……変身」

 

 俺は声を振り絞り、再び魔法少女に変身する。途端に鎧の重みが消え、解放感と安堵が全身を駆け巡った。

 

「……死ぬかと思った」

 

『まったく、人の話は最後まで聞け。解除すると力が見た目相当になると言おうとしていたというのに』

 

 バフォメールは呆れてため息をつくような素振りを見せる。その様は本当にぬいぐるみかと思うほどだった。

 

「そもそもリオン。着替えもないのにどうするつもりだったの?」

 

「……特に考えてなかった」

 

 一人と一匹の冷ややかな目線に先走った行動をした俺は何も言い返すことが出来なかった。

 

「……つまり戦う時には変身していないと駄目ってことか」

 

『そうだな』

 

「……マジか」

 

 俺は思わず手で顔を覆った。あのフリフリの衣装を着て戦う。いくら少女の姿になっているとはいえ想像するだけで恥ずかしさ顔が真っ赤になる。

 

「後、最低もう一回は着替えるために潰されないといけないってことだよね?」

 

『そうだな』

 

「……マジか」

 

 セリナの言葉に俺は鎧に潰された時のことを思い浮かべて頭を抱える。そしてその後も多少の情報を聞いた俺たちはバフォメールも連れて共に拠点にしている街へと帰還することにした。

 

しかし、色々あったせいで街に着くころにはすっかり日が落ちていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……なあ、やっぱり俺は外で待っていてもいいか?」

 

「いやー、こういうのは早いうちに伝えといたほうがいいと思うよ」

 

 拠点となる街へと戻った俺たちは冒険者ギルドの前に立っていた。冒険者ギルドは冒険者が依頼を受け、依頼の報酬を受け取る冒険者には欠かせない施設だ。いつもなら今日のシルバーファング討伐依頼の報告をするところだが今の俺には入りたくないわけがあった。

 

「それはそうだけどこの服はさあ……」

 

 俺は自分の魔法少女衣装を軽く引っ張る。日が暮れているおかげでここまで目立たずに来られたが、ギルドの中ではそうはいかない。依頼を終えた冒険者たちが仕事の後の一杯に洒落こんでいるのはいつものことだ。

 

「もうちょっと早く帰れたらなあ」

 

 ここに来るまでの道中、替えの服を売っている店を探したが既にどこも店仕舞をしていた。

 

『よいよい。それでこそ魔法少女になった意味がある』

 

「……」

 

 俺が苦悩する一方で、バフォメールは面白そうに笑う。そのぬいぐるみの体を思い切り蹴飛ばしてやりたかったが、下手な反応をすれば余計に楽しませると分かっていたので俺はぐっとその衝動を抑えた。

 

 だが、その間にバフォメールは俺の背後に静かに回りこんでいた。

 

『さあ、飛び込んでいけ!』

 

「ちょっ、やめっ!?」

 

 後ろからバフォに押された俺は勢いよくギルドの中へと突っ込んだ。

 

「うおっ!?」

 

「なんだ?」

 

「子供?」

 

「こんな遅くに?」

 

「かわいいなあ」

 

「なあ、お前それどっちの意味で言ってる?」

 

「……」

 

 突然の闖入者である俺の周りには見知った冒険者やギルド職員たちが集まり、興味津々といった視線を俺に向ける。その緊張から俺は喉が固まって声も出せなかった。

 

「はいはい。ちょっと通してくれるかな」

 

 そんな状況でセリナが冒険者たちの輪を抜けて俺の前に立つ。

 

「セリナ、おかえり。遅かったね」

 

「うん、色々あってね」

 

「そういえばリオンは? 一緒じゃないの?」

 

 会話の中で俺の話が出る。実際は目の前にいるんだが。

 

「うん。色々あって女の子になっちゃった」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「この子がリオン?」

 

「おいおい、冗談きついぜ……」

 

 セリナが自然な調子で俺に指刺し、そのせいでギルド中がざわめく。

 

「……セリナ、嘘じゃないんだよな?」

 

 そんな中、俺たちが冒険者になった当初から世話になっている先輩が前に出てセリナへと尋ねた。

 

「うん。私としてもそう簡単に信じてもらえるとは思ってなかったけどね」

 

「……そうか。でもお前はそんな意味のない嘘をつく人間じゃないよなあ」

 

 セリナと話した先輩は次は俺へと向き直った。

 

「セリナの言うことが信じられないわけじゃないが、お前は本当にリオンなのか?」

 

「……はい。まあ、この姿で信じてくれっていう方が無理かもしれないですけど」

 

「そうだな。何か証明できるものがあればいいんだが……」

 

 半ば自棄になっている俺に対して先輩は腕を組んで考え始める。そして十数秒後、何か思いついたらしい先輩は俺にしっかりと目線を送った。

 

「じゃあ質問だ。お前のお気に入りの店と嬢の名前は?」

 

「……あの、それ言わないとダメですか?」

 

「ダメだな」

 

 先輩は断言する。周囲の男たちも興味津々でこちらを見ていた。確かにそういう情報は個人の証明として優秀だった。こんな公衆の面前で言わなければならないことを除いては。

 

「……くっ……金糸雀亭(かなりあてい)のエリナさんだよ……」

 

 一瞬の沈黙――

 

「そうか。なら間違いないな」

 

「間違いねぇ!」

 

「そうか。リオンはエリカちゃん推しだったか。確かにいいよな。あの子」

 

「金髪巨乳派か」

 

「だろ? 中々悪くない趣味してるだろ、こいつは!」

 

 俺の回答に男衆は盛り上がる。俺の趣味が悪くない判定されるのは悪い気分ではない。……こういう機会でなかったら。

 

「はぁ……男ってほんとそういうの好きよね」

 

「下世話すぎでしょ……」

 

「まさかそんなことで本人確認になるとはね……」

 

 男衆とは逆に女衆の視線は氷のように冷ややかだ。痛い。いたたまれない。……消えたい。

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 そんな俺を尻目にセリナは嫉妬や呆れた様子もなく、単なる事実確認といった俺の性癖を聞いていた。

 

「……お前、よく冷静に聞いていられるな」

 

「え? だって一人やお店で解消できてるなら私には関係ないし」

 

「いや、それはそうなんだけどさ……」

 

 下手にギクシャクするよりはいいとはいえ、セリナの無関心ぶりには流石の俺も驚いた。

 

「……あっ、今更だけどギルドカードの魔力紋で証明すればよかったんじゃないかな?」

 

 セリナの言葉で俺は冒険者のギルドカードの存在を思い出した。ギルドカードには持ち主ごとの魔力が刻まれているため身分証としての機能もあったことを……。

 

「……もっと早く気付いてほしかった」

 

 無駄にお気に入りの嬢がギルド全体に知れ渡ってしまった俺は力を失い、その場に崩れ落ちる。

 

『いやあ、愉快愉快』

 

 そして全てを見届けていたバフォメールは、一人笑っていた――。余談だがバフォメールは俺とセリナ以外には見えていないらしい。

 

 その後も俺は、冒険者たちやギルド職員から質問攻めにあう羽目になった。




次回『魔法少女の体と風呂と』
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