夜明けと自由と荒廃と   作:corered

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プロローグ中編・傭兵

『淫婦』と呼ばれるお尋ね者が巷の話題を賑わせていた。

 

曰く、淫婦はこの世に生きる常人とは思えない程に美しく、世にも珍しい白銀の髪と黄金の輝きを持った宝石の瞳を宿す『少女』と言う事らしい。

 

その美貌を前にした男は魂を吸われるのだとか、一度交わえば二度と逆らえぬ隷属へと堕とされるのだとか。

 

実際そう噂される事になった切っ掛けが『フェノール奴隷鉱山壊滅事件』がたった1人の『女奴隷』によってもたらされた、等と言う話が各地に伝わったからではあるが、それを真実と持て囃すか、あくまでの酒の肴として面白おかしく振舞うかは噂を耳にした当人等次第だろう。

 

どちらにしろ困る事と言えば、その話に出てくる『淫婦』の特徴と悉く一致してしまう故に、今回の様にすぐに目を付けられてしまう事である。

 

まあ、その噂の本人であるので当然ではあるのだが。

 

「まったくもぉ、困ったなぁ!『淫婦』なんて身に覚えのないのになぁー!」

 

「うるせえぞ女。へへ、噂なんて実際どうだっていいんだよ。いい女がいれば野郎共は喜ぶって話なだけさ、なあ?」

 

「………へいへい、そういうもんですか。この獣共め……」

 

バンディットに奪われた半壊した輸送車はそのまま使われ、乗せられたままのミリアリアは同乗した監視役のバンディットに見張られる形で彼等のアジトまで連れて行かれる最中であった。

 

(連れていかれたり無理矢理に襲われたり、こんなんばっか)

 

時たまに伸びてくるバンディットの男からのお触りを躱しながら、憂鬱気に溜め息をついていた。

逃げ延びる為に自身の容姿を利用した事はあるが一定のラインは超えず、触らせる様な接触も、相手が身心共にすっきりする様な事は一切やっていない。

 

ほんの少し身体の距離を近付けて、上目で見てあげればそれだけで、大抵の男には効いていた。

甘い言葉も囁けば、その気になった相手から金銭をちょろまかす事も大差ない、と言う訳だ。

 

やっている事は『淫婦』と言うよりも『詐欺師』ではないか?と思わない訳でもなかったが、これも生きる為である。

そうして思い直してみれば相手をその気にさせる様な小手先の技能ばかり手慣れていっている様に、己の今後が不安で仕方がなかった。

 

男なのに。こんな見た目でも正真正銘の男なのに。

指先で男を転がす姿はまさに『淫婦』いや、身体は売らないので『悪女』とでも言うべきかもしれない。

 

まあ、何度も言うがこれでも男ではあるが。

 

こうして考えに耽っている間に、輸送車と、その前を歩く機人マイルドソルジャーの速度が徐々に落ちていく。

 

間隔のせまい獣道を進み、そのまま森の中へと進んでいく。

日差しも通さぬ程に茂り絡まった木々の天井の下、昼頃でありながらまるで日が沈み掛けている時の様な薄暗さが、辺りを支配していた。

 

「あんたらって、良くこんな場所に住めるな」

 

森に入った直後、枯れた平原が漂わせる腐臭以上に強烈な臭いが鼻孔を刺激する。

思わず鼻と口を抑えるが、同乗しているバンディットの男は慣れたものか平然としていた。

 

「こんな場所だからこそだろうがよ。まともな奴等は絶対に近付かねえ。この腐った果物みってなあまったるさも、住んでりゃ癖になるぜ?」

 

「理解に苦しむんだけど、それ。じゃあやっぱり此処が『腐海大森林』なのか…」

 

大陸の大半を覆うとされる大森林。

この大陸に住む者達にとって、自然とは不吉であり不潔の象徴である。

木々の少ない平原でさえも、生い茂る草木が放つ悪臭の為に、常人は街から出たがろうとしない。

そんな認識の中で『腐海大森林』とまで呼ばれるこの地がどれだけ恐れられ、忌避されているのか、実際想像に難しくないだろう。

 

ミリアリアが『腐海大森林』に入るのは今回が初めてだった。

枯れた平原を進む際に生ずる悪臭は我慢しようと思えばそこまで苦もなく出来たが、この地の臭いはすぐにどうにか慣れる事は難しいだろう。

 

「やっぱ初めての奴等はこうなるわな。いやあ、仕方ねえ。こればっかりは慣れだ」

 

気分が悪くなり、徐々に身体から力が抜けていく様な感覚の中で、バンディットの男はミリアリアの様子を見て薄汚く笑う。

男の手は伸びて背後からミリアリアの肩へと触れる。

 

(ふざけやがって、やっぱりそういう事かよ、この男)

 

毒づき、男を睨みつけるが相手は全く意に介していなかった。

此方に向ける視線の色が、常に向けられてきた物と同種の、生理的に寄せ付けない視線だ。

 

「なあ、ここで気分が悪い時は別の何かで気を紛らわすんだ。分かるだろ?」

 

「……はっ、つまみ食いなんかして……お仲間からの顰蹙買うんじゃねーの……っ」

 

「心配はいらねえ。『こういう事』をしても許される仲だからな。むしろ、後で色々と教えてやれるってもんさ、てめえの躾方とかなぁ」

 

「下種野郎め……っ!」

 

後ろから男の手がマントの内側へと入り込む。

 

振り払おうと思えば、それは出来る筈だ。

幾ら不調であろうとも、生身相手に負ける気はしないが、この場には目の前の男1人だけじゃない。

奴はもうその気だ、多少強引だろうと無理矢理に迫ってくるだろう。それを振り払おうとすれば、もしかしたら周囲を警戒している他のバンディットも便乗して来るかもしれない。

 

(あぁくそ!どうしてこうなるかなぁ!どうして!その都度その都度!貞操の心配せにゃならん!しかも大概の相手は男ばかり!目腐ってんじゃねえのか!?)

 

自身は男だと言っても信じて貰えない、むしろ伝えた事によって相手が興奮して手に負えなくなるなんて事もザラである。

相手が荒れくれ者なら猶更だろう、迂闊な言葉はより自身の寿命と尊厳を短くするに違いないのだから。

 

(もういっその事、やるか?こいつを潰せば少なくとも一瞬でも動ける隙は出来る筈、その後は……運に頼るしかないけど!)

 

同乗している男以外のバンディットは8人。

その内、飛び道具持ちは4人である。

 

更に忘れてはいけないのが先頭を進む機人のマイルドソルジャー1機だ。

間違っても生身で相手取っていい存在じゃない、殺す気にさせてしまえばその瞬間、人生終了である。

 

(ああ、もう……ねちっこくまさぐりやがって…胸ないだろうが、おい!)

 

「おいおい、こいつ壁かよ。けどまあ、それはそれで悪くねえな。無反応の癖に俺をそそらせるたぁ、流石は『淫婦』様ってか?」

 

(もういい、一旦こいつは殺す。後はもうどうにでもなれ!)

 

リスクよりもその場の激情に身を任せる。

ミリアリアの悪癖であるが、それを自覚してなお耐えられない。

がら空きになっている左手を腰のナイフフォルダに回す。

 

相手はこちらの身体に夢中で注意は散漫となっているのだから、殺るのは容易い。

 

(バカが、あの豚商人と同じだよ。クソッタレ)

 

自身に夢中なって、周囲が見えなくなる程に昂ぶれば、その先にあるのは破滅のみ。

『淫婦』?冗談じゃない、むしろご熱心になってくるのは相手の男共である。

此方から求めるなぞ、死んでもありえない。

 

(その謂れのない蔑称が思い違いも甚だしいものであると言う事を今から教えてやる)

 

ナイフの柄に握った。

そして、そのまま勢いよく引き抜けば、流れるままにバンディットのこめかみへ向けてナイフを突き立てる事が出来るのだ。

 

それを実行しようとする、その瞬間だった。

 

 

 

「お楽しみ中ごめんよー。ちょーっとお伺いしたいんだけど」

 

 

 

気の抜けた男の声がミリアリアの頭上から聞こえて来た。

咄嗟に視線を向けてみれば、ミリアリアと男の背後に積み上がってる木箱の上、つい先程までいなかった筈の見知らぬ青年が2人を見下ろしていた。

 

「!?……誰だてめえ。いつの間にそゴッッ!?」

 

ミリアリアをまさぐっていたバンディットの男は言葉を言い終わる間もなく、その意識を永遠に閉ざす事となる。

一瞬の隙をついたミリアリアのナイフが、バンディットのこめかみへ深く突き刺さっていた。

 

「おー、鮮やかな手並みだね」

 

「……何者だよあん―――ムグッ!?」

 

木箱の上でしゃがみ込み、立ち上がったミリアリアと視線を合わせると、青年はおもむろに一錠のカプセルをミリアリアの口の中に突っ込んだ。

咄嗟の事で言葉を詰まらす、更に指ごと押し込まれ、えずきそうになる。

そしてつい反射的に、押し込まれたカプセルをゴクンと飲み込んでしまった。

 

「―――な、何すんだよ急に?!」

 

「ごめんごめん。緊急時だからね、仕方ない。けど気分はよくなったでしょ?」

 

「………え、あ、本当だ」

 

脱力感も頭痛の様な痛みも、いつの間にか消え失せていた。

いや、ここまで即効性があるものなのかという恐怖心も僅かに湧き出たが、そんな感情に振り回されている場合ではなかった。

 

刺さったままになっていたナイフを男の頭部から引き抜き血を拭った。

そしてすぐに、周囲を見渡す。

 

あんな目立つ登場、そしてバンディットの断末魔。

それらがなくとも異変があればすぐに気づくだろう距離で固まっていたのだ。

その他のバンディット達はとっくに輸送車の動きを止めて輸送車を囲む様に動き、青年とミリアリアを睨み殺さんばかりの形相で見上げていた。

 

少し離れた場所からも振動が響く。

マイルドソルジャーが此方へ向かって来る姿が見えた。

 

「機人も気付いたか……そりゃそうだよな、どうしたもんか…」

 

「厄介だよねぇ」

 

「……助けて?もらっといて何だけどさ、こうなる事が分かって出てきたんじゃないの、あんた?」

 

「ん、そりゃそうだよ。じゃなきゃ無駄死にじゃん。と、言う事で―――」

 

「…なに」

 

「お嬢さん、このまま戦える?」

 

「あ?」

 

いやお嬢さんじゃねーよ、と思わず強い声色で反応してしまうが相手の青年は特に気にしていない様子だった。

黒髪を短く切りそろえ青年の、その深紅の瞳はバンディット共と違って濁りない意志を纏っているのだと感じる。

ただ此方の返答を待って、じっと見つめ続けていた。

 

ミリアリアはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「………生身の人間相手なら負ける気はない」

 

「おっけ。じゃあ任せた」

 

「え、ちょ、あんたっ!?」

 

ミリアリアの言葉を待つ間もなく、青年は輸送車から一気に跳んだ。

なんて跳躍……と思わず呆然とするのもつかの間、急ぎ気を取り直したミリアリアはナイフを携え、輸送車の上からバンディットを見下ろす。

 

「てめえ、ゲイツを殺ったな!?」

 

バンディットの1人が剣を突き立てながら吠える。

ゲイツとは当然、横に倒れている男のことだろう。

 

ミリアリアにとっては、どうでも良い情報でしかないが。

 

「だから何?まさか仇だぁとか言っちゃう訳?バンディットの分際でさあ?」

 

「こいつ……!!」

 

「人情ぶりたいなら、もっと真っ当な仕事をしてなよ。まあ、それも無理だろうけどねえ、腐った樹木にたかる羽虫さん風情じゃ」

 

「……ぶっ殺してやる!」

 

激高する感情が呼応する様に、8人のバンディット全員にが殺気が灯る。

バンディット全てにとって耳が痛い言葉をこれでもかと小馬鹿にした口調で言われたのだ。

ただではすませる訳がない、明確な殺意と、そして確かな情欲を向ける。

 

戦いの場においても妄想し、滾らせる相手を見てミリアリアはこれ見よがしに大きな溜め息を吐く。

 

「猿どもが、どいつもこいつも」

 

「もう泣いてもしらねえぞ女がっ!引きずり下して、ひん剥いて、とことん玩具にしてやるっ!!」

 

「………あー、もー……だから、だからさぁ……いいさ、冥途の土産に教えてやる」

 

もう聞き飽きた。

相手の戯言は聞くに値しない。

しかし、それだけは訂正して貰う。

 

何度も何度も言われては、その鬱憤は溜まるばかりだ。

 

なら、それが今爆発したとしても仕方がない事である。

 

「―――俺は」

 

ミリアリアは目を見開く。

もう片手は2本目のナイフをナイフフォルダから引き抜いた。

 

「俺は、男なんだよ!死に腐れ、害虫共がっ!!」

 

ミリアリアもまた、輸送車から飛び降りた。

明確な殺意を持って、有象無象を一掃せんとしていた。

 

 

 

 

 

 

マイルドソルジャーは梅雨払いの為にそれなりの距離を取って先導していた。

腐海大森林は常に何かが起こる。何時もよく使っているルートであろうと、その都度同じ結果と安全が保障されている訳ではないのだ。

何かがあれば真っ先に盾にもなり得るのが機人という兵器なのだから、味方を巻き込まず、その力を十全に振るう為にも距離を取る事は必要だった。

 

だが、その為に輸送車の側で起こった出来事に出遅れた。

 

バンディットの1人から通信が入る。

ゲイツが殺されたと、それを受け取ったマイルドソルジャーの操者はすぐに踵を返し輸送車へと向かった。

 

「ふざけやがって、仲間が殺られただぁ?女に出し抜かれたのかゲイツの野郎!」

 

視線が女と重なった時、マイルドソルジャーの操者は得体の知れない雰囲気を感じ取っていた。

最初は他の男共同様、上物だと単純に色めき立ったが、少し冷静になった後には、確証はないが、妙な胸騒ぎを覚えたのだ。

気のせいだったのならば、それでよし。アジトに連れ込んだ後にお楽しみだ。だがそれだけの女ではなかった場合は、念の為に用心が必要だ。

故に1人監視役として傍に付かせた、変な行動を起こさせない為にだ。

 

だと言うのに結果はどうだ?ゲイツは殺されたと言う。

あの間抜けは恐らく欲を掻いた結果、その隙を突かれたのだろう。

 

擁護のしようがない話だ。だが、それでもゲイツは仲間である。

バンディットとは運命共同体、馬鹿であろう事も、クズであろう事も全てを一緒になって楽しもうと誓った兄弟である、

 

戦い、強奪、女、あらゆる欲を堪能し、他者を踏み躙っては愉悦に、快楽に浸る。

 

それがバンディットと言う存在だ。

度し難いと理解しつつも止められない、欲望が赴くままに動く本当の意味での外道。人間の屑だ。

 

「あいつらだけじゃ心もとねえが機人なら別だ。生身の人間にどうこう出来ねえんだから、最初からこいつを近くでちらつかせていれば良かったんだ」

 

それは強者の真理、より強いものに弱者は蹂躙される。

そこには圧倒的な力の差があるからこそ、自由に振舞える。

 

今この場において、その力とは機人だ。

ならばこれ以上に突き立てる刃は他にない。

これで黙らせて、その後に一度、アジトに連れていく前に大人しくなって貰おう、と下種な考えを過らせながら進む。

 

その時、マイルドソルジャーの前に輸送車から1つの影が舞い降りた。

思わず動きを止めると、目の前には1人の男が佇んでいた。

 

「やあ、どうも」

 

何だこいつは、と気の抜けた様子で声を掛けて来た男に対して警戒を強める。

同業者?にしては、そんな体には見えない。灰色の外套を纏い全身に軽鎧を身に纏う姿にボロ臭さを感じない。

 

ならば他に思い当たる節があるとしたら一つしかない。

 

「……てめえ、傭兵か?」

 

「ご名答。なら、俺が君らの前に立っている理由も大体察しはつくでしょ?」

 

傭兵である、これが肯定されるとマイルドソルジャーの操者は一瞬顔を引き攣らせる。

 

傭兵とはコミュニティに属しないはぐれ者。

そこに関してはバンディットと一緒だが明確な相違点として見るならば、傭兵とは主に秩序側で動くフリーランスである。

都市や集落の依頼に応じて、戦闘や探索、様々な事をこなす何でも屋。傭兵として生計を立てれている者のほとんどが腕利きである、と言うのが共通認識である。

 

通常であればバンディットとして、彼等との接触は出来るだけ避けるべきなのだ。

 

傭兵に捕捉された挙句、アジトごと皆殺しにされている話はバンディット間でも良く絶えない。

 

例えこちら側が人機を持っていようとも、向こうは更に高性能な人機を持ち出してくる場合もあるのだから。

 

 

だが、と様々な考えの後、マイルドソルジャーの操者は目の前の傭兵を見て安堵する。

それは、今この時点で戦力に明確な差があるからだ。

 

(逃がしてしまえば、アジトの場所が特定されるのも時間の問題。幸い奴は何を思ったのか生身だ。1人の癖、人機にも乗っていないとか正気か?)

 

もしくは、人機に乗り得る余裕がないか?

傭兵にしろバンディットにしろ、命知らずはいる者だ。

己の力を過信し、報酬に目が眩んで命を散らす愚か者が。

 

(生身1つでバンディット討伐?馬鹿も馬鹿、大馬鹿の所業だ)

 

大抵のバンディットはアジトを構えられるだけの勢力となれば安物であろうと人機を複数機運用出来るまでに強大化する場合もある。

 

このマイルドソルジャーを操者が属すバンディットも、アジトには残り3機のマイルドソルジャーが控えている。

 

恐れる要素が一体どこにあると言うのか?

 

「此処まで来ちまったんだ。きっちりと殺させて貰わねえとな傭兵さんよう!」

 

足を付かせない為にもここで目の前の愚かな傭兵は殺す。

 

操者の意思に呼応するかの如く、マイルドソルジャーは胴体前面に備えられた排熱口から熱気を吐き出した。

胴体と頭部が一体化したボディ故に、その様がまるで口から火を噴く様にも見えるして仲間内ではファイヤーヘッドと呼んでいた。

操者である男はこちらの呼び名の方を気に入っている。ファイヤーヘッド、何とも威圧感のある名前じゃないか。

 

そうだ、何がマイルドなものか。

機種問わず人機は等しく人間を超越する圧倒的な暴力装置、兵器だ。

 

この圧倒的な性能があれば、人間1人を挽肉に変えるなぞ造作もない。

 

「おっと、来る感じ?」

 

マイルドソルジャーと相対してなお、傭兵は気の抜けた態度を崩さない。

構えもしやしない、舐めているのならそれよし、そのままひき潰すだけである。

 

マイルドソルジャーは前進する。

油断はしない、人機の持つ最高速度で瞬く間に接近し、踏みつぶす。

背部の噴射口から火を噴き出し、その勢いのまま、巨体は一気に傭兵の間近まで迫る。

 

ただの人間が対応出来ない質量と速度、それが一気に傭兵を覆い隠さんとした。

 

「はっはぁ!死ねやあ!」

 

呆気なく終わる、そう信じて疑わない。

普通ならば、それが正解だった。

 

が、それは余りにも己惚れていた。

 

「普通さ、生身の人間がそのまま来ると思う?」

 

その瞬間、マイルドソルジャーの左脚が、爆発する。

 

「………は?」

 

何が起こったのか理解が追い付いていなかった。

真正面に見据えていた筈の傭兵もいつの間にか真横に立っている。

 

「その人機、やっぱりまともに整備されてないね。左脚の付け根とか、部品が錆びちゃってるよ?」

 

「は……な……!?」

 

何だと、それは。錆び?

そんなものが出来ていたのか?確認した事もなかった。

だって、人機はそれだけで強力で、最強の筈。

 

「メンテあってこそのポテンシャルだよ。だからこそ、それを怠れば爆弾程度でバラバラになる訳だ」

 

人機が倒れようとする間際、操者の視界に傭兵の顔が映る。

 

「まともに使えないおもちゃではしゃぐなよ、子供じゃあるまいし」

 

深紅の瞳が輝いていた。

その静かな声色の仲には、確かな侮蔑の感情も含まれていた。

 

 

 

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