機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
アリア・レイは優等生という評価が似合う少女だ。文武両道を地で行き、ジュニアスクールでは教師たちからの覚えも良く普段の生活態度も品行方正な彼女は担任からはレベルの高いミドルスクールの受験も勧められているほど。
誰に対しても分け隔てなく敬語で接し、彼女の周りには人が良く居た。しかし、そんな彼女は意外にも友人と呼べるような関係の存在は驚くほど少ない。
それは何故か、アリア・レイは他者への興味が恐ろしく希薄だ。故に誰に対しても分け隔てなく接する。
だって、全員同じ存在だから。対応を分ける必要が無いから。
己を睨みつける
「仰っている内容が理解できませんね。ご高齢ですから発音が悪くなっているのでしょうから一言一言ゆっくりと仰って貰っても宜しいですか?
あぁ、ご安心を。私は基本的に私は待つことは苦ではありませんよ。……まぁ、待ってる間にポックリいく可能性は無きにしも非ずですが」
「アリアちゃん……!?」
火の玉ストレートの煽りを返されるとは思っていなかったのか、面白いくらいに皺だらけの顔面をブルーディスティニーがEXAMを発動させたかのように赤く染めた。
老人たちの空気が明らかに熱を帯びていくのに対し、アリアの表情はどこまで行っても寒々としているのが対照的の中で老人のひとりが叫ぶ。
「ふざけるなよ! お前が敵の親玉を殺したから関係ないワシらも狙われるんだぞ!」
「そうだ! 余計なことをしおって!!」
「ワシはクルーから聞いたぞ! お前が中から船を爆破したって!!」
「オマケにその目が気に入らない。年長者は敬うものだろう!?」
『そうだ! そうだ!!』
老人たちの剣幕を前にしてもアリアは動じず、寧ろ皮肉げにその口角を僅かに上げた。
「ハッ、ならのこのこ出ていって殺されろと? 随分と愉快な思考をしているようですね……あぁ、大した人生経験を積んでいないからその程度の浅はかな考えしか思いつかないのですね」
「このガキッ……!」
「おや、こんないたいけな子供に口で勝てないからと暴力に出るということはお里が知れますよ?
…………あぁ、そういえば先程年長者は敬え、などという戯言を言ってましたっけ? それってつまり、誇れるほどのものがないから唯一私のような子供に勝てると判断したものが生産性もなく無駄に長く生きてきた年数などという薄っぺらいものでマウントを取ろうとしたんでしょうね」
「ッ!!!」
「────」
老人のひとりが腕を掲げ、アリアを黙らせようとその手のひらを振り下ろす。
しかし、アリアの目には欠伸が出るほどのノロさだ。その平手打ちを横へずれることでかわそうとした瞬間、背後からミアが飛び出した。
「ッ、ミアさん……!?」
アリアが止める間もなく、老人の平手はミアの頬を打つ。乾いた破裂音が通路に響き、ミアの小さな体は宙を舞う。
慌てて彼女の飛んだ方向へ先回りし、その身体を受止め優しく床へ寝かすと素早く彼女の容態を診た。
どうやら先の張り手で口内を切ったらしく口の端から血が垂れ、加えて軽い脳震盪を起こしているのか焦点がブレている。
「あ、ぃあ……ちゃ……」
「シッ、今は静かに」
呂律が回らず、言葉は意味を成していないが己の名を呼んでいるのはわかる。しかしアリアはミアの唇へ指を当てて黙らせた。
何故こんなことをしたのか問い詰めたいが、とにかく今は彼女を医務室へ運ばなければならない。
「……そこを退け。さもなければ殺す」
アリアの口から簡潔な意思を告げる言葉が漏れ、深紅の瞳に殺意が宿った。
まずは手足をへし折り、歯を1本ずつ引き抜いて後悔させながらその枯れ枝のような首を踏み砕いてこの世から消してやる。
その場の全員が声なき声とともにやけに鮮明なイメージが脳裏に映し出され、硬直した。
「……ひっ!!?」
特にその
「邪魔」
『ッ!!』
ミアを抱き抱え、進路上にいた連中へ簡潔に告げれば割ったように壁際へと移動した。
「命拾いしたな老耄。次目にしたら殺してやるから覚悟しておけよ」
視線だけで人を殺せるほどの殺意を乗せ、アリアは床に蹲るゴミへ吐き捨てるとミアを揺らさないように。けれど、素早く歩き出す。
今度こそ、彼女の歩みを邪魔する存在はいなかった。
「ッ、なんだこれ……!?」
着艦し、ガンダムから降りて一休みしていたアムロは突然感じた重苦しいプレッシャーに思わず叫ぶ。
自分の周囲の空気が粘度の高いコールタールのように纏わり付き、指を動かすだけでも一苦労だというのに周りの整備士たちは気づいて居ないらしい。
そうしていると、
「だ、誰かきてー!!」
「アリアが追い出されちゃうんだよ!!」
「やばいんだってば! ミアもぶたれちゃって!!」
格納庫にそんな声が響き渡り、アムロは四苦八苦しながらそちらへ顔を向けるとちびっ子トリオことカツ、レツ、キッカがわちゃわちゃしながら整備士のひとりを捕まえて要領のえない説明をしていた。
「ッ、これをアリアがやってるのか……!!」
合点がいったアムロはこのプレッシャーを放った張本人がアリアだと察する。恐らくは避難民と口論になり、ぶたれそうになったところをミアが庇ったのだと。
そして、それにアリアが激怒しこうなったのだろう。
共に過ごしてきてアムロが記憶している限りではアリアは怒ったことなど数える程しか見た事がない。けれど、その度合いも基本的には軽いもので酷いものでも精々が顎にいい一発をかまされるくらいのものだ。
とにかく3人の慌てぶりから大事だと漸く理解したのか、整備士たちはブリッジへ連絡を入れた後に暴動が起きた場合を備えてライフルを装備し、カツたち3人の案内に従い走り出す。
アムロも念の為、その後を追いかけた。
誰もいない医務室へ入り、アリアはベッドの上にミアを寝かせると薬品や包帯などが仕舞われた棚を開いた。
中から必要なものを取り出すとそれらは近くの机の上に並べた後ミアの元へ戻る。
アリアは徐にミアの口を開き、ライトで口内を照らすと覗き込んだ。
「……乳歯が抜けてますね。口内にも出血が確認できます」
顔を離し、今度はベッドを操作して起こさせるとミアの耳の中へ耳鏡を入れた。
「……右の鼓膜は無事。左は……問題ないですね」
耳鏡をトレーへ置いてベッドの形を戻し、一先ず具合の確認を終えたアリアは手当を始める。
まずは口内の消毒をした後、乳歯の抜けた場所へ綿を押し当てた後に唇を消毒し止血用の軟膏を塗った。
次に湿布の封を破き、消毒されたハサミで切り分けるとフィルムを剥がして赤く腫れた患部へそっと貼り付ける。
一先ず手当が完了し、アリアはホッと一息つくと。
「…………アリア、ちゃん」
「ッ、何処か具合が悪いところはありますかミアさん?」
意識が少しハッキリしてきた様子のミアが声を上げ、アリアは具合を尋ねる。
まだ焦点がブレているらしいミアはぼんやりとアリアを見ながらも小さく首を横に振った。
「……気分が悪くなったのなら直ぐに教えてくださいね」
「う、ん……」
会話が途切れ、壁にかけられた時計の秒針が刻む音だけが医務室に響く。
アリアは何度か口を開いては閉じるのを繰り返し、やがて弱々しく問いかけた。
「どうして、あのようなことを……?」
その問にミアは宙を見つめていたが、徐に消え入りそうな声量で答える。
「……悔し、かった、の」
「アリア、ちゃんが……あの日、私の手を引いて……怪我をして、頭から血を流して……ジオンの人たち、をやっつっけて……
おにい、さんとふたり、で……いっしょう、けんめい。私たち、を守ってくれて……
アリアちゃん、が……意識をうしなって、私、こわくって……」
途切れ途切れに加えて要領のえない内容だが、アリアは口を挟まずにミアの言葉へ耳を傾けた。
「ほんと、だったら……アリ、アちゃんが……やらな、くていい……のに。
ジオンのひとたち、を……ころしちゃって…………あんなひとたち、のかわりに……アリアちゃんがやってあげた、のに……」
「あぶない、のに……あのひと、たちは……自分のこと、ばっかりで…………
まもって、もらってるくせに……いちばん、あぶないアリアちゃんを……
おとな、なのに……軍、かんから、おりろって……怒鳴って……」
段々と声が震え始め、嗚咽混じりにミアは零れる涙を拭いながらも確りとした思いを込めて叫ぶ。
「悔しかった……!! 私の……! 私の大好きなアリアちゃんがボロボロになりながら守ってもらってるくせに!
あの人たちは自分勝手にアリアちゃんを厄介者扱いするのが許せなかったッ!!」
「何様のつもりなのあの人たちは!? 自分たちが狙われる!? そんなの知らないよ!!
アリアちゃんは必死に戦ってるんだよ!? それを、それを知っておきながら降りろだって!!
そんなに自分が大事ならお前たちがこの船から降りてよ!!
アンタらの為にアリアちゃんが身を切る必要なんてないんだ!」
「ミアさん……」
「ひぐっ……ぐすっ…………あんな人たちなんて、大っ嫌い……! あんな大人、死んじゃえばいいんだ……!」
「──────」
アリアはミアを抱き寄せる。抱かれたミアはアリアの胸に顔を埋めて嗚咽を噛み殺し、ただ啜り泣く声だけが医務室に響く。
「……ごめんなさいミアさん。私があの人たちの神経を逆撫でしてしまったばかりに」
「謝る必要、ないもん……悪いのは、全部あの人たちだもん」
「ですが……」
「んっ!」
「うわっと……」
ミアが背中へ手を回し、自分の方へと引き寄せればアリアは堪らずベッドへ倒れる。
「…………あの、ミアさん。重くありませんか?」
「そんなことないもん……アリアちゃんはすっごく軽いもん」
ミアの上に倒れるようになってしまい、アリアが尋ねるがミアからはそう返された。
親友の少女の行動の意図が読めず、かといって体を起こそうにも下手に動けば下敷きとなったミアを案じてできない。
どうしたものかと思っていると、ミアが言う。
「……アリアちゃん自身が悪いって責めるなら、一緒に寝て」
「…………わかりました」
「……ん、よろしい」
ようやくミアは手を離し、自由になったアリアは慎重に体を起こすと靴を脱いでベッドへ上がり寝そべった。
お互いの顔を見つめる形で向かい合うと、ミアが徐に手を動かすとアリアの手に触れ指を絡める。
「…………アリアちゃん」
「なんでしょう?」
「……一緒に、逃げよって言ったらどうする?」
「────」
すぐには答えが出せなかった。断ろうにも、彼女の瞳をみたら何故か言葉が喉をつっかえて出てこない。
けれど、その願いを受け入れようにも家族の顔がチラついてしまい首を盾に振ることが出来なかった。
「…………ごめん、なさい」
長い間を空け、どうにか口にできたのは謝罪の言葉だった。ミアは分かっていたのか、目を伏せる。
「変なこと、聞いちゃったね…………ごめん、忘れてアリアちゃん」
「あ、いえ……私の方も、その……すみません」
それ以上、なんて言えばいいのかアリアには分からない。時間だけが流れ、そして気がつけば医務室には2つの寝息だけが響くのだった。
イチャコラしてる裏で老害共は逐次監視されるようになりましたとさ。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体