機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
クロエ・クローチェは戦争により身寄りをなくした少女だ。頼る先もなく、1人で生きていけるほど強くもなく、何の才も無い平凡な少女。
周りにいた孤児たちは死ぬか、体を売ってどうにか日銭を稼いでいたが幸か不幸かクロエにはそのように出来るほど倫理観を捨てることが出来ずにいた。
そして、そんな身寄りのない彼女が連邦軍のオーガスタ研究所において人攫い同然に保護され、人体実験に使われるのはある意味で当然とも言える。
そこにおいて彼女は違法な投薬や暗示で重度の記憶障害を引き起こし、過去自分がどんな暮らしをしていたのか、両親はどんな人だったか、どこに住んでいたかを忘れてしまった。
自分のアイデンティティというものが消失した彼女が唯一自分の存在を認められるのがペイルライダーという名のモビルスーツ。
ペイルライダーに乗っている間、クロエはそこに存在しているのだと、そこに生きているのだという実感が湧く。
ペイルライダーこそが自分の存在価値。
ペイルライダーに乗れる自分はHADESを扱える自分はようやく人間として認めてもらえるのだ。
なのに、なのに……
「なんで、なんでなんで勝てないの!? ペイルライダーの方が強いのにッ!!」
『無駄口を叩いてる暇があるんですか? ほら、無様にみっともなく足掻けよ欠陥品』
「私は欠陥品じゃない! ペイルライダーは強いんだ!!」
間に合わせの部品で建造されただけの型落ちの癖に、HADESよりも性能の劣るシステムの癖に!!
必死にHADESの指示に従い、コクピットの操縦桿を動かしクロエはペイルライダーを動かして攻撃を仕掛ける。
しかし、その殆どは目の前にいる蒼い機体、ブルーディスティニーへ簡単にあしらわれ逆にペイルライダーの青ざめる装甲に無数の裂傷が刻まれ、脚部ミサイルポッドやキャノンが切り飛ばされた。
『ほら、どうした? その機体の性能はお飾りか? わたしのブルーよりも性能がいいんだろ? 証明してみせろよ能無し』
「うぐぅぅぅっ!!」
腹部に突き刺さるキックがペイルライダーの姿勢を崩し、回し蹴りが胴体を打ち据える。酷い揺れがコクピットを襲い、堪らずクロエは悲鳴を押し殺して目尻に涙を浮かばせつつも殺意を募らせた瞳でブルーを睨みつけて吠える。
「舐めるなぁあっ!!!」
『キャンキャン喧しい、吠えて敵を殺せるなら誰も苦労しないんだよマヌケ』
「あぐっ!?」
ビームサーベルによる斬撃を受け止められたかと思えば刃を滑らすように接近し、握っていたサーベルの発振器部を切り裂かれた。
咄嗟にサーベルを投げ捨て、空中で破損したビームサーベルが爆発。
前腕部のビームガンを撃とうとした瞬間、上から押さえつけられ銃口の向きをずらされてあらぬ方向へビームが飛んでいき、今度は顔面へと頭突きをぶつけられる。
衝撃によってペイルライダーのバイザーがひしゃげ、その部分が掴まれたかと思えば強引に毟り取られ、追撃で胴体に膝蹴りが突き刺さったことで上体が跳ね上がり、回転蹴りが叩き込まれた。
「キャァァッッ!!?」
『フェイントに引っかかり、動きも大ぶりが多く直情的……弱いですね』
壁を突破って倒れたペイルライダーに向けて緩やかに歩いて近づいてくる蒼い死神にクロエはHADESによる掌握を受けて尚、その表情は恐怖に歪む。
何をしても片手間に防がれ、手痛い反撃を貰いペイルライダーの全身がボロボロなのに対してブルーディスティニーの装甲には精々擦った傷がいくつか見える程度。
何度も仕留められたはずなのに、この程度で済まされていることは明らかに手が抜かれているのは明白。
しかし、クロエにはそんなことは分からず自分をいたぶり、恐怖させて殺そうとする死神にしか見えない。
「い、嫌……死にたくない、怖い、来ないで……!!」
『武器を持って戦場に出ておいて死にたくないなんて舐めたことを抜かすなよ? それは玩具じゃないんだ。
なら、早く私に立ち向かってみろ。
バルカンを撃つ。しかし、その程度の豆鉄砲はブルーのルナチタニウムで出来た装甲を抜くことが出来ず、ただの賑やかしにしかならない。
「ぅ、うぁぁあっ!!」
『破れかぶれですね。仕留めるのは簡単ですが、証拠のために殺すわけにはいかないのでボコす程度に留めてあげます』
恐怖を紛らわすために斬りかかるが、刃が触れる前に前腕の内側に差し込むように腕を置かれ振り切る前に止められる。
接触回線により聞こえてきた声とともに空いている方の手が勢いよくペイルライダーの頭部を鷲掴みにした。
「は、離してっ!!!」
『素直に応じるわけ無いでしょ、馬鹿ですか? あと、ブルーと同じシステム機なら頭部にコアチップがあるでしょうし、破壊してしまえばシステムを使うことなんてできないでしょう?』
「ッ……!!」
ギチギチと頭部の装甲が軋む音をたて始め、増していく圧力に段々と装甲の強度が耐えきれなくなったのか形を僅かに歪め始める。
頭部を破壊されまいとペイルライダーが必死に藻掻き、残ったサーベルでブルーに切りかかろうとしたが手首を掴まれ逆に勢いよく腕が引き伸ばされた。
『どうせなら四肢ももいでおきますか』
駆動部が限界まで伸ばされ、悲鳴を上げる。そして一際大きな音を立てて肩口からペイルライダーの右腕が引きちぎられる。
部品や何かの破片が飛び散り、肩から火花とオイルが鮮血かのようにブルーの装甲を彩った。
「きゃぁあっ!!?」
自分の腕がもがれた訳じゃない。けれど、右腕が破断した時に生じた情報負荷がHADESを通じてクロエに流れ込み脊髄がヤスリで削られたかのような激痛に悲鳴をあげる。
「い、痛い痛い痛い痛いッ!! やだ、やだやだやだ!! やめて!! ペイルライダーを私を虐めないで!!!」
『道具に何を言ってるんですか? はぁ、五月蝿いから黙れよお前』
いっそう暴れ始めたペイルライダーとクロエの悲鳴にアリアはコクピットの中で顔を顰め、頭部を掴んだまま乱雑に振り回せば勢いよく地面へと叩きつける。
ジャブローの地下空間の岩盤で出来た地面に叩きつけられ、その衝撃は堪らずクロエの頭を強く打ち据え意識が飛びかけた。
しかし、薬物による身体強化はクロエの意識を刈り取ることを許さずHADESがこの状況を切り抜けさせようと逆にクロエにより一層の負荷を与え機体を動かさせる。
最早意識と関係なしに手が操縦桿を動くが、その度にブルーが掴んだ頭部を地面へぶつけ、岩壁をおろし金にように押し当てて引きずり回した。耳障りな音を立ててペイルライダーの頭部が歪み、メインカメラの映し出す景色に砂嵐が発生する。
「離、セ……離セェエェエエエエエエッ!!!」
『うっさ……はぁ、優しくしてやったらコレですよ。殺すなって面倒ですね』
ブルーの前腕のサーベルを展開すると手早くペイルライダーを解体しようとした瞬間、ペイルライダーを掴んだままその場から待避。先程までいた場所へ黄色いビームが通過する。
「はぁ、なんですか一体?」
苛立たしげに視線を向ければそこには、肩にグリフォンの翼と蛇の尾に火を噴いた狼というエンブレムを付けた見たことの無いモビルスーツが先頭に立ち、こちらへ銃口を向けるモビルスーツたちの姿がそこにはあった。
「COM、あの機体は?」
『検索:……検索終了、対象モビルスーツの特徴を参照し『MS-14A ゲルググ』の陸戦型と認定。加えてマーキング情報から敵は『マルコシアス隊』と判明』
「ふむ、新型を複数配備されるってことはエース部隊ですか。……面倒ですね」
おまけによくよく見れば隊長機らしき機体の手にはビームライフルらしき武装があり、アリアは思わず顔を顰める。
ジオンは連邦よりビーム兵器技術に遅れっていた。しかし、今目の前にいる敵はこうして持ってきたということはジオンもエネルギーCAPの技術を手に入れたのだとアリアは理解し、そこで思い出した。
「…………私のガンキャノンから奪ったライフルのデータを反映させたんですね」
今でも腸が煮えくり返るほどの屈辱を思い出し、アリアは不機嫌そうに鼻を鳴らし誰に告げるでもなく呟く。
「責任は私にもありますし、少し前の放送にはジオンへ対処するようにいわれてましたしね。ええ、はい。今からやるのは大切なことです。
八つ当たりだとかでは断じてありません。それに、敵の新型なら鹵獲すればプラマイゼロどころか大いにプラスですしね」
掴んでいたペイルライダーはブルーの後ろへ投げ捨て、身軽になったアリアは操縦桿を握り直せば口角を上げた。
古来より笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為がその原点である。
そして、哀れにも蒼い死神の前に出た悪魔の名を関する彼らがその牙を突き立てられる事態となるのは当然であった。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体