機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
「これは一体どういうことか説明してもらおう!!」
ダンッ!!
上等なテーブルの天板を勢いよく叩いて叫きぶのはスーツを着た男で、その目は怒りに染まっており視線の先にいるのはレビルだった。
「どういうこと……ですと?」
「この計画書のことだよ!」
投げ広げられた紙束はグレイヴが推進していた『ペイルライダー計画』の文字があり、その内容はまともな人間ならば眉を顰めるものばかりであった。
現在ジャブローの広い会議室では集められた者たちの顔は大まかに分けて3つ、断頭台に立つ死刑囚のごとく顔を青くする者、それらに対して殺意の滲んだ目で睨みつける者、顔を顰め冷ややかに見る者である。
そして、先程の怒声をあげた人物やその周囲に睨みつけているのが国防省に属する政府の高官だった。
顔を青くしているのはレビル派に属するタカ派や過激派の軍人であり、彼らを冷ややかにみていたのはゴップ達ハト派と穏健派。
政府高官に詰問されていたのは当然レビルであり、彼は徐に立ち上がれば軍帽を脱いで深々と頭を下げれば謝罪の言葉を出す。
「私の部下が軍とは秘密裏に人道に反する犯罪行為に手を染めていたことを認知していなかったとはいえ、この度は私の不徳のいたすところです。
原因は私の監督不足によることから、ここに深く、深くお詫び申し上げる」
もちろん、そんなわけが無い。しかし、軍のトップとしてこの立場に着くまでや着いてからも政争をしてきた彼にとって相手が法的に軍よりも上の立場であってこうして殊勝な態度で謝罪すれば矛を収めざるを得ないことを知っていた。
しかし、それが逆に高官たちの逆鱗に触れることを彼は知らなかった。
「認知していなかった? 監督不足? 我々を舐めるのもいい加減にしろよ貴様!!
これを見てみろ!」
叩きつけるように付近の端末を操作すれば、壁に備え付けの大型モニターに光が灯ると画質は荒いがレビル達にとって見覚えのある光景が映し出される。
「こ、これは……!?」
いつかの密会の様子を記録した映像が流れ、音声も一字一句余すことなく流れたことにレビルの顔が青く染まった。
「レビル将軍は随分と記憶能力に問題があるようですな。それで? なにが認知しておらず、監督不足だと?
是非ともその言葉の意味をご教授願いたい!」
「そ、それは……」
「それに加えてホワイトベースに送られるはずだったガンダムを強引に接収しておいて、ジオンがジャブロー侵攻中にみすみす赤い彗星に強奪されたようですな。
ええ、はい。機体については仕方ないと諦めましょう……ですがよりにも寄って奪還ないし破壊のため追跡に就いていた蒼い死神と呼ばれている機体ブルーディスティニーとそのパイロットでもあるアリア・レイを持ち出した秘匿兵器で妨害しみすみす逃亡を許した挙句、ペイルライダーのパイロットである少年兵を証拠隠滅のため排除しようと戦争犯罪者を集めた部隊をけしかけたそうだな!!」
今度は場面が切り替わり、ブラックドッグ隊の聞くに絶えない品性のない会話が流れたかと思えばグレイヴの喧しい喚き声が続く。
「連邦軍にあれだけ貢献してくれた少女への恩をよく仇で返せるものだ。ひょっとして貴方々はジオンの回し者ではないかね?」
高官の1人が嘲りを込めて言えば、レビルはミシリと軋むほどの力を込めて拳を握った。
しかし、彼らの言う通りレビルたちのやったことは連邦への叛逆と取られかねないほどのやらかしである。
「レビル将軍、今回の不祥事は政府としても見過ごせない事態だ。アリア・レイという少女が齎した恩恵を考えれば、彼女に虚言を吐いて実験体としようとした挙句排除をしようとする。
他には戦災孤児を違法な人体実験のモルモットとして扱った……此度の戦争は正義の連邦と悪のジオンという構図にしなければならないのに、君たちはそれに泥を塗る行為をした。
よって、諸君らには厳しい処罰をしなければならない」
高官たちの親玉ともいえる防衛大臣が軽蔑したようにレビルを睨みつけ、吐き捨てた。
「首謀者たるグレイヴを名乗る男は軍事法廷で裁かれるだろう。しかし、本件に関わったものは当然。知っておきながら無視を決め込んだ者は例外無く二階級降格、その責任者たるレビル大将は四階級降格とする」
「なっ……!?」
その重すぎる処罰にレビルは反射的に叫ぶ。
「何故だ! 私はこれまで連邦に貢献し、成果を上げてきたはずだ!! V作戦を推進し、モビルスーツを普及させ戦線を押し上げオデッサを取り戻したのだぞ!?」
「それと同じほどの恩恵を齎し、これからもそれ以上のものを生み出すであろう少女をみすみす失わせようとした君がそれを言うのかね?
前線のモビルスーツパイロットの損耗率を目に見てわかるほど引き下げ、シミュレーションによってパイロットたちの練度を上げ、本人は過去類を見ないほどの戦果を挙げている……大して君はどうだね?
うむ、確かに貢献はした。だが、それ以前にコロニー落とし阻止の失敗に加えてルウム戦役での大敗の落とし前をどうつけるというのかな?」
「グッ……!」
痛い所を付かれ、レビルは呻いた。大臣の言う通りレビルは一年戦争初期に甚大な損害を被り、ジオンの捕虜になっていた過去がある。
本来ならそんな失態を犯した軍人など首を切られてもおかしくないのだが、それ以降も軍人を続けられたのは一重に連邦がその戦いで多数の指揮官が戦死し、ガタガタとなった軍のトップになど誰もなりたくなかった為に押し付ける意味を込めてゴップなどが責任を揉み消し、レビルが就任。
しかし、傍から見れば貧乏クジのようなものでもジオンを滅ぼすという目的のためなら都合がいいとして寧ろ積極的に彼はその席に座る。
「加えて、君はオデッサにおいて何故敵司令官が核兵器のことを伝えたというのに進軍の指示を出した? その真意は?
いや、言わなくていい。戦闘後の会議で君は連邦軍も大量破壊兵器の解禁を強く提言していたな」
大臣は足を組み、背もたれへ体重を預けた。
「君は個人的な怨恨のもと、ジオンを滅ぼそうとしているのだろう?
そんな危険な人間にこれ以上、軍の総司令官など任せておくことなどできない。
この処罰もかなり温情であることを理解するように。何せ、不名誉除隊した後に戦争犯罪者として軍事刑務所に入れるという案もあったのだからな」
「………………」
「ふっ、不満ならば我々はいつでも辞表を受け取る用意は出来ているさ。……さて、今回の会議は解散としよう」
防衛大臣は言うやいなや両脇にいた高官を伴い、会議室を後にすると後を追うようにゴップ含むハト派もその場を後にした。
そして、その場にはレビルだけが残され明かりが消えた室内で程なくしてなにかの破砕音が響く。
「それで、レビル将軍が引きずり下ろされた後の宇宙での指揮官はどんな人がするのですか?」
『チェンバロ作戦のことかね? うむ、彼の後任には『マクファティ・ティアンム』中将が就任する予定だね。
彼はレビル将軍の陰に隠れているが、『ビンソン計画』を立ち上げる優秀な男だ。加えて陸戦のレビル将軍と違って彼は生粋の宇宙船乗りだから
防諜対策が成された室内で秘匿のプライベート回線に繋がれた通信機を近くに置き、アリアのキーボードを叩く音が響く。
会話の相手はゴップであり、彼が参加した会議の内容を聞かされていたのだ。
「ふむ……そして、私たちはそのチェンバロ作戦の為の囮という訳ですか?」
『そうなるね。ジオンは君たちに恨み骨髄だ……奴らの宇宙要塞『ソロモン』を攻略する上で少しでも目を逸らしたい我々としては君たちに注目して欲しいからね』
「通りで支援が手厚いわけですね」
『ハハハ、期待していると言って欲しいねアリア嬢。私のプレゼントはどうだね?』
「7号機ですか? あの機体は────」
アリアはコマンドを叩き、ゴップが見ているであろうモニターに工廠の作業風景を映し出す。
『ひゃっほい! 予算無制限に好き勝手やってもいいなんて最高かよ!!』
『うぉおおお! 唸れ俺の右手!!』
『やっぱロケットパンチ付けようぜロケットパンチ!!』
『ドリルだろドリル!!』
『馬鹿野郎! アリアちゃんが乗るんだからもっとえげつないのを付けるんだよ!!』
『それもそうだな! …………ハンマーつけるか?』
『…………チェンソーも良さそうだな』
『あの子足癖悪いし足にサーベル仕込むぞ!!』
『ケイトさーん! コクピットの配線これでいいんですか〜!?』
『ええ、それで構いません。あとこの機構も取り付けてください』
『このおバカ! 何変なのつけようとしてるのよ!!』
『凄く痛い!? 何するのですか
『それろくにテストもしてないシステムだったでしょうが!! せめて稼働テストしてから付けなさい!』
『……それもそうですね。後でアリア・レイに協力してもらいましょう』
『ついでだし7号機の構造材もルナ・チタニウムに置き換えちまうか。軽量化と剛性も向上するし』
『父さん、アーマーのプランってこんなのでいいの?』
『うむ、換装機構を活かすなら一つにまとめるのは煩雑になってしまうしな。
内蔵火器は邪魔になるだけだから全部撤去して機体の強度確保だ! これを採用したせいで機体サイズがふた周りくらいでかくなっちまったからな!!』
『お陰様でホワイトベースが格納できるギリギリの大きさだからねぇ……』
「……まぁ、こんな感じです」
『うーむ、皆楽しそうでなによりだ。アリア嬢は何をしているのかな?』
「父さんのO.F.A.C.システムを運用するにあたって専用の制御システムを構築しています。まぁ、COMのマイナーアップデート程度ですがね」
『ふーむ……ちなみにシャア・アズナブルが持ち去ったプロトNT-1に搭載されていたCOMだが君から見て、どう思うかね?』
「……脅威ではありますが、警戒しすぎなくてもよろしいかと」
『ふむ……続けてくれるかな?』
アリアは珈琲の注がれたマグカップを手に取り、傾けながら説明した。
「そうですねぇ……確かにCOMは優秀です。ですが、ジオンがコピーして兵士たちに配ってもそんなすぐに効果は発揮しません。
プロトNT-1に入っていたのはあくまで稼働テスト用のサポート程度のまっさらな状態のCOMでしたし、ケイトさんが言うにはオーガスタ基地内のクローズドネットワークにしか繋げてなかったので言うほど最適化されてないらしいです」
「加えて、COM自体連邦の駆動システムのフィールドモーター形式に最適化してるのでジオンのモビルスーツの駆動システムの流体パルス形式で使うには最適化しないといけません。
私がイフリート・ナハトにダウンロードした時も最適化しないといけませんでしたし」
「それに、新兵ならまだしも今までの操縦法に慣れたジオンのベテランのパイロットはそんなすぐにCOMを受け入れることができますかね?
ジオンはプライドだけは高い所謂武人のような連中が多いですから、態々敵の連邦が使っていた補助システムなんて手を出すとは思えません」
「ですが、時間をかければ慣れるものです。時間は誰に対しても平等に与えて牙を向きますからね…………まぁ、ジオンの上層部が素直にパイロットたちへCOMを行き渡らせれば……の想定で進めましたがゴップ閣下からみて、ジオン上層部はどんな感じですか?」
『うん? そうだねぇ、ザビ家も兄弟仲はかなり険悪らしいし、ガルマ・ザビが討たれて以降、ギレン・ザビとキシリア・ザビの中は更に冷えきっているようだ。
あぁ、それとシャア・アズナブルは今はキシリア・ザビの部下らしい』
「ふむ……なら問題ないかもしれませんね」
『うん?』
「COMが奪われたのは不味いことには変わりませんが、キシリア・ザビとギレン・ザビが不仲ならば態々嫌いな相手が有利になるようなことはしないと思いますからね」
『……確かに連中は自分たちが国力で劣っていると言うのに権力争いに明け暮れるような連中だ。それこそ、本当の危機を目前にするまで手を取り合うようなことはしないか……』
「まぁ、あまり信じすぎないで下さい。仮定の話です。結局のところその日にならないと分からないのですから」
肩を竦めてアリアは言う。結局のところこれまでの話は全て仮定の話。
信じるに値しない戯言だ。あくまでも、そういう可能性があるというだけだ。
国家の存亡をかけた戦いで、最後まで権力闘争などするなどマトモな思考回路を持つならしないはずだし、意味が無い。
『それもそうだ。結局、どこも準備を進めてその日、その場所に立って初めてわかるのだからね』
2人の声は宙へ溶けて消えていく。いずれ来る大きな戦いのための準備は着実に進んでいくのであった。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体