機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー   作:シャア、あんたちょっとセコイよ!

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Chapter 4.Raven flaps her wings in space
66.Till death do us part


 作業員や学者たちは迫る期限に最後の追い込みをしておりアリアもシステムの最適化と、ひとつ消せば2倍3倍と出てくる不具合(バグ)の修正作業に追われていた。

 

「バグがひとぉつ、バグがふたぁつ、バグがみっつ……おかしいな消しても消しても増えてきますね」

 

 前髪を輪ゴムで一纏めにして髷のようにし、露出したおでこには冷えピタを貼り付け目の下には隈を作ったアリアは死んだ目でモニターを見ながらキーボードを叩く。

 

 その近くには飲み口にストローをぶっ刺したエナドリの缶を握りしめて床に突っ伏しているケイトと、壁には額を当てて斜めの姿勢で固まってるクリスの姿があり、別の場所のガンダム7号機の傍にいるであろうテムや整備士たちも似たように死屍累々といった有様なのは想像にかたくない。

 

 ガンダム7号機(モノ)自体あっても殆ど新造するようなものであり、予算が幾らあろうとも流石に新技術やらなんやらを詰め込んで破綻なく半月未満の期限で完成させるのは無理があったというわけだ。

 

 それでもなんとか形になりそうなのは一重に携わった者たちが世間では天才とも呼べる優秀な人材が集まったドリームチームの尽力のおかげともいえよう。

 

 最も、当の本人たちはこの始末なのだが。

 

 既に目覚ましの意味を成さないぬるくなったエナドリ(カフェインの塊)を飲み、アリアは死んだ目で呟く。

 

「……ちょっとシャワーいってきます」

 

「「──────」」

 

 2人からの返答はないが、それを気にしたことなくアリアはノロノロと部屋から出るのだった。

 

 

 

「ふう……サッパリしました」

 

 シャワーを浴び、ある程度眠気が消えたアリアは気だるげにしながら自販機に端末を当てると引っ張ってきた台に乗り、てっぺんのミネラルウォーターのボタンを押す。

 ゴトンと音を立てて落ちたペットボトルを取り出し口に手を入れて回収し、キャップを回せばパキャリと軽快な音をたて封が外れた。

 

 飲み口へ唇を触れさせ、傾ければよく冷えた水が口内から喉へ通っていき火照った身体を程よく冷却しそのまま半分まで一気に飲み干せばアリアは備え付けのベンチへ腰掛けて売店で買った軽食を摘む。

 

「……レタスがしなびてるし、パンがパサパサですね」

 

 てっきり軍の本部で売られてるものなのだから美味しいのだと思えば、コンビニでも売ってるような普通の不味くもなけりゃ美味くもないBLTサンドだった。

 肩透かしを食らったようなアリアはなんとも言えない顔でもそもそと食べ進めていると、不意にサンドイッチを咥えたままアリアは顔を上げる。

 

 ─────ッ! 

 

「……モグッ何か、モグッ聞こえたような? ゴクン」

 

 通路の奥から聞こえてきた異音をアリアが僅かに眉根を寄せ、ベンチから立ち上がると手に着いたパンクズをウェットティッシュで拭い、ゴミをちゃんとゴミ箱に捨てれば通路へ顔を覗かせてみた。

 

「うーん……?」

 

 なにやら通路の奥から連続して何かの破砕音が聞こえ、アリアは考えた後に頷けば音のする方向へ進む。

 証明に照らされた通路は誰もおらず、1歩進む度に音が明瞭に聞こえきた。

 

 破砕音だけかと思えば、その中に声が混じり始めたのだ。

 

『───や! ……い、で!!』

 

『───エ、ゃん。お……て!』

 

「ふむ……」

 

 壁に貼られた案内図を見る限り、どうやら音の出処は医療ブロックかららしい。

 恐らく患者が暴れてるのだろうとアリアは当たりをつけ、疑問が氷解した彼女は回れ右して作業に戻ろうとしたら……

 

『嫌!! 来ないで! 助けてお姉ちゃん!! 怖いよ!』

 

「…………はぁ」

 

 幼げな声の悲鳴が聞こえ、足を止めたアリアはため息を零せば真逆の方へ向いて足早に歩き出す。

 そしてとある病室の前にたどり着くと、扉越しに何かのぶつかる音が響いた。

 

『来ないでって言ってるでしょ!! 私を虐めるつもりでしょ!?』

 

『そんなことはしないわクロエちゃん、ね? おばさんはこの通り何も持ってないわ。落ち着いて深呼吸をしましょ?』

 

『そんなこと言って私に酷いことするつもりなんだ! 騙されないもん!! お姉ちゃんはどこにいるの!?』

 

『……困ったわね、お姉ちゃんって誰なのかしら』

 

 そして聞こえるふたつの声。片方は明らかに錯乱しており、もう片方はその錯乱した相手を落ち着かせようと優しい声で語りかけているが、どうやら成果は芳しくないらしい。

 

「すみません、どうかなさいましたか?」

 

『ッ、どちら様?』

 

「ただの通りすがりです。先の自販機のブースにまで音が響いてたので気になってしまって。

 お困りなら、なにか手伝いましょうか?」

 

 扉越しに聞けば、その奥の相手は僅かな間を開けて答える。

 

『……申し訳ないのだけれど、先生を呼んできてもらえるかしら?』

 

「わかりました」

 

 アリアは頷き、手早く医師を呼びに行こうとした瞬間。

 

『お姉ちゃんの声!! 迎えに来てくれたんだ!』

 

『ちょ、クロエちゃん!?』

 

「─────は?」

 

 誰かを押しのける音の後に扉が勢いよく開かれる音が響いたかと思えば、アリアに覆い被さるように影が差す。

 思わず振り返ってみれば、そこにははだけた病衣姿の見知らぬ兄のアムロと同年代くらいの少女が満面の笑みで自分目掛けて飛びかかってくる姿が見えた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「Oh……」

 

 鈍い音ともに、アリアの記憶は一旦そこで途切れてしまう。

 

 

 

「えーと……つまり、この子はあのペイルライダーのパイロットだったけど、度重なる投薬とHADESの負荷のせいで重度の記憶障害を患っていて、最後のペイルライダーが頭部を切断された時に生じた過負荷のせいで幼児退行してしまった……と」

 

「推測になりますが、ブルーティスティニーとペイルライダーのボイスレコーダーの記録を見る限り、貴方の最後の言葉と存在が強く彼女……クロエ・クローチェの中に刻まれました。

 そして、精神が崩壊しかけていたクロエ・クローチェは恐らく自分の心を守るために自分に手を差し伸べてくれた貴方を自分の姉とい刷り込んだみたいですね」

 

「えぇ…………」

 

 ボサボサの髪のケイトが心底くだらなそうな顔を浮かべ、タブレットから視線をあげればアリア……にしがみつくようにして甘えるクロエを見やる。

 

 そして、説明されたアリアはズキズキ痛む額に氷嚢を乗せ、困惑を隠せない様子であった。

 

 確かにペイルライダーのパイロットに何やらクサイセリフを言った覚えはあるが、何がどうなったらそうなるのだ? 理解できん。

 

「えへへお姉ちゃん、お姉ちゃん」

 

「……なんでしょう?」

 

「なんでもない!」

 

「……そうですか」

 

 自分の兄と同年代の少女が年下の自分を姉として慕う……訳が分からんし理解したくもない。

 

「……どうにかなりません?」

 

「そういう心理的なモノは私の管轄外なのですがね? ……適当に暗示でもして放置すればいいんじゃないんですか? 

 貴方とその少女は赤の他人ですし、相手している暇は無いでしょう」

 

 言い方はアレだが、ケイトの言ってることは最もだ。アリアとクロエは赤の他人で殺しあった仲だ。

 姉妹ごっこに付き合う義理も道理もない。ないのだが……

 

「……はぁ、父さんに一応連絡しますか」

 

 とりあえずアリアは父に事情の説明を行う。

 

『…………なるほどな。アリア、その選択はとても大きいぞ? お前のような年頃の子が選ぶにはあまりにもな』

 

「……でも、放っておけないんですよね彼女のことが」

 

「お姉ちゃん、誰と話してるのー?」

 

「父さんです。今大事な話をしてるのであそこの看護部のヒトと遊んでてきてくれますかクロエ」

 

「はーい」

 

 アリアの言葉にクロエは素直に従えば、少し離れていた場所に控えていた看護婦のもとへ行くのを見送って受話器へ意識を戻す。

 

「ダメ、ですかね?」

 

『…………父親として言うなら、反対ではあるな』

 

「ですよねぇ……」

 

 当然すぎるテムの言葉にアリアは肩をすくめれば看護婦と遊ぶクロエを見た。

 見た目と中身がチグハグで、人の業によって身体を好き勝手弄られた彼女はある意味で自分と同じとも言える。

 

『お前が意味を見いだせないなら……、私が意味を与えてやる』

 

 あの時に感応したクロエの絶望と悲しみを知っているアリアはどうしても放っておけないと思ってしまう。

 加えて、クロエは戦災孤児だ。支援はあるだろうが身寄りもない彼女はこれから生きていくにはあまりに心許ない。

 

「その、父さん……」

 

『……なんだ?』

 

「えーと……その、私ってお行儀いいですよね?」

 

『ココ最近はそうとは言えないが、まぁそうだな』

 

「学校の宿題はきちんとやって、好き嫌いせずに食べて、早寝早起きを心がけてますし」

 

『うん、私にはもったいないくらいいい子だ』

 

「……そのぅ、今回だけでもワガママを言う悪い子になっちゃダメ、ですかね? 

 ちゃんと、面倒見るので……」

 

『……捨て猫じゃないんだぞ?』

 

「……言葉の綾というやつです」

 

 そのまま両者の間に沈黙が訪れ、珍しくアリアはその表情を不安げに染めていたが、次の瞬間にはテムの声が響く。

 

『……そういえば今住んでる家は家族3人で過ごすには少々手狭だったな』

 

「ッ!」

 

『……アムロには私から話しておこう。アリア』

 

「……はいッ!」

 

『ミアちゃんにはお前から話しなさい。わかったな?』

 

「はい……? 何故そこでミアさんが……?」

 

『それを聞くのは野暮というやつだ。とにかく、ホワイトベースの出航まで時間が無い。ガンダムの最終調整もあるから早めにやっておくんだぞ?』

 

「あ、はい。わかりました」

 

 と、いうわけでアリアは色々と落ち着いてから会おうと思っていたミアへ連絡を取る。

 電話越しの彼女へ会いたいことを伝えれば、とんでもないくらい高いテンションで自分のいるところに向かうと言って電話を切り、そして待ち合わせ場所には何故か過去類を見ないくらいおめかしをしてきたミアがいた。

 そして、彼女が一緒にいたクロエを見た瞬間に絶叫を上げたかと思えば、アリアの肩を掴んでガクガクと前後にゆさぶってくる。

 

 EXAM起動時のえげつないGを食らっても顔色一つ買えないアリアでも流石に高速で頭をシェイクされるのはやばかったのか、どうにか彼女を宥めて視界がグワングワンする中で事情を説明。

 

 クロエのことをまるで親の仇かのごとく威嚇していたミアだったが、話を聞く事に段々と涙ぐんでいき話終えれば。

 

「クロエちゃん、よく頑張ったね……!」

 

「? ありがとミアお姉ちゃん」

 

 クロエの手を取ってミアが我がことのようにクロエを労い、当の本人はよく分かってないのか首を傾げていた。

 ひとまずミアも納得してくれたようで、立ち話もなんだと思ってカフェへ話すことになる。

 

「それで、ミアさんはゴップ閣下のご厚意でジャブローに暫くの間滞在してるのですね」

 

「うん、サイド7には戻れないし他の場所も戦争中で危ないからって。ひとまず軍関係者っていう体でね」

 

「お姉ちゃん、これ頼んでもいい?」

 

「構いませんよクロエ。どうせ経費で落ちますから軍を破産させる勢いで頼みなさい」

 

「わーい! アイスクリームください!」

 

 それぞれ好きなものを頼み、カップを傾けながら2人はこれまでのことを他愛のない会話をしながら交換した。

 

「アリアちゃんは軍艦からはまだ降りれない感じなの?」

 

「ええ、はい。ちょっと戦争が終わるまでもう少しパイロットを続けることになりそうですね。

 無事に終戦を迎えれば年明けには戻ってこれるでしょう」

 

「そっか…………」

 

 ミアは僅かに顔を悲しげにしたが、それ以上は何も言わない。幼心に自分が守られているのは彼女のおかげだということを何となく理解していたからだ。

 自分がなにかいえば、それだけアリアに……自分の想っている人に迷惑がかかってしまう。

 

「……別に迷惑とは思ってませんよミアさん」

 

「ふふっ、アリアちゃんってば私の思ってることがわかるようになったの?」

 

「何となくです。ココ最近やけに勘が冴えるんですよね……ンンッ、とにかくミアさん……私は私の選択で戦うことを選びました。

 それをミアさんが気に病むことはありませんし、貴方には関係の無いことです」

 

 傍から聞けば突き放すようにも聞こえる内容だが、ミアはそれがアリアが敢えて言っているのだと察していた。

 

「アリアちゃん」

 

「はい」

 

「私、待ってるから」

 

「必ず、貴方の元に帰ってきます」

 

「うん」

 

 それだけ約束出来れば、ミアにとって十分であった。

 

 

 

 

 そして、時は来る。

 

「最終調整に手間取ったせいで先にホワイトベースが出航してしまいましたね」

 

「仕方ないですね。コクピットのレイアウトも既存のものとは違いすぎますし」

 

 ジャブローにて打ち上げの準備を進められているシャトルを待機室の仲で見ながらケイトとアリアは会話をしていた。

 結局、ガンダム7号機は結局ホワイトベースの出航までに間に合わず、艦が出航してから凡よ2時間弱経ってから漸く目処がたったことで、ガンダムを急いでシャトルのカーゴ内に格納。シャトルの最終点検を終えれば即座に打ち上げる手筈となっている。

 

「せめて稼働テストをしてから宇宙へ上げたかったのですが、無い物ねだりをしては仕方ありません。

 業腹ですが、残りの調整もホワイトベースでやるとしましょう」

 

「ひとまず動かせはしますから問題は無いはずですがね」

 

『シャトルの最終点検完了。搭乗員は速やかに搭乗せよ!!』

 

 会話を遮るように放送が響き、2人は席を立てばシャトルへ乗り込むための桟橋へ向かおうとした時に。

 

「アリアちゃん!!」

 

「ッ、ミアさん?」

 

 振り返ればそこには膝に手を置いて息を荒くしたミアがいた。予想していなかったことにアリアは目を丸くしていると、既にシャトルへ乗り込もうとしていたケイトが口を開く。

 

「別れの挨拶は手早くお願いします。時間が押してるので」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 それだけ言って引っ込んだケイトを横目にアリアはミアのもとへ近寄り、彼女は声をかけた。

 

「ミアさん、どうしました?」

 

「はぁ……けほっ、アリアちゃんに……渡したい、ものが……あったから!」

 

「渡したいもの、ですか?」

 

「うん!」

 

 ミアは額の汗を拭い肩から下げた鞄から掌にすっぽり収まる小箱を取り出してアリアへ見せれば、その蓋を開けて中身を見せる。

 

「これは……」

 

宝石サンゴ(コーラル)の指輪だよ。お父さんとお母さんが私の誕生日にプレゼントでくれたものだけど、アリアちゃんにあげる」

 

 キラキラと光る赤い石の嵌められた指輪をミアはアリアの手へ置いた。

 地球が度重なる環境汚染によって宝石サンゴ(コーラル)はその数を減らし、価値が年々高まっている。

 

「こんな貴重なものを……」

 

「サンゴって魔除けのお守りになるんだって。これからアリアちゃんはすっごく危ない場所に行くんだから必要だと思ったの」

 

 ミアはそう言ってアリアの手を握り、彼女の珊瑚(コーラル)とおなじ色の瞳を真っ直ぐ見据えていた。

 

「アリアちゃん、私はアリアちゃんが好き。友達としてじゃなくて…………一人の人間としてあなたの事が好きです。

 女の子が女の子のことをすきになるなんて変かもしれないけど、私のこの気持ちには嘘をつきたくないの」

 

「ミアさん……」

 

「初めてアリアちゃんと会った時、運命だって思ったの。なんでか分からないけど、心の奥底でこの人が私の本当の相手なんだって……あの、その……この指輪を受け取ってくれませんか?」

 

「────」

 

 その告白にアリアは呆気にとられたように目を見開くが、次の瞬間には我慢できないように吹き出してしまう。

 

「フッ……アハハ…………!」

 

「わ、笑わないでよアリアちゃん!」

 

「す、すみません……フフッ、あまりにも唐突なカミングアウトだったので……。ミアさん、少々よろしいですか?」

 

「う、うん……?」

 

 次の瞬間、アリアはミアの細い腰へ手を回し彼女の唇へ自分の唇を重ね合わせた。

 

「ッ────んっ……」

 

 驚きにミアは僅かに身体を硬直させたが、すぐに力を抜いて同じようにアリアの腰へ手を回して抱きしめる。

 互いの体温を、心臓の鼓動を確かめ存在が溶け合ったかのような幸福感が胎を走った。

 一秒、二秒……永遠とも言えるほどの逢瀬を交わし、名残惜しそうに2人は離れれば短く言葉を交わす。

 

「往ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

 程なくしてジャブローの空に一筋の流星が空へ昇って行った。




エンダー!!

後継機

  • 既存機体を魔改造
  • オリジナル機体
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