機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
「宇宙か」
大気圏を突破したシャトルのキャビンの窓から映る景色を見て、アリアは呟く。
時間にして2ヶ月と少しの間を地球で過ごしたが、その中の経験は今までアリア・レイが産まれてコロニーで過ごしてきた時間よりも遥かに濃密で厚い。
「懐かしいですか?」
「どう、でしょうね……よく分かりません」
恒星間航行が当たり前な世界で過ごした記憶のあるアリアにとって、宇宙とは酷く身近な存在だ。それこそ宇宙世紀などよりも比べ物にならないくらいに。
「あぁ、でも……わかることはあります」
「それはどのような?」
「『怖い』という感情ですかね」
「ふむ……ニュータイプだというのに?」
「私はニュータイプなどという眉唾なものではありません。あれはトーシローの戯言ですよ」
ケイトの言葉に反論しつつ、アリアは気だるげに窓の外をみながら続けた。
「この窓1枚を隔てた外の世界は空気もない絶対零度の死の空間です。なんの防護もなしに出れば1分と経たずに人は死ぬでしょう」
触れた窓はヒンヤリとして冷たく、手のひらの体温を吸収する。
「そして、あまりにも広いです。私にはそれがどうしようもないくらいに怖いと思ってしまいますね」
「ふむ……どこかで見たレポートではニュータイプというものは宇宙に親しみを覚えると書いてあったのですが……どうやら違うみたいですね」
「はぁ……人はなぜそうやってすぐに他者を違うと勝手なラベリングをして分けたがるのでしょうね?」
「それは仕方ないかと。人間という種族は他者と手を取り合おう、分かり合おうと綺麗事を言ってもほんの少し自分と肌の色が違う、言語が違う、性別が違うという些細な変化だけで敵と判断しますから」
「……度し難いですねほんと」
「ええ、その通りです。人類という種族は愚かで救いようがありません。
現に宇宙世紀という時代へ突入し、地球連邦という統一国家を人類史上初めての偉業を『リカルド・マーセナス』が成しても、ラプラス事件を起こしました。
そして、今はジオンという国が興り、自分たちをスペースノイドの代表といって優れた人種と評して名乗り戦争を引き起こした……滑稽ですね」
ケイトは愉快げに嗤う。
「確かに、戦争を引き起こしておいて優れた人種なんて冗談にしか聞こえませんね。ジオンという国はコメディアンの養成国家なのでしょうか?
……別に戦争など引き起こさなくとも少し待てばスペースノイドの立場は逆転したというのに自分たちから立場を悪くするようなことをする彼らは傍から見れば道化の所業でしょう」
アリアの言う通り、実際にジオンは……スペースノイドは遠くないうちに経済の中心や有力な資産家たちが宇宙へ移行していた。
何故ならば既に重工業などの大半がスペースコロニーで行われており、地球はせいぜい穀物や畜産などの食料や飼料、空気や水の提供のみで稼げる手段がほとんど無い。
加えて、宇宙移民計画こそ今は凍結されていたがその理由は簡単で地球のインフラなどの管理をするために最低限の人材が必要だったからだ。
宇宙開拓には人がいる。そこで当時の権力者や資産家は考えた『貧乏人共に住む場所と食うものを提供してやるんだ。開拓は奴らにやらせよう』と。
そして、ある程度まで生活基盤が整ったことで人の領域は宇宙へと移っていき、今はまだアースノイドのみにしか参政権はないが別にそれ以外の方法で政治に介入する方法があるために、別にジオンがわざわざ独立する必要もなかった。
適当なアースノイドを支援し、自分たちの都合のいいように動かせばいいからだ。けれど、それをジオンは……引いてはジオン・ズム・ダイクンはしない。やろうとしなかった。
だって、人類の総人口は今やスペースノイドたちが占めているのだ。そんな彼らが政界に参入すればどうなる?
それこそ、自分の意のままに世界を先導できる立場につければ歴史へその名を刻まれるはずだ。つまるところ、ジオン・ズム・ダイクンは持ち上げられるほどの聖人でもない、ただの俗物でしかない。
そんな者の名を国の冠として持ち上げる連中など、それこそ道化でしかないのだ。
その言葉を聞いてケイトは興味深そうに顎へ手を当てて何かを思案するようにしていたが、アリアはさしたる興味が無いのかそちらへ視線を向けることは無い。
「……ほんと、人間はどうしようもありませんね」
左手の指輪をそっと撫でアリアは吐き捨てて外の景色を見ていたが、おもむろに立ち上がる。
その視点は窓からではなく前方、操縦席よりも更に先。ホワイトベースがいるであろう地点へと向けられていた。
「どうなさいましたか?」
「敵です」
「……少々お待ちを」
ケイトはすぐに手元の受話器を手に取り、操縦席と連絡を行う。二三言交わした後に顔を上げる。
「どうやらホワイトベース及び僚艦の『グレイファントム』がジオンのパトロール艦隊と戦闘行動へ突入する模様です」
「私の機体は出せます?」
「向かうつもりですか?」
「稼働テストには丁度いいでしょう?」
「…………わかりました。スーツに着替えてください、機体の起動準備を進めておきます」
「はい」
手早く2人は会話を切り、席からたつと床を蹴ってシャトル後方へと向かった。
ガンダム7号機はケイトの制作した特殊制御システムによってコクピットのレイアウトが既存のものと掛け離れている。
それこそ普通のノーマルスーツではまともに動かせないほどに。
更衣室でアリアは一糸まとわぬ姿となり、頭部に犬科の耳を思わせるような三角形の突起がついたインターフェイスを嵌めれば椅子に置かれていたOPP袋を手に取り、封を切った。
「…………建造途中のデータ取りで何回か着ましたけど、やっぱり薄すぎません?」
滑らかな手触りだが、実感はゴムのようなだけど布のような不思議な材質のかなり薄いインナースーツを胡乱な目で見つめて呟く。
いつかの如く呟きつつもアリアは手早くインナースーツを着れば、肌に張り付くような感覚に僅かに眉根を寄せつつもノーマルスーツへ手を伸ばした。
アリアのサイズに合わせたソレは通常のノーマルスーツとはかなりの様相を変えており、全身にはプロテクターを付けられゴテゴテとした鎧を思わせる見た目をしてるソレの襟元へ足を通す。
「よい、しょっと……」
無重力ゆえに宙に浮かびながらスーツを着用すれば背中のデバイスを固定し、手首のボタンを押すと排気口から空気が排出されアリアの体型にフィットし、何度か手首を回して感覚を確かめた後にヘルメットを掴んだロッカーを蹴って出口へ。
更衣室に出ればそこには何人もの作業員たちが宇宙服姿でうつ伏せの状態で固定されたアリアの新しい
彼女はそれを横目に床を蹴り上げ、胸部部分へ向かうとそこには整備ハッチを解放し、そこへ端末を繋げて操作をしているケイトを見つけアリアは彼女へ声をかける。
「ケイトさん、行けそうですか?」
「はい、問題ありません。ですがシステム面にまだ不具合があるので手持ち武器以外の兵装は全て取り外していますよ?」
「ライフルとブレードが使えるのなら問題ありません。作業員の方々に離れるように言ってください」
「了解しました」
ケイトはコードを端末から外し、胸部装甲を蹴ってその場から離れていく。
それを見送ったアリアはコクピット解放ボタンを押して、胸部ユニットが上下に展開して露出した内部へと身体を滑り込ませた。
薄暗い球体の空間の中央にはコクピットシートがアームによって保持されているのだが、そのシートは通常のモノとは形を大きく変えたタイプだった。
身体を預けるシートを中心にアームによって操縦桿が配置され、シートも座るというよりかは腰を添えるといった様子が正しくアリアがペダル部分へ足を置くと自動でシートのアームが腰を固定する。
ヘルメットを被れば真っ暗になった視界で彼女は呟いた。
「…………接続開始」
『───Authentication check.
Neural connection start - no problem
Brain wave check start - no problem
Vital check start - no problem
Mental load check start - within acceptable limits
Various system check start - system all green
Gundam Unit 7, codename “Raven” startup sequence complete.
Allegory-Manipulate-System connection start』
アリアの声を認識し、ヘルメットのバイザー部分に緑色の文字が表示した瞬間に二の腕、太腿部分へアームに保持されたデバイスがスーツへ接続される。
「ツゥ…………!」
肌を突き刺すような痛みで僅かに眉を顰めたが、すぐにそれも消えるとバイザーに光が走りノーマルスーツの背中にある脊髄のようなデバイスが上から下へランプが点滅。
そして、それに呼応してガンダム7号機のフェイスパーツが展開、双眸が現れ赤い光が灯るとバイザー内にカメラが捉えた景色が映し出された。
『ガンダム7号機『レイヴン』の起動を確認、シャトルの貨物ハッチを解放します。作業員は速やかに退避を』
その放送とともに周りにいた作業員たちは素早くレイヴンから離れ、完全に消えたのを確認すると上部のハッチが左右に割れる。
『固定アーム解除、排出します』
各部を固定していたロックが外れ、姿勢制御のバーニアブースターが稼働。緩やかにシャトルから離れるも胸部に接続されていたケーブルによって停止。壁面に固定されていた独特の形状の大形ライフルが二丁放出され、掴み取る。
すると肘部の装甲が展開、伸びた副腕がライフルの下部バレル後方を噛む事で保持。
武装を装備すれば、ケイトの通信が届いた。
『供給ケーブルを切除、いつでも出撃可能です』
「アリア・レイは『ガンダム・レイヴン』で出ます!」
ケーブルが外れ、一気にアリアはペダルを踏み込む。
背部のX字状に配置されたブースターからは膨大な推進剤の燃焼する炎が放出され、とてつもない加速をもってシャトルをあっという間に置き去りにするのだった。
そして、場面は移る。
「あの形は木馬か!? 映像を出せ!」
「ハッ、静止画になりますが!」
「構わん!」
ジオンのファルメルパトロール艦隊にて、旗艦ファルメルの艦橋でドレンは見えた特徴的な白い艦体と灰色の軍艦を見て即座に索敵係へ叫ぶ。
そして、上部メインモニターに表示される画像を見て彼は唸り声を上げた。
「ぬぅ……連邦め、あの艦を量産していたのか」
いくつもの戦場でその姿を表し、まさに悪夢と呼ぶべき活躍をしたその艦の名前がホワイトベースということはジオンで既に広まっていた。
そして、目の前の画像では己が遭遇したあの憎き木馬とは差異があるが同型艦だとドレンは結論づける。
何故ならそのすぐそばに居る灰色の軍艦も同様の形をしていた為に別の量産された艦だと判断するのは当然といえた。
しかし、彼がその白い艦がジャブローにて新生したホワイトベースであることに気づかないのは無理もないだろう。
ドレンは即座に命令を告げる。
「全艦は牽制射撃を行いつつ反転! モビルスーツを艦の防衛に回して急速離脱だ!!」
「ハッ、逃げるのでありますか?」
副官として付けられた少尉はそう聞くのも無理がなく、経験が浅いためドレンへ聞き返す。
それに対してほかのクルーたちは素早く指示に従うのを確認しながら彼は説明した。
「そうだ! ムサイ級が搭載できて出せるモビルスーツの数4つだが、木馬は9つで火力はほぼ同等。
だが、今目の前にいる奴らはその木馬よりも一回りも大きいのならモビルスーツの搭載数も火力も上のはずだ。それが2つもいたら、こんなパトロール艦隊で相手などできるかよ!」
「ハッ、理解いたしました!!」
艦の火力が同等であったとしても、搭載するモビルスーツの数が相手の方が多ければそれだけ不利であり、そして連邦はモビルスーツに戦艦の主砲クラスのビーム兵器を装備している。
そんなのが複数集まってるのと戦うなどたまったものではない。故に彼は戦闘をせず、情報を持ち帰るために逃亡することを選んだ訳だが。
「敵艦からミノフスキー粒子の散布を確認! 通信を妨害されます!」
「チッ! 連中逃さないつもりか! こっちもミノフスキー粒子を散布しつつ最大戦速で振り切れ!!」
「ハッ!!」
しかし、彼の乗艦でもあるファルメルならまだしも僚艦の『キャメル』、『トクメル』、『スワメル』の3隻は戦時下での簡易生産版。通常のムサイよりも旋回性能が劣るせいで初動が遅れてしまったことが彼の命運を分ける。
ホワイトベースとグレイファントムから出撃したモビルスーツ隊の数は12機でこちらより4機少ない。出撃したリック・ドムたちが敵を抑えている間に離脱しようとした瞬間、不意に僚艦のキャメルのエンジンが爆発。
「な、何事だァ!!?」
「か、艦隊前方より高熱現反応確認!!」
「ルナツーからの哨戒部隊か!?」
「違います!! 余りにも機影が小さすぎます!!」
「ではミサイルか!?」
「わ、分かりません! ですが、通常の三倍以上の速度で迫ってきます!!」
「えぇい、じゃあなんだ!!?」
ドレンが叫び、そして漸くカメラが最大望遠でその姿を鮮明に捉える。
「も、モビルスーツだと!!? あんな距離から当てたのか!!?」
宇宙の暗黒に紛れるかの如く、その機体は全身を決して別の色に染まることの無い純粋な漆黒に染め上げていた。
しかし、その中で一際強く妖しく輝く深紅の双眸は確かに自分たちを見据えており、両の手に握られたグリップを挟み込むよう上下にバレルが配置された独特な形のライフルの銃口を構える。
そして、ドレンは自分の知るガンダムのもつビームライフルよりも遥かに太い青白い光条が2つの穴から放たれるのを目撃した。
飛来してきたビームはキャメルの動力炉をぶち抜いた数秒後に爆散。
「クソッ! 残りのモビルスーツをあいつに回せ!!」
「ですが、それだとコムサイから出さねばなりません!」
「馬鹿野郎! コムサイを射出して中からぶち破って出すんだよ!!」
「わ、わかりました!!」
ファルメル、『トクメル』、『スワメル』からコムサイが射出され、それを切り裂いて6機のリック・ドムが漆黒の機体へと突撃する。
6対1、普通だったら勝負にならず数の暴力ですり潰されるのがオチだ。だのに、なぜ己の胸の内はこんなにもザワつくのだ?
先行したリック・ドムが漆黒の機体へジャイアントバズを連射し、その後ろの僚機の2機のドムがバズーカとマシンガンを放つ。
リック・ドムを遥かに超える速度で前進するその漆黒の機体は僅かに下降し、ジャイアントバズの弾頭を交わす。それを追うようにマシンガンの弾丸が迫ったが。
『は、速い!?』
姿がぶれたかと思った瞬間、その機体は真横へ移動しており再び姿がブレたかと思えば先頭のドムの上半身と下半身が真っ二つに別れている姿が見えた。
『なっあぁ!?』
『い、いつの間に!! ぐぁっっ!!?』
次の瞬間には上から降ってきたビームがもう1機のドムを貫き、下から急上昇してきた長大な青い刃がドムを切り裂く。
あっという間に3機を爆発の華へと変え、一瞥すらせずにその漆黒の機体はその深紅の双眸を残りのドム達へ向けた瞬間に姿がブレた。
その数秒後に再び3つの華が咲く。
「も、モビルスーツ隊……全滅しました……」
「い、1分もたずにか!?」
聞きたくもない報告にドレンは叫び、そして立て続けに聞きたくない報告がまた届いた。
「て、敵木馬のモビルスーツ隊と交戦開始したモビルスーツ隊も全滅しました……!!」
「ぐぅぅっ!! 対空防御急げ!!」
ドレンはそう命令するが、既に各自の判断で迫るモビルスーツ達を前に迎撃を開始している。しかし、そのどれもが放たれたビームによって無効化され次々と爆発による振動が艦を襲う。
そして、その弾幕を縫うように漆黒の機体がドレンのファルメルへと降り立ち、その銃口をブリッジへ突きつけた。
「化け物めッ…………!!!」
その恨み言の返答はビームの奔流であり、ドレン達含めたクルーは分子サイズに分解されこの世界から完全に消し飛ぶのだった。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体