機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
瓦礫だらけの街中をアリアは歩く。人々は懸命に瓦礫をどかし、人では不可能なものはモビルスーツやモビルワーカーなどが担当し運んでいた。
ボランティアや有志などが炊き出しを行い、作られた食事を配り渡された人々がそれを食べて安心したように息を吐く。
「あぁ、よかった!」
「生きててくれてありがとう……!」
「心配したよ、本当に!」
『本当に、本当によかった…………!』
ジオンが齎した爪痕は大きい。けれど、人はそれでも懸命に今を生きてきた。悲しみや苦しみの感情の中に確かにそんな強い意志がそこにはあるのだとアリアは感じ取り、僅かに微笑んだ。
そんな時、不意にとある崩れた建物の前にアリアは立ち止まり、視線を下げる。
その建物は恐らくは楽器などを販売する店舗だったのだろう。軒先に音符と楽器を組み合わせた看板が立てかけており、崩れた店舗から外に出され幾つもの楽器が机の上に並べられていた。
「…………」
クラリネットやフルートなどの木管楽器、トランペットやホルンなどの金管楽器、木琴やシンバルの打楽器、そしてチェロやコントラバス……ヴァイオリンの弦楽器。特にヴァイオリンへとアリアの視線が注がれている。
何秒、何分そうしていたかは分からない。けれど、アリアはその目を外すことなくジッとヴァイオリンへと注がれていた。
不意に。
「おや、どうかしたかいお嬢さん?」
「っ、あ、すみません。邪魔でしたよね、すぐに消えます」
声をかけられ、顔を上げるとそこには前掛けをつけた白髪と豊かな髭が目立つ優しげな目つきの眼鏡をかけた老人がそこにいた。
エプロンの端に看板と同じマークがあり、恐らく店主なのだろうとアリアは当たりをつける。
彼女のその言葉に老人は朗らかに笑いながら手を横へ振り、気にしてないと言った。
「はっはっは、熱心に見ていたのが気になっただけさ。このヴァイオリンが気になるのかな可愛いお嬢さん?」
「えっと、その…………はい。なんでか分かりませんがこのヴァイオリンから目が離せなくて」
「ほう! それはどうしてまた?」
老人から聞かれ、アリアは視線をヴァイオリンへ戻す。
「その、『暖かった』んです」
「暖かった?」
「はい。私の大切な人と
「ふむ、なるほど……少し待っていてくれるかな?」
老人は頷いたかと思えば、そのヴァイオリンを手に取って店舗の奥へ消えてしまった。アリアは何事かと思い、そこで数分待っていると老人はヴァイオリンケースを手に持って戻ってきた。
「お嬢さん、これを君にあげよう」
「え?」
そう言って渡されたケースを見てアリアは目を丸くする。
「あの、その……何故?」
「そうだねぇ……私は見ての通り楽器職人でね。人と楽器の相性というのが見えるんだよ。そして、このヴァイオリンが君を選び、君がこのヴァイオリンを選んだ……ということさ」
「そんな……お代を払います」
「いいや、別にいらないさ。老いぼれのお節介と思ってくれたまえ。
ふむ、納得いかない顔をしているね……なら君が良ければだが君の演奏をいつか見せてくれたまえ。それがお代ということでいいかな?」
茶目っ気たっぷりに老人はウィンクを行い、呆気にとられたようにしていたアリアだったが何を言っても無駄だと悟ったのか丁寧にそのケースを抱いてゆっくりと頭を下げるのだった。
「…………これは、何でしょうかカムラン・ブルーム監察官?」
「サイド6での船舶の補修や修理を行う業者と物資の支援を申し出ている民間企業のリストです。
リーア政府は戦争に協力はできませんが、民間企業からの物資などの購入は規制していませんからね」
「……それはなんとも急ですな。先の支援要請含めて」
入港初日のさっさと出て行けと言わんばかりの態度と打って変わり、手厚い支援にブライトはその魂胆が透けて見えてしまいなんとも言えない顔を浮かべる。
「……つい先日市街地でモビルスーツが戦闘行為を行い民間人に多数の被害を出した挙句、領海内での戦闘行為と核兵器の使用未遂……議会は随分と傾いていますよ」
先のジオンの凶行によって市民の間に強い不安と政府への不信感を齎した。中立という立場は最早許されず、彼らは己を守るために最善を尽くした結果である。
それを頭が理解しているとはいえ、感情が納得できるかは別だ。湧き出る不満をグッと飲み込んでブライトはそのリストをすぐ側に控えていたウッディ大尉へと手渡した。
「近いうちに政府からジオンへ領海の渡航とコロニーへの寄港を禁止する旨を通達するでしょう。……どこまで効果があるかは不明ですがね」
「これはそれまでの点数稼ぎと言ったところですか」
「……サイド6以外の人達は我々を風見鶏といいますが、こうしなければ身を守ることが出来なかったことを頭の隅に入れておいてもらいたいですね」
「存じていますよ」
カムランからの皮肉にブライトは仕方ないと理解を示す。そもそもこうなったのも連邦がサイド3の手綱を握ることが出来ず、戦争初期にズタボロに敗北したのが原因である。
頼るものがないのなら尻尾を振ってご機嫌を伺うしか守るすべがないのだから。
それをしなかった末路がコロニー落としとルウム戦役であり、彼は言外に文句は言わせないと言っていた。
「情報の提供感謝します監察官」
「いいえ……それで、貴方たちはいつまでサイド6に?」
「……そうですね。確保した核弾頭やジオンの部隊の護送の為に正規の艦隊が来る手筈となっていますので詳しい日時は言えませんが、その艦隊が来るまでは留まる手筈となっています」
「そうですか。では、私はこれで。なにか通達があれば政府が直々に来ると思います」
「はい、重ね重ね感謝します」
「……いえ、私がここまでしたのはあくまでも婚約者があの艦に乗っていたからです。
彼女がいなければ何もしていませんよ私は。…………個人的にですが、貴方達の航海に無事があるように祈っています」
カムランはそう言うと去っていき、その背をミライが何か言いたげに見つめているのをブライトが気がつく。
「……言いたいことがあるのなら、言ってきたらどうだ?」
「え? いえ、別に……いいわよ」
「軍人として、艦長として俺が言うのもなんだがこんな仕事をしているんだ。明日生きているかも分からない……なら、胸にしこりとして残しておくくらいならスッキリしてきた方がいい」
「……ごめんなさい」
ミライはそう言って頭を下げるとカムランの後を追うために床を蹴り、その背をブライトが見つめるとため息をこぼした。
「宜しいのですか、行かせてしまって?」
「…………これは彼女たち同士の問題だ。部外者が言うべきことではない」
ウッディ大尉が聞くと、憮然とした様子でブライトが答える。
「ふむ……私も婚約者がいる身分なので言うのはアレですが当人が納得しているならまだしもそうでない場合、誰か……憎からず思っている人からそれを壊して欲しいと思うものだと思いますがね?」
「……そう簡単にできたら苦労しないさ。俺だって器用に生きたいけど、頼らないと足元すら覚束無いんだよ」
そんなブライトの呟きにウッディ大尉は見えないように苦笑をこぼすのだった。
「あー、こうして会うのもなんて言うべきかねアル」
「うん、元気そうで安心したよバーニィ」
透明な仕切りを挟んで対面するアルとバーニィ。アルは私服なのに対してバーニィは囚人が着るようなオレンジのつなぎを着ており、その手には手錠を嵌めている。
「それで、どれくらい入る予定なの?」
「あー……大体1年くらいかな。司法取引ってことで刑期を大幅に短縮するよう君のお隣さんが掛け合ってくれたんだ」
「クリスが?」
「ああ。人として正しいことをした彼に温情をってね……」
「そう、なんだ…………」
2人はそこで会話が途切れ、微妙な間が空いた。
「……僕、さ。戦争はもっと華やかなものだと思ってたよ」
「…………」
「でも現実はそれよりもずっと悲惨で、怖くて、悲しくてさ……クラスメイトの女の子が被害にあって家が壊されて両親が死にかけたんだ」
「……あぁ」
「……編入生の子が言ってたんだ。戦争はゲームとは違うって」
「……あぁ」
「こうして見て、ようやく気付かされたよ。戦争は酷いものだって……」
「……あぁ」
「この悲惨な現実を引き起こした原因は僕にあるんだって……叩きのめされたんだ」
「それは違う! ああなったのは俺たちが悪いんだよアル! お前が自分を責めることなんて…………」
「いいんだよバーニィ。自分を悪者にしなくていいんだ……ただ、これはその人達同士が正しいと思ってやった事なんでしょ? 隊長たちがサイド6を守るために……あの黒いモビルスーツを、アリアちゃんのガンダムを壊そうとしたんだ」
「ッ、それは……」
アルはそう言って手のひらを見つめる。
「僕、もう逃げないよ。きちんと立って自分のやったことを見つめ直す…………何年かかってもいい、僕のやった事の償いをしたいんだ」
「アル…………」
「バーニィ、僕は戦争をもう起こさないようにしたい。アレは絶対にもう一度起こしちゃいけないものなんだ」
その目には強い意志が宿り、自分を慕う少年が少し見ない間に一皮むけたことにバーナード・ワイズマンは眩しそうに目を細める。
「そっか…………アルは凄いな。俺よりもずっと強いよ」
「ううん、僕は強くなんかないよ。バーニィの方がずっと凄いさ。だって、自分の国を裏切ってまでやったんだから」
「…………そっか、ありがとうアル。そう言ってくれて、少しだけ軽くなったよ」
バーニィはアルを見つめて僅かに微笑んだ。
「……刑期を終えたらもう一度サイド6に来るよアル。そしたら、今度こそ俺たち本当の友達になろうぜ」
「うん、約束だよバーニィ」
少年と青年はそう言って互いに強く、硬く握手を交わす。
そして、リボーコロニーに夜が訪れた。人々は作業の手を止めて互いに瓦礫に座り、ボランティアや人道支援の炊き出しの食事をとっていると不意にジェット音が空に響き渡る。
何事かと思い、顔を上げればそこには1機のモビルスーツがコロニーの空に浮かんでいたではないか。
「あれは……」
「ジオンのモビルスーツやっつけたロボットだ!」
「でも、なんで? ジオンの部隊は居なくなったはずじゃ…………」
その漆黒のモビルスーツは何もせず、ただ空中に佇んでいる。
コロニーの人々はそのまま注視していると、徐にそのモビルスーツの胸部が上下に展開。中から1人の少女が現れた。
「……誰?」
「女の子?」
「…………綺麗」
夜空のライトによって照らされた少女はドレスをまとい、その純白の髪の毛を星を思わせる髪留めで彩っていた。
そして、その手にはヴァイオリンが握られておりモビルスーツが差し出した両の掌へ飛び移る。
少ししてから、その少女は徐にヴァイオリンの弦へ弓を置けばゆっくりと奏で始めたではないか。
その音は悲しげでありながら何処か暖かみがあり、不思議と胸へ染み渡る音色であり人々は手を止めてその演奏を聴き入る。
コロニー中へ響くその演奏は自然とどんなものか理解する。これは鎮魂歌であると。
「……どうか、この眠りが安らかであるように」
そんな呟きは演奏の音ともに宇宙へ溶けて消えていく。
これをたまたま映像で撮っていた民間人がのちに動画投稿サイトへ投稿すれば瞬時に万バズし、連邦の広報担当は即座にプロパガンダに使用した模様。
狸親父はバカ笑いしたとか
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