機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
遠くから撮ったのだろう録画映像、それは1機のモビルスーツのマニュピレーターの上に乗って1人ヴァイオリンを演奏する少女の姿がモニターへ映し出されていた。
スピーカーから流れる音楽はささくれだった心を鎮め、不思議と暖かくなるその音を聴きながらゴップは頬を緩ませる。
「素晴らしいね、ジオンの凶行によって起こった惨状へ心痛めた美しい少女がモビルスーツに乗って鎮魂歌を送る…………まさに偶像だよ」
「今までプロパガンダに使うことができませんでしたが、この映像のおかげで広報担当が狂喜乱舞してその場でモニターにキスしたとか」
「加えて、先のサイド6でのジオンの特殊部隊……屍喰鬼隊と言いましたか。どうやら捕虜とした彼らを詳しく調べて見たところ違法な手術をした痕跡があったようです。
これで奴らを大々的に非難できるかと。世論も恐らくは連邦へ傾くのも時間の問題でしょう」
「全く、連中もなりふり構わなくなってきましたな。お陰で我々は格好のネタを手に入れられたぶんプラスですが。
…………連中は変な動きを見せてないだろうね?」
高官の1人が聞けば、控えていた情報士官が手元のタブレットを操作する。
「現在のところ過激派たちは目立った動きをしていません。降格させられた挙句監視付きの閑職に回されたのですから当然でしょう」
「ふむ、しかし油断は禁物だ。監視は密にしておくように」
「了解しました」
少し前に行われた会議という名の査問会から連邦軍は内部の浄化を行い、上層部にいた過激派やタカ派を拘束又は降格処分を行い監視を付けて閑職へと回した。
しかし、それでもレビルという男のネームバリューは伊達ではない。もし彼が何かをやればそれだけで連邦軍は割れるだろうと言うのがその場にいたハト派や中道派の共通認識であり、それだけジオンが恨まれてある証拠でもある。
「さて……ここからが正念場とも言えるだろうね」
背もたれを軋ませ、ゴップの呟きは溶けて消えるのだった。
「だから! ソロモンを守るには1機でも多くのモビルスーツが必要なんだ!! グラナダも守らざるを得ないならばア・バオア・クーから回してもらわなければならん!!」
ドンッ! 広い机の天板を叩く音が響く。
ジオン公国の宇宙要塞『ソロモン』その司令官であるドズル・ザビはモニターに映る兄妹へ訴えたが、返答は酷く味気ないものだった。
『援軍なら既に送っている。虎の子のモビルアーマーも一緒にな……それで、キシリア。サイド6の方はどうだ?』
『はい、どうやら例の特殊部隊は未だ動きはないようです。ですが、たったの2機でけしかけた特殊部隊を擁する艦隊を半壊させ、最終的には壊滅させるほどのエースが居るので警戒をするに越したことはありません。
放置すればそれこそジオンへ深刻な出血を強いるでしょうね』
「ふんっ、初めからコンスコンに任せておけばあんな失態を犯すことなど無かったのだ」
ドズルか吐き捨てるように言った言葉にキシリアは眉根を寄せる。
『はぁ……そのようなたらればの話など無意味だ。キシリア、お前は順次地球から上がってきた兵員の回収と部隊の再編を急がせろ。
ドズル、お前が焦る気持ちもよく分かる。しかし冷静になって事を見極めろ。お前がソロモンで連邦を食い止めてくれればジオンは如何様にも手を打てる』
「俺は至って冷静だ。だからこそ、ア・バオア・クーの兵力をソロモンへ派遣してくれ! 戦いは数だよ兄貴!
そうすればソロモンは磐石になり、連邦など蹴散らせる!!」
『……先に言ったように既に送っている。それに、冷静というのならお前も失態を犯している事実を忘れていないだろうな?』
「そ、それは……」
ギレンは暗にサイド6でのコンスコンの派遣を咎めており、ドズルはその強面の顔へ冷や汗を流して大きな身体を縮ませて言葉を詰まらせた。
そこには明確な力関係があり、キシリアはその様子を見て多少は溜飲が下がったのか僅かに眉を上げている。
元々、先のサイド6への部隊派遣はキシリア麾下の突撃機動軍のみで行う予定だったのだが、ファルメルパトロール艦隊の生き残りの報告でサイド6へ向かう艦隊がガルマの仇であるホワイトベースであると知ったドズルが私怨に任せて強引にコンスコンを派遣。
結果は散々といった有様なのだが、元々キシリアとギレンは互いに口裏を合わせ先の戦いにおいて邪魔となり得る屍喰鬼隊の処分とホワイトベースたちの情報を得られれば儲けものという考えで損失しても痛くないリック・ドムと旧式のザクを配備させた訳だが、よりにもよってドズルが派遣したコンスコン艦隊は貴重なゲルググとベテランの将官も喪う。
それを聞かされた時は流石のギレンの鉄面皮も崩れてしまっており、キシリアも内心ではドズルの愚かさに辟易せざるを得なかった。
『ともかく、状況は楽観できるものではない。しかし、ここを乗り切れば我々ジオンの巻き返しの時であることを各員留意するように。
各々の役目を見誤らず、全うすればいい。以上だ。他に何かあるか?』
『私からは何も。では失礼します』
モニターが暗転し、その場にはドズルのみが取り残されていたがやがて堰を切ったように爆発する。
「その役目を全うするのに人手が足りんというのだ!!! 兄貴もキシリアも分かっているのか!?」
再び机を叩けば、遂にその耐久性が限界を迎えたのかその拳がめり込んだ。
ドズルは開戦当初から戦果の矢面に立って戦ってきた。それ故に手持ちの戦力も相応に消耗しており、部下たちの練度は比べるでもない。
ドズルが管理しているソロモンに於いても同様で、ようやく生産ラインの乗ったゲルググの配備も一向に進んでいなかった。
どうにか用意したゲルググや統合整備計画で開発されたザクII改などの最新鋭機は先のコンスコン艦隊の派遣で精鋭の兵と共にその数を減らしたせいで、ソロモンの防衛戦力はほかの要衝と比べて些か以上に見劣りしてしまう。
ただでさえベテランの兵や指揮官が足りていない状況でコンスコン艦隊が壊滅した事実は数字以上の損害をドズルへ与えており、
「……負けるつもりは無い、だがこのままでは……」
兵たちの戦意は高い。しかし、それだけで勝てるほど戦争というのは甘くないことをドズルは思い知らされている。
ドズルは思考を巡らせ、自分が取れる最善手を選び取らなければならない。
ドズル・ザビのチップは少なく、けれど掛け金をベットする時間は刻一刻と迫っていた。無慈悲に時間は彼のその首筋へ刃を添える。
月の裏側、その上空で1つの流星が舞う。
「ぐっぬぅぅっ……!!」
けたたましく鳴り響くアラート、身体が軋むほどのG。広大な宇宙の景色を映し出す空間の中心でシャア・アズナブルは歯を食いしばった。
『シミュレーションパターンC、仮想敵を表示します』
オペレーターからの声に返す余裕もなく、ロックオンアラートが鳴り響いた瞬間にシャアは即座に操縦桿を押しのける。
即座にブースターが逆噴射し、急速上昇。
モニターへ複数の連邦の量産機体のジム4機が映し出され、その銃口をこちらへと向けた。
「がっ……ぐっ……!!」
視界を埋め尽くすピンクの弾幕を前にシャアはフットペダルを何度も細かく踏み込み、その都度操縦桿を前後。
弾幕の隙間を縫うように直進し、ジムが有効射程圏内へ入ったことを確認すると武装のセーフティを解除。
「当た、れッ……!」
引き金を引けばライフルからビームが放たれるが、狙いが逸れたことでジムのすぐ真横を通過してしまう。
「こ、のっ……!」
しかし直ぐに狙いを修正し、再度引き金を引いて放たれたビームがジムの胴体を撃ち抜き爆散。
「ふっ、うっ……!」
僚機が落とされたことで即座にジム達はシャアを包囲せんと散開し、囲まれることを嫌ったシャアはすぐにブースターの推力を全開にし振り切ろうと加速させた。
当然ジム達も追いつかんとその背を追いビームを撃つが、シャアは僅かに身を捩らせることで躱し、お返しとばかりにライフルを連射する。
しかしジム達は最小限の動きでその射撃をかわし、嫌になるほど正確な狙いでシャアへ致死の弾丸を放った。
「ぬお、ぉおおっ……!!」
引きつった喉から無意識に呻き声を漏らし、意識が乱れた瞬間に暴れ始める機動を懸命に抑えながらジム達の射撃を躱しつつ視線を前へ向ければ丁度進路上にデブリが紛れ込むのを発見。
「ッ!!」
即座に進路を微調整し、一気にフットペダルを踏み込む。ただでさえ出鱈目な速度をたたき出していた機体が更に加速。
シャアの身体を勢いよくシートへめり込ませ、肺の中の空気が吐き出され視界が狭まりレッドアウトがチラついた。
そしてそのデブリへ激突しかねない所でシャアはブースターの推進方向を上へと向けてデブリのすぐ真上へ跳ね上がり、通過する。
後続のジム達は急停止を行い、デブリへ激突するのを防いだ。迂回しようとしたところで、デブリの真下から現れた赤い機影が先頭のジムをすれ違いざまに切り裂く。
「ぉおおおおっ!!」
爆炎を引き裂いて現れたその機体はたじろいだジム達へ肉薄し、展開したサーベルで切りかかった。
動揺から復帰したジムのうちの1機は即座にサーベルを抜刀し、シャアへ格闘戦を仕掛ける。
互いの袈裟斬りはぶつかりあい、反発したIフィールドによって周囲へ粒子が飛散。
背後に回り込んだジムがシャアに向けてビームスプレーガンの引き金をひこうとした瞬間にメインブースターを横向きに点火。
ぐるりと鍔迫り合いをしていたジムと入れ替わるように位置を変更。そのジムの背中へビームが突き刺さる。
誤射によって撃ち抜かれたジムの誘爆に巻き込まれない為に後退すれば、火球が生み出された眩い光が周囲を照らした。
「はあっ!!」
両手に装備したサーベルを構え、吶喊したシャアはジムの放つビームを切り払い懐へ飛び込めば交差させたサーベルを振りかぶる。
クロス切りによって最後の1機は撃破され、爆炎がシャアを包み込む────ところでノイズが走り、不自然に炎が停止。
『状況終了、シミュレーションを終了します』
そんな声とともに跡形もなく爆炎や残骸が消え去り、その場にはシャアだけが取り残された。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
操縦桿を握りしめたまま荒い息をこぼすシャアの周囲には汗が飛び散り、暗くなったコクピットで動かない。
何秒もそうしていると、不意にコクピットハッチが解放され外の光が差し込んできた。
「お疲れ様です少佐」
「ララァか……」
顔を上げればそこには慈愛の笑みを浮かべる少女、ララァが覗き込んでおりシャアはようやく操縦桿から手を離してシートから背を剥がす。
彼女の手を取って外は這うように出れば宙を漂い、ゆっくりとシャアはついさっきまで己が動かしていた機体の全容が映った。
特徴的なブレードアンテナとツインアイ、ジオン特有の曲線を多用したものではなく角張ったデザインが目立つ外観のモビルスーツ……ジャブローにおいてシャアが強奪し、一部が赤かったはずが今は全身を赤く染めあげた連邦のニュータイプ専用ガンダム『プロトNT-1』がそこに鎮座している。
肩の装甲にシャアの頭文字を表すC.Aを混ぜた金色のマーキングを解こされていることから、この機体はシャアの乗機となっており先程まで行っていたのは慣熟のためのシュミレーションだ。
「はぁ……とんだ暴れ馬だなコイツは。私ですら手を持て余すようなモビルスーツがあるとは思わなかったよ」
「フフッ、ですが少佐はこの子に乗り始めてきた時よりもずっと上手になっていますよ?」
ジオンの要衝のひとつのグラナダ月面都市、キシリア・ザビの牙城でシャアと彼が見初めた浮世離れした少女『ララァ・スン』の手を引いて2人は漂いながらキャットウォークへと降り立つ。
「ララァ、君から見て私は……このガンダムで、あのシステムで奴らに勝てると思うか?」
「それは分かりません」
「即答だな」
「はい、少佐や研究所の人達は私をニュータイプと言いますが、私は人より多少感がいいだけですもの。
未来が視えているわけではありませんわ。ですが」
ララァは慈しむようにシャアの頬を撫でる。
「少佐が勝とうとする意思がある限り、負けることはありませんよ」
「……だといいがね」
「ふふっ、やっぱり少佐は可愛い人だわ」
「からかわないでくれララァ、兵が見ている」
「あら、美しいものが嫌いな人がいて?」
「はぁ……君には敵わないな」
降参だと言わんばかりにシャアは肩をすくめ、再び己が奪ったガンダムを見つめた。
その双眸には何も移さず、ただ兵器らしく無機質な輝きがあるのみ。本来の主ではない者を主とした剣がその切っ先を向ける時は近い。
「ホワイトベース、出航!」
そして時が来た。サイド6からソロモンに向けて白亜の天馬が飛び立つ。
どの陣営も死力を尽くし、生命を掛け金にして一世一代の大博打が今始まろうとしていた。
次回からソロモン戦ですねー
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体