機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
「……知ってる天井だ」
アリアは目を覚まし、身体を起こす。
「はぁ、こっぴどくやられましたね全く」
かかった前髪を鬱陶しそうに払い、アリアは先の戦いを思い出して陰鬱な表情で呟いた。
「……目の前に現れた敵は誰だろうと殺すつもりだったのに、あんな醜態を晒すなんて思ったよりもセンチメンタリズムな性分とは思いもしませんでしたよ」
自嘲するように呟いてアリアは投げやり気味に吐き捨てる。
アリアにとって戦うということは自身の目的のために他者を踏み台にし、先へと進むための行為だ。そこに罪悪感は無くただ、邪魔をするなら死ねという考えのみ。
故に躊躇わない、後悔はしない、恐怖もない、罪悪感? そんなものは無い。
けれど、初めてアリアの内に躊躇いが生まれてしまった。
それは何故? 答えはわかっている。あの白いモビルアーマーに乗っていた存在、ジェーン・ドゥと名乗った少女だ。
「……エア」
思考の片隅では自分のような存在がいるのだ。他にも同じように彼女がいるに決まっていることが分かっていた。分かってはいた……が、こんな再会なんて想像などできるはずがない。
それも仕方ないだろう、かつてルビコンの灼けた空を共に駆け抜けた片割れとも呼べる存在があそこまで己に殺意と憎悪を募らせていたことに対して何も思うなと言うのが無理があるのだ。
「……ブレるな、今のお前は違うだろ」
言い聞かせるようにして
「割り切れ、割り切れ、割り切れ、割り切れ……」
両手で耳を塞ぎ、耳を閉じ、ひたすらに言い聞かせる。
戦場で躊躇えば自分が死ぬ。仲間が死ぬ。家族が死ぬ。銃弾一発が、ナイフの一振が明暗を分ける。
だから、そうだ、そのとおり。
「もう次は間違わない、必ず、必ず……」
「何が、必ずなんだい?」
「ッ……ハサン、先生」
聞こえてきた声に思わず顔をあげるとカーテンの隙間からこちらを覗くハサンの顔が見え、掠れ気味の声でアリアは医務室の主の名を言う。
「うん、ちょっと失礼」
ハサンはアリアの顔を見るとカーテンを開いて入り、傍らに座るとアリアの下瞼を指で僅かに開いたあとにライトの光を瞳孔に当てた。
「反応は正常だね。アリアちゃん、目覚めた直後で悪いのだが私の後に続けてくれるかな?」
「えっと、はい」
「では、『なまむぎなまごめなまたまご』」
「なまむぎなまごめなまたまご」
「ふむ、では『となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ』」
「となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ」
「『スモモもモモもモモのうち モモもスモモもモモのうち』」
「スモモもモモもモモのうち モモもスモモもモモのうち」
突然の早口言葉に疑問符が浮かぶが、素直にアリアは噛むことなく口にする。
「呂律も十分か……すまないね、一応目が覚めた時の検査というやつだよ」
「あ、はい。……その、私ってどれくらい気を失ってましたか?」
「凡そ12時間くらいだね。ケイト中尉曰く極度のストレスとモビルスーツの制御機構が一時的にオーバーロードしたことで脳へ負荷をかけたことによる肉体の防衛反応で意識を飛ばした……とのことだ。
肉体的なダメージも幸いなことに多少の打撲と内出血程度だ。コクピット付近を抉られたと聞いたが、あの機体のコクピットはほかのモビルスーツのコクピットよりも殊更に頑丈というのも本当らしい」
「……ッ、私の機体はどうなりました?」
ハサンの言ったことにアリアは顔を上げて尋ねると、彼は手に持ったタブレットに目を落として肩をすくめる。
「私としてはモビルスーツのことよりも自分の体のことを気にして欲しいのだがね。今現在、レイ技術大尉を中核にして突貫で修復作業に入っているよ。
アーマーにかなりのダメージがあったみたいだが、本体自体はアーマーのおかげで多少の損傷で済んだのは幸いだね」
「それは良かったです」
先の戦闘でレイヴンは胸部を大きく抉られた。普通の機体ならばそれなりの期間を修理に費やさなければならないのだが、レイヴンは素体となる躯体全体を覆うようにして分厚いアーマーを装着している。
いわば着ぐるみを着てるようなもので、ガワは傷ついても
「さて、一先ず問題がないのなら休んでおきなさい。今はまだ良くても後から来るかもしれないからね」
「……はい」
「それと、レイ大尉とアムロ君がこのあと見舞いに来るみたいだが……どうするかね?」
「父さんと兄さんがですか?」
アリアは顔を僅かに曇らせる。アムロとテムの2人は自分の事をよく見ており、今のこの状態を見られたら先の作戦から外されるかもしれない。
「……申し訳ないのですが、ハサン先生。父さんと兄さんに断りを入れておいてくれくれますか?
今は……一人でいたいんです」
「……わかった。2人には私から言っておこう。さっきも言ったように今は休んで起きなさい」
「はい、ご迷惑をおかけします」
「君くらいの歳の子供は大人に迷惑をかけてなんぼさ」
アリアの言葉にハサンは微笑むと、カーテンを引いて出ていく。それを見送った彼女はゆっくりと息を吐いて身体をベッドへ預けとその目を閉じるのだった。
「……」
目を開き、アリアは身体を起こす。
視線を横へずらせば自分が眠っている間にお見舞いに来た人物がいたのか、近くの小さなテーブルの上には幾つかの見舞いの品が置かれているのが見えた。
その事にアリアは淡く口角を上げたが、すぐにその表情を沈んだものへと変える。
もう一度眠ろうとしたが、すでに眠気などあるはずもなく。かと言ってじっとしてるには余りにも退屈がすぎた。
アリアはベッドから降りるとそれとなくカーテンを僅かに開いてみる。ハサンは仮眠を取っているのか医務室にはおらず、照明も落ちているために薄暗い。
机の上に置かれていた付箋とペンを手に取るとアリアは綺麗な筆跡でハサンに向けて少しの間出ていることを書き残すと医務室を出る。
時刻は深夜を回っており、クルーたちの殆どは最低限の人員を残して休息を取っているのか通路には誰もいない。
これ幸いとアリアは通路を進むが、目的地は特になく。宛もなく彼女は彷徨った。
ホワイトベースからワイルドハントへ改装されてからは意外にもアリアは内部がどう変わっているかは知らなかったりする。
そのため、普段は通らないようなエリアを前にして少しだけアリアは冒険をしてるような気持ちになった。
艦内を探検してから1時間ほどだろうか、最後にアリアは自身の乗機を見てから医務室に戻ろうと思って専用格納庫へ向かうことにした。
たどり着いた専用格納庫は照明が落とされており、作業員たちも休息を取っているのか誰1人いない。
そして空間の奥には修復が完了したばかりのレイヴンの姿があり、囲うようにして伸びたアームがその巨体を固定していた。
アリアは床を上向きに蹴ると慣性によってレイヴンの元へ漂い、キャットウォークの手すりを掴むとその顔を覗く。
ジェネレーターを落とされているために、レイヴンのフェイスパーツのシャッターが閉じられている為にカメラアイは見えない。
「……貴方には迷惑をかけましたね」
僅かに眉を寄せ、アリアは己の乗機へ謝罪の言葉を送る。幾ら動揺したとはいえ、あの場面において撃墜できそうな所で動きを止めるなどいくら責めても言葉が足りない愚行だ。
運が良かったとはいえ、あそこで死んでてもおかしくない。それが無いのは一重にレイヴンの堅牢さのお陰といえる。
「……また、戦うんでしょうね」
ポツリと手すりに座ったアリアから零れた。
その呟きには不安が込められており、手すりを掴む手は微かに震えている。
「……初めてなんです。戦うことが怖いと思ったことが」
まるで懺悔するかのごとくアリアは紡ぐ。
「今まではただ、私の敵へ引き金を引けばいいだけでした。ですが、今は……かつての友を……想っていた存在を討たねばいけないのです。
私にはどうすればいいのか……何が正解なのか分からないんです」
自分自身を抱いてアリアは震えを抑えようとするが、震えは収まる気配はなく逆に不安が増していった。
芯が、自分にとっての根っことも言うべきものが……心が折れかけている。
「教えてください、私は……
顔を上げ、アリアは弱々しく問いかける。
しかし、レイヴンはそれに応えない。当然だ、あくまでもレイヴンは物言わぬ機械であり操るのはアリア自身なのだから。
答えを見つけるのは自分がしなければならず、他者に委ねるものではない。
「……ハハ、何を言ってるんですかね私は」
自分の言っていることの滑稽さに気が付き、アリアは力なく笑うと手すりから降りレイヴンの胸部へと触れた。
金属特有の冷たさがアリアの体温を吸い、漆黒の装甲表面にアリアの顔が映る。
『…………ゴールを間違えるな、
アリア・レイの顔がブレるとそこには黒い包帯で覆われた
「……わかっているよ、それくらい」
『本当に?』
「当然……いや、まだ分からない。
『……覚えてないからだ』
「覚えてない?」
『……ああ』
小さく
「……それは、私自身が受け止めなければならないことなのか?」
『そうとも言えるし、そうでは無いともいえる。なぜなら、それはもう既に終わっていることであり、巻き戻せない過去だからだ』
「過去……」
「私、それでも知りたい。いや、知らなければならない。そうでなければきっと、私はまた間違えてしまう」
『……そうか、きっとお前は苦しむことになる。それでも知ろうと言うんだな?』
「それはお前自身が分かっていることだろう? 何故なら……」
『お前は私であり』
「私は貴方だから」
レイヴンのフェスシャッターが展開し、その深紅の双眸がアリアを見る。
独りでに胸部装甲が展開するとコクピットへの入口が開かれ、アリアは確固たる意思でその中へと身体を滑り込ませた。
電子音が響く。
「んん……?」
ケイト・マークソンは異音に目を覚ました気だるげな気持ちのまま机の上に置いていた眼鏡を手に取るとふらつく足取りでベッドから降りた。
少し前まで突貫でレイヴンの修復作業をしていた為に疲労が溜まっていたケイトにとって、起こされるのは歓迎すべきことではない。
「はぁ……これだから生身の体というのは不便ですね。早急に機械化を進めたいところです」
人間という種の脆弱さに辟易としつつケイトは部屋に備え付けのPCを起動させ、明かりの灯った画面へ目を走らせた。
「…………レイヴンが独りでに起動している? 一体なぜ?」
画面の中にはジェネレーターを落とされているはずのレイヴンか勝手に起動しているという知らせにケイトは訝しげに眉を顰める。
モビルスーツのジェネレーターは1度完全に落とせば、もう一度起動させるには外部から専用の機械を使わなければならない。
しかし、端末のログからはその機械を使ったなどという報告はなかった。
「機体自身が誰の手も使わずにジェネレーターに火を入れたということですか?」
荒唐無稽すぎる推測にケイトは困惑を隠せないが、次に目を通したものに目を見開くこととなる。
「……この脳波は」
現在進行形で記録されている脳波の波形は見たこともない反応を示し、ケイトはすぐに記録のボタンを押した。
「素晴らしい、これは……あぁ、やはりこの艦に乗ってよかった」
その翠の瞳を妖しく光らせ、ケイトは独り嗤う。
「……あぁ、そういうことだったのか」
そして、アリアは知る。己の過去を。
「エア、君は……」
一筋の涙を零し、C4-621の呟きは空気へ溶けて消えるのだった。
今年中には終わらせたいですね
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体