機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
「今にして思えばたった数か月なのに濃すぎる内容だなぁ」
「突然どうしたアムロ?」
「いや、何となくこれまでの日々を振り返って見たんだよ父さん」
ホワイトベースの格納庫にてアムロの乗機であるガンダムNT-1アレックスの調整作業中、ふとアムロが零す。
それにテムは作業の手を止め、彼の言ったようにこれまでのことを思い返した。
「……確かに、数字にしてみればほんの数ヶ月だというのに下手な人生の何倍も濃すぎる日々だったなあ」
苦笑し、テムは小さく頷くと彼の脳裏に過ぎるのはこれまでの日々のこと。
まだテムが顔の皺が少なかった頃にまだ幼いアムロと赤子同然だったアリアの2人を連れて地球の棲家に妻を置いて移住し、男ながらに四苦八苦しながらも軍の仕事を両立し子育てに奮闘してきた。
赤子だったアリアがはいはいから両足で立ち、己に向けて歩いて来た時やたどたどしい口調で『ぱぱ』と言った時はアムロと共に抱き合って狂喜乱舞もしたり。
あまり社交的とは言えない兄のアムロを引きずり回して泥だらけになって遊んで帰ってきた時に見せる満面の笑みはいい思い出と言える。
けれど、そんな日々が唐突に終わりを告げてしまった。その日はアリアが通っているキンダーガーデンの社会科見学でシャトルの補給のために寄港したテキサスコロニーでシャトル事故に遭ったのだ。
生存者はアリアを残して殆ど居らず、彼女自身も生きているのが奇跡と救助活動を行ったレスキュー隊の隊員や医師の発言が今もテムの記憶に残っている。
ガラス越しに見えるのは全身を包帯で覆われ、顔すら見えず至る所から血が滲み機械でギリギリ生かされているだけの娘の姿を前に当時のテムはその場で未だに状況を上手く飲み込めていないアムロの手を握ったまま立ち尽くした。
「お父さん……アリアは……?」
「……アリアは……あの子は、今は眠っているだけだ。お医者さんがあの子を治療してくれている。きっと、目を覚ますさ」
「……うん」
嘘だ、医師は面会の前にテムにだけ言ったのだ。『最早意識は戻る見込みはない』と。『脳の活動も止まっており、息をしているだけだ』と。
けれど、テムは認められない。認められるものではなかった。何故自分の娘が? 何故、なんの罪もない幼い子供が? 何故?
叫びたいほどの怒りと悲しみはアムロの前では出さなかった。悲しいのも辛いのもアムロも一緒なのだから。
そんな日々が1年ほど続いたある日、毎月見舞いに来た帰りで医師から話があるとしてテムは呼び出されることになる。
『話っていうのは一体なんなんだ?』
『……娘さんが意識を取り戻すことが可能かもしれません』
『……聞かせてもらおう』
すっかり顔なじみとなった医師へ別室へ案内され、手渡されたのは極秘という押印された書類の束。
テムはそれを、流し目で読んだ後に医師の胸ぐらを掴んで押し殺した声を上げる。
『ようは娘を体のいいモルモットにしたいと言っているのかお前は……!?』
『ぐっ……です、が既に幾つかの臨床実験はされています……!
成功率は未だ低いですが、成功した被験者たちは確かに回復をしています……!』
『表沙汰になることのない孤児や浮浪者、不法移民を使ってだろう!?』
渡された資料には戸籍などが登録されていなかったり、天涯孤独の身の所謂いてもいなくても変わらない所謂存在しない人間を使い、政府が認可していない殆ど違法な治験をしている内容だった。
成功率については殆どないようなもので、明らかにアリアを実験に使おうという魂胆が見え見えだ。
『貴方とて、理解しているはずでしょう……あの子にはもう回復の見込みがないことを……!
このままただ、機械に繋がれ呼吸するだけの肉袋でしかないということを!』
『それ、は……』
医師の言葉にテムは喉を詰まらせたように呻き声を上げる。
アリアはあの日から目を覚ますことはなく、今も無数の機械に繋がれ辛うじて生命を繋いでいるだけの状態だ。
既に様々な治療法を試されたが、そのどれもが効果は無く医師の言うとおりでもある。
理性ではわかっているのだ。このまま娘は目を覚まさず、あのまま一生を機械に繋がれベッドの上で死ぬまで過ごすのか? もう助からないのではないか? と。
だが、それを素直に受け止められるほどテムは人でなしになったつもりはない。
けれど……また、もう一度……また事故に遭う前の娘に会えるなら……
『……失敗したら、お前ら全員を地獄に送ってやる』
『……既に我々はまともな最後を迎えられるなんて思ってませんよ』
そんな会話の後にテムは同意書にサインを書き実の娘にその治療を行うことに許可をする。
そして。
『初めましてミスター、私はアリア・レイです。私の記憶ではミスターとは血縁関係らしいので、よろしくお願いします』
娘は目を覚ました。けれど、雰囲気は元とはかけ離れた姿でテムの前にいた。
包帯から覗く自分と同じ色だった髪は色が抜け落ちたように白くなり、瞳も血のような深紅に変わり天真爛漫といった言葉が似合う笑みを浮かべていた口は固く結ばれ人形のように表情の変わらない姿。
けれど、そんなことはどうでもいい。テムは衝動的に娘を抱きしめ、嗚咽を零しながら呟いた。
『ありがとう、目覚めてくれて、本当にありがとう……!』
『…………』
アリアからは言葉は帰ってこなかった。けれど、その小さな手で躊躇うようにしてテムの背を抱き返してくれただけで十分だ。
そして、1年ほどリハビリを続け日常生活に問題がないくらいには回復し、退院したアリアを連れて仕事で移住した新しい棲家のあるサイド7へ共に帰れば姿の変わったアリアを見てアムロは最初は驚きはしたが、すぐに笑みを浮かべて妹の帰りを歓迎する。
『おかえりなさい、アリア』
『……えっと、ただ今帰りました。アムロ、さん』
『そんな他人行儀みたいな呼び方はやめてくれよ。僕たちは兄妹なんだよ?』
『その……申し訳、ありません。未だ、実感というのが湧かなくて……』
戸惑うようにして言うアリア。
医師が言うには回復はしたが、脳へのダメージと治療の後遺症によって記憶に著しい障害が発生したしまったらしい。本人からしたら『記録としては知っている』という感覚らしい。
けれど、それならまた家族として過ごせばいい。テムはそう思い、アリアの手を引いて家へ入っていく子供たちの姿を見て微笑みを浮かべる。
そして、月日は経ち少しずつアリアは以前ほどとは行かないまでも感情を表に出すようになっていった。
以前とは確かに違う生活かもしれない。けれども、たしかに幸せだったのだ。けれど、そんな生活も無情にも変わってしまう。
連邦とジオンが戦争となっても、自分の住むサイド7には戦火は及ばないと考えていたテムを裏切るようにしてジオンはサイド7へ攻め込んできたあのクソッタレの赤いアンチクショウ。
クソみたいなコスプレ野郎のせいで自分の子供たちは必要のない才能を開花させ、汚す必要もないのにその手を汚させ戦争へその身を投じさせる原因となったジオンのクソったれ共。
「今思い出しても腹が立つな。戦争でもルールってのがあるのを知らんのかあのマスク野郎は」
「ガラクタいじりしてた所をフラウから聞かされた時は寝耳に水すぎたよホント」
2人して重々しく溜め息を吐き、こんなことになった原因のサーモンピンクの彗星へ悪態を着く。
「それもあるが、お前たちがガンダムやガンキャノンを動かしてるのを見た時は夢かと思ったぞ?」
「あはは……ガンダムの方はたまたまマニュアルを拾ったのと、父さんのPCを覗き見してたからかなぁ」
テムの追求にアムロは頬を掻き、いたずらがバレた子供のように苦笑混じりに答えた。
しかし、それももう今更という話でありテムもそれ以上は言う気がないのか肩をすくめるのみ。
「しかし、お前のほうは分かるがアリアはマニュアルも見ないで良くガンキャノンを動かせたものだ。
後で戦闘ログも見たが、設計者の私ですら鈍重なガンキャノンってここまで動けたのか? と思ってしまったよ」
「そこはまぁ、アリアだし?」
投げやりに答えるアムロだったが、悲しいくらいに納得してしまうテムだった。
「それで、アムロ。この戦争が終わったら、どうしたい?」
「いきなりだね……」
「そりゃあ、な」
テムもアムロも次の戦いでこの戦争は終わるのだと薄々察していた。元々、やむを得ない事情で戦争へ身を投じただけで、本来ならこの艦に乗っている者たちの殆どは戦いとは無縁のもの達なのだ。
戦争が終わればそれぞれ元の日常へと戻ることになるのだが、アムロはその先のことがイマイチ想像ができなかった。
戦いは嫌いだし、今でも人を殺すなんて勘弁して欲しい。けれど、こうして父と共にモビルスーツの整備や機械の話をするのは好きだ。
このまま戦いとは無縁の世界でそうしていたい……けれど、無責任になれるにはアムロは悲劇を目撃しすぎた。
戦争は悲惨だ。関わった人たちの悉くに悲劇を振りまき、あいつが憎い、コイツが悪いと傷つけ合い血を吐きながら続ける、無意味で無情な悲しいマラソンでしかない。
それは、とても嫌だ。
「……僕は、せめて手の届く範囲の大切な人たちを悲しみから遠ざけたいな」
「……そうか」
「そりゃあ、今でも元の生活に戻れるなら戻りたいよ? でも、さ…………サイド6で瓦礫の撤去をした時にコロニーの子供がボロボロの姿で僕にありがとうって言ったんだ。
本当なら、あんなことを体験する必要なんてない小さい子がさ……」
手のひらを見るアムロはゆっくりと握りしめ、自身の乗機を見上げる。
「だから、そんなことが起きて欲しくないから父さんがそんな願いを込めてガンダムを作ったんだろうね。
……なら、僕もそうなりたいかな」
「……そうか」
テムはすっかり大きくなった息子の頭へ手を置き、誇らしいやら悲しいやら複雑ではあるが悪いものではない感情を抱く。
「なんだよ父さん、泣いてるの?」
「これはあれだ、目から出る汗とかそんなやつだ」
熱くなった目頭を抑え、テムは誤魔化すように顔を逸らしアムロは父の珍しい姿に微笑むのだった。
「……私は一体何がしたいのだろうな」
シャアは1人、格納庫のデッキの手すりへもたれ掛かりながら空虚な想いが滲む声色で呟く。
父を殺され、母と離れ離れとなり死に目にすら会えず、幼い妹を残して1人復讐のために世話になった夫婦の息子を謀殺し、その名と顔を騙って腹の中へと潜り込んだ。
怨敵でもあるザビ家、父を謀殺した憎き仇、スペースノイドを救うと嘯きながら同胞を手にかける気狂い共。
しかし、其の仇の1人であるガルマを殺すために懐へ入り込んだはずが気がつばそのひたむきさに絆され、偽りの友情が気がつけば本物へと変わっていた。
そして、仇であるガルマが討たれた時は喜びではなく心の底からの怒りだった。矛盾しているのはどちらなのか?
ジオンは嫌いだ。ザビ家は憎い。けれど、全部がそうという訳では無い。
妹は大切だ。今でも案じている。けれど、そんな大切な存在なのに自分は彼女を捨てて今はジオンの兵としてここに立っている。
ララァはかけがいのない存在だ。けれど、そんな存在なのに自分は彼女を戦場に出している。
父の言ったニュータイプは救わねばならない。けれど、救うはずの存在に武器を握らせ、敵を殺める道具にしている。
手段も目的と、願いも行動も、現実も理想も何もかもが矛盾していた。
何が本当で何が嘘なのか、
「今の私を見たら母上はなんというのだろうなぁ……」
『いいですか、キャスバル。兄というのは何故先に生まれるのか分かっていますか? それは下の子たちを守るためです。
貴方は聡く、強い子です。貴方はアルテイシアを守りなさい。これは母との約束ですよ?』
別れる最後の日に母たるアストライアとの約束すら守れていない自分を前にしたらきっと酷く怒るだろう。失望されるかもしれない。もしかしたら枕元に化けて出る可能性もある。
「ははっ、それも悪くないな。どうせならガルマも出てきて欲しいものだ」
どこか空回りな笑い声を上げ、シャアは気だるげに宙を見上げた。見えるのは息苦しさの感じる格納庫の天井であり、その狭さがまるで自分を囲う檻のようだと彼は幻視した。
「本当に、私は何がしたいんだろうなぁ……」
疲れきったその呟きに答える存在はいない。
「そこにいるんだろう、エア?」
「私はここにいますよレイヴン」
そして、始まるだろう。剥き出しの殺意がぶつかり合う純粋な戦いが。
決戦が始まろうとしていた。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体