「よし。、今日の筋トレ終わり!」
ゴトッ
重いダンベルを慎重に置いた。
幻想猛獣を倒した後くらいから筋トレが日課になっている。天与呪縛で体が強化されているとはいえ筋トレしてないと筋肉が落ちるかもしれないし一応ね。
筋トレを終えて容器に水を入れてプロテインを入れて振っていると、つけっぱなしのテレビが特集を始めた。内容は鯖缶が美容にいい、とのこと。
「鯖缶かぁ、明日買いに行こうかな。」
鯖缶で料理はあんまりしたことなんだけど……カレーが食べたいからカレーにしようかな。
「んぐっ……んぐっ……んぐっ……ぷはー!さてお風呂はーいろっと」
次の日の放課後、
「ふっふーん、さっば缶~さっば缶~お、あったあった」
鯖缶コーナーは広いはずなのにガラガラで二つの鯖缶がぽつんと置かれている。あぶなーあと二個じゃん!やっぱりテレビに影響かな?
二個の鯖缶を買い物かごに入れてレジに向かう。
「お会計1088円になります」
「じゃあ1100円からで……」
「ぬあ~~~~~あああああァ!」
な、なに?とんでもない声が鯖缶売り場のほうから聞こえたんですけど。
会計を終えて見に行ってみると青い目にベレー帽かぶった金髪の女の子がうなだれていた。
「無い……ここにも」
「申し訳ありません、たった今在庫のほうも売り切れまして」
「結局…なんで今日に限ってどこに行っても売り切れなわけよ…?」
あー鯖缶ほしかったけど買えなかったのか。それにしてもすっごい悲しそうな顔してるな。美容に興味があるにしてもそこまで欲しかったのかな。それとももともと鯖缶好きだったとか?「なんで」とかいってたし一応伝えておくか…
「あー昨日情報番組で美容にいいって特集してたんですよ。かくいうあたしもだけど……」
金髪の女の子は私の鯖缶が入った買い物袋を見るや否やとびかかってきた。
「わあ!?な、なんですか」
「……ぅだい……その鯖缶ちょうだいーー!!」
「わああああああ!?」
鯖缶も買ったことだし店を出た。
で、なんでこの人ついてくるんだろう。あまりにずっと少し後ろをついてくるからしびれを切らして聞いてみた。
「……いつまでついてくるんです?」
「そんなのアンタが鯖缶を譲渡するまでに決まってるわけよ」
「ええ~?」
その理由でずっとついてきてたの!?なんという執念だ。
「もちろんただでとは言わない!」
女の子はびしっと手を前に突き出す。なに?お金?
「定価の十倍で買い取って……カードしかなかった」
「ああ……」
ドジっ子かな?次はどこにしまってたんだといいたいくらい大きなぬいぐるみを差し出してきた。
「じゃ……じゃあこの衝撃注意なキュートなドールと交換はどう?」
「い、いやなんか気味悪いし……」
気味が悪いのもそうだけど中の匂いのほうが気になる。なんでぬいぐるみに火薬が入ってるの?
「ならムカつく輩に向けて撃てば超爽快!デンジャラスクラッカーは?」
「パーティーグッズですか?内壁薄いんで……」
これもパーティーグッズとは思えないくらいの火薬のにおいがする。この人何者?
「もう!!何と引き換えならくれるってのよーー!!」
「もらうの前提ですか……そんなに鯖缶好きなんですか?」
「好きなんてもんじゃないわけよ。長時間摂取しないと動悸が激しくなるし手足が震えて幻覚も……」
「それ本当なら食べないほうがいいんじゃ……」
顔がコロコロ変わるなこの人。別に悪い人でもない、のかな
「つーかこちとら毎日愛食して鯖缶業界に貢献してきたってのに、ちょっとTVで特集されたくらいで沸いたミーハーどもに買い占められてちゃあ納得いかないっつーの!!だからちょうだい!!」
「ええ~理不尽!」
もうこの人本当に鯖缶好きなんだな。このままだと家までついてきちゃいそうだし仕方ないか。
「はーわかりました、二缶あるし一缶は差し上げます。」
「本当!?いやーあんたお人好しっぽくてちょろそうだったからガンガン押せば行けるだろうと思ってたんだけど見事的中ってわけよ!」
嬉しそうに私の肩をバンバンと叩く。めちゃくちゃ失礼だなこの人。
買い物袋から鯖缶を一缶渡すと懐からなにかツール?を取り出した。これもなんか火薬の匂いがするんですけど。
「んじゃさっそく……」
「え、ここで食べるんですか!?」
鯖缶に火が回ると突然爆発した。
「な、なに?」
「火力強いのと間違えた!」
火と煙が上がったのと同時に鯖缶の中の入ってたものが空に上がった。もちろん鯖。黒くなった二つの鯖はべちゃっと音を立てて地面に落ちた。
よし、帰るか。
「ま、まって今のは結局、不幸なアクシデントで……っていうか力つよ!全然止まらないんだけど!!」
「残りはあたしの献立に必要ですし、食べ物を粗末にする人にかける情けはありません。」
「うぅ……」
睨め付けたのが効いたのか体を離してくれた。まったく食べ物を粗末にするなんて。鯖缶がもったいない。もうほっといて帰ろう。自分の家の方向に歩き始めると泣いている声がする。
「グスン……ニポンノヒト冷タイデース。ホームシックヲ故郷ノテイストデ忘レタイダケナノニ……セメテ」
あんたさっきまで流暢に日本語しゃべってたでしょーが。嘘泣きだし。もうスルーでいいや。
「さすがにスルーは傷つくわけよ!」
スルーして歩いているとまた抱き着いてきた。どんだけ食べたいんだこの人。
「体すご!!体幹つよ!!あんたどんな鍛え方してんのよ!!」
「あーーもう!うちでご飯食べてってください!それでいいですか?」
「オケイ!オケイ!ニポンノヒト優シイアルヨー」
「どこの国の人ですか?」
はあ、結局家に上げることになってしまった……。ぬいぐるみに火薬入れてる人だけど大丈夫かな?まあ悪い人でもなさそうだしまあ、いっか。
「カレェェェーーーーッ!!?」
こんなのありえないみたいな声が響いた。え、もともと鯖缶カレーの予定だったし別にいいかなって思ってたんだけど……カレー嫌いだったのかな。食べたら絶対おいしいって言うはずですよ。
「なんで虎の子の鯖をカレーに入れちゃうかな!?カレーなんて結局、主張が強すぎてどんな食材もカレー味になっちゃうし!鯖の風味も旨味も打ち消して台無しじゃない!そんなもん、美味しいわけがーーー
ウンまあああ~いっ!!」
当然ですよ。なんたって私が天与呪縛になってから料理にかなり力を入れてるからね!前よりも舌が鋭くなったおかげで完璧な味の調整ができるようになったし。
「スパイシーなカレーに鯖のコクと旨味が乗って打ち消すどころか相乗効果でお互いを引き立てシャッキリポンと舌の上で踊るってわけよ!!」
「しゃべりながら食べないでください」
がつがつとカレーを食べてるのを見てると弟を思い出すね。
この人ほんとおいしそうに食べるなあ。こっちがうれしくなるくらい。
「まあでも口に合ってよか」
「おかわり!!」
「いや遠慮ないな」
まあまだあるからいいんですけど。皿をもって米とカレーを継ぎにキッチンのほうに歩く。
「それにしてもあんたの部屋筋トレの器具多くない?」
「いやまあ、鍛えてますし」
ダンベル以外にも筋トレ用に物がたくさんあるからね。ただ最近部屋が狭く感じるようになった。広い部屋に引っ越すのもありだな。
「ただ鍛えてるだけでそんなにいかないでしょ、あんた何者なの?」
「それはこっちが聞きたいんですけど?はいこれおかわりです。」
おかわりを受け取るとまたすごい勢いで食べ始めた。めちゃくちゃ食うなこの人。
やっぱり気になること聞いてみるか……
「結局あなた何者ですか?学生って感じには見えないですし」
「え、いやあなんていうか仕事しに来てるって感じ?……まあ私が何者だろうとあんたには何の関係もないってわけよ」
一瞬すごい冷たい目を見た。この目つきどこかで……いや、もう探るのはやめよう。別に何かされたわけでもないし。
(この子なんか私の事探ってる?あんまり探られると面倒ってわけよ。表の世界の人を巻き込むのあれだしこれ食べたらさっさと……)
「まーべつにいっか。」
「へ?」
「私は料理好きだから感想もらえるとうれしいんですよ。あなたはたくさんおいしいって言ってくれましたよね。どんな人か知りませんけどおいしそうに食べてくれる人を線引いたりしませんから」
「そ、そう」
「今日はあなたに出会えて楽しかったですよ。またここに食べに来てくれたら私は嬉しいです。」
「へっ!?」
よく見たら米粒ついてるな。あんながつがつ食べたらそりゃつくか。
「米粒ついてますよ」
ほっぺたについている米粒を手で取った。それにしてもやけに顔が赤いけど辛かったのかな。
「あ、あんたって結構すごいわね……」
「……??どういう意味ですか?」
「何でもないわよ!!」
ええ~なんで急に怒られたの?よくわかんないや。
カレーを食べ終えて帰るらしいので見送るために一緒に玄関まで行った。
「いやーーーなかなかやるわねあんた。今度会ったら私がごちそうするってわけよ。みそ煮とか醤油煮とか」
あくまで鯖なんだ……
今まさに帰ろうとしてるけどまだ聞きたいことがあった。何者か、なんてことじゃない、もっと単純なもの。本当はあってすぐ聞くのを忘れていた。
「あの、名前なんですか?」
「え?」
「私佐天涙子っていいます。別に身元を探ろうなんて思ってません。けどせめて名前だけでも教えてくれませんか」
するとものすごく困った顔をしだした。うーーーんとうなり続けた後小さく口を開く。
「……フレンダ」
「え?」
「フレンダ=セイヴェルンよ、私の名前。ていうかフキダシやってる?」
「え、やってますけど」
「これあたしの、登録して」
フレンダさんがスマホを差し出してきた。私はフレンダさんの連絡先を手に入れた。
「それじゃあ、また食べに来るから……」
「はい、待ってますよ」
この人可愛いな。お人形さんみたいな。
「って!頭撫でなくてもいいってわけよ!」
「あ、すみませんつい」
「ついってなによ!」
慌てて手を引っ込める。本当に無意識に撫でてたみたいだ。これは申し訳ない。
「じゃあね、フレンダさん」
「じゃあね……涙子」
頬を少し赤くしたフレンダさんが手を振って扉を閉めた。
結構マイペースな人だったな。楽しかったけど。
フキダシに入った連絡先を見る。フレンダさん、か。なぜだかわからないけどすぐにまた会う予感がするんだよね。
フレンダとの出会いオリジナルにするか迷いましたがやっぱり鯖缶で繋がっててほしかったので原作通りにしました。
次回、盛夏祭?